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どうも、教国です

どうも、被害です

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 場所は学園男子寮、アゲハの部屋。ベッドに小さな本棚、机と椅子しかない質素な造りで、人を招くことなど考えられていない。ザガンは何度も来ているが、魔王城との違いに毎回驚く。

 そんなザガンは現在、路地裏で撃退した生徒を表に運ぶ作業を一人でさせられている。

「それで、ルイスも襲われたそうじゃないか」

 アゲハはベッドに腰掛け、脚を組みながら口を開いた。

「もちろん未遂だけどね。でも、アゲハのファンを名乗る割に、学生では使えないような高難度魔法を使ってたのが気になる」


「そうだな」

 ルイスのところに来た輩も同じようなものだったらしい。

「目的は俺とアゲハの排除か……仲間割れ? ただ、あんな魔法を使えるのが俺以外にいたとは思えないんだよね。学園内はもちろん、外でも全帝くらいしかいないはず…全帝も学園内か」

 全帝の所属は今どうでもいい。

「この時期に俺とアゲハが狙われたってことは、邪神教関連かな」

「ふむ……」

 アゲハは考えるフリをして濁した。

 確かに邪神教の関係している可能性もある。しかし、現場に邪神の痕跡はなかった。

 ならば次に考えられるのは、魔族の反逆者の可能性だ。そっちは目下デカラビアに探らせている。
 魔族と契約すれば、人間を通して魔族が魔法を使うことも可能だ。それならたかが学生に高難度複合魔法が使えたことも説明がつく。

「とりあえず、俺は彼らの犯行だと思えないんだよね。起きたら聞き取りはするけど、手がかりが得られるか…。あ、他の帝にも一応注意を促しておこうか」

「やられたらそこまでだろう?」

「そうなんだけど…一応古巣の仲間だからさ」

 ルイスが初めて帝たちに甘くなった。

 苦笑して、集中して、念話しているのだとわか
って……それからハッと、勝手に腰掛けていた椅子から立ち上がった。

「全帝が襲われたらしい」

「全帝が?」

 信じられない。
 アゲハとルイスが闇ギルドの帝だということは知らないとして、そしてシラが全帝であることも知らないとして、人間界最強の者たちを襲っていく意味がわからない。学生が束になったところで返り討ちにあうだけなのに。

「教員寮にいるらしい。行こう」

 ルイスはアゲハの返事を聞く前に転移を発動した。

「なんて酷い…」

 造りはほぼ同じ、少し本棚が大きいだけの教員寮の一室は、部屋の前に転移したのが正解に感じるほどに荒れており、足の踏み場がなかった。

「こんな酷いことを誰が…」

 開け放たれていた扉を先にくぐったルイスが息を飲む。

「まるで強盗に遭ったようだ…。ぜんて…シラ先生、何が盗まれているかわかりますか?」

 ルイスはとても真剣だった。

 一方で、ベッドらしき人ひとり分のスペースを見下ろしながら室内で立ち尽くしていたシラは首を傾げる。

 アゲハの中でひとつの仮説が急浮上した。

「盗まれて? ……ああ、この部屋か? これは元からこうだが?」

 シラは間延びするのすらだるそうに、しかし至って真面目に答えた。

 ルイスは固まった。理解できないらしい。
 アゲハの予想が的中した。

「つまりな、シラは汚部屋の住人…いや、汚部屋の作成者なんだよ、ルイス」

「汚部屋の作成者かー…。なんかかっこいいなそれ」

 アゲハの説明にうんうんと頷いたシラの、なんだか間抜けな感想から一拍。

「かっこいいわけがあるかぁぁあ! 掃除だぁぁあああ!」

 このときのルイスの絶叫は校舎を挟んで反対側にある学生寮にも届いていたとかいないとか。

「………………ルイスが破壊属性を持っていなくて良かったな」

「ほんとにな」

 戸口に立たされたアゲハとシラは、火やら風やら水やらを器用に使いながらかつての神速の光帝の名に恥じぬ猛超スピードで掃除するルイスを眺めていた。
 アゲハなら部屋ごと破壊して創造するか時間を戻せば終わるのだが、三角巾にエプロンのオカンなルイスを見ているのも面白いので黙っておく。

「ところで襲われたと聞いたが?」

「あーあいつらな。うちの生徒っぽいのがわらわらーっと入ってきて、寝てた俺に水をバチンだ…。俺は退避したけど、俺のベッドが水浸しに…」

「……そこじゃないと思うが」

 ルイスがクモの巣やら書類の束やらを燃やしているのを見る限り、ベッドが水浸しになったのはさほど問題ではないだろう。少なくとも、ベッドがひと目でわからないこの部屋では。

「…………相手は、妙に高難度な魔法を使う学生連中か?」

 アゲハはもう、発狂しているルイスを見ないことにした。

「ああ…そういえばそうだったかなー? うん、そうだったな」

 ベッドが濡れたショックでいろいろと忘れてしまっていたらしい。全帝からすれば古代魔法でも難しくないだろうし、印象にも残りにくいのかもしれない。
 実力はあるのに、こんな粗末なボロ布の塊が濡れただけでこれほど嘆くとは、なんだか哀れである。

「ルイスは邪神教が絡んでいるのではと言っていたが」

「邪神教が絡む……可能性としてはあるだろうけど、今は儀式の準備に忙しいはずだしなー。そっちよりは、俺なら魔族の関与を疑うなー。セイントが勇者を召喚したって話が魔界に届いていてもおかしくない頃合いだろうしー」

 おかしくないどころか、魔王ごと召喚しているため、かなり前から筒抜けである。

「幻術に長けた魔族には心当たりがある。あいつなら学生ごとき簡単に操れるだろう」

 言わずもがな、反逆者の頭のことである。凄いほうかクズなほうか迷う名前のあいつだ。

「知り合いみたいな言い方だな」

「…俺の使い魔が誰か忘れたか?」

「え……ああ、魔族も使い魔にしてたな」

 本人をもちろん知っているが、デカラビアからの情報にしたアゲハ。デカラビアを思い出すのに苦戦したシラ。
 シラの中ではザガンの印象が強かったようだ。聞けばザガンが喜びそうである……から、絶対に教えてやらない。

「終わったーー!!!」

 ルイスが額の汗を拭って開放感に満ちた声を上げる。
 見ると、廃墟のような汚部屋は跡形もなく、なぜか壁紙も真新しく張り替えたかのように綺麗に生まれ変わっていた。

「お疲れさま」

「お前、嫁に来てくれって言われないか?」

「先生は絶対に旦那にしたくないって言われそうですね」

 シラが崩れ落ちた。
 全帝が敗北した瞬間だった。
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