77 / 88
第二章
17.謎の少年1
しおりを挟む
捕らえられていたけれど、肌も瞳も艶々していて、元気そうでほっとする。
「どこから来たの」
「遠く。ボク、この国の人間じゃないんだ」
(『ボク』?)
とても可愛らしい子だったので、性別不明だった。
小さな頃のメルをちょっと思い出す。
一応、念のため、確認する。
「……あなたは男の子なのかしら?」
「そうだよ」
天使のように可愛らしい子は、きゅっとクリスティンの手を握る。
「ボク、この国にきて、力をいっぱいいっぱい使っちゃって、戻れなかったの……。それであの男たちに、捕まっちゃったの……」
クリスティンをじっと見る。
「ボクをあなたのところに置いて」
帰る場所がないのなら、父に頼み、公爵家で引き取ろうか。
「ええ。どこへ行くか決まるまで、家にいらっしゃい。わたくしの名は、クリスティンというの」
男の子はもう片方の手も添え、クリスティンの手を両手で掴む。
「クリスティン。ボクと契約しよ?」
「? 契約?」
「うん。ボクの主になって。あなたが傍にいると、ボクの力強くなる」
屋敷に来るという意思表示だろうか。
「ね、いいでしょ、クリスティン?」
「ええと……。あなたを引き取るのはよいのだけれど……主というのはどういうこと?」
「クリスティン様!」
そのとき、クリスティンは自分を呼ぶ声に気付いた。
(メルだわ)
突然消えてしまったので、心配して捜しているのに違いない。
クリスティンはその子と手を繋ぎながら、移動した。
すると辺りを見回し、必死に捜しているメルの姿がみえた。
「クリスティン様!」
彼はこちらまで駆けてくる。
「一体、どうしてこんなところに!? あなたの特徴を通行人に話し、この道に進んだと聞いたときは、まさかと思ったのですが……ここは貧民窟です!」
「その……色々あって。ごめんなさいね。突然いなくなってしまって」
声に導かれて、廃墟に行った。
でも広場まで届くはずはない。
一体なんだったのだろう?
実際、捕らわれた子供がいたのだが。
(不思議)
少年が閉じ込められていた部屋の扉は吹き飛んだし。
「メル、広場にいた迷子は?」
「捜していた母親がすぐに見つかり、泣き止んで母親と帰りました」
「そう。良かったわ」
「……その子供は?」
クリスティンの後ろに隠れている子をメルは訝しげに見下ろす。
男の子は恥ずかしそうに、クリスティンの後ろで、ちら、ちらとメルを見ていた。
(……どうしたのかしら……恥ずかしがり屋さんなのかしらね)
クリスティンは不審そうにしているメルに向き直った。
「人買いに捕まっていた少年を、今助けたところなの」
「!? どういうことなのですか」
クリスティンが、転がした男たちのところまでメルを連れていき、一部始終を話すと、彼は眉を顰めた。
「声が聞こえて……? よくわかりませんが……。広場を離れる前に、なぜ一言私に話してくれなかったのです?」
「話すべきだったのだけれど、その余裕もないくらい、急がなくては、と強い切迫感を覚えてしまったの」
「お願いですから、お一人で行動なさらないでください」
「ええ」
何も告げずに消えてしまったのは、いけなかった。
彼は建物を眺める。
「今にも崩れそうです。行きましょう」
クリスティンたちは移動し、警邏隊のもとに向かった。
人買いは捕まり、廃墟はその後すぐ崩れ落ちた。
男の子は、公爵家に預けようと思った。
だが。
「あなたがいるところがいいの」
公爵家に行くまでの道のりで、男の子はクリスティンを仰いで、そう言った。
「わたくし、学園の寮で暮らしているのだけれど」
「そこがいいの」
彼は強く主張する。
「女子寮だ。君が来ることはできない」
メルは渋ったが、陽も暮れるし、とりあえず一旦学園に戻って話し合うことにした。
「どこから来たの」
「遠く。ボク、この国の人間じゃないんだ」
(『ボク』?)
