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13.奇行扱い

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「えっ、お母様、このドレスですの……!?」
「ええ、そうよ、クリスティン」

 今度の舞踏会に母がクリスティンに着るよう勧めるドレスは、身体のラインがはっきりわかるものだった。
 膨らんでくる胸を隠したいのに、逆に強調するデザインである。

「わたくし、違うドレスがいいですわ……」

 クリスティンは及び腰になる。
 素敵なドレスだが、自分が着るのは心底遠慮したかった。
 だが母はぴしゃりと言い放った。

「駄目。上品で優美で、とても良く似合っているもの、心配ありません。その美貌を最大限活かせるわ。性格は変わっているけれど、あなたは美しい。舞踏会を楽しみにしてらっしゃるアドレー様のためにも、輝かなければね!」

(舞踏会にも出席したくないのに……!)

 しかしクリスティンが何を言っても無駄で、近頃、両親にお願いしても全く聞いてはもらえなくなった。
 体質改善し、健康になったのがアダとなった。 
 更に両親は、優等生で欠点がないアドレーを気に入っている。
 
 ある日から変人と化した娘に、アドレーが振り回されていると、彼を気の毒に思っているのだ。
 皆、彼が本当は怖いひとだと知らないのである。
 
 クリスティンの行動は、自身の中では意味あるものなのだが、両親には理解してもらえなかった。
 娘の奇行が世間に知られないよう、使用人に口止めもしているのをクリスティンは知っている。

(そんなにアドレー様がお好きなら、お父様やお母様がアドレー様と結婚なさればいいのだわ)
 
 クリスティンは、拗ねる。
 結局、母主導でドレスが決まり、意気消沈した。

(……どうしましょう)
 
 気晴らしに、ステテコウェアに着替えて、薬草園でぷちぷちと雑草を抜いた。

「クリスティン様」
 
 するとメルがやってきて、俯いているクリスティンに気づかわしげに声を掛けた。

「どうなさったのですか?」
「うん、ちょっとね……」

 クリスティンは立ち上がる。
 そろそろ戻らないと、メルに心配をかけるし、両親や兄には注意をされてしまう。
 溜息をつくクリスティンにメルが訊いた。

「何かあったのですか?」
「……気が滅入ってしまって」 
 
 クリスティンは素直に打ち明けた。
 メルには話せる。

「今度の舞踏会のことを考えると。お母様の選んだドレスも着たくないの」
「アドレー様がおっしゃっていた舞踏会ですね……。ドレス、お気に召さないのですか」

 クリスティンは首を横に振る。

「ううん、ドレスはとっても綺麗よ。でも露出がやや多めで」

 何故、アドレーの婚約者として過ごさねばならない舞踏会で、あのドレスを着なければならないのだろう。
 他のひとが着ているのをみれば、素敵だと感じるだろうが自分が着るのは嫌だ。

「違うものに変えることはできないのでしょうか?」
「お母様が強い意思で決めてしまったので、無理だと思うわ」

 仕方ない。
 ささっと行って、ささっと帰ればいいのだ。

(もう気にするのはやめましょう)

 クリスティンは舞踏会出席にあたり、心を無にすることに決めた。



◇◇◇◇◇



 舞踏会の日──。
 きららかな盛装を纏った目映いアドレーがやってきた。

「クリスティン、とても美しいね」
「……ありがとうございます、アドレー様」
 
 母の指示でクリスティンは念入りにドレスアップされてしまっている。
 
 迎えにきてくれたアドレーと、クリスタルの扉を開け馬車に乗った。
 誰もが憧れる王子様が隣にいるのだが、クリスティンは憂いに沈む。
 もうすでに帰りたい。
 
 絢爛豪華な王宮の大広間には、人々がひしめき合っていた。
 アドレーに手を取られ、クリスティンは彼とたくさんダンスを踊った。
 アドレーはダンスが上手で、日頃レッスンもしてもらっているので踊りやすい。
 
 だがクリスティンは、アドレーといて心から楽しむということは、十二歳から全くできなくなっていた。

(誰にも、この気持ちをわかってはもらえないのよね)

 完璧な婚約者を恐れるクリスティンがおかしいと思われている。
 クリスティンの近侍のメルすら、首を捻っている。アドレーに同情を寄せている。
 この先も、このことに関しては、一番の理解者であるメルにもわかってはもらえないだろう。
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