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第一部

朝まで二人きり4

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 恥ずかしがっていると、彼を責めているのと同様な気がして、リアは自らの気持ちをなんとか整理した。

「ジークハルト様はうなされていました。悪い夢を見られていたのですか?」
 
 彼は長い睫をおろす。

「ああ。悪夢だった」

 彼はそう言って押し黙る。
 どういった夢なのだろう。
 リアが気になっていると、彼は手を伸ばし、リアの手をとった。指が指に絡まる。
 彼の眼差しが煌めくように光る。

「好きだ」

 リアはとくんと心臓が跳ねた。

「オレは、君が好きだ。愛してる」
 
 頬と、握られた手が熱を帯びる。

「君のほうはオレを何とも思っていない。君の意思を無視してキスをし、悪かった」
「私……」
 
 リアは混乱する。
 自分自身の気持ちがよくわからない。

「……オレが君を幸せにしたい。だが、オレでは君を幸せにできないのかもしれない。それで、候補者を立てた」
「候補者……?」
 
 彼は自嘲的に笑む。

「ああ。この国の有力貴族で、人格に優れ、君と年齢の合う者達を数名選りすぐった。その中から、君が最もよいと思う男を選べばいい」
 
 リアは唖然とジークハルトに視線を返す。

「……ジークハルト様は、私に、他のひとと結婚することをすすめるのですか」

 虚を衝かれて、声が掠れる。

「私をこの宮殿に連れてきたのは、候補者を立てたと伝えるためだったのですか」

 彼から気持ちを告げられたのも、口づけられたのもはじめてだ。
 それでなくても感情が入り乱れているというのに、さらに荒れくるった。

「私、ジークハルト様が何を考えてらっしゃるのか、わかりませんわ」

 彼はぎゅっとリアの手を強く握る。

「すすめるわけではない! オレが、このオレが君を幸せにしたい。だが……君がどうしてもオレでは嫌だというなら……おかしな輩と結婚されるより、君を幸せにできると思う者と結ばれてほしいんだ……」

 もし本当に想ってくれているのなら、候補者を立て、他のひとに任せようなどと思えるだろうか。
 
 リアは締め付けられるように胸が痛んで、悲しみが全身に広がっていった。

「ジークハルト様は、私を愛しているとおっしゃってくださいましたが、愛しているのなら、候補者など立てたりできません……。他の相手と結ばれても良いと思っているということでしょう」
「良いなどと思っていない! リアはオレが、君とイザークとのことで、平常心でいられたと思うのか!? 他の男と結ばれることを考えれば、気がおかしくなりそうだ!」

 彼は血を吐くようにして叫ぶ。

「だがオレは君を壊してしまいたくはない」

(壊す……? ……どういうこと……?)

 彼は俯いて、告白した。

「──オレは君を愛しているが、憎んでもいる」

(憎む……)

「……君はイザークを愛しているのか?」

 なぜここでイザークの名が出てくるのかわからなかったが、リアは自分の気持ちを正直に言葉にする。

「幼馴染として友人として好きで、恋愛感情はありません。私は……」

 リアはジークハルトを見つめた。
 
 ジークハルトのことを自分はどう思っているのだろう。
 パウルが初恋で。
 だからパウルと似ているジークハルトのことが、ずっと気にかかっていた。
 
 けれどジークハルト自身を愛しているのかと問われれば、答えが出ない。
 この感情は、他のひとに対して抱くものとは、違うのは確かだった。
 リアはジークハルトに恋をしているのか、彼を通してパウルをみているのか、ずっとわからなかったのだ。 

 自分の気持ちが掴めない。

「……私は候補者とか、他のひとを選びません」
「君はオレのことをどう思っている?」
「……ジークハルト様は、昔亡くなった初恋相手と似ています。この感情が……あなたへの気持ちなのか……」

(わからない)

 リアは自分が涙を零していることに気づいていなかった。
 ジークハルトの指で優しく頬の涙を拭われる。

「オレはその男に嫉妬する。その男が生きていれば、殺したかもしれない」
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