46 / 68
挿話(7)一方その頃③
しおりを挟むカチャン、とカケルの手からフォークが滑り落ちた。
最近ようやくナイフとフォークの扱いに慣れてきたところだったが、たった今もたらされた知らせに思わず動揺してしまい、取り落とさずにはいられなかったのだ。
「えっ? 勇者が現れた、だって──?」
「はい、西の町のギルドで確認されたらしく」
「……ど、」
「……?」
(どうすれば……?!)
不安に揺れていた。
カケルは本物の勇者でないのだから、現れたのは本物の勇者だろうか。
「勇者様におかれましては、直接ご確認頂きたく」
「あ、ああ」
「今すぐ西の町へご出立ください!」
「えっ……」
驚いた拍子に、口に放り込んだステーキの欠片をそのまま飲み込みそうになって慌てるカケル。
以前は、もし本物の勇者が現れれば手足のようにこき使えばいいのだと思っていた。
しかし、ここのところの奇妙な状況のせいで、どうしたらいいのかわからなくなっていた。
最近、あちらこちらで魔獣……それも高位魔獣が出現し、その度に勇者の名目でカケルが頻繁に招聘されるのだ。
ここ五十年はほぼ平和だったはずの国に、突然高位魔獣が出現したり、勇者が討伐隊の先陣をきること──それ自体は別におかしなことではない。
頻度にしても、頻繁にとは言っても無理のないスケジュールで行き来できるほどであるから、死ぬほど忙しいわけでもないが。
ただ、ただ、気持ちが悪いのだ。
カケルは魔獣を前にすると、いつも意識が途切れてしまう。
魔獣の恐ろしさに、自分が気絶でもしていたのかと思えばそうではないらしい。
魔獣を前にすると遠のく意識、そして我に返ると無傷の彼の前に転がる、魔獣の死体──そう、一番最初の討伐の時と同じように。
討伐隊からは歓声が上がり、知らないうちに積み重なっていく功績。
『さすが勇者様!』
称賛されるのは嫌いじゃないけれど、さすがにこれは気味が悪すぎる。
二重人格とかなのだろうか? もしかして、知らない間に別人格が手持ちのスキルを駆使して、魔獣をやっつけているのだろうか?
カケルの戦っている姿を見たかどうか、同行した騎士たちにそれとなく聞いてみたものの、彼らははっきり見てはいないのだと言った。
魔獣とカケルが光に包まれて、その光が消えると魔獣は既に切り裂かれているらしい。
(くそっ! 一体どうなってるんだ?!)
けれど、誰にも相談できるわけがない。
自分は勇者じゃないはずなのに魔獣が倒せるなんておかしい、とか言えるはずがないからだ。
そしてさっき『勇者』が見つかったと言った。
「な、何でオレが行かなきゃいけないんだ? 見つかったならここへ連れてこればいいんじゃないか?」
「それは……!」
「勇者様、参りましょう」
カタン、と小さな音立てて、ナイフが皿の上に置かれた。
「アリステラちゃん……?」
「同じ時代に勇者が二人も現れたという話は、今まで聞いたことがありません。カケル様はステータスカードでも実際の討伐でも、勇者の資質をすでに示しているわけですから、もしかするとその者は、勇者を騙る偽者かもしれません。そんな素性のわからない者を城にあげるわけにはまいりません。こちらから出向いて確認し、偽者ならば処置をしなくては」
表情なく語るアリステラに、少しゾッとするカケル。
(美人の無表情、怖いじゃん……どうしよう。でも、行かなければ、オレの方が偽勇者じゃないかって疑われるかもしれないよな?)
そうなれば、処置されるのはカケルの方だろう。
「陛下には?」
「既に報告済みです」
「わかりました。さぁ、行きましょう、勇者様」
アリステラがサッと手を挙げると、控えていた侍従がスっと椅子を引いた。
立ち上がった彼女は、もはやカケルを振り返らずにスタスタと歩いて食事の間から出ていってしまった。
「あー……仕方ねぇな。面倒だけど行くか……」
カケルはとりあえず、皿に残ったステーキを口に放り込んでから立ち上がった。
10
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします
寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。
しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。
「ま、良いけどね!」
ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。
大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる