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(45)冷気と希望

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「そういえばさ、お前たちギルドへは行ったのか?」

「あ、はい。でもギルドに僕らが泊まってた宿屋のおかみさんが駆け込んできたんですよ。先輩たちが誘拐されたかもしれないって教えてくれたので、急いで救出に向かったんです。僕とメイシアちゃんで、ウメコちゃんの背中に乗ってきたんですけど」

 あれ? ウメコって背中に乗れるんだっけ?
 元の姿に戻ったウメコはかなりでかいから、不可能じゃないんだろうけど、口にくわえられた思い出しかないような……。

 ──わふ。

 ま、乗馬スキルもない俺じゃ乗りこなすのは無理かもな。うん。
 おかみさんはどうやら、見知らぬ人間たちに抱えられて行く俺と課長を目撃し不審に思って、ギルドへ駆け込んだらしい。
 宿屋のおばちゃんの勘ってすげぇな。

「じゃあ、ステータスは確認してないのか?」

「ええ。残念ながらそうですね。確認しようとしたところで、おかみさんが飛び込んできちゃったので。僕も自分のステータス見てみたかったんですけどね」

 口をへの字に尖らせる九重は可愛い。
 中身男だけど、可愛い……。可愛いが、段々とゲシュタルト崩壊してきたな。何が可愛くて可愛くないのか、もはやわからなくなってきたよ。

「そうだよなぁ~。俺も、自分のステータスは見てみてぇ!」

 夢が膨らむもんな。

「わたしも、ギルドに登録したかったです……このままじゃ、どこにも雇ってもらえません」

 メイシアもしょんぼりした様子で、肩を落として呟いた。

「まぁ、きっとすぐにここから出られるよ。課長さえ見つかれば。なぁ、九重?」

「そうですね! メイシアちゃん、元気だしてください!」

「はい! 頑張ってわたしも課長を探します!」

「その意気だよ」

 その時、ひんやりとした感覚が足元をくすぐった。

「ひゃっ! 冷たい!」

 メイシアが驚いて飛び上がった。

「向こうから冷気が流れてきてるみたいですね」

 まるで、真夏に冷凍室の扉を開けた時のように。
 渓流の流れに足をつけた時のように。
 そんな冷気の帯が通路いっぱいに広がっていた。

「すごい冷気だな」

 ゴクリ、と喉の奥が音を立てる。

「わらわは寒さに弱いでの」

「ちょ、お前どこに入ろうとしてるんだよ?!」

 ふと気がつくと、リアが俺のシャツの中に入るために、襟元をこじ開けようとしていた。

「低温下での活動は、エネルギーの変換効率が30%ほど落ちるのじゃ」

「確かに、蚊は寒さに弱いかも知んないけど、なんでそこなんだよ?!」

 器用にボタンを外したリアは、すっと襟元に潜り込む。

「女子の胸元をこじ開けるわけにはいかんだろうが。フェンリルの毛皮は魅力的だが、ちびウメコの毛は短いのじゃ!」

「な、なるほど」

 確かに、このメンバーで男は俺だけだな。九重も、見た目が思い切り女子だから、仕方がない。
 何となく、納得できないんだけど。

 ──くしゅん!

 俺の思考を遮るように、ウメコがくしゃみをして、ブルブルと身体を震わせた。

「それに、ここならいつでも血が吸えるだろう?」

 むしろ、そっちが主目的だよね? 知ってる。
 そうやって、いつでもどこでも俺の血を狙ってくるの、ホントにやめて?

「わ、わかったよ。その代わり、くすぐったいからあんま動くなよ?」

 首元でもぞもぞ動かれると、何だかぞわぞわしてくる。

「善処しよう」

 九重が、空間収納にしまっていたコートのようなもの(カローの町の購入品)を出して、俺たちに配った。

「まさか、こんなに早く必要になるとは思いませんでした」
「全くだよ」

 この上着を買った時は、冬が来ると困るからな~と半ば冗談のつもりだったのに。

 できるだけ着込んだ俺たちは、また通路を進み始めた。
 その頃になると、通路の奥が薄ぼんやりと光っているのが見て取れるようになっていた。
 つまり、あの先に明かりのついている空間があるということだ。

(ちょっとやる気が出てきたぞ。俺だけかもしれないけど!)

 俺たちは、漂ってくる冷気にかじかむ手を擦りながら、互いに声を掛け合って通路の奥を目ざした。




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