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第二章

番外編 スウィジンの妹1

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 スウィジンは、クリスティンを糾弾してきた輩の処遇について、アドレー、ラムゼイ、リーと夜会を抜け、話し合っている。

「クリスティンを侮辱した愚かしい者たちは、一生牢から出さなくていい」
 
 アドレーと、スウィジンも同意見だ。

「ええ。妹を貶めた者達を出す必要などありません」
 
 怒りで、煮えたぎっていた。
 大切な妹を貶めた輩。

(地獄におちればいい)

「おれが、あいつら切り付けてやりますよ!」

 リーは鼻息も荒く言う。
 ラムゼイがやれやれと嘆息した。

「まあ、おまえ達、落ち着かないか。さっきの奴らは愚劣だが、牢にずっと入れておくわけにも、切り刻むわけにもいかないだろうが」

 妹はアドレーと一曲踊ったあと、会場をすぐ後にした。
 根も葉もない言いがかりをつけられたのだから、気分が悪くなったに違いない。
 メルの姿も見えないし、彼に送られ屋敷に戻ったのだろう。
 リーが庭園に出て行くルーカスを見かけており、会場内に姿がなかったため、今四人で王宮の一室に集まっている。

「二度とあの者達の顔を妹が見なくてすむようにしないといけません」

 スウィジンが考えを述べると、ラムゼイが自身の顎を掴む。

「退学の末、国外追放あたりが妥当なところじゃないか」

 するとアドレーがあり得ないとばかりに、首を横に振った。

「馬鹿な。ラムゼイ、国外追放だけで収めろというのか? 手ぬるいよ」

(僕も殿下同様、そう感じる)
 
 手ぬるい。
 アドレーは品行方正で優しく、ラムゼイは氷の貴公子で冷血と思われているが、実は、親友である彼らは似ていて、共に冷酷になれる。 
 世間には知られていないが、時と場合によれば、アドレーのほうがラムゼイより、非情な決断を下すこともあった。
 ラムゼイは常に冷静に判断するが、怒りを覚えた際、アドレーは容赦なかったりする。
 今回がまさにそれだ。

「彼らは私の婚約者であるクリスティンを、誹謗中傷したんだ」

 婚約は流れたはずである。
 しかしアドレーの中では未だ婚約中であるようだ。

(そういえば……今日、国王陛下に婚約を、有効にすることを考えると言われたとか……)

 国王もいらぬことを。
 スウィジンは本音の部分でそう思う。
 苛立ちが更に増す。

「彼らは殺すほどの価値はありませんが、国外追放に加え、家を取り潰す必要はあるのではないでしょうか」

 リーが拳を握りしめ、スウィジンの言葉を継いだ。

「おれが手っ取り早く、あいつらを切ってきますよ! 始末してきます!」

 炎の騎士と言われるリーは、血気盛んである。
 衛兵から剣を奪って、今すぐ凶行に及びそうだ。
 ラムゼイは煩わしげに髪をかきあげた。

「リー。スウィジンも言ったように、手を汚すほど価値のある輩ではないぞ」
「けどっ! あいつら、クリスティン嬢にひどい言いがかりをっ!」

 リーは怒りで身を震わせる。
 葬りたい気持ちは、よくわかる。
 遅れてスウィジンとメルはあの場に居合わせたが、愚かな言い分は耳にした。
 到底許せるものではなかった。

「とんでもない奴らですよ、スウィジン様も許せないでしょ!? 妹のクリスティン嬢をあんな風に罵られて!」

 スウィジンはクリスティンを大切に思っている。
 だがそれは妹だからではなかった。
 ひとりの異性として想っている。
 クリスティンを貶めた輩への憤りは大きい。

「もちろん許せないよ。でも殺してしまえば、もしクリスティンが後でそのことを知った場合、後味悪い思いをしてしまうかもしれない。妹は優しいもの」
 
 するとアドレーもリーもはっとしたようだった。

「確かに……スウィジンの言う通りだね」
「……でもそんな優しいクリスティン嬢を……っ!」

 また怒りが再沸騰してきたリーの肩にラムゼイが手をのせた。

「椅子に座れ。おまえは血の気が多すぎる」

 ラムゼイはリーを傍らの長椅子に座らせた。
 アドレーは冷酷に呟く。

「そうだ、リー、殺しは駄目だよ。五体満足で牢から出す必要はないけどね」

 スウィジンはアドレーの言葉に頷いた。

(僕の可愛い妹を、彼らは公衆の面前で侮辱した)
 
 相応の罰は受けてもらわねば。
 ラムゼイがどうしようもないといったように、息を吐き出す。

「アドレー、スウィジン、取り敢えずおまえらも座れ。クリスティンには何もなかったんだぞ? 怪我もしていないし、あの場にいた全員があれは言いがかりだとわかっている」

 アドレーは眉間に皺を立てる。

「当たり前だ。クリスティンに何かあれば私は、あの者達にこの世の空気を吸える状態で今置いていない」
「落ちつけ」

 ラムゼイは従僕に飲み物を用意させた。
 ラムゼイも怒ってはいるが、呆れのほうが大きいようだ。
 四人は喉を潤したあと、牢に向かった。
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