68 / 100
第一部
朝まで二人きり4
しおりを挟む
恥ずかしがっていると、彼を責めているのと同様な気がして、リアは自らの気持ちをなんとか整理した。
「ジークハルト様はうなされていました。悪い夢を見られていたのですか?」
彼は長い睫をおろす。
「ああ。悪夢だった」
彼はそう言って押し黙る。
どういった夢なのだろう。
リアが気になっていると、彼は手を伸ばし、リアの手をとった。指が指に絡まる。
彼の眼差しが煌めくように光る。
「好きだ」
リアはとくんと心臓が跳ねた。
「オレは、君が好きだ。愛してる」
頬と、握られた手が熱を帯びる。
「君のほうはオレを何とも思っていない。君の意思を無視してキスをし、悪かった」
「私……」
リアは混乱する。
自分自身の気持ちがよくわからない。
「……オレが君を幸せにしたい。だが、オレでは君を幸せにできないのかもしれない。それで、候補者を立てた」
「候補者……?」
彼は自嘲的に笑む。
「ああ。この国の有力貴族で、人格に優れ、君と年齢の合う者達を数名選りすぐった。その中から、君が最もよいと思う男を選べばいい」
リアは唖然とジークハルトに視線を返す。
「……ジークハルト様は、私に、他のひとと結婚することをすすめるのですか」
虚を衝かれて、声が掠れる。
「私をこの宮殿に連れてきたのは、候補者を立てたと伝えるためだったのですか」
彼から気持ちを告げられたのも、口づけられたのもはじめてだ。
それでなくても感情が入り乱れているというのに、さらに荒れくるった。
「私、ジークハルト様が何を考えてらっしゃるのか、わかりませんわ」
彼はぎゅっとリアの手を強く握る。
「すすめるわけではない! オレが、このオレが君を幸せにしたい。だが……君がどうしてもオレでは嫌だというなら……おかしな輩と結婚されるより、君を幸せにできると思う者と結ばれてほしいんだ……」
もし本当に想ってくれているのなら、候補者を立て、他のひとに任せようなどと思えるだろうか。
リアは締め付けられるように胸が痛んで、悲しみが全身に広がっていった。
「ジークハルト様は、私を愛しているとおっしゃってくださいましたが、愛しているのなら、候補者など立てたりできません……。他の相手と結ばれても良いと思っているということでしょう」
「良いなどと思っていない! リアはオレが、君とイザークとのことで、平常心でいられたと思うのか!? 他の男と結ばれることを考えれば、気がおかしくなりそうだ!」
彼は血を吐くようにして叫ぶ。
「だがオレは君を壊してしまいたくはない」
(壊す……? ……どういうこと……?)
彼は俯いて、告白した。
「──オレは君を愛しているが、憎んでもいる」
(憎む……)
「……君はイザークを愛しているのか?」
なぜここでイザークの名が出てくるのかわからなかったが、リアは自分の気持ちを正直に言葉にする。
「幼馴染として友人として好きで、恋愛感情はありません。私は……」
リアはジークハルトを見つめた。
ジークハルトのことを自分はどう思っているのだろう。
パウルが初恋で。
だからパウルと似ているジークハルトのことが、ずっと気にかかっていた。
けれどジークハルト自身を愛しているのかと問われれば、答えが出ない。
この感情は、他のひとに対して抱くものとは、違うのは確かだった。
リアはジークハルトに恋をしているのか、彼を通してパウルをみているのか、ずっとわからなかったのだ。
自分の気持ちが掴めない。
「……私は候補者とか、他のひとを選びません」
「君はオレのことをどう思っている?」
「……ジークハルト様は、昔亡くなった初恋相手と似ています。この感情が……あなたへの気持ちなのか……」
(わからない)
リアは自分が涙を零していることに気づいていなかった。
ジークハルトの指で優しく頬の涙を拭われる。
「オレはその男に嫉妬する。その男が生きていれば、殺したかもしれない」
「ジークハルト様はうなされていました。悪い夢を見られていたのですか?」
彼は長い睫をおろす。
「ああ。悪夢だった」
彼はそう言って押し黙る。
どういった夢なのだろう。
