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第二章
21.再会する
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「何も」
クリスティンはなるべく竜のほうを見ないように気を付け、話を戻す。
「……本当に帝国に行かなくてもいいの?」
「ええ。私の居場所は、ここにありますから」
「でも……」
彼の本来いる場所は違うところなのではないか。
「よく考えて決めるといい」
オリヴァーが、そう言った。
皆、食事を終え、立ち上がる。クリスティンは二人に告げた。
「あの……先に戻っていてくださいませ。わたくし、薬草園を見にいきますので」
「薬草園?」
オリヴァーは片眉を上げる。
「学園に薬草園が?」
「はい。わたくし薬草を育てておりますの」
「公爵令嬢であるクリスティン様が?」
「発作を起こすことがありますので、その薬となる薬草を育てているのです」
オリヴァーは不可解といったような表情を浮かべた。
「そういえばリーから、剣合わせもしていると聞きました。公爵令嬢に必要なこととは思えないのですが」
いつなんどき、乙女ゲーの強制力により、破滅が訪れるかわからないのである。
その回避のため、薬を作ることや、剣術を学ぶことは、必要なのである。
「身体を動かせば、良い気分転換になりますから。では、失礼しますわ」
「クリスティン様、私もご一緒します」
「メルもオリヴァー様と先に戻っていて。学園内に危険などないし、わたくし一人でいいから」
クリスティンはそこで彼らと別れた。
薬草園へ向かうフリをし、少し歩いてから、振り返る。
二人の姿が見えなくなれば、先程ちびっこを目撃した灌木に足を向けた。
すると小さな竜がクリスティンの前にぱっと姿をみせる。
「クリスティン」
「ヴァン!」
クリスティンは竜の前に屈む。
「どこへ行ったのかと思っていたわ!」
ヴァンはきゅっとクリスティンにくっついた。
「メルがいけずだから……」
生まれた所に帰ったのかと考えていた。
「メルは、悪いひとではないんだけれど、色々心配するの」
「残念ながら性格も、顔立ちもあの男のほうに似た……」
ヴァンは忌々しそうに、何やら呟く。
「廃屋で捕まっていたとき、あなたがわたくしを呼んだの?」
「うん。ボクの力を強くしてくれる君を呼んだの。街にいるのがわかったから」
ヴァンは魔物なので、きっと声が届いたのだろう。
「あなたの力を強くする、って、どういうこと?」
「君が近くにきてくれて、ボク、扉を開けられた。力、いっぱい戻ったの。ボクたち、相性が良い。惹きつけ合っているの。互いの力を増幅できる」
よくわからないが、彼の力が戻ったなら幸いだった。
「その姿だと見つかったら大騒ぎになってしまうから、人間の姿になってもらってもいいかしら」
「他のひとに見えないように、姿を消せるよ」
「え、すごいのね!」
クリスティンは感心し、良い案が浮かんだ。
「じゃ、姿を消してもらえる? そうしたら、寮にあなたを置いておけるし、メルに怒られることもないから」
ヴァンは尾をくるんと回す。
「うんとね、姿を消しても、彼には見えてしまうかもしれない……」
「そうなの?」
ヴァンはこくりと頷く。
どうしてメルには見えてしまうのだろう。
「ボク、君と会えて力が戻ったから、ギールッツ帝国以外ならどこへでも行ける。ボクね……」
そのとき、前方から、引き返してきたメルがこちらにやってくるのにクリスティンは気付いた。
「あ。メルだわ……」
ヴァンは、この間のことを恨むようにメルを睨んだ。
「また来るね!」
そう言って、ヴァンは、ていっと慌てて飛んでいった。
メルは険しい顔で、クリスティンの前まで来た。
「あの魔物、まだいたのですね……。クリスティン様の様子がおかしいと引き返してきたのですが」
彼は空を睨み上げる。
「傍にあの魔物を置こうと考えているのであれば、絶対にいけませんから」
メルがここまで強く言うことは、滅多にない。
クリスティンは頷くよりなかった。
メルにぴりぴりと不穏な空気を出させてしまいたくない。
「わかったわ……」
ヴァンは危険ではないが、魔物なので、メルは心配しているのだ。
「教室に戻りましょう、クリスティン様。授業が始まってしまいます」
メルの表情が少し和らぐ。
「ええ」
ヴァンの姿はもう完全に見えなくなっていた。
またきっと会いにきてくれるだろう。
クリスティンは校舎に向かって歩き出した。
──────────
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて続編はひとまず終わりとさせていただきますが、番外編を更新予定にしています。
「闇の悪役令嬢は愛されすぎる」と、「闇黒の悪役令嬢は溺愛される」は関係性があるお話になっています。
どちらの物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
クリスティンはなるべく竜のほうを見ないように気を付け、話を戻す。
「……本当に帝国に行かなくてもいいの?」
「ええ。私の居場所は、ここにありますから」
「でも……」
彼の本来いる場所は違うところなのではないか。
「よく考えて決めるといい」
オリヴァーが、そう言った。
皆、食事を終え、立ち上がる。クリスティンは二人に告げた。
「あの……先に戻っていてくださいませ。わたくし、薬草園を見にいきますので」
「薬草園?」
オリヴァーは片眉を上げる。
「学園に薬草園が?」
「はい。わたくし薬草を育てておりますの」
「公爵令嬢であるクリスティン様が?」
「発作を起こすことがありますので、その薬となる薬草を育てているのです」
オリヴァーは不可解といったような表情を浮かべた。
「そういえばリーから、剣合わせもしていると聞きました。公爵令嬢に必要なこととは思えないのですが」
いつなんどき、乙女ゲーの強制力により、破滅が訪れるかわからないのである。
その回避のため、薬を作ることや、剣術を学ぶことは、必要なのである。
「身体を動かせば、良い気分転換になりますから。では、失礼しますわ」
「クリスティン様、私もご一緒します」
「メルもオリヴァー様と先に戻っていて。学園内に危険などないし、わたくし一人でいいから」
クリスティンはそこで彼らと別れた。
薬草園へ向かうフリをし、少し歩いてから、振り返る。
二人の姿が見えなくなれば、先程ちびっこを目撃した灌木に足を向けた。
すると小さな竜がクリスティンの前にぱっと姿をみせる。
「クリスティン」
「ヴァン!」
クリスティンは竜の前に屈む。
「どこへ行ったのかと思っていたわ!」
ヴァンはきゅっとクリスティンにくっついた。
「メルがいけずだから……」
生まれた所に帰ったのかと考えていた。
「メルは、悪いひとではないんだけれど、色々心配するの」
「残念ながら性格も、顔立ちもあの男のほうに似た……」
ヴァンは忌々しそうに、何やら呟く。
「廃屋で捕まっていたとき、あなたがわたくしを呼んだの?」
「うん。ボクの力を強くしてくれる君を呼んだの。街にいるのがわかったから」
ヴァンは魔物なので、きっと声が届いたのだろう。
「あなたの力を強くする、って、どういうこと?」
「君が近くにきてくれて、ボク、扉を開けられた。力、いっぱい戻ったの。ボクたち、相性が良い。惹きつけ合っているの。互いの力を増幅できる」
よくわからないが、彼の力が戻ったなら幸いだった。
「その姿だと見つかったら大騒ぎになってしまうから、人間の姿になってもらってもいいかしら」
「他のひとに見えないように、姿を消せるよ」
「え、すごいのね!」
クリスティンは感心し、良い案が浮かんだ。
「じゃ、姿を消してもらえる? そうしたら、寮にあなたを置いておけるし、メルに怒られることもないから」
ヴァンは尾をくるんと回す。
「うんとね、姿を消しても、彼には見えてしまうかもしれない……」
「そうなの?」
ヴァンはこくりと頷く。
どうしてメルには見えてしまうのだろう。
「ボク、君と会えて力が戻ったから、ギールッツ帝国以外ならどこへでも行ける。ボクね……」
そのとき、前方から、引き返してきたメルがこちらにやってくるのにクリスティンは気付いた。
「あ。メルだわ……」
ヴァンは、この間のことを恨むようにメルを睨んだ。
「また来るね!」
そう言って、ヴァンは、ていっと慌てて飛んでいった。
メルは険しい顔で、クリスティンの前まで来た。
「あの魔物、まだいたのですね……。クリスティン様の様子がおかしいと引き返してきたのですが」
彼は空を睨み上げる。
「傍にあの魔物を置こうと考えているのであれば、絶対にいけませんから」
メルがここまで強く言うことは、滅多にない。
クリスティンは頷くよりなかった。
メルにぴりぴりと不穏な空気を出させてしまいたくない。
「わかったわ……」
ヴァンは危険ではないが、魔物なので、メルは心配しているのだ。
「教室に戻りましょう、クリスティン様。授業が始まってしまいます」
メルの表情が少し和らぐ。
「ええ」
ヴァンの姿はもう完全に見えなくなっていた。
またきっと会いにきてくれるだろう。
クリスティンは校舎に向かって歩き出した。
──────────
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて続編はひとまず終わりとさせていただきますが、番外編を更新予定にしています。
「闇の悪役令嬢は愛されすぎる」と、「闇黒の悪役令嬢は溺愛される」は関係性があるお話になっています。
どちらの物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
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