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8 凶報
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大坂の町奉行所は、〈東〉と〈西〉が月替わりで任務に就く。江戸では、北町、南町だが、似たようなものとおもっていい。ところが、与力、同心の数は、はるかに少ない。先述したように、町人自治がうまく機能していたからだ。
また、大坂は幕府直轄地で、大坂城には〈大坂城代〉がいる。老中、京都所司代に次ぐ幕閣の要職である。
このときの城代は、摂津三万五千石の土岐家であった。
(ま、まさか┅┅、おときの奴、分部どのにも報せたのではあるまいか┅┅)
大志郎が案じたのは、土岐家まで巻き込んだら、事が複雑になって収拾に支障をきたしかねないと案じたからである。
分部宗一郎は、土岐家譜代の家臣だが、父が江戸藩邸詰めだったので大志郎と同じ江戸育ち。主君の大坂城代就任にともなって大坂にやってきた。
二十八歳の分別盛りで、剣の腕はいまひとつふるわないが、管理と部下の育成に長けている。主君の信頼も厚く、城代直属の市中探索目附に抜擢された。
分部が就任の挨拶に奉行所を訪れたとき、対応を任されたのが大志郎であった。気取らず、威張らない分部の性格は、大志郎には年齢の離れた兄のようにも映った。以来、交誼を厚くしている数少ない知友の一人である。
(┅┅いずれにせよ、一度、分部どのに話を通しておいてもよかろう)
そんなことを考えていたとき、捕り方の手代二人が息せき切って駆け寄ってきた。江戸では〈岡っ引き〉というが、大坂では、ただ〈手代〉といった。
「久富様、ずいぶんお探しいたしましたぞ。た、大変なことが┅┅」
「どうした?お民が見つかったか?」
「そ、それが、お民らしい女が、庖丁で刺され殺されたようでして┅┅」
「どこで、誰に?」
矢継ぎ早に大志郎は問い質した。目の前におときの泣き顔が浮かんで、身震いした。
「はい、太左衛門橋のふもとの影絵茶屋でございます┅┅」
手代の声を聴きながら、
(大坂は、橋が、多すぎる!)
と、大志郎は舌を打った。もうため息は出なかった。
また、大坂は幕府直轄地で、大坂城には〈大坂城代〉がいる。老中、京都所司代に次ぐ幕閣の要職である。
このときの城代は、摂津三万五千石の土岐家であった。
(ま、まさか┅┅、おときの奴、分部どのにも報せたのではあるまいか┅┅)
大志郎が案じたのは、土岐家まで巻き込んだら、事が複雑になって収拾に支障をきたしかねないと案じたからである。
分部宗一郎は、土岐家譜代の家臣だが、父が江戸藩邸詰めだったので大志郎と同じ江戸育ち。主君の大坂城代就任にともなって大坂にやってきた。
二十八歳の分別盛りで、剣の腕はいまひとつふるわないが、管理と部下の育成に長けている。主君の信頼も厚く、城代直属の市中探索目附に抜擢された。
分部が就任の挨拶に奉行所を訪れたとき、対応を任されたのが大志郎であった。気取らず、威張らない分部の性格は、大志郎には年齢の離れた兄のようにも映った。以来、交誼を厚くしている数少ない知友の一人である。
(┅┅いずれにせよ、一度、分部どのに話を通しておいてもよかろう)
そんなことを考えていたとき、捕り方の手代二人が息せき切って駆け寄ってきた。江戸では〈岡っ引き〉というが、大坂では、ただ〈手代〉といった。
「久富様、ずいぶんお探しいたしましたぞ。た、大変なことが┅┅」
「どうした?お民が見つかったか?」
「そ、それが、お民らしい女が、庖丁で刺され殺されたようでして┅┅」
「どこで、誰に?」
矢継ぎ早に大志郎は問い質した。目の前におときの泣き顔が浮かんで、身震いした。
「はい、太左衛門橋のふもとの影絵茶屋でございます┅┅」
手代の声を聴きながら、
(大坂は、橋が、多すぎる!)
と、大志郎は舌を打った。もうため息は出なかった。
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