リアが気になっていると、彼は手を伸ばし、リアの手をとった。指が指に絡まる。
彼の眼差しが煌めくように光る。
「好きだ」
リアはとくんと心臓が跳ねた。
「オレは、君が好きだ。愛してる」
頬と、握られた手が熱を帯びる。
「君のほうはオレを何とも思っていない。君の意思を無視してキスをし、悪かった」
「私……」
リアは混乱する。
自分自身の気持ちがよくわからない。
「……オレが君を幸せにしたい。だが、オレでは君を幸せにできないのかもしれない。それで、候補者を立てた」
「候補者……?」
彼は自嘲的に笑む。
「ああ。この国の有力貴族で、人格に優れ、君と年齢の合う者達を数名選りすぐった。その中から、君が最もよいと思う男を選べばいい」
リアは唖然とジークハルトに視線を返す。
「……ジークハルト様は、私に、他のひとと結婚することをすすめるのですか」
虚を衝かれて、声が掠れる。
「私をこの宮殿に連れてきたのは、候補者を立てたと伝えるためだったのですか」
彼から気持ちを告げられたのも、口づけられたのもはじめてだ。
それでなくても感情が入り乱れているというのに、さらに荒れくるった。
「私、ジークハルト様が何を考えてらっしゃるのか、わかりませんわ」
彼はぎゅっとリアの手を強く握る。
「すすめるわけではない! オレが、このオレが君を幸せにしたい。だが……君がどうしてもオレでは嫌だというなら……おかしな輩と結婚されるより、君を幸せにできると思う者と結ばれてほしいんだ……」
もし本当に想ってくれているのなら、候補者を立て、他のひとに任せようなどと思えるだろうか。
リアは締め付けられるように胸が痛んで、悲しみが全身に広がっていった。
「ジークハルト様は、私を愛しているとおっしゃってくださいましたが、愛しているのなら、候補者など立てたりできません……。他の相手と結ばれても良いと思っているということでしょう」
「良いなどと思っていない! リアはオレが、君とイザークとのことで、平常心でいられたと思うのか!? 他の男と結ばれることを考えれば、気がおかしくなりそうだ!」
彼は血を吐くようにして叫ぶ。
「だがオレは君を壊してしまいたくはない」
(壊す……? ……どういうこと……?)
彼は俯いて、告白した。
「──オレは君を愛しているが、憎んでもいる」
(憎む……)
「……君はイザークを愛しているのか?」
なぜここでイザークの名が出てくるのかわからなかったが、リアは自分の気持ちを正直に言葉にする。
「幼馴染として友人として好きで、恋愛感情はありません。私は……」
リアはジークハルトを見つめた。
ジークハルトのことを自分はどう思っているのだろう。
パウルが初恋で。
だからパウルと似ているジークハルトのことが、ずっと気にかかっていた。
けれどジークハルト自身を愛しているのかと問われれば、答えが出ない。
この感情は、他のひとに対して抱くものとは、違うのは確かだった。
リアはジークハルトに恋をしているのか、彼を通してパウルをみているのか、ずっとわからなかったのだ。
自分の気持ちが掴めない。
「……私は候補者とか、他のひとを選びません」
「君はオレのことをどう思っている?」
「……ジークハルト様は、昔亡くなった初恋相手と似ています。この感情が……あなたへの気持ちなのか……」
(わからない)
リアは自分が涙を零していることに気づいていなかった。
ジークハルトの指で優しく頬の涙を拭われる。
「オレはその男に嫉妬する。その男が生きていれば、殺したかもしれない」
41
お気に入りに追加
1,463
あなたにおすすめの小説
幸薄な姫ですが、爽やか系クズな拷問騎士が離してくれません
六花さくら
恋愛
――異世界転生したら、婚約者に殺される運命でした。
元OLの主人公は男に裏切られ、死亡したが、乙女ゲームの世界に転生する。けれど主人公エリザベスは婚約者であるリチャードに拷問され殺されてしまう悪役令嬢だった。
爽やか系クズな騎士リチャードから、主人公は逃げることができるのだろうか――
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる