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本領発揮してきた!?
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ざわつく周囲を置いてリロイが話を続ける。
「イーサン殿は実際に道を視察されましたか? これだけの道を作るなら完成に二十年はかかるでしょう。それも二十年間、他国との戦もなく災害もなく平穏に過ごした場合ですが」
ここまで聞いた王が早々に判断を下した。
「そこまでの日数と人数は使えん。却下だ」
「失礼いたしました」
王の言葉には逆らえない。素早く切り替えたイーサンは悔しさも見せずに素早く下がる。
宰相が次の発表者を指名した。
「続いては……」
他の人たちから荷馬車の改造や新しい道の増設など様々な案があがるが、どれも実行不可能か予算と年数がかかる。
(やっぱりダメなのかしら)
諦め半分になっていた時、今までと毛色が違う青年の発表となった。
「次はフィンレー・クレメント」
「はい」
公表会の最初に質問をした強心臓の持ち主。今までとは違う知識派っぽい雰囲気。どうしても期待してしまう。
「ソフィア」
耳元で囁かれ、肩が跳ねる。いつの間にかピッタリと体を密着させて微笑んでいるリロイ。その視線が! 笑っていない琥珀の瞳が!
無言の圧に愛想笑いで答えるしかない私。
そこにフィンレーが堂々と発表を始めた。
「私は海上貿易からの輸送を提案いたします。私の実家の領地はローレンス領を隔てている山の麓にあります。海から必要な物資を運び、私の領地からローレンス領へ運べば山越えの距離は今の半分以下となります」
配られた計画書に目を通す。確かにこの方法なら山越えの距離は半分以下となり時間は短縮される。今まで提案された計画の中では一番まともかもしれない。
ただ……
「山越えの道が問題ですね。地形的に道を作ることが難しい場所です」
リロイの言葉に私は扇子の下で頷いた。クレメント領との間にあるのは山というより断崖絶壁の壁。徒歩でも超えるのは難しい。そこに馬車が通れる道をどうやって作るのか。
「そこは、これから視察団が視察を行い、道が作れるルートを探していきます。計画の立案が一か月半でしたので、海上航路の確保と港の整備案と視察団の結成までの計画で精一杯でしたので」
王都や周辺領地からの海上航路や港の整備案、視察団の人選は完璧に近いほどまとまっている。あとはクレメント領とローレンス領を結ぶ道ができれば物流問題は解決する。
「一番の問題が後回しになっているのは感心しませんね」
リロイの言葉にフィンレーが笑顔で応える。
「では、殿下の案をお聞かせ願いませんか? ことごとく否定されてきたのですから、よほどご立派な案があるのでしょう」
穏やかに、でもしっかりと挑発した発言。不敬罪スレスレの言葉に緊張が走る。
けど、リロイは余裕の笑みを浮かべた。
「そうですね。そろそろ私の案を発表しましょうか」
全員の視線が集まる中、リロイが良く通る美声を響かせる。
「山を三座ほど潰します」
その場にいる人たちの声が見事に揃った。
「「「「「「は?」」」」」」
拍子抜けしたような空気が流れた後、我に返ったフィンレーが軽く笑った。
「それはたいそうご立派な案で。山を潰せばローレンス領までの道は容易に作られ、物流問題も解決します。さすが第三王子が考えることは違いますね」
揶揄い混りのフィンレーと同意見の空気が漂う中、王が真剣な声でリロイに訊ねた。
「どのようにして山を潰すのだ? 先程、削ることも難しいほどの硬い山があると言ったばかりではないか」
「もちろん潰す山は決まっております。ご存知かどうか知りませんか、ローレンス領を囲む山々の中に金が採れる山がありまして、試験的に掘削された坑道が多数あります」
説明している間に使用人が素早くリロイの計画書を配る。
「この金鉱山は極秘裏に掘られたもので一般には知られておりません。金鉱脈は発見されましたが、本格的に採掘する前に隣国との戦争が激化し、いつしか存在を忘れられておりました」
「そういえば金が採れる山は夢物語のように伝わっておったが、本当にあるのか?」
「はい。この目で坑道が存在していることを確認いたしました」
「いつ確認したのだ?」
王の質問にリロイが私へ視線を移した。
「ローレンス領へ行く途中です。高地酔いの治療のために滞在した街の近くに金鉱山があるのは知っておりましたので。足を運んで確認したところ隠された坑道が複数ありました」
リロイの説明で私はローレンス領までの道中を思い出した。
(あの時、リロイが単独行動をしていたのは金鉱山を確認するため!? そういえば川が光ってるって話していたけど……あれは砂金が光っていたってこと!? 黄金は伝説じゃないの!?)
