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第一部

はじまりの場所へ1

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「その頃のことを覚えていないが……嬉しい、とても」

 リアは足が止まる。彼も立ち止まった。

「思い出せないのが、悔しい」

 彼はリアの髪に触れ、頬を掌で包み込む。

「オレはオレ自身に嫉妬していた」

 ひたむきな眼差しで見つめられ、リアは喉の奥が詰まり、涙が零れそうになった。

「この先、記憶を取り戻すと父は言っていたが……。そうだといい。君と過ごした日々をオレは思い出したい」
 
 リアは、じん、と頭の芯が痺れている。

(ジークハルト様が……パウル……)

 信じられないような、やはりというような。
 雲の上を歩いているような感じで、ジークハルトと共にヴェルナーの元へと戻った。



「──君の推理通りだ、ヴェルナー。オレはリアと、封印されていた場所へ行っていた。オレが、パウルだった」

 ジークハルトが説明し、ヴェルナーは大きく頷いた。

「その場に、やはり二人がいたということですね。運命がくるうのも、精霊王が関係している。今、あなたの魂は世界を創造した主、精霊王と結びついているのでしょう」


 帝国で受け継がれている神話。
 ──ギールッツ皇家の先祖は、大昔、精霊王に愛されていた。だが、あるときより精霊王は意思を失い、破壊神となってしまった。
 意識が僅かに残った状態で、精霊王は自らを封じるよう皇家の先祖に指示し、そのまま封印された。

「時とともに、ただの神話となりましたが、実際にあったことだったのでしょう。殿下に呼応し、精霊王は世界の破壊と再生を繰り返している」
 
 ヴェルナーによるとこうだ。
 
 このままでは、ジークハルトの精神は安定しない。
 運命はくるい、世界の破壊は繰り返される。
 
 精霊王を封じたのは、ジークハルトの先祖。
 彼の魂に宿ったのはよいものの、精霊王自身もそこから出られない。
 ジークハルト自身が、精霊王をストーンに封じる必要がある──。
 
「……その場所へ行く」

 ジークハルトが決意を込めて言い、リアも言い募った。

「私も参りますわ」

 ジークハルトは心配そうにリアに視線を向ける。

「危険かもしれない」
「私は、『闇』術者として覚醒しております。何かお役に立てるかもしれません」

 少しでも彼の手助けをしたかった。
 危険でもなんでも、一緒に行きたい。

「おれも同行しますよ。非常に気になりますんでね。その場にいた、もう一人の人物も念のため一緒のほうが良いでしょう」

 それで国外のイザークを呼びよせることになったのだった。



◇◇◇◇◇



 数日後、イザークは帝都に戻ってきた。
 彼は最後別れたときのままである。
 突然呼び出されたのに、怒りもしなかった。

「来てくれてありがとう。元気そうで、よかったわ、イザーク」
「リアも元気そうだ。今、皇宮で暮らしているんだな」

 彼は、室内を眺める。
 宮殿の応接の間は、落ち着いた上品な内装である。
 隣室にはジークハルトがいる。まずは幼馴染二人で会えばいいと言ってくれた。

「最初は戸惑ったけれど、大分慣れたの」
「そうか」

 イザークは天井を仰ぐ。

「君の顔を見たら、幸せなんだってわかるよ」

 精霊王の件で大きな問題はあるのだが……リアは事実、幸せではあった。

「イザークは、新生活はどう?」
「有意義に過ごしてる。父に突然留学を言われたときは驚いたけど」

 充実した日々を送っているようだ。

「リア、妹のことでは本当に、すまなかった。国を出た後、父から事情を聞いたんだ。君にとんでもない迷惑をかけた……」
「あなたが謝ることは何もないわ」


 そのとき、隣室に繋がる扉が開き、ジークハルトが室内に姿をみせた。

「そろそろ幼馴染の再会を邪魔してもいいか?」
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