30 / 243
死者使いと悪魔召喚
現主による大胆な奪還劇
しおりを挟む
音もなく突然、複数のガラスが割れ、エマの口を塞いでいた布が飛んだ。
「何事だ!?」
青年の緊迫した声に、意識を失いかけていたエマがどうにか目を開ける。
周囲では、自分を押さえていた人たちが床に倒れていた。全員、こめかみに小さな穴が開き、そこから少しだけ赤黒い血が流れている。
「ルーチェ!?」
エマが倒れている友人に手を伸ばしたところで、首に剣を突きつけられた。
青年が台に座ったエマを盾にするように抱え、どこにいるか分からない襲撃者に叫ぶ。
「攻撃を止めろ! 止めなければ、こいつの命はないぞ!」
青年が周囲を警戒していると、音もなくドアが開いた。
「勝手に人のメイドを誘拐して、何が目的だ?」
堂々と一人で入ってきたクリスにエマが呟く。
「クリス様……」
「何者だ!?」
青年の問いにクリスは平然と答えた。
「エマの今の主だ。エマを返してもらおうか」
近づくクリスを威嚇するように青年が剣をエマの首に押しつける。
「動くな! 動けば、こいつの命はないぞ!」
「そもそも命を取るつもりなのに、おかしなことを言うな」
呆れながらもクリスは足を止めた。そのことに自分が優位であることを感じた青年が次の命令をする。
「武器を全て捨てろ! 魔法を使おうとすれば、即座にこいつの首を落とす」
言葉に従いクリスはゆっくりと両手を挙げた。
「慌てるな。武器は持っていない」
「武器を持っていないだと? どうやって、ここまで入ってきた? 途中に見張りの傭兵がいたはずだ」
「別に武器などなくても、眠らせることはできる。それより、そろそろエマが限界だ。返してもらう」
クリスはあげていた右手を軽く横に振った。同時に青年が持っていた剣がはじけ飛ぶ。
「なっ!?」
青年が飛んだ剣に気をとられる。その一瞬で、布を被った小柄な人が青年の前に現れた。
「しまっ!?」
小柄な人が青年だけを投げ飛ばす。壁に背中を壁に打ちつけた青年が咳込みながら体を起こすと、目の前に執事服の青年がいた。
黒髪をなびかせながらカリストが悠然と微笑む。
「今は亡きルーファット王国の第二王子、ベッディーノ様ですね?」
疑問形だが確信を含んだ言葉。ベッディーノが何も言わずに碧い瞳でカリストを睨む。
「この街を治めているセルシティ第三皇子より伝言です。大人しく投降するのであれば、今回の事件はもみ消す。だが、拒否するのであれば……」
それより先は言わず、カリストがベッディーノに訊ねた。
「どうされますか?」
「答えは否だ。我が王族に伝わる秘術が知りたいのだろうが、そうはいかない。貴様たちは、これから召喚する悪魔によって国ごと滅ぼされるのだ。いけ!」
ベッディーノの命令で倒れていたアンデッドたちが一斉に立ち上がる。身につけていた武器をかまえるが、次々と武器がはじけ飛ぶ。
その光景にベッディーノがイラついたように怒鳴った。
「武器は使わなくていい! 殴り殺せ!」
アンデッドたちが素手のままクリスとカリストに襲いかかる。
クリスは慌てることなく、いつものようにカリストに命令した。
「任せるぞ」
緊迫した現状とは場違いなほど優雅にカリストが頭を下げる。
「お任せを」
クリスは軽く頷くとエマがいる台へ駆け出した。
アンデッドたちが反応してクリスの方へ向きを変える。そこに銀食器のナイフがアンデッドの首や心臓に突き刺さった。
正確に急所を貫いているが、アンデッドの動きは止まらない。ナイフが刺さったまま、カリストの方に足を向ける。
そのことにカリストが感心したように言った。
「頭を撃ち抜いても、神経や動脈や心臓を刺しても動けるとは。どういう仕組みで動いているのか非常に興味をそそられますね」
カリストの両指の間に新しい銀食器のナイフが現れる。黒い瞳が妖艶に微笑む。
「さて、どこまで動いていられますかね?」
※
エマの近くにいたアンデッドたちがクリスの進路を塞ぐ。そこに布を被った小柄な人が次々とアンデッドを倒し、道を作った。
エマの所へ着いたクリスはすぐに右手をかざし、全身状態を確認する。
