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「大丈夫じゃねぇ────っ!!!」

「大丈夫じゃ。わらわに任せよ」

 慌てふためく俺の耳に囁き声が聞こえる。

「は? 何でお前が? 馬に乗れる大きさか?!」

 リアは依然として俺の肩の上に乗っかっている。つまり、今はそういう大きさだということだ。
 どう考えてもこの状態では手綱を操ったりはできない。

「馬に幻覚を見せて走らせることはできるのでの。操縦だけ頼むぞ。さっき課長殿がくれてやってた、人参山積みの幻覚を見せたからのう」

 へっ?!
 何言ってるの?! 何しちゃってくれてんの?!

 馬が目の前に人参ぶら下げられたら──。

 ──ヒッヒーーーーーン!!!!

 力強い嘶きがすぐそばで聴こえる。

 ──グィンッッッ!!!

「……?!!!」

 嘶きと同時に強く後方へ引っ張られる。いや、引っ張られるというか慣性の法則?

 圧倒的なスピードで走り出す、馬。

「うわぁぁぁ──っ!!」

 操縦? 操縦? 操縦ってどうすりゃいいの?! 振り落とされないようにしがみつくので精一杯なんだけど?!

 空気も、風も、課長の数少ない髪の毛も。
 何もかもを置き去りにするかのようなスピードで駆ける。

 更に。

 ──バシュッ!!

 頬のすぐ側を何かがすごい勢いで通り過ぎた。

「痛っ!」

 同時にビッと肌が裂ける音がして、鋭い痛みが走る。
 弓矢だ。

 馬の首にしがみつきながら、どうにか後ろを振り返ると、何者かが馬で俺たちを追う姿が確認できた。
 よく見るとさっきの奴らではない。
 白銀の鎧を着て、颯爽と駆けてくる軍勢の中に奴らの姿はない。
 彼らは追ってこられないだろう。それもそのはずだ。彼らの馬は俺たちが拝借してきたのだから……。

 では、俺たちを追いかけ馬を駆る彼らは誰だ? しかもいきなり背後から矢を射てくるような危険な奴らだ。

 警察? やっぱりこの世界にも警察いるの?
 馬車泥棒がバレた?

 有り得る。

 お巡りさん! 俺たちは悪くないんです! アイツらが俺と課長を誘拐したんですから!

 だから、逃げる手段としてちょっと借りただけで!

 え? 馬車がぶっ壊れてるじゃないかって?
 そりゃあんた、さっきぶっ飛んできた火の玉が馬車に直撃したからね? 木っ端微塵に吹き飛んださ!

 事故だよ、事故!

 それに、そもそもあの火の玉も後ろから飛んできたものだから!
 馬車が塵となって消えたのは、十中八九あんたらの責でしょうが?!

 とかなんとか言っちゃえればスッキリするんでしょうけども。
 無理だよね? この状況で口を開こうものなら舌噛むし!
 この距離じゃ、拡声器でもなけりゃ彼らに声も届かないし。

 ──ヒュウゥゥゥゥゥゥ──ッ!!!

 一際明るく大きな火の玉が俺の頭の上を通り過ぎていく。

 あれ? 外しちゃったのかな?

 何だよ、随分ノーコンなやつだなぁって思ってたら、何と前方右手にある大きな岩──大体一軒家くらいの大きさの岩に火の玉がぶつかった。

 ──ドッゴォォォ──ッン!!!

 特大の花火が上がった。夜空に、ではなく。昼間の、それも平原のど真ん中に。
 火花をバチバチと発しながら、砕けた岩が四方に飛び散る。鼻をくすぐったのは、熱した鉄の匂い。

「げっ!!!」

 俺は慌てて、抱えていた馬の首を手前に引いた。

 岩から飛んできた岩塊が、直撃しそうだったのだ。

 ふと見回すと、課長も馬の足をほぼ止めていた。

 そして俺たちは、瞬く間に追いつかれ、白銀の騎士たちに囲まれてしまったのだった。



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