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死者使いと悪魔召喚

現主による大胆な奪還劇

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 音もなく突然、複数のガラスが割れ、エマの口を塞いでいた布が飛んだ。

「何事だ!?」

 青年の緊迫した声に、意識を失いかけていたエマがどうにか目を開ける。
 周囲では、自分を押さえていた人たちが床に倒れていた。全員、こめかみに小さな穴が開き、そこから少しだけ赤黒い血が流れている。

「ルーチェ!?」

 エマが倒れている友人に手を伸ばしたところで、首に剣を突きつけられた。
 青年が台に座ったエマを盾にするように抱え、どこにいるか分からない襲撃者に叫ぶ。

「攻撃を止めろ! 止めなければ、こいつの命はないぞ!」

 青年が周囲を警戒していると、音もなくドアが開いた。

「勝手に人のメイドを誘拐して、何が目的だ?」

 堂々と一人で入ってきたクリスにエマが呟く。

「クリス様……」
「何者だ!?」

 青年の問いにクリスは平然と答えた。

「エマの今の主だ。エマを返してもらおうか」

 近づくクリスを威嚇するように青年が剣をエマの首に押しつける。

「動くな! 動けば、こいつの命はないぞ!」
「そもそも命を取るつもりなのに、おかしなことを言うな」

 呆れながらもクリスは足を止めた。そのことに自分が優位であることを感じた青年が次の命令をする。

「武器を全て捨てろ! 魔法を使おうとすれば、即座にこいつの首を落とす」

 言葉に従いクリスはゆっくりと両手を挙げた。

「慌てるな。武器は持っていない」
「武器を持っていないだと? どうやって、ここまで入ってきた? 途中に見張りの傭兵がいたはずだ」
「別に武器などなくても、眠らせることはできる。それより、そろそろエマが限界だ。返してもらう」

 クリスはあげていた右手を軽く横に振った。同時に青年が持っていた剣がはじけ飛ぶ。

「なっ!?」

 青年が飛んだ剣に気をとられる。その一瞬で、布を被った小柄な人が青年の前に現れた。

「しまっ!?」

 小柄な人が青年だけを投げ飛ばす。壁に背中を壁に打ちつけた青年が咳込みながら体を起こすと、目の前に執事服の青年がいた。

 黒髪をなびかせながらカリストが悠然と微笑む。

「今は亡きルーファット王国の第二王子、ベッディーノ様ですね?」

 疑問形だが確信を含んだ言葉。ベッディーノが何も言わずに碧い瞳でカリストを睨む。

「この街を治めているセルシティ第三皇子より伝言です。大人しく投降するのであれば、今回の事件はもみ消す。だが、拒否するのであれば……」

 それより先は言わず、カリストがベッディーノに訊ねた。

「どうされますか?」
「答えは否だ。我が王族に伝わる秘術が知りたいのだろうが、そうはいかない。貴様たちは、これから召喚する悪魔によって国ごと滅ぼされるのだ。いけ!」

 ベッディーノの命令で倒れていたアンデッドたちが一斉に立ち上がる。身につけていた武器をかまえるが、次々と武器がはじけ飛ぶ。

 その光景にベッディーノがイラついたように怒鳴った。

「武器は使わなくていい! 殴り殺せ!」

 アンデッドたちが素手のままクリスとカリストに襲いかかる。

 クリスは慌てることなく、いつものようにカリストに命令した。

「任せるぞ」

 緊迫した現状とは場違いなほど優雅にカリストが頭を下げる。

「お任せを」

 クリスは軽く頷くとエマがいる台へ駆け出した。

 アンデッドたちが反応してクリスの方へ向きを変える。そこに銀食器のナイフがアンデッドの首や心臓に突き刺さった。

 正確に急所を貫いているが、アンデッドの動きは止まらない。ナイフが刺さったまま、カリストの方に足を向ける。

 そのことにカリストが感心したように言った。

「頭を撃ち抜いても、神経や動脈や心臓を刺しても動けるとは。どういう仕組みで動いているのか非常に興味をそそられますね」

 カリストの両指の間に新しい銀食器のナイフが現れる。黒い瞳が妖艶に微笑む。

「さて、どこまで動いていられますかね?」



 エマの近くにいたアンデッドたちがクリスの進路を塞ぐ。そこに布を被った小柄な人が次々とアンデッドを倒し、道を作った。

 エマの所へ着いたクリスはすぐに右手をかざし、全身状態を確認する。

『透視』
「……クリス様、すみません」
「おまえが謝る必要はどこにもない。まずい、破水しているな。アンドレ、急いでエマを運……どういうことだ!?」

 クリスは両手をエマの下腹部に当てた。

「何故、横位になっている!? この時期にこんなこと、ありえな……しかも手が出てきているだと!? これでは産道を通るのは無理だ! 産まれることが出来ない!」

 思わず叫んだクリスにベッディーノが声高に笑った。

「あと一人、その魔法陣に魂が捧げられた時、腹の子は悪魔となり自ら腹を破って生まれる! もう誰にも止められない!」

 ベッディーノの声に呼応するように床に描かれた魔法陣が赤く輝く。

「クリ……ス……様……」
「エマ!? しっかりしろ! 体力が急激に落ちている!? この魔法陣のせいか!」

 どうするか悩んだクリスは周囲に視線を向けた。どこを攻撃しても動きが止まらないアンデッドに苦戦するカリストの姿が目に入る。

「カリスト! まだ終わらないのか!」
「すみません。意外と頑丈でして」

 アンデッドを物理的に動けなくするため、手足を切り落としていくが、なにせ数が多い。

 思わぬ状況にクリスは唇を噛んだ。




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