『透視』
「……クリス様、すみません」
「おまえが謝る必要はどこにもない。まずい、破水しているな。アンドレ、急いでエマを運……どういうことだ!?」
クリスは両手をエマの下腹部に当てた。
「何故、横位になっている!? この時期にこんなこと、ありえな……しかも手が出てきているだと!? これでは産道を通るのは無理だ! 産まれることが出来ない!」
思わず叫んだクリスにベッディーノが声高に笑った。
「あと一人、その魔法陣に魂が捧げられた時、腹の子は悪魔となり自ら腹を破って生まれる! もう誰にも止められない!」
ベッディーノの声に呼応するように床に描かれた魔法陣が赤く輝く。
「クリ……ス……様……」
「エマ!? しっかりしろ! 体力が急激に落ちている!? この魔法陣のせいか!」
どうするか悩んだクリスは周囲に視線を向けた。どこを攻撃しても動きが止まらないアンデッドに苦戦するカリストの姿が目に入る。
「カリスト! まだ終わらないのか!」
「すみません。意外と頑丈でして」
アンデッドを物理的に動けなくするため、手足を切り落としていくが、なにせ数が多い。
思わぬ状況にクリスは唇を噛んだ。
「何事だ!?」
青年の緊迫した声に、意識を失いかけていたエマがどうにか目を開ける。
周囲では、自分を押さえていた人たちが床に倒れていた。全員、こめかみに小さな穴が開き、そこから少しだけ赤黒い血が流れている。
「ルーチェ!?」
エマが倒れている友人に手を伸ばしたところで、首に剣を突きつけられた。
青年が台に座ったエマを盾にするように抱え、どこにいるか分からない襲撃者に叫ぶ。
「攻撃を止めろ! 止めなければ、こいつの命はないぞ!」
青年が周囲を警戒していると、音もなくドアが開いた。
「勝手に人のメイドを誘拐して、何が目的だ?」
堂々と一人で入ってきたクリスにエマが呟く。
「クリス様……」
「何者だ!?」
青年の問いにクリスは平然と答えた。
「エマの今の主だ。エマを返してもらおうか」
近づくクリスを威嚇するように青年が剣をエマの首に押しつける。
「動くな! 動けば、こいつの命はないぞ!」
「そもそも命を取るつもりなのに、おかしなことを言うな」
呆れながらもクリスは足を止めた。そのことに自分が優位であることを感じた青年が次の命令をする。
「武器を全て捨てろ! 魔法を使おうとすれば、即座にこいつの首を落とす」
言葉に従いクリスはゆっくりと両手を挙げた。
「慌てるな。武器は持っていない」
「武器を持っていないだと? どうやって、ここまで入ってきた? 途中に見張りの傭兵がいたはずだ」
「別に武器などなくても、眠らせることはできる。それより、そろそろエマが限界だ。返してもらう」
クリスはあげていた右手を軽く横に振った。同時に青年が持っていた剣がはじけ飛ぶ。
「なっ!?」
青年が飛んだ剣に気をとられる。その一瞬で、布を被った小柄な人が青年の前に現れた。
「しまっ!?」
小柄な人が青年だけを投げ飛ばす。壁に背中を壁に打ちつけた青年が咳込みながら体を起こすと、目の前に執事服の青年がいた。
黒髪をなびかせながらカリストが悠然と微笑む。
「今は亡きルーファット王国の第二王子、ベッディーノ様ですね?」
疑問形だが確信を含んだ言葉。ベッディーノが何も言わずに碧い瞳でカリストを睨む。
「この街を治めているセルシティ第三皇子より伝言です。大人しく投降するのであれば、今回の事件はもみ消す。だが、拒否するのであれば……」
それより先は言わず、カリストがベッディーノに訊ねた。
「どうされますか?」
「答えは否だ。我が王族に伝わる秘術が知りたいのだろうが、そうはいかない。貴様たちは、これから召喚する悪魔によって国ごと滅ぼされるのだ。いけ!」
ベッディーノの命令で倒れていたアンデッドたちが一斉に立ち上がる。身につけていた武器をかまえるが、次々と武器がはじけ飛ぶ。
その光景にベッディーノがイラついたように怒鳴った。
「武器は使わなくていい! 殴り殺せ!」
アンデッドたちが素手のままクリスとカリストに襲いかかる。
