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第一部

想い1

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 牢に入れ、彼女との仲を問い詰めた。
 男は否定し続けた。
 彼はリアの身を案じていた。
 だからこそ嘘をついているのではと疑った。
 
 別に、あの男が死んでもいいと頭のどこかで思っていた。
 だが男に何かあれば、彼女はジークハルト以外を選ぶという。
 絶望した。
 彼女は、ジークハルトを拒絶したのだ。

(今生でも結ばれない運命か……)

 高位の魔物に触れたためか、今までの生を思い出したが、その記憶を活かすことはできなかったようだ。
 
 悪夢は、いつ終わる?
 
 誰かこの自分の魂を、完全に消滅させてほしい。



※※※※※



 ゆっくりと意識が浮上し、瞼を開けると、リアは巨大な寝台に寝かされていた。
 
 脇の椅子にはジークハルトが座っている。

「……目が覚めたか」

 リアは身を強張らせた。

(地下牢で私、気を失ってしまったんだわ……)

「……ヴェルナーはどうなったのです……」

 リアが訊けば、彼は沈痛な表情で、目を伏せる。

「医師に手当てをさせた。命に別状はない。完全に治るまでには、まだかかるだろうが」

 リアはぎゅっと自分の手をきつく握りしめる。

「ジークハルト様、もうあんなことを彼にも、他の誰にも決してしないでください」
「しない」

 ジークハルトは横を向く。

「起きてすぐあの男の心配をするのだな」

 彼は気品ある横顔を悲痛に歪ませる。

「やはり君は彼を想っている」
「ですから、恋をしているという意味なら想っていません」
「彼に恋をしていないと?」
「はい、しておりませんわ」

 リアは頭痛を覚え、重たい溜息がおちた。

「ジークハルト様。なぜ、私が恋をしていると思われるのですか。イザークにもヴェルナーにも、他の誰にも恋なんてしていませんわ。なぜ信じていただけないのでしょう? 私はそれほど信頼に値しませんか」

 彼は真一文字に唇を引き結んでいる。

「確かに部屋から抜け出したりしてしまいました。それについては謝罪します。申し訳ありませんでした。ヴェルナーに話を聞きたくて。けれど私、ジークハルト様を裏切ったことなど一度もないです。婚約してから、他のひとに、心惹かれたことなんてありません」

 前世の記憶を得、婚約破棄されると思っていたときから、ジークハルト以外に惹かれたことはない。
 彼と婚約していたし、気になるひとはいなかった。
 
 リアは身を起こして、寝台から出る。
 彼はやるせなさそうに横を向いたままだ。

「……君を信じていないわけではない。むしろ信じたい」
「私……初恋相手の面影をあなたにみていたことは否定できません」

 リアは俯く。
 他の人に目移りしたことはない。それは事実だ。
 だが、亡くなったパウルのことを、彼を通してみていた。
 
 ジークハルトはパウルととても似ていて。
 一緒にいるとどうしても思い出してしまう。
 結婚の約束をした初恋相手で、大好きだったひと。
 
 だから、わからなかった。
 胸が高鳴るのも、とても気になるのも、それはジークハルト自身を想っているからなのか、ただパウルに似ているからなのか。
 ずっとわからなかった。
 
 ジークハルトは、冷酷なところがあるけれど優しく、あたたかい心ももっている。
 九歳から共に過ごして知っている。
 彼がずっとリアを見てくれていたのは気づかなかったが……彼は情熱もあった。

「……私はあなたに惹かれていました」

 彼は自身の頬に髪がぶつかるほど、激しく振り向いた。

「本当か」
「本当ですわ」

 自分の心を見つめ、出た結論だ。
 ヴェルナーにした仕打ちは許せない。
 ジークハルトに落胆したし、怒っているし、困惑している。
 
 けれど、リアはジークハルトのことを特別に想い、彼自身を想ってきた。
 
 彼が好きだ。
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