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オスカーの秘密

大切な宝物だから

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「可愛いたった一人の妹のおまえには、誰よりも幸せになってもらいたいのに」
「心配なさらないで、お兄様」

 微笑むリアの頬に掌で触れた。

「私とおまえが結婚できたらいいのにな」

 皇太子がリアを選ばなければ何の問題もなかったのに。
 大切な妹が、他の男とずっと婚約していることが、オスカーは我慢ならなかった。
 一体妹はいつ解放されるのだ。

「従兄弟だから、しようと思えばできるんだよ。殿下との婚約がなくなればね。リア、おまえに幸せになってもらいたい」

 たとえリアが多少傷つくことになろうとも。
 この結婚はなんとしてでも阻止しなければならなかった。
 もう悠長にしていられない。

「私も、お兄様に幸せになってもらいたいと思っておりますわ。お兄様は、どういったかたがお好みですの」

 無邪気なリアに、オスカーは正直に言った。

「おまえだよ」
「え?」
「私の好みはリアだ」
 
 最初会ったときから惹かれている。
 妹の額に唇を寄せれば、リアは驚いたようにオスカーを見つめた。
 髪に指を通しながら、もう一度好きだと告げれば、妹は感嘆したように呟いた。 

「お兄様、流石ですわ……!」
「……何がだい?」

(……流石とは?)

 呆気にとられるオスカーに、リアは自身の手を握り、溜息交じりに言葉を発す。

「その調子で、世のご令嬢をメロメロになさるのね……女性が失神してしまうのもわからなくはありませんわ! けれど、いつか刺されるのではないかと私、心配でもありますわ。どうぞお気を付けください」
 
 真面目に忠告され、オスカーは気落ちした。
 全く気持ちが伝わっていない……。
 これまでもずっとそうだった。
 今は兄妹で、仕方ないのかもしれないが。
 とりあえず、大きな間違いは正しておかなくてはならない。

「私は、皆にこんなことを言っているのではないんだよ、リア? おまえは何か、誤解をしているよ?」

 好意を、リア以外の異性にみせたことも、告げたこともない。
 ただ相手の女性が勘違いすることがあるだけだ。

「そんなことはありませんわ! 私、お兄様のこと、よく存じています。八歳のときから、兄妹なんですもの!」

 リアはいやにきっぱり言うが。
 本気でオスカーがリアに恋をしていることも、知らない。
 愛らしいが、少々鈍い。
 オスカーは焦れて、リアの柔らかな手を取った。

「だがもっとリアに私のことを知ってもらいたいんだよ」

 オスカーの仄暗い欲望。
 これは知られれば、きっとリアに怖がられる。

(本性は隠さないといけない……結婚後もずっと)
 
 己でも、自身をおぞましく思うときがあるほどだ。

「それに、おまえのことを私はもっと知りたい」
 
 オスカーはじっとリアを見つめる。

「兄妹の絆は強いでしょう?」

 兄妹の絆だけでは、この渇望は満たされない。
 伴侶になりたいのだ。
 だがリアを手に入れるまで、恐れられないよう、気を許してもらえるよう、今は兄に徹するしかなかった。

(…………仕方ない)

「では今日何があったか、話してはくれないかい?」
「本当に何もないのですわ。もし心配なことがあれば、最初にお兄様に相談します」
 
 
 
◇◇◇◇◇
 
 
 
 数日後、オスカーは薔薇園のベンチで眠っているリアを見掛けた。
 妹は小さな寝息を立てて熟睡している。
 相談してくれそうな気配は今のところなかった。
 隣に座り、妹のプラチナブロンドを指で掬い取る。

「リア。おまえは私の大切な宝物だよ。たとえ閉じ込めてでも、私はおまえを傍におく」

 眠っている妹に宣言し、髪に口付ける。
 肖像画の置かれた部屋には、地下へと繋がる階段がある。
 万一、リアを花嫁にすることができないのであれば。

 そのときは地下に閉じ込めればいい。
 
 本気でそう考えることがある。

(本当の本当に最後の手段ではあるが……)

 見つめていると、リアは睫を揺らせて、目を開けた。

「……お兄様?」
「こんなところで眠ると風邪をひくよ、リア」
「はい」

 頷き、目を擦るリアの頬に指を滑らせる。
 無防備な妹に、オスカーは苦笑する。
 誰にも見られない場所に、隠してしまいたい。
 自分だけのものにしたい。
 リアはオスカーの秘密を知らず、優しい兄と思ってくれている。
 
 オスカーは虎視眈々と、皇太子との結婚を壊そうとしていても、リアに無茶をすることができず、狂気に走れない。
 可愛い妹が信じてくれているから。すんでのところで正気を保てているのかもしれない。
  








──────────

オスカーの番外編はこれにて完結となります。
お読みいただきまして、ありがとうございました!
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