まさかの連続に私は扇子の下で絶句する。
他の人たちも同じような顔をしているが、リロイは気にすることなく説明を続けた。
「軽く中を確認しましたが、かなり深くまで掘ってありました。その坑道を利用すれば山を潰せます」
王が興味深そうに訊ねる。
「どう坑道を利用して山を潰すのだ?」
「水です。大量の水を一か所に貯めておき、一気に坑道内へ流し込む。そうすれば水の圧力で山は崩れます。坑道をすべて調べ、山を潰すのに不足があれば追加で坑道を掘る必要はありますが、さほどの時間はかからないでしょう」
悠々と語るリロイに広間がざわつく。
「水の圧力だけで、そんなことができるのか?」
「まさか。水で山を潰すなど」
「聞いたこともないぞ」
否定的な意見が流れる中、フィンレーが呟いた。
「……まさか、古代ロマン国がおこなっていた金の採掘方法を再現するつもりですか?」
リロイが少しだけ驚いたように口角をあげる。
「おや、ご存知でしたか」
使用人がサイドテーブルをリロイの隣に設置して一冊の本を置いた。反論が出ることを予測していた動き。
「これは金を採掘するため私が説明した方法で山を潰した方法が書かれた本です」
フィンレーがすかさず質問をする。
「ですが、山を潰すだけの大量の水はどうするのですか? それだけの水を集めるのに、どれだけの人数と資金が必要になるか……予算では足りない可能性があります」
「そこまで人と資金は必要ありません。ローレンス領は雪解け水が豊富ですので、それを集める水路と池を作れば可能です。ローレンス領とクレメント領の間に道を作るより短い時間と少ない労力で出来ます」
リロイの説明にフィンレーの顔が歪む。
二人の様子を黙って見ていた王が口を開いた。
「だが、山を一つ潰したところで物流問題は解決はせんだろ。そこはどうするのだ?」
リロイが潰すと言っている山は王都からローレンス領に向かう時の入り口辺りにある。奥に進めばもっと険しい山々があり、むしろ奥の山々を超えるほうが大変だ。
同意するようにリロイが頷く。
「はい。ですので、ローレンス領への大きな道が作れるように、あと二座ほど山を潰す予定です。ローレンス城の書庫にある本に坑道の記載がありました。ですので、実際に坑道を確認した後、それを利用します」
(まさかローレンス城の書庫にこもっていたのは、その坑道について書かれた本を探すため!?)
そんなことをしていたなんて思いもしなかった。
絶句している私の前で、すかさずフィンレーが問い詰める。
「ですが、それにかかる人と手間と財源はどうするのですか? 三座の山を潰すとなると確実に予算は足りません」
「たしかに三座の山を潰すには今の資金では不足です。なので、一座目の山を削って採掘された金を財源にして残りの山を潰します」
「なっ!?」
この提案には黙って聞いていた人々もざわついた。
金が採れるとなると、話は大きく変わる。採掘された金の精製、加工、貿易。様々な事業が絡む、国をあげての一大事業となる可能性が出てきた。
「金を採掘しながら道を整備すれば一挙両得となるでしょう。あと、山を潰すために集めた水は水不足が起きやすい地域に流れるよう水路を建設する予定です」
フィンレーが悔しそうに顔を歪ませながら計画書を手で叩いた。
「そんなに上手くいくとは限りません! しかも、そのように壮大な計画を、こんな薄っぺらい計画書では実行不可です!」
「では、検証してください」
リロイがパチンと指を鳴らす。使用人がサイドテーブルに高く積まれた書類の束をドンッと置いた。
「今、私が説明したことを実際に行うための計画書です。予算、必要人数、工事計画などを細かく記載しています」
先程までの勢いが嘘のように唖然とするフィンレー。他の人たちも目を丸くして書類の塔を見た。
「イーサン殿は実際に道を視察されましたか? これだけの道を作るなら完成に二十年はかかるでしょう。それも二十年間、他国との戦もなく災害もなく平穏に過ごした場合ですが」
ここまで聞いた王が早々に判断を下した。
「そこまでの日数と人数は使えん。却下だ」
「失礼いたしました」
王の言葉には逆らえない。素早く切り替えたイーサンは悔しさも見せずに素早く下がる。
宰相が次の発表者を指名した。
「続いては……」
他の人たちから荷馬車の改造や新しい道の増設など様々な案があがるが、どれも実行不可能か予算と年数がかかる。
(やっぱりダメなのかしら)
諦め半分になっていた時、今までと毛色が違う青年の発表となった。
「次はフィンレー・クレメント」
「はい」
公表会の最初に質問をした強心臓の持ち主。今までとは違う知識派っぽい雰囲気。どうしても期待してしまう。
「ソフィア」
耳元で囁かれ、肩が跳ねる。いつの間にかピッタリと体を密着させて微笑んでいるリロイ。その視線が! 笑っていない琥珀の瞳が!