クリスは慌てることなく、いつものようにカリストに命令した。
「任せるぞ」
緊迫した現状とは場違いなほど優雅にカリストが頭を下げる。
「お任せを」
クリスは軽く頷くとエマがいる台へ駆け出した。
アンデッドたちが反応してクリスの方へ向きを変える。そこに銀食器のナイフがアンデッドの首や心臓に突き刺さった。
正確に急所を貫いているが、アンデッドの動きは止まらない。ナイフが刺さったまま、カリストの方に足を向ける。
そのことにカリストが感心したように言った。
「頭を撃ち抜いても、神経や動脈や心臓を刺しても動けるとは。どういう仕組みで動いているのか非常に興味をそそられますね」
カリストの両指の間に新しい銀食器のナイフが現れる。黒い瞳が妖艶に微笑む。
「さて、どこまで動いていられますかね?」
※
エマの近くにいたアンデッドたちがクリスの進路を塞ぐ。そこに布を被った小柄な人が次々とアンデッドを倒し、道を作った。
エマの所へ着いたクリスはすぐに右手をかざし、全身状態を確認する。
『透視』
「……クリス様、すみません」
「おまえが謝る必要はどこにもない。まずい、破水しているな。アンドレ、急いでエマを運……どういうことだ!?」
クリスは両手をエマの下腹部に当てた。
「何故、横位になっている!? この時期にこんなこと、ありえな……しかも手が出てきているだと!? これでは産道を通るのは無理だ! 産まれることが出来ない!」
思わず叫んだクリスにベッディーノが声高に笑った。
「あと一人、その魔法陣に魂が捧げられた時、腹の子は悪魔となり自ら腹を破って生まれる! もう誰にも止められない!」
ベッディーノの声に呼応するように床に描かれた魔法陣が赤く輝く。
「クリ……ス……様……」
「エマ!? しっかりしろ! 体力が急激に落ちている!? この魔法陣のせいか!」
どうするか悩んだクリスは周囲に視線を向けた。どこを攻撃しても動きが止まらないアンデッドに苦戦するカリストの姿が目に入る。
「カリスト! まだ終わらないのか!」
「すみません。意外と頑丈でして」
アンデッドを物理的に動けなくするため、手足を切り落としていくが、なにせ数が多い。
思わぬ状況にクリスは唇を噛んだ。
2
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】
remo
恋愛
妹の振りをしたら、本当に女の子になっちゃった!? ハイスぺ過ぎる敵国王子の溺愛から逃げられない!
ライ・ハニームーン(性別男)は、双子の妹、レイ・ハニームーンを逃がすため、妹の振りをして青龍国に嫁ぐ。妹が逃げる時間を稼いだら正体を明かすつもりだったが、妹に盛られた薬で性別が変わってしまい、正体を明かせないまま青龍国の王太子であるウルフ・ブルーに溺愛される。隙を見てウルフのもとから逃げ出そうとするも、一途に自分を愛すウルフに知らず知らず惹かれていく。でも、本当はウルフをだましているという負い目があるライは、…
…なんか。ひたすらイチャイチャしてる、…
読んでいただき有難うございます!
2023.02.24【完結】
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
男装女子はなぜかBLの攻めポジ
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
恋愛
身代わりで全寮制男子校に潜入生活の私は女子。
この学校爛れすぎてるんですけど!僕の男子の貞操の危機じゃない⁉︎なんて思ってた時もありました。
陰で女王様と呼ばれて、僕とのキス待ちのリストに、同級生に襲われる前に襲ったり、苦労が絶えないんだけど!
女なのに男としてモテる僕、セメの僕⁉︎
文化祭では男の娘として張り切ってるのに、なぜか仲間がうるさい!自覚って何の自覚⁉︎
#どこまで男で頑張れるか #なぜかBLっぽい #キスしまくりな僕
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる