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第二章
番外編 ソニアの願い(前編)
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ソニアは王族であったことが判明し、今王宮で春休みを過ごしている。
(クリスティン様……今日もすごく麗しいわっ)
ソニアの部屋に、クリスティンが訪れてくれていた。
週一で彼女とお茶を共にしてもらっている。
テラスのテーブルで、前に座るクリスティンに見惚れながら、ソニアは言った。
「わたし……もう少ししたら聖地に向かうことになります。クリスティン様とお会いできなくなると思えば寂しいです……」
クリスティンが来てくれる日は、いつも嬉しくて仕方ないのだが、今ソニアは沈んでいる。
聖女となったことは良かったと思っている。彼女と親しくなれた。
だが、近々聖女の使命で聖地に赴く。
大好きなクリスティンと会えなくなってしまうのは悲しい。
「ソニア様、わたくしも寂しいですわ」
「クリスティン様……っ」
涙ぐむソニアを、クリスティンは心配そうに見つめた。
「ソニア様……出発前に何か願いがあれば、おっしゃって。わたくしにできることでしたら、何でも叶えます」
「え……っ!」
その言葉にソニアは胸を躍らせた。
「でもそんな……こうしてお茶も、ご一緒していただいているのに」
クリスティンに、それもお願いしたのだ。
また甘えてしまってよいのだろうか?
クリスティンは華やかな笑顔を浮かべる。
「ソニア様には色々お力になっていただきましたもの。ソニア様に元気になっていただきたいですわ」
「本当にいいんですか、クリスティン様?」
「ええ。遠慮せずにおっしゃって」
「では……っ!」
ソニアはどきどきしながら、願いを口にした。
「本のワンシーンを、一緒に演じてもらえませんか!?」
「本のワンシーン?」
「はい! 恋愛小説なんです!」
クリスティンはぱちぱちと睫を揺らす。
「それがソニア様の願いなら。でもわたくし、うまくできるかどうか……」
「本格的なものでなくていいんです。よろしいですか?」
「ええ」
ソニアは歓喜した。
「では、ちょっ、ちょっとお待ちください!!」
ソニアは興奮して立ち上がり、部屋から本をとってきて、テラスに戻った。
今流行りの恋愛小説で、ソニアは先日読んで、はまったのである。
「とても素敵な場面があるんです、ここなんですがっ!」
クリスティンは本を受け取り、視線をおとした。
「ここからここまでのシーンを、ぜひクリスティン様と二人でしたくて! クリスティン様にヒーロー役を演じていただきたいんです。わたしはその相手役をっ!」
じっと本を読み込むその姿も、綺麗だ。
ワインレッドの瞳は艶めき、白い頬に、絹のような髪が纏わりついている。
男性のようなぎらつく欲や強引さがなく、清廉だ。
ソニアは感嘆の吐息をつく。
(クリスティン様はいつみても、どこをみても、とてもお綺麗……!)
「ソニア様……ここからここまで、ですの?」
「そうです!」
ロマンチックな恋愛シーンだ。
クリスティンは少々青ざめながら、視線をソニアに向けた。
「申し訳ないのですが……この頁まででも構いませんかしら?」
クリスティンは繊細な長い指を、ソニアが示した頁の前に当てる。
「はい。ではそこまでで」
できればもっと先までしたい!
でも折角、受けてもらえそうなのに断られたら困るのでソニアは顎を引く。
そこまででも、たっぷりと甘いシーンである。
どきどきと昂りながら、ソニアはクリスティンを見つめた。
「名前は、わたし達の名前で言い換えていただけますか……?」
「え? わ、わかりましたわ」
「ありがとうございます……っ!」
クリスティンは柔らかく笑む。
来週、再現を行うことになり、ソニアは期待に胸を弾ませた。
──一週間後。
「ごきげんよう」
王宮の一角にあるソニアの部屋に、いつものようにクリスティンがやってきてくれた。
ソニアは今日、一番気に入っているドレスを身に纏っていた。
美しいリボンとレースで飾られたシフォンドレスだ。
長身のクリスティンは男装していた。
クラヴァットを結び、純白のウェストコートと、脚衣を着て、本のヒーローに合わせてくれている!
ソニアは言葉を失った。
ダークブロンドの髪は一つに結び、美しく翳りがあって、厭世的で。
神がかり的な美少年だ。
(素敵っ! 素敵、素敵、素敵、素敵~~!!)
天は、クリスティンの性別を誤って生み出されてしまったのではないだろうか。
お茶菓子を部屋に運んできた侍女は、クリスティンを見て、呆然自失状態となった。
「…………っ!」
熱い眼差しでぼーっとクリスティンを見つめ、お茶をテーブルに零してしまったくらいだ。
うっとりしながら侍女は退室した。
「では、そろそろはじめましょうか? ソニア様」
「はいっ!」
ソニアはクリスティンとお茶を飲んだ後、恋愛小説のワンシーンを再現することになった。
待ちに待った時間だ!
