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第一部
誤解
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「違いますわ!」
「それにオレは、君が幼馴染と抱き合っているのを見た。あれは何だったのだ」
「抱き合っていた……?」
「そうだ。お茶会の日だ」
(お茶会……)
「オレは君をここから出す気はない」
彼はバタンと扉を閉め、鍵を掛けた。
一人残されたリアは呆然とその場に立ち尽くした。
◇◇◇◇◇
昼、食事が運ばれてきて、一人で摂った。夜も同様だ。
二食続けて、ジークハルトと共に食事をしなかったのは、ここに来てからはじめてである。
夜になっても彼は部屋に戻ってこなかった。
リアがジークハルトと顔を合わせたのは、その翌日の夜だった。
一緒に食事を摂ることになり、リアは気が急いて彼に尋ねた。
「ジークハルト様……ヴェルナーは、今どこに?」
ヴェルナーは衛兵に連れていかれた。あれからどうなったのか気になって仕方なかった。
リアはずっと部屋から出してもらえていない。
ジークハルトに色々誤解されているようだが、何よりヴェルナーの安否が心配だ。
昨日の様子は尋常ではなかった。
いいようのないざらりとした不安が胸を波立たせる。
「あの男なら、牢だ」
「──牢!?」
リアは虚を衝かれて、椅子から立ち上がった。
「どうして彼が牢に入れられているんですか……」
「皇太子の婚約者を誑しこもうとしていたのだから、当然だろう」
リアは眩暈がした。
「誑しこまれてなどいませんわ」
「君のほうから彼を誘ったのか」
「そうではありません」
リアは呆れ、ジークハルトを睨む。
まず彼の思い違いをなんとかしなければ……。
「誤解ですわ。イザークとのこともです。お茶会の日はドレスにジュースが零れ、メラニー様にドレスを着替えるようにと、リボンを解かれたのです」
リアはそのときの状況を詳細に説明した。
「彼は君に愛を囁いて、キスをしているようだったが?」
リアは唖然とする。
「好きだと言ってくれ、私も好きだと答えただけです。キスなんてしていません」
彼はぴくりと眉を動かす。
「好きだと言われて、好きだと答えた……?」
彼も立ち上がる。
テーブルを回り込み、リアの前まで来た。
「君はやはり彼が好きだったのか」
「好きです。もちろん恋愛感情ではありませんわ、彼も私も」
「……君のは本当に、恋愛感情ではないのか」
ジークハルトはリアの手を掴み、顔を覗き込む。
「この間、申し上げた通り、私は……」
セルリアンブルーの彼の瞳を見つめれば、リアは眼差しが揺れた。
「私は……」
「…………」
彼はリアから手を離した。
「今、牢に入れている男とも恋愛関係ではないというのは、本当か?」
(ヴェルナーと恋愛関係になるなんて、前世でも今生でもあり得ないわ)
そんな関係ではない。
「本当ですわ」
「では、なぜわざわざ窓から部屋を抜け出して、あの男に会いに行ったのだ」
「彼から重要な話を聞くためにです」
「重要な話とは?」
ヴェルナーの話を、ジークハルトにもするべきではないか。
正直、ヴェルナーの話は信じられないものだった。だが、彼が嘘をついているわけではないと思う。
「私も途中までしか聞かなかったので、説明できないのです。彼はジークハルト様について、語っていました。彼は能力の高い魔術探偵。他の人にはみえない術者のオーラがみえます。ジークハルト様も彼から聞いたほうが、よくわかるかと。ヴェルナーを牢からすぐに出してください。彼に会わせてください。私と彼の間に、色恋なんて一切ありません。大切な友人なんです」
いつ壊れるかわからない恋愛の結びつきではない。もっと大事で、前世の大切な仲間だ。
「それにオレは、君が幼馴染と抱き合っているのを見た。あれは何だったのだ」
「抱き合っていた……?」
「そうだ。お茶会の日だ」
(お茶会……)
「オレは君をここから出す気はない」
彼はバタンと扉を閉め、鍵を掛けた。
一人残されたリアは呆然とその場に立ち尽くした。
◇◇◇◇◇
昼、食事が運ばれてきて、一人で摂った。夜も同様だ。
二食続けて、ジークハルトと共に食事をしなかったのは、ここに来てからはじめてである。
夜になっても彼は部屋に戻ってこなかった。
リアがジークハルトと顔を合わせたのは、その翌日の夜だった。
一緒に食事を摂ることになり、リアは気が急いて彼に尋ねた。
「ジークハルト様……ヴェルナーは、今どこに?」
ヴェルナーは衛兵に連れていかれた。あれからどうなったのか気になって仕方なかった。
リアはずっと部屋から出してもらえていない。
ジークハルトに色々誤解されているようだが、何よりヴェルナーの安否が心配だ。
昨日の様子は尋常ではなかった。
いいようのないざらりとした不安が胸を波立たせる。
「あの男なら、牢だ」
「──牢!?」
リアは虚を衝かれて、椅子から立ち上がった。
「どうして彼が牢に入れられているんですか……」
「皇太子の婚約者を誑しこもうとしていたのだから、当然だろう」
リアは眩暈がした。
「誑しこまれてなどいませんわ」
「君のほうから彼を誘ったのか」
「そうではありません」
リアは呆れ、ジークハルトを睨む。
まず彼の思い違いをなんとかしなければ……。
「誤解ですわ。イザークとのこともです。お茶会の日はドレスにジュースが零れ、メラニー様にドレスを着替えるようにと、リボンを解かれたのです」
リアはそのときの状況を詳細に説明した。
「彼は君に愛を囁いて、キスをしているようだったが?」
リアは唖然とする。
「好きだと言ってくれ、私も好きだと答えただけです。キスなんてしていません」
彼はぴくりと眉を動かす。
「好きだと言われて、好きだと答えた……?」
彼も立ち上がる。
テーブルを回り込み、リアの前まで来た。
「君はやはり彼が好きだったのか」
「好きです。もちろん恋愛感情ではありませんわ、彼も私も」
「……君のは本当に、恋愛感情ではないのか」
ジークハルトはリアの手を掴み、顔を覗き込む。
「この間、申し上げた通り、私は……」
セルリアンブルーの彼の瞳を見つめれば、リアは眼差しが揺れた。
「私は……」
「…………」
彼はリアから手を離した。
「今、牢に入れている男とも恋愛関係ではないというのは、本当か?」
(ヴェルナーと恋愛関係になるなんて、前世でも今生でもあり得ないわ)
そんな関係ではない。
「本当ですわ」
「では、なぜわざわざ窓から部屋を抜け出して、あの男に会いに行ったのだ」
「彼から重要な話を聞くためにです」
「重要な話とは?」
ヴェルナーの話を、ジークハルトにもするべきではないか。
正直、ヴェルナーの話は信じられないものだった。だが、彼が嘘をついているわけではないと思う。
「私も途中までしか聞かなかったので、説明できないのです。彼はジークハルト様について、語っていました。彼は能力の高い魔術探偵。他の人にはみえない術者のオーラがみえます。ジークハルト様も彼から聞いたほうが、よくわかるかと。ヴェルナーを牢からすぐに出してください。彼に会わせてください。私と彼の間に、色恋なんて一切ありません。大切な友人なんです」
いつ壊れるかわからない恋愛の結びつきではない。もっと大事で、前世の大切な仲間だ。
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