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(11)ますます心配してそうな課長

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 大きな口が近づいてきてパクッと食われて死ん──ではいなかった。
 ちょうどシャツとベルトをくわえられて宙吊りの状態だ。

(何だ何だ? ……一体何が起こったんだ?)

 考える間も、俺をくわえた何かは猛スピードで森の奥へ走っていった。

 俺をくわえているのは──全身が銀色の毛で覆われた何か。

(ゴブリンみたいなモンスターか?)

 毛むくじゃらのモンスターをいくつか想像してみる。
 まぁ、四足歩行の動物型モンスターならだいたい毛が生えてそうだけど。

 いやしかし。

 モンスターならば、問答無用で人を襲うものじゃないだろうか?
 それならさっきのゴブリンたちのように殺気ダダ漏れのはずなのに、こいつからは何も感じない。

(──まさか)

 俺はひとつの可能性に思い当たった。

 見つけた獲物をその場で食べずに持ち帰るのは──。

(非常食──っ?!)

 そうだ、そうに違いない。
 いや、でもこんなおっさん食っても上手くないぞ。

「お、俺は美味くないぞ?! 食べるならもっと若いやつがいいだろ?!」

 そう、仔牛や子羊のように。
 若い方が肉も柔らかいし美味いに違いない。
 俺は多分筋張っていて美味しくないはずだ。

 だけど、喚いても喚いても速度は落ちない。

「……」

 舌を噛んだら危ないから黙ってることにした。

 オープンカーで爆走している気分だな。
 いや、クッション性の効いたシートに座ってハンドル握りながら風を感じるのと比べちゃいけない。
 それにしても、木がおいしげる森の中でこれだけのスピードで走り回って、どこにもぶち当たらないってすげぇな。
 ちょっとでもかすったら死だ──もちろん俺がだが。

 やがて、大きな洞穴の前までくると、俺はやっと口から解放されることになった。

「ふ……ぐっ……げほげほっ!」

(俺の命もここまでか──)

 いや、ワンチャン非常食ならすぐ食べるわけじゃないだろうから、もう少し長生きできるかもしれない。
 食べるならきっと死体より活きがいい方がいいもんな?
 そう考えながら顔を上げた。

「……なんて、」

 なんて綺麗な毛並み──。
 こいつは銀色に光る美しい──。
 思わず見とれた俺は呟いた。

「犬?」

 ──ゲシッ!

「いてっ!」

 どう見ても、巨大な銀色の犬だが。
 そいつは、俺の頭をひと踏みしてから、抗議でもするようにゲシゲシと前足で地面をたたいてる。

「えと……犬……」

 ──ゲシッ!

「じゃなくて、狼──?」

 ──ゲシゲシッ!

「でもないとすると……」

 白銀の毛並みを持つ犬型のモンスターと言えば……。

「あれか、フェンリルだ!」

 ──ワオオォォォォ──ン!

 当たりだったらしい。
 俺はほっとして肩の力を抜いた。
 が。
 いやいや。
 まだ俺の命の危機は去ってない。
 犬だろうとフェンリルだろうと、結局腹の中に収まってしまったらどちらも大して変わらないじゃないか。

 何とかここを切り抜けて課長の元へ戻りたい。

 それが、今の俺の正直な気・持・ち。

 もう、この際課長を巻き込めないとか悠長なことは言ってられない。
 だってさ。
 あの人なら何とかできそうな気がするし。

 自称フェンリルと睨み合ったまま、俺は逃げ出す隙を伺って……いたら、突然フェンリルの顔が近づいてきた。

「えっ?! はっ?! げっ!!」

 当然心の準備なんてない俺は、かなり狼狽えて後ずさった。

(やっぱり食われる──?!)

 そう思ってギュッと目を閉じると、

 ──ヌロン。

 ザラっとした生温かい何かが俺の顔をなで上げる。

「おぅふっ!」

 思わず変な声出ちゃったけど、目を開けると俺を見つめるフェンリルの目が──。
 どうやらさっきのは舌で舐められたらしい。

 ──ペタン。

 フェンリルは俺の前で後ろ足をおった。

「はっ?」

 要はお座りの姿勢だ。

 ──ペタン。

 更に前足をおった。
 伏せの姿勢だ。
 そして、グイグイと俺に額を押し付けてきた。

(え? 撫でろってことかな?)

 恐る恐る手を伸ばしてフェンリルの額に手を置く。
もふっと。

 モフモフ……。

「……」

 モフモフモフ……。

「…………」

 モフモフモフモフ……。

「って、何やってんだよ、俺っ?!」

 モフモフ恐るべし。
 ほんのり温かいもふもふは、手を差し込むと奥の方がよりほわっとしている。
 そろそろフェンリルの額から手を離さなければと思いつつ、なかなか手を離すことができない。

 ──くぅん……。

 手を離したら名残惜しそうに鳴かれて、黒曜石のような瞳で見つめられた。

「くっ……何なんだ、この素敵もふもふ展開は……っ!」

 もしかしなくてもこのフェンリル、俺に懐いてる……よね?
 まさか転移チートでテイマーのスキルでも手に入れたんだろうか?
 俯いて考え込んでいると、急にフェンリルが吠えた。

 ──わぅふっ!

 俺が再び顔を上げた時には、フェンリルは姿を消していた。

「えっ?! ちょっと待って一体どういうこと?!」

 運ぶだけ運んできて放置とか正気なの?!

 放置プレイとか好きじゃないんだけど?!

 放置するくらいならいっそ夢だと言ってくれ──!

(ん? 待てよ? 早速逃げるチャンスなんじゃない?)

 と思ってたら、すぐにフェンリルが何かをくわえて戻ってきた。

 それは大きな──。

「イノシシ……!」

 だった。
 どこからどう見ても獲れたて新鮮なイノシシ。
 昨日食べたやつだよね?
 昨日の記憶がよみがえってきて、思わず俺のお腹がぐうっと鳴った。
 すると、フェンリルは口を開けて俺の前にそれをドサッと落とした。

「えっ……?」

 そして、また這いつくばってこちらに頭をグイグイ擦り付けてくる。

「なに? どういうこと? 褒めてってこと? まさか……このイノシシ、俺への貢物ってこと?!」

 驚いているとフェンリルはコクコクと頷きながら、物欲しそうに見つめてくる。

「し、仕方ないなぁ……」

 別にもふもふできるからって嬉しくないぞ。
 あくまで逃げる隙を作るために……。

 モフモフモフモフ……。

(もふもふ……最高)

 ラノベの主人公たちがもふもふにハマるのもわかる気がするよね。


 どういう理屈かは知らないが、撫でれば撫でるほど、その白銀の毛並みはツヤツヤと輝きを増したように見えた。


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