ばくばくと心臓の鼓動が早まる。
部屋の奥で、クリスティンはソニアの頬を指で撫でる。
「──君が、とても好きなんだ。どうしようもないほどに」
低く艶やかな声でクリスティンは台詞を言う。
壁に手をつき、ソニアの顎を摘まんだ。
(クリスティン様……今日もすごく麗しいわっ)
ソニアの部屋に、クリスティンが訪れてくれていた。
週一で彼女とお茶を共にしてもらっている。
テラスのテーブルで、前に座るクリスティンに見惚れながら、ソニアは言った。
「わたし……もう少ししたら聖地に向かうことになります。クリスティン様とお会いできなくなると思えば寂しいです……」
クリスティンが来てくれる日は、いつも嬉しくて仕方ないのだが、今ソニアは沈んでいる。
聖女となったことは良かったと思っている。彼女と親しくなれた。
だが、近々聖女の使命で聖地に赴く。
大好きなクリスティンと会えなくなってしまうのは悲しい。
「ソニア様、わたくしも寂しいですわ」
「クリスティン様……っ」
涙ぐむソニアを、クリスティンは心配そうに見つめた。
「ソニア様……出発前に何か願いがあれば、おっしゃって。わたくしにできることでしたら、何でも叶えます」
「え……っ!」
その言葉にソニアは胸を躍らせた。
「でもそんな……こうしてお茶も、ご一緒していただいているのに」
クリスティンに、それもお願いしたのだ。
また甘えてしまってよいのだろうか?
クリスティンは華やかな笑顔を浮かべる。
「ソニア様には色々お力になっていただきましたもの。ソニア様に元気になっていただきたいですわ」
「本当にいいんですか、クリスティン様?」
「ええ。遠慮せずにおっしゃって」
「では……っ!」
ソニアはどきどきしながら、願いを口にした。
「本のワンシーンを、一緒に演じてもらえませんか!?」
「本のワンシーン?」
「はい! 恋愛小説なんです!」
クリスティンはぱちぱちと睫を揺らす。
「それがソニア様の願いなら。でもわたくし、うまくできるかどうか……」
「本格的なものでなくていいんです。よろしいですか?」
「ええ」
ソニアは歓喜した。
「では、ちょっ、ちょっとお待ちください!!」
ソニアは興奮して立ち上がり、部屋から本をとってきて、テラスに戻った。
今流行りの恋愛小説で、ソニアは先日読んで、はまったのである。
「とても素敵な場面があるんです、ここなんですがっ!」
クリスティンは本を受け取り、視線をおとした。
「ここからここまでのシーンを、ぜひクリスティン様と二人でしたくて! クリスティン様にヒーロー役を演じていただきたいんです。わたしはその相手役をっ!」
じっと本を読み込むその姿も、綺麗だ。
ワインレッドの瞳は艶めき、白い頬に、絹のような髪が纏わりついている。
男性のようなぎらつく欲や強引さがなく、清廉だ。
ソニアは感嘆の吐息をつく。
(クリスティン様はいつみても、どこをみても、とてもお綺麗……!)
「ソニア様……ここからここまで、ですの?」
「そうです!」
ロマンチックな恋愛シーンだ。
クリスティンは少々青ざめながら、視線をソニアに向けた。
「申し訳ないのですが……この頁まででも構いませんかしら?」
クリスティンは繊細な長い指を、ソニアが示した頁の前に当てる。
「はい。ではそこまでで」
できればもっと先までしたい!
でも折角、受けてもらえそうなのに断られたら困るのでソニアは顎を引く。
そこまででも、たっぷりと甘いシーンである。
どきどきと昂りながら、ソニアはクリスティンを見つめた。
「名前は、わたし達の名前で言い換えていただけますか……?」
「え? わ、わかりましたわ」
「ありがとうございます……っ!」
クリスティンは柔らかく笑む。
来週、再現を行うことになり、ソニアは期待に胸を弾ませた。
──一週間後。
「ごきげんよう」
王宮の一角にあるソニアの部屋に、いつものようにクリスティンがやってきてくれた。
ソニアは今日、一番気に入っているドレスを身に纏っていた。
美しいリボンとレースで飾られたシフォンドレスだ。
長身のクリスティンは男装していた。
クラヴァットを結び、純白のウェストコートと、脚衣を着て、本のヒーローに合わせてくれている!
ソニアは言葉を失った。
ダークブロンドの髪は一つに結び、美しく翳りがあって、厭世的で。
神がかり的な美少年だ。
(素敵っ! 素敵、素敵、素敵、素敵~~!!)
天は、クリスティンの性別を誤って生み出されてしまったのではないだろうか。
お茶菓子を部屋に運んできた侍女は、クリスティンを見て、呆然自失状態となった。
「…………っ!」
熱い眼差しでぼーっとクリスティンを見つめ、お茶をテーブルに零してしまったくらいだ。
うっとりしながら侍女は退室した。
「では、そろそろはじめましょうか? ソニア様」
「はいっ!」
ソニアはクリスティンとお茶を飲んだ後、恋愛小説のワンシーンを再現することになった。
待ちに待った時間だ!
ばくばくと心臓の鼓動が早まる。
部屋の奥で、クリスティンはソニアの頬を指で撫でる。
「──君が、とても好きなんだ。どうしようもないほどに」
低く艶やかな声でクリスティンは台詞を言う。
壁に手をつき、ソニアの顎を摘まんだ。
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