無言の圧に愛想笑いで答えるしかない私。
そこにフィンレーが堂々と発表を始めた。
「私は海上貿易からの輸送を提案いたします。私の実家の領地はローレンス領を隔てている山の麓にあります。海から必要な物資を運び、私の領地からローレンス領へ運べば山越えの距離は今の半分以下となります」
配られた計画書に目を通す。確かにこの方法なら山越えの距離は半分以下となり時間は短縮される。今まで提案された計画の中では一番まともかもしれない。
ただ……
「山越えの道が問題ですね。地形的に道を作ることが難しい場所です」
リロイの言葉に私は扇子の下で頷いた。クレメント領との間にあるのは山というより断崖絶壁の壁。徒歩でも超えるのは難しい。そこに馬車が通れる道をどうやって作るのか。
「そこは、これから視察団が視察を行い、道が作れるルートを探していきます。計画の立案が一か月半でしたので、海上航路の確保と港の整備案と視察団の結成までの計画で精一杯でしたので」
王都や周辺領地からの海上航路や港の整備案、視察団の人選は完璧に近いほどまとまっている。あとはクレメント領とローレンス領を結ぶ道ができれば物流問題は解決する。
「一番の問題が後回しになっているのは感心しませんね」
リロイの言葉にフィンレーが笑顔で応える。
「では、殿下の案をお聞かせ願いませんか? ことごとく否定されてきたのですから、よほどご立派な案があるのでしょう」
穏やかに、でもしっかりと挑発した発言。不敬罪スレスレの言葉に緊張が走る。
けど、リロイは余裕の笑みを浮かべた。
「そうですね。そろそろ私の案を発表しましょうか」
全員の視線が集まる中、リロイが良く通る美声を響かせる。
「山を三座ほど潰します」
その場にいる人たちの声が見事に揃った。
「「「「「「は?」」」」」」
拍子抜けしたような空気が流れた後、我に返ったフィンレーが軽く笑った。
「それはたいそうご立派な案で。山を潰せばローレンス領までの道は容易に作られ、物流問題も解決します。さすが第三王子が考えることは違いますね」
揶揄い混りのフィンレーと同意見の空気が漂う中、王が真剣な声でリロイに訊ねた。
「どのようにして山を潰すのだ? 先程、削ることも難しいほどの硬い山があると言ったばかりではないか」
「もちろん潰す山は決まっております。ご存知かどうか知りませんか、ローレンス領を囲む山々の中に金が採れる山がありまして、試験的に掘削された坑道が多数あります」
説明している間に使用人が素早くリロイの計画書を配る。
「この金鉱山は極秘裏に掘られたもので一般には知られておりません。金鉱脈は発見されましたが、本格的に採掘する前に隣国との戦争が激化し、いつしか存在を忘れられておりました」
「そういえば金が採れる山は夢物語のように伝わっておったが、本当にあるのか?」
「はい。この目で坑道が存在していることを確認いたしました」
「いつ確認したのだ?」
王の質問にリロイが私へ視線を移した。
「ローレンス領へ行く途中です。高地酔いの治療のために滞在した街の近くに金鉱山があるのは知っておりましたので。足を運んで確認したところ隠された坑道が複数ありました」
リロイの説明で私はローレンス領までの道中を思い出した。
(あの時、リロイが単独行動をしていたのは金鉱山を確認するため!? そういえば川が光ってるって話していたけど……あれは砂金が光っていたってこと!? 黄金は伝説じゃないの!?)
