上 下
69 / 100
どうも、合宿です

どうも、フレイ&ティティスです

しおりを挟む
「どうせ誰も夕飯のことなんて考えていないだろうし、私たちで大物を狩っておきましょ。特訓はそれから」

「はい!」

 憧れの美人副会長ティティスにバカ正直フレイが逆らうことはない。嬉々として返事をする。
 近場の森とはいえ王都の中心部から身体強化で走り続けたせいで息は切れていたが、深呼吸して返事をする。

 同じく身体強化で走っていたのにまったく息切れしていないティティスは、本来ならこうして同じ空間で特訓できることもあり得ない存在なのだ。持つべきものは交友関係の広い友達である。
 などとちゃっかり考えているフレイは、ティティスが自分の父の補佐をしていることを知らない。

「とりあえず魔力探知ね。魔物を探しましょ。できる?」

「やってみます!」

 とりあえずやってみろ。それが熱血な火の貴族当主である父の教えだ。はじめから「できない」「無理」は許されない。

 返事のいいフレイに全帝から無茶振りされたときの主の姿を重ねながら、ティティスは目を閉じて集中するフレイを眺めていた。

「……いた! 南西に大きな反応が――」

 敵を見つけたと嬉しそうに笑って振り向いたフレイの頬すれすれを、こぶし大の火の玉が飛び抜けた。当たっていないのに、熱風で頰が焼けたかのように熱い。

「索敵中は防御が手薄になるし、反応も遅れるの。気を抜かないで」

 ティティスが大真面目な顔をして立っていた。
 さすがは副会長。味方に奇襲をかけてから説明するとは、ピンクの髪の愛らしい見た目をしていても、ルイスと同等かそれ以上にスパルタである。

「…はい!」

「それで? 南西にどの程度進むの?」

「ええっと…ちょっと離れているような…」

 距離までは正確に把握していなかったフレイは、頬をさすりながらしどろもどろになる。

 それも当然で、1年の授業ではまだ試合形式は1対1、ギルドの依頼でