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第一部

お茶会1

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「最近、リア、様子がおかしくないか?」

 イザークの言葉に、リアはかぶりを振って否定した。

「そんなことないわ」
「だけどさ」
「将来について色々考えているだけなの」

 十六歳となったリアは、イザークの部屋のバルコニーで彼といた。
 今日はメラニーに呼ばれ、屋敷を訪問した。
 三人で一緒に話をしていたのだが、メラニーが腹痛で自室に戻ってしまい、イザークと二人だけとなったのだ。
 
 最近こういうことが続いている。
 リアがイザークといるのを、メラニーは以前嫌がっているようだったが、近頃は逆で、なんだか嬉しそうにみえる。
 
 メラニーに呼ばれてリアが侯爵家を訪れることが多くなったため、彼と会う回数も必然的に増えている。
 
 リアは幼馴染と過ごせて落ち着くが、イザークのほうは、疲れるのではないだろうか。
 大抵リアが話すばかりで、彼はいつも聞き役である。

「時間を取らせて、ごめんね」
「俺はいいけど。今日君は妹に呼ばれてきたのに、すまない」
「腹痛なら仕方ないわ」

 リアはイザークといれば自然体でいられる。が、前世のことなど言えないこともあった。

「殿下のことで悩んでいるんじゃないのか?」
 
 屋上庭園で過ごした日から、ジークハルトとは会っていない。
 来月初めには、お茶会がある。たぶんそのとき顔を合わせると思う。

「マリッジブルー?」
「ううん」

(……ジークハルト様と結婚することにはならないもの)

「メラニーと殿下のことを気にしているんだったら、前話した通り……」
「いいえ、違うの」 
 
 そのことは、仕方ないと割り切っている。考えること自体、やめていた。
 メラニーとも本当は余り関わりたくない。

(イザークの妹だし、そういうわけにもいかないんだけど)

 メラニーを非道にいじめていたという噂を前世、立てられたりしたのだ。
 そんなこと前世していないし、今もしていない。誰のこともいじめたことなどない。
 なぜそんな噂が立ったのかわからなかった。

「なら、ひょっとして俺たちの噂を気に病んでいるのか?」
 
 前世と同じように、リアはイザークと噂がある。
 噂はただの噂で、友人だ。

「私達に何もないし。堂々としていればいいと思う」

 イザークは溜息をつく。

「そうだな。誰がおかしな噂を立てたんだか」

 リアはテーブルの上で両手の指先を重ねた。

「イザーク、私──」

 この国を出る。今のうちに、彼に別れの挨拶をしておいたほうがよいかもしれない。

 しかしそうなれば、前世のことも話さなければならなくなる。

「え?」

 イザークは瞬く。

「ううん……何でもないわ」

 やはり話せない。心配させてしまうだけだ。日常的な話をしたあと、リアは屋敷に戻った。



◇◇◇◇◇



 お茶会の日はよく晴れていた。

 皇宮の庭園に、貴族の子女が集まっている。

(前世では、どのように過ごしたかしら……)

 リアは記憶を辿ってみるが、よく思い出せない。
 ジークハルトと過ごしたという記憶はなかった。

(彼も出席するはずなんだけれど)

 婚約者として会話を交わすくらいしたはずだ。

「リア様、少しよろしいでしょうか?」
 
 見事に手入れされた庭園を眺めていると、すぐに、メラニーに声をかけられた。

「……はい」
 
 無視するわけにもいかず返事をする。
 リアが皇太子に近づく女性──特にメラニーをいびっているという噂は、前世と同様立てられていた。

「この間、腹痛で余り話せなかったので。わたし、リア様にお話をきいてもらいたくて」
 
 まだお茶会が始まる前だったので、リアは頷いた。
 
 
 彼女は離宮の一室の小部屋にリアを連れて入る。

「お話というのは、ジークハルト様のことです」
 
 何だろう。
 侯爵家を訪問した際や、お茶会などで彼女と会話はするが、それほど親しくしているわけではない。
 だが近頃彼女は積極的に距離を縮めてきて、リアは少々困惑を覚えている。

「あ、その前に。飲み物を持ってまいります」
「お構いなく」
「わたしが喉が渇いてしまったんです、少しお待ちいただけます?」 
 
 そう言って、メラニーは足早に部屋から出、すぐにグラスを二つ持ってやってきた。
 一つをリアに差し出す。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 グラスを受け取ろうとすると、メラニーは手を滑らせて、それを落とした。
 リアのドレスにジュースがかかる。

「きゃっ、申し訳ありません、リア様!」
「いえ、大丈夫ですわ」

 しかし、かなり広範囲に葡萄ジュースがかかってしまった。
 これはもうお茶会には出席できそうにない。
 
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