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第二章

17.謎の少年1

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 捕らえられていたけれど、肌も瞳も艶々していて、元気そうでほっとする。

「どこから来たの」
「遠く。ボク、この国の人間じゃないんだ」

(『ボク』?)
 
 とても可愛らしい子だったので、性別不明だった。
 小さな頃のメルをちょっと思い出す。
 一応、念のため、確認する。

「……あなたは男の子なのかしら?」
「そうだよ」

 天使のように可愛らしい子は、きゅっとクリスティンの手を握る。

「ボク、この国にきて、力をいっぱいいっぱい使っちゃって、戻れなかったの……。それであの男たちに、捕まっちゃったの……」
 
 クリスティンをじっと見る。

「ボクをあなたのところに置いて」
 
 帰る場所がないのなら、父に頼み、公爵家で引き取ろうか。

「ええ。どこへ行くか決まるまで、家にいらっしゃい。わたくしの名は、クリスティンというの」

 男の子はもう片方の手も添え、クリスティンの手を両手で掴む。

「クリスティン。ボクと契約しよ?」
「? 契約?」
「うん。ボクの主になって。あなたが傍にいると、ボクの力強くなる」

 屋敷に来るという意思表示だろうか。

「ね、いいでしょ、クリスティン?」
「ええと……。あなたを引き取るのはよいのだけれど……主というのはどういうこと?」
「クリスティン様!」

 そのとき、クリスティンは自分を呼ぶ声に気付いた。

(メルだわ)
 
 突然消えてしまったので、心配して捜しているのに違いない。
 クリスティンはその子と手を繋ぎながら、移動した。
 すると辺りを見回し、必死に捜しているメルの姿がみえた。

「クリスティン様!」

 彼はこちらまで駆けてくる。

「一体、どうしてこんなところに!? あなたの特徴を通行人に話し、この道に進んだと聞いたときは、まさかと思ったのですが……ここは貧民窟です!」
「その……色々あって。ごめんなさいね。突然いなくなってしまって」

 声に導かれて、廃墟に行った。
 でも広場まで届くはずはない。
 一体なんだったのだろう?
 実際、捕らわれた子供がいたのだが。

(不思議)

 少年が閉じ込められていた部屋の扉は吹き飛んだし。

「メル、広場にいた迷子は?」
「捜していた母親がすぐに見つかり、泣き止んで母親と帰りました」
「そう。良かったわ」
「……その子供は?」

 クリスティンの後ろに隠れている子をメルは訝しげに見下ろす。
 
 男の子は恥ずかしそうに、クリスティンの後ろで、ちら、ちらとメルを見ていた。

(……どうしたのかしら……恥ずかしがり屋さんなのかしらね)

 クリスティンは不審そうにしているメルに向き直った。

「人買いに捕まっていた少年を、今助けたところなの」
「!? どういうことなのですか」

 クリスティンが、転がした男たちのところまでメルを連れていき、一部始終を話すと、彼は眉を顰めた。

「声が聞こえて……? よくわかりませんが……。広場を離れる前に、なぜ一言私に話してくれなかったのです?」
「話すべきだったのだけれど、その余裕もないくらい、急がなくては、と強い切迫感を覚えてしまったの」
「お願いですから、お一人で行動なさらないでください」
「ええ」

 何も告げずに消えてしまったのは、いけなかった。
 彼は建物を眺める。

「今にも崩れそうです。行きましょう」
 
 クリスティンたちは移動し、警邏隊のもとに向かった。
 人買いは捕まり、廃墟はその後すぐ崩れ落ちた。
 男の子は、公爵家に預けようと思った。
 
 だが。

「あなたがいるところがいいの」

 公爵家に行くまでの道のりで、男の子はクリスティンを仰いで、そう言った。

「わたくし、学園の寮で暮らしているのだけれど」
「そこがいいの」

 彼は強く主張する。

「女子寮だ。君が来ることはできない」

 メルは渋ったが、陽も暮れるし、とりあえず一旦学園に戻って話し合うことにした。
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