まさかの連続に私は扇子の下で絶句する。
他の人たちも同じような顔をしているが、リロイは気にすることなく説明を続けた。
「軽く中を確認しましたが、かなり深くまで掘ってありました。その坑道を利用すれば山を潰せます」
王が興味深そうに訊ねる。
「どう坑道を利用して山を潰すのだ?」
「水です。大量の水を一か所に貯めておき、一気に坑道内へ流し込む。そうすれば水の圧力で山は崩れます。坑道をすべて調べ、山を潰すのに不足があれば追加で坑道を掘る必要はありますが、さほどの時間はかからないでしょう」
悠々と語るリロイに広間がざわつく。
「水の圧力だけで、そんなことができるのか?」
「まさか。水で山を潰すなど」
「聞いたこともないぞ」
否定的な意見が流れる中、フィンレーが呟いた。
「……まさか、古代ロマン国がおこなっていた金の採掘方法を再現するつもりですか?」
リロイが少しだけ驚いたように口角をあげる。
「おや、ご存知でしたか」
使用人がサイドテーブルをリロイの隣に設置して一冊の本を置いた。反論が出ることを予測していた動き。
「これは金を採掘するため私が説明した方法で山を潰した方法が書かれた本です」
フィンレーがすかさず質問をする。
「ですが、山を潰すだけの大量の水はどうするのですか? それだけの水を集めるのに、どれだけの人数と資金が必要になるか……予算では足りない可能性があります」
「そこまで人と資金は必要ありません。ローレンス領は雪解け水が豊富ですので、それを集める水路と池を作れば可能です。ローレンス領とクレメント領の間に道を作るより短い時間と少ない労力で出来ます」
リロイの説明にフィンレーの顔が歪む。
二人の様子を黙って見ていた王が口を開いた。
「だが、山を一つ潰したところで物流問題は解決はせんだろ。そこはどうするのだ?」
リロイが潰すと言っている山は王都からローレンス領に向かう時の入り口辺りにある。奥に進めばもっと険しい山々があり、むしろ奥の山々を超えるほうが大変だ。
同意するようにリロイが頷く。
「はい。ですので、ローレンス領への大きな道が作れるように、あと二座ほど山を潰す予定です。ローレンス城の書庫にある本に坑道の記載がありました。ですので、実際に坑道を確認した後、それを利用します」
(まさかローレンス城の書庫にこもっていたのは、その坑道について書かれた本を探すため!?)
そんなことをしていたなんて思いもしなかった。
絶句している私の前で、すかさずフィンレーが問い詰める。
「ですが、それにかかる人と手間と財源はどうするのですか? 三座の山を潰すとなると確実に予算は足りません」
「たしかに三座の山を潰すには今の資金では不足です。なので、一座目の山を削って採掘された金を財源にして残りの山を潰します」
「なっ!?」
この提案には黙って聞いていた人々もざわついた。
金が採れるとなると、話は大きく変わる。採掘された金の精製、加工、貿易。様々な事業が絡む、国をあげての一大事業となる可能性が出てきた。
「金を採掘しながら道を整備すれば一挙両得となるでしょう。あと、山を潰すために集めた水は水不足が起きやすい地域に流れるよう水路を建設する予定です」
フィンレーが悔しそうに顔を歪ませながら計画書を手で叩いた。
「そんなに上手くいくとは限りません! しかも、そのように壮大な計画を、こんな薄っぺらい計画書では実行不可です!」
「では、検証してください」
リロイがパチンと指を鳴らす。使用人がサイドテーブルに高く積まれた書類の束をドンッと置いた。
「今、私が説明したことを実際に行うための計画書です。予算、必要人数、工事計画などを細かく記載しています」
先程までの勢いが嘘のように唖然とするフィンレー。他の人たちも目を丸くして書類の塔を見た。
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