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どうも、教国です

どうも、帝集合です

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 団体戦もゆるっと生徒会チームが無事優勝、準優勝ともかっさらって終わった。
 アゲハに対しても、おめでとうだの運が良いから決勝に行けただのと行く先々で言われた。結果を認めた者と、過程を重視した者との違いだろう。

 うるさく思っていたのが落ち着いた数日後、アゲハの寝室に村人風の青年が転移してきた。忘れられがちなザガンである。

「魔王様、先日おっしゃっていた全帝の件ですが、ここ最近は教国へ駆り出されているようです」

「ほう」

 ベッドに腰掛けたアゲハは足を組む。ザガンは床に跪いたままだ。

(魔帝、黒帝。表の帝と合同の依頼だ。今週末城に行ってくれ)

 久しぶりにマスターから念話があった。

「ちょうどその案件かもしれないな」

「はい?」

 なんの話か理解できないザガンは顔を上げて首を傾げた。しかしアゲハが話すつもりはないと悟ると、コホンと小さく咳払いして続けた。

「それからもうひとつ、全帝についての調査結果ですが、奴は夜な夜な教国へ出向いているようです」

「そうか」

 得心するアゲハと、何がなんだかわからないザガン。

 世界樹の樹液を過剰摂取してまでシラが教職に熱意を抱いているとは考えられない。ならば帝としての活動が忙しいのか、とデカラビアやザガンにシラの行動を探らせていた。
 その結果が出るのと、今回の呼び出しが同じタイミング。何か面白いことの起きそうな予感がする。

「ちょうどいい。お前も助手として参加しろ。マスターも顔を見せろと言っていたしな」

「はあ…」

 アゲハにとっての面白いことは、大抵ザガンにとって面倒なことだ。
 しかしアゲハの命令とあっては逆らえないザガンは、気の抜けた返事をしつつ、またもや面倒事を押し付けられる予感に震えていた。

 そして週末。謁見の間へ転移すると、結界を破って転移したルイスが先に着いていた。道理で障壁なく転移できた。

 結界が破られた云々のやり取りはいつまで経っても学習しない国王と衛兵の間抜けな掛け合いだったため省略する。

 物理的色物集団も先に着いていた。アゲハとザガンが最後である。

「で、話は?」

 黒ローブをまとってフードで顔を隠したアゲハが言う。

 最後に到着したくせに偉そうに、と誰もが思ったが、黒帝としてのアゲハには有無を言わせぬオーラがあった。

「……は、破棄依頼じゃ! 邪神の復活を目論んでおるという教国の――」

「破棄なんて! 相手は人間なんでしょ? 話せばわかりあえるはずだよ!」

「お前は話を遮るな」

 国王の話の途中で反抗した光帝(勇者)の頭を全帝は鷲掴みにして押さえつけた。なかなか部下の教育に苦労していそうだ。

「破棄ならうちに回せばいいだけじゃない? 帝が全員出る必要なんてあるのかな」

 口調だけは爽やかなルイスだが、内容は血みどろである。

「どうせ、闇ギルドだけで国を滅ぼしたとなれば他国も表のギルドも警戒心を高めるから分散させよう、英雄の剣の帝は世界一強いと有名だし、みたいなノリだろ? ったく、めんどくせぇ」

 威厳はあるのに怠惰なオーラも出す高等技術を使いながら全帝が言う。
 国王はおっかなびっくり頷いた。前回の召集で全帝にやり込められたのがトラウマになっているらしい。

「そ、そうじゃ…。それに、宵の明星には実力者が実質2人、魔帝と黒帝しかおらん。2人で国を滅ぼすのは……うん? その、黒帝の隣は誰じゃ?」

 国王は今更ザガンに気付いた。侵入者に対して鈍すぎである。ザガンも、影が薄すぎである。アゲハのような燐光を放つものではないが、漆黒のローブをきちんとまとっているというのに。決して透明ではないというのに気付かれないとは。

「Sランクの助手だ。今回の依頼に同行する」

 ザガンの代わりにアゲハが偉そうに答えた。

「助手…って、黒帝の助手?」

「助手は二つ名だ」

「二つ名が助手!?」

 マスターの命名法はやはり特殊らしく、帝たちからは予想通りのツッコミを食らった。

「ま、このメンバーで教国を潰せばいいんだよね。一応聞くけど、民間人は? 上層部だけじゃダメな理由は?」

「それは俺から話そう」

 苦笑しながら本筋に戻そうとしたルイスに、うるさい光帝に手枷足枷をしてロープで縛り猿轡をはめ終えた全帝が中央へ出た。
 …全帝の姿なら進んで仕事をするとは。学校行事の説明は生徒に任せるというのに。

「ここ数ヶ月、教国に怪しい動きがあるとの話で潜入捜査をしてきたが、今の教国に一般人はいないと考えてくれ。上層部は邪神教信者でまともに会話できず、民間人は邪神復活のための儀式の準備要員と生贄要員としてカウントされている。どちらもキメラだ。準備要員は力仕事ができるよう獣と合わされ、生贄要員は逆らわないよういろんな臓器を抜かれた上で大人しい生物と合成されている。ま、まともな人間は狂った上層部のみってことだな」

「それを受け、邪神教を封じるためにも、大陸連合としては教国の完全破棄を決めたということじゃ」

 最後の良いところだけ国王がかっさらった。

「キメラの合成に邪神の復活か。人間はよくわからんことをするな」

「こんな人間がいるから闇ギルドの仕事がなくならないんだろうね」

 アゲハとルイスがそれぞれ呟いていた。

「風帝、水帝、雷帝も含めて今週は具体的な戦力調査だ。隠している兵器がないかどうかも確認する。依頼の決行は来週末。いいな?」

「了解」

 全帝の言葉に、光帝を除く表の帝全員が声を揃えた。

「仕切られるのは癪だけど、異論はないかな。黒帝はどう? 予定空いてる?」

 国全体の破棄依頼だというのにウインドウショッピングのテンションのルイス。

「まあ、そうだな。今回は多数決に従ってやろうか」

 アゲハまで、ノリは学校行事である。

「まあ、力を考えればそうなるか。…では解散」

 ルイスとアゲハのノリが軽いのは一騎当千の実力を誇るからだとわかっている全帝は、皆でピクニックに行く予定でも立てているかのような2人を咎めず、ただ解散を宣言した。他の帝たちは依頼が依頼だけに深刻な顔をしているが、最終的には何も言わなかった。

 ただ床に転がされたイモムシだけが、猿轡をしながらひたすらピコピコぴょこぴょこんーんーと騒いでいた。
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