上 下
29 / 68

(23)課長へ伝言です

しおりを挟む

(前回までのあらすじ)

会社の避難訓練中に、会社の課長や同僚たちと異世界の森の中に飛ばされてしまった近江。
野盗に襲われている王女を助けたものの、日頃から近江を疎ましく思っている同僚に、課長と二人きりで置き去りにされてしまう。
フェンリルに攫われたり、会社の後輩に出会ったり、大食らいの自称聖女を拾ったりして、近くの町へやってきた。
町に着いた途端に巨大な蚊柱に襲われて、課長持参の殺虫剤で撃退したところ、副町長にそれを売ってくれと言われる。どうやら町ではこの巨大な蚊柱に悩まされているらしい。
事態を解決すべく、副町長と課長で第一回越後屋談合が開かれた。
その後、近江は課長に命じられて、悪臭と蚊柱の元となっていると思われる川を調査することになる。
調査を終了しようとしたその時、彼の勘が何かを告げる。彼がヘドロの上をザバザバと歩いてたどり着いたのは──。

──────────



 川の中をザバザバと歩き続けた俺は、いつの間にか町の外れまで来ていた。
 その俺の目の前にあるのは、川にかかる橋だ。橋のたもとには、赤いレンガ造りの建物がある。

(さっきまでこんな建物あったっけ?)

 ま、中心部からは離れているからな。
 建物自体も古びていて、ツタやコケに覆われているから、目につきにくかっただけかもしれない。

 でも、ここが

(やっぱり水門があったな)

 橋の下は水門となっているようだった。
 となれば、恐らくあの建物は水門を管理するための施設だろう。

 ここカローは、水路だらけの町。

 悪天候などで増水した場合、水路から水が溢れて浸水し、被害は甚大になることだろう。そうならないため、大元の川を流れる水量を調節するのがこの水門のはずだ。

 というか……水門があるなら、川の流れが悪かったらまずここを調べるべきじゃないのか?

 まぁ、町長が蚊柱に襲われて寝込んでいるらしいから、副町長も色々大変なんだろうな。
 実際結構忙しいようで、越後屋談合の後すぐ、呼びに来た役場の人に引きずられて役場へと戻っていった。

 元の世界の職場でも、突然休まれると結構困ったもんな。……あ、これ以上考えると鬱になりそうだからやめておこう。うん。
 今頃あっちの世界では、俺の方が迷惑をかける立場になっているかもしれないんだから。

 とにかく、ここは何かのだ。

 いや、川の水が元々臭いのは臭いんだけど、そうじゃない。怪しいってことだよ!

 あ、ちなみに課長たちには、ちゃんと伝言を残してきたよ。
 さっきヘドロの中をグリグリしてる時に拾った大きめの石を重しにして「ちょっと行ってきます。メイシアにもよろしく」と書いたメモをカゴに入れて置いてきた。

 課長に俺の意図が伝わるといいんだけどね……多分大丈夫。

 これも俺の勘!

「よっと……!」

 俺は、石垣を足がかりにして岸へ登った。

「うーん……やっぱり水門の操作は建物の中かな?」

 橋の上にはそれらしきギミックが見当たらない。となると、怪しいのはやはり建物の中だ。
 このレンガ造りの建物が二階建てになっているのは、元々川の状態を見る監視塔も兼ねているからかもしれないな。

 水門やこの建物が、町の中の建物よりも若干新しめなのは、きっとこれが必要に迫られて造られた施設だから。
 恐らくこの町は、過去実際に水害にあったことがあるのだろう。それで、この水門を設置した。

 ──ギッ……。

 扉に鍵はかかっておらず、少し……いや、結構頑張って力を込めて押すと、錆び付いた音を立てて開いた。
 まるでここしばらく人の出入りがなかったかのようだ。

「…………うわっ!」

 外の光が暗い部屋に差し込んだその瞬間、部屋の中の影が一斉に扉から飛び出してきた。

 圧倒的な質量を持って、俺を扉の外へ押し戻す、黒々とした影。

(いや、影なんかじゃない!)

 ──ヴ、ヴ、ヴヴ…………。

 まるで、建物の中へ入れまいとするかのように、俺の前に立ちはだかったのは、大量の蚊だった。

 趣味の悪いことに、人の形をとってやがる。まさか、知能があるのだろうか?

「お前が元凶か……?」

 ──ヴヴヴ……ヴヴ、ヴ……。

「…………」

 一応尋ねて見たけど、相手は蚊だ。答えが返ってくるはずがない。
 わかってるけど、相手が人型だとこういうやり取りしてみたくなるじゃん?
 え? ならないの?

 耳が痛くなるほどの羽音が、ビリビリと頬に突き刺さる。

「ふっ……残念だったな。こんなこともあろうかとおもって、課長からお借りしてきました、殺虫剤!」

 ばばーん!!!

 って、誰も見てないけど!

 俺は殺虫剤のノズルを黒い塊に向ける。

「はい噴射────っ!」

 俺は反論反撃の隙を与えず、すぐさまトリガーを引いた。不意打ちなんて卑怯──じゃなくて、先手必勝っていうれっきとした作戦だから! ね?!



 ──シュウウウゥゥゥゥ────ッ!



 白い薬剤が勢いよく噴き出して、辺りを覆った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えっ、僕って異世界出身だったの?今以上に幸せになります!

みっく
ファンタジー
日本の養護施設で生活していた主人公の琉夏ールカー、12 歳。ある日意識を失い、目が覚めると異世界にいた。そこで衝撃の事実が!(まぁタイトルでネタバレになっていますが(笑)) こういう話が読みたい、こういう設定がいいか、というアイデアばかり浮かぶので、頑張って文章にしていきます。慣れないので優しくしてください!お豆腐メンタルです。 お気に入り登録や感想は、踊り狂って喜びます!

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

追放鍛治師の成り上がり〜ゴミスキル『研磨』で人もスキルも性能アップ〜家に戻れ?無能な実家に興味はありません

秋田ノ介
ファンタジー
【研磨は剣だけですか? いいえ、人にもできます】  鍛冶師一族に生まれたライルだったが、『研磨』スキルを得てしまった。  そのせいで、鍛治師としての能力を否定され全てを失い、追放された。  だが、彼は諦めなかった。鍛冶師になる夢を。  『研磨』スキルは言葉通りのものだ。しかし、研磨された武具は一流品へと生まれ変わらせてしまう力があった。  そして、スキルの隠された力も現れることに……。  紆余曲折を経て、ライルは王国主催の鍛冶師コンテストに参加することを決意する。  そのために鍛冶師としての能力を高めなければならない。  そして、彼がしたことは……。  さらに、ライルを追放した鍛治一族にも悲劇が巻き起こる。  他サイトにも掲載中

処理中です...