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第四話 感謝の対価

相 剋

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 湿った風が雨が落ちそうな気配を運んできた。

「や……!」

 息を吐きながらつぶやいたのは、テラモンのほうであった。すばやく刀をさやに収めた。
 けれど、左手を鯉口こいぐちに添えたままである。
 それを視て、世之介もかかとを地に落としたまま、テラモンが居合抜きに転じたと察し、世之介は腰をやや低めに落とし、テラモンの出方を見守る戦法に切り替えたようである。
 それはそれで、臨機応変の妙というもので、世之介が面子めんつや勢いにこだわらず、相手の動きを見極め、体勢を立て直すことをいとわない、したたかさを兼ね備えていることを物語ってもいた。

むべなるかな」

 つぶやいたのは、テラモンである。

「勝敗はつかぬようじゃの。どうじゃの、まずは、手打ちといたそう。引き分け、引き分けじゃ」

 一方的にそう宣言したテラモンは、世之介に向かって、もう一度、同じことばを吐いた。すでに世之介は刀を鞘に収めた時点で、このことを予期していたようである。立ちどころにこうべを垂れて承諾の意を表した。
 双方の殺気が、失せた。

「佐々木うじよ、そなたには不満も残ろうが、ほら、まもなく、驟雨がこようほどにの、まずは、この場は……の」

 もう一度、テラモンが告げた。
 ややもすればしどろもどろな口調になっていたのは、勝負の中断を雨のせいにしたからで、世之介が意外にも芯のある若者と知って、それだけで十分の収穫がられたのであったろう。

「勝負あった」

 谷崎家老が叫んだ。

「引き分けも、またきかな、佳きかな。いやはや、二人とも、勝ちじゃ勝ちじゃ」

 その大声は、おそらく世之介に聞かせるためであったろう。世之介はなにやら結果に得心がいかない顔つきのまま、曇った空を恨めしそうに眺めた。
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