上 下
32 / 100
第一部

進む道

しおりを挟む
 ここまで大きくした賭博場を人に任せ、今までの暮らしを捨て、よく旅に出てくれたなと思う。

(今も旅の勧誘をしてしまっているのだけれど……)
 
 リアが命をおとしたあと、彼はどうしたのだろうか。
 旅を続けたのか、帝都に戻ったのか。
 
 万一、人買いに捕まった場合、それを助けてはもらいたいのだが、一緒に旅をと余り無理強いはできない。リアは一人で国を出る覚悟もしている。

「賭博場の経営もいいが、各国を旅するのもいい。金はかなり稼いだしな」

 ヴェルナーは頭の後ろで指を組む。

「けどリア、その予知夢では、国外に出るしかなかったのかもしれねーが、違う道も選べるんじゃねーのか。後悔しないようにしろよ」
「違う道?」
「ああ。自分の人生、よく考えて決めな」
「……」

 リアは記憶を取り戻してから、ヴェルナーと事前に会ったり、彼と協力したりその辺りは違うが、それ以外では、前の人生と同じように生きている。
 葛藤がないわけではない。
 
 一番悩むのは、ジークハルトとのことである。
 リアはジークハルトといられる時間を大切に思い、できるだけ長くその時間が続くようにと願っている。

(けれど、ジークハルト様とのことは、私の気持ちだけで、どうこうなるものではない)

 彼は前世、違う女性を選んだ。その痛みと傷が転生した今も、リアの心に深く刻まれていた。
 唇から息が零れおちる。

「私は旅に出ると決めたの。それが私の運命よ」

 ヴェルナーはゆるく髪をかきあげる。

「まあ、それでいいならいいけどな。……君がずっと前から言ってる予知夢だが、契約した魔物に殺されるっていうのは、どんな魔物だったのか、まだわからねえ?」

 それもリアの抱える悩みだ。

「わからないの……」
「どんな魔物かわからないと、何もしようがねえ」

 リアは何度も思い出そうと頑張ったが、判然としないのだ。
 それどころか曖昧な前世の記憶は、さらに薄らいでいっている気がする。

(思い出してすぐ、メモを取っておくんだったわ)

 だが、そのときジークハルトと一緒で、リアは激しく動揺していた。
 家に帰ってからも、記すことすら辛く、躊躇われたのだ。

「契約を交わし、魔物との関係はとても良好だったと思うんだけれど……」
「その魔物の存在を、まずはっきりさせねぇとな」

 ヴェルナーには当初、その相談で会いに来たのだが、リアが覚えていないので、何もわからないままなのである。
 将来に備えたかったが、今のところ魔物に殺されないよう、回避する術は見つかっていない。
 けれどヴェルナーと力を合わせ、旅に出る前に打ち解けられたことはよかった。

「魔物と契約しなければいいんじゃねぇ?」

 リアは首を左右に振る。

「私はあの魔物に会いたいの。殺されるのは御免被りたいけど」
「予知夢でみた魔物に、よほど愛着があるんだな」
「ええ」 

 きっと旅に出れば会える。
 契約直後、殺されたのではないから、会ったあとに対処する猶予はある。
 
 ふっと視線を向ければ、窓の外の太陽は、大分西に傾いていた。

「私そろそろ帰るわ」
「外まで送ろう」

 隠し扉を開け、秘密通路を通って、屋外に出る。賭博場への出入りを人に見られれば、いらぬ憶測を呼ぶので、気を付けろとヴェルナーに注意されているのだ。
 だからここに来るときは平民に扮し、かつ、秘密通路を使っている。

「それじゃ、ヴェルナー、またね」
「ああ」

 見つからないうちに早く行けとばかりに、ヴェルナーは手を振る。
 屋敷まで送られれば余計に目立つので、いつもここで別れる。少し歩けば、すぐ大通りに出る。
 リアも手を振り、大通りに向かって歩き出した。
 
 今日もメイドのイルマに留守を頼んでいた。
 街に出る時は、彼女に協力してもらい、そっと抜け出していた。
 イルマには頭が上がらない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

[連載]少女漫画の悪役王女に転生しましたが、私は運命から足掻いてみせます!

小豆このか@大人の女性向け連載
恋愛
 馬車で政略結婚をしに神聖カリーテナ帝国に向かう途中、私、ことシルバー・ミルシルドは前世の記憶を思い出した。自分は大国の王女で、少女漫画の悪役王女であり、主人公や皇子達を騙したせいで、嫁ぎ先でできた、愛人と共に身を滅ぼしてしまう事を…。何ということ..!そんな没落人生を過ごしたくない!だけど事情があって、元の国には戻れない...。 それなら私、悪役王女を辞めて、この世界を救って、生き抜くわ!

虹色小判

しまたろす
ファンタジー
あらゆる分野の、突発した才能を持つものたちを集め 成長と切磋琢磨を目的とし 最高の環境で最高の人材を作るべく国が作りあげた学校。 国立未来育成学校。 しかしその中には 表舞台に立たない・立てない・立たされないが 国としては最重要人物や超危険人物のため 監視を受けるべく入学を余儀なくされた人材がいるとか。いないとか。 そんな高校に運だけで入学した 黒蜂澪音(くろばち れいん)が 国に巻き込まれ 異世界にも巻き込まれる話! 当分異世界行けないかも。。。 設定が死に絶えていても 蘇生しません(できません) 本人も作品も異世界の行き方模索中です。 趣味を求め、やって参りました。 人生お初小説です。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

アダムとイヴ

桃井すもも
恋愛
私には、婚約者がおります。 その名をアダム様と仰います。 私の名がイヴですから、アダムとイヴで「創世記」の例のお騒がせカップルと同じ名ですね。 けれども、彼等と私達は違います。 だって、アダム様には心を寄せる女性(ひと)がいらっしゃるのですから。 「偶然なんてそんなもの」のお二人も登場します。 からの 「ままならないのが恋心」へ連なります。 ❇例の如く、100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

処理中です...