とても可愛らしい子だったので、性別不明だった。
小さな頃のメルをちょっと思い出す。
一応、念のため、確認する。
「……あなたは男の子なのかしら?」
「そうだよ」
天使のように可愛らしい子は、きゅっとクリスティンの手を握る。
「ボク、この国にきて、力をいっぱいいっぱい使っちゃって、戻れなかったの……。それであの男たちに、捕まっちゃったの……」
クリスティンをじっと見る。
「ボクをあなたのところに置いて」
帰る場所がないのなら、父に頼み、公爵家で引き取ろうか。
「ええ。どこへ行くか決まるまで、家にいらっしゃい。わたくしの名は、クリスティンというの」
男の子はもう片方の手も添え、クリスティンの手を両手で掴む。
「クリスティン。ボクと契約しよ?」
「? 契約?」
「うん。ボクの主になって。あなたが傍にいると、ボクの力強くなる」
屋敷に来るという意思表示だろうか。
「ね、いいでしょ、クリスティン?」
「ええと……。あなたを引き取るのはよいのだけれど……主というのはどういうこと?」
「クリスティン様!」
そのとき、クリスティンは自分を呼ぶ声に気付いた。
(メルだわ)
突然消えてしまったので、心配して捜しているのに違いない。
クリスティンはその子と手を繋ぎながら、移動した。
すると辺りを見回し、必死に捜しているメルの姿がみえた。
「クリスティン様!」
彼はこちらまで駆けてくる。
「一体、どうしてこんなところに!? あなたの特徴を通行人に話し、この道に進んだと聞いたときは、まさかと思ったのですが……ここは貧民窟です!」
「その……色々あって。ごめんなさいね。突然いなくなってしまって」
声に導かれて、廃墟に行った。
でも広場まで届くはずはない。
一体なんだったのだろう?
実際、捕らわれた子供がいたのだが。
(不思議)
少年が閉じ込められていた部屋の扉は吹き飛んだし。
「メル、広場にいた迷子は?」
「捜していた母親がすぐに見つかり、泣き止んで母親と帰りました」
「そう。良かったわ」
「……その子供は?」
クリスティンの後ろに隠れている子をメルは訝しげに見下ろす。
男の子は恥ずかしそうに、クリスティンの後ろで、ちら、ちらとメルを見ていた。
(……どうしたのかしら……恥ずかしがり屋さんなのかしらね)
クリスティンは不審そうにしているメルに向き直った。
「人買いに捕まっていた少年を、今助けたところなの」
「!? どういうことなのですか」
クリスティンが、転がした男たちのところまでメルを連れていき、一部始終を話すと、彼は眉を顰めた。
「声が聞こえて……? よくわかりませんが……。広場を離れる前に、なぜ一言私に話してくれなかったのです?」
「話すべきだったのだけれど、その余裕もないくらい、急がなくては、と強い切迫感を覚えてしまったの」
「お願いですから、お一人で行動なさらないでください」
「ええ」
何も告げずに消えてしまったのは、いけなかった。
彼は建物を眺める。
「今にも崩れそうです。行きましょう」
クリスティンたちは移動し、警邏隊のもとに向かった。
人買いは捕まり、廃墟はその後すぐ崩れ落ちた。
男の子は、公爵家に預けようと思った。
だが。
「あなたがいるところがいいの」
公爵家に行くまでの道のりで、男の子はクリスティンを仰いで、そう言った。
「わたくし、学園の寮で暮らしているのだけれど」
「そこがいいの」
彼は強く主張する。
「女子寮だ。君が来ることはできない」
メルは渋ったが、陽も暮れるし、とりあえず一旦学園に戻って話し合うことにした。
29
お気に入りに追加
3,563
あなたにおすすめの小説
断罪ルートを全力で回避します~乙女ゲームに転生したと思ったら、ヒロインは悪役令嬢でした~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲームのヒロインに転生した。貧乏な男爵家の娘ながらも勉強を頑張って、奨学生となって学園に入学したのだが、蓋を開ければ、悪役令嬢が既にハーレムを作っていた。どうやらこの世界は悪役令嬢がヒロインのようで、ざまぁされるのは私のようだ。
ざまぁを回避すべく、私は徹底して目立たないようにした。しかし、なぜか攻略対象たちは私に付きまとうようになった。
果たして私は無事にざまぁを回避し、平穏な人生を送ることが出来るのだろうか?
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。
でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。
果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる