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オスカーの秘密

すべて排除しよう

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 公爵家でリアは、何人もの家庭教師をつけられた。
 これまでと大きく環境が変わった。
 戸惑っただろうが、妹は辛い顔などみせたりせず、日々励んでいる。
 
 あるとき薔薇園で、物思いに耽って、花々を眺めていた。
 そんなリアの傍に近寄った。
 俯く姿は悲しげである……。
 他界した実の両親のことを思い出しているのかもしれない。

「リアは薔薇が好きなのかい?」

 声を掛ければ、リアは顔を上げた。

「お兄様」

 オスカーは微笑んで、薔薇を手折り、リアの髪に挿した。

「私の妹は、薔薇の精のように愛らしい」

 可愛い妹。
 薔薇の精以上だ。
 リアは頬を染めて恥ずかしがる。
 ウェディングドレスは、薔薇で飾ったものにしよう。

「私には今まで弟しかいなかったからね。リアがきてくれて、家の中が華やかになって嬉しい」

 リアが家族となり、毎日が輝き、楽しくなった。

「そう言っていただけて、とてもありがたいです」

 リアは笑みを零す。
 将来の花嫁と出会え、最高に幸運である。

「何しているの、兄上、姉上?」

 すると声が響き、カミルが歩み寄ってきた。
 弟はすねたように唇を尖らせる。

「二人だけで話してズルいよね。ぼくも姉上と仲良くしたいのにさ」

(邪魔だ)

「なら、おまえも一緒に話せばいいじゃないか」
 
 オスカーは苛々した。
 視線を弟から、戸惑ってみえるリアに戻した。

「リアは、私達が浮かれていると、呆れているかい?」
「呆れてなんていませんわ」
「では私達が歓迎しているとわかってくれている?」

 自分も弟も、リアを大切にしたいと思っている。

「はい。私、幸せです、お兄様」

 天涯孤独になってしまったのに、いじらしい。
 リアの美しい髪に触れた。
 妹は弱音を吐かない。

「リアが、新しい環境のなかで日々頑張っているのはわかっているよ。私もカミルも、応援しているからね」

 この妹のためなら、どんなことでもしよう。

「ぼくらになんでも相談して」
「どうして、そんなに優しくしてくださるのでしょう」

 リアは率直に疑問を言葉にする。
 自分達は、肖像画を見、ずっと前から知っているように思うのだが、妹からすると、不思議に感じるのも当然だ。
 オスカーは苦笑した。

「当惑させてしまっていたなら、悪かった。実は私も弟も、初めてリアに会ったという感じがしないんだ」

 カミルが頷いて説明した。

「姉上の実母──ぼく達にとっての叔母上の肖像画が、屋敷に飾られているの。一階奥の部屋にさ。それがちょうど今の姉上くらいで、本当にそっくりだから。それで初めて会った気がしないの」

 リアは肖像画に興味をもったようである。

「見てみるかい? 何枚かあるが」
「はい!」

 元気になったリアに、オスカーは笑顔を返す。

「おいで」

 妹を連れ、屋敷内に入って、一階奥の部屋に行った。
 そこには絵が、幾つも飾られている。
 オスカーはリアの肩に手を回し、昔から見ている肖像画の前まで歩いた。
 美しい少女の姿。

「この絵だ。丁度今のリアくらいの年齢だと思うよ」
「私……?」

 リアはそれを自分だと思ったようだ。
 無理もない、本当にそのままなのだから。
 オスカーは唇を弧の形にする。
 
 横には、成長した叔母の絵が掛けられていた。
 年頃になれば、リアもこんな感じになるのだろう。

「リアの母上はとても綺麗だ」
 
 未来のリアが想像できる。楽しみで仕方なかった。

「……私も、大人になったら母様みたいになりたいな……」

 願うように呟くリアに、オスカーは頬を緩ませた。

「リア、今でもとても可愛いが」

 どんな令嬢より、とてつもなく可愛かった。
 オスカーに寄ってくる者はたくさんいたが、リアほど愛おしい少女は存在しない。
 
 弟が大きく賛同する。

「うん。とっても可愛い。それに大人になったら絶世の美女になる」

 事実、リアはきっとさらに美しくなる。
 惹かれる男は、わらわらと現れるに違いない。

(害虫は、私がすべて排除してあげるから大丈夫だ、リア)
 
 リアの幼馴染イザーク・クルムは、父が帝都に連れてきたこともあって、完全に遠ざけるのは難しいが、オスカーはそれ以外の男を妹に近寄らせる気は、一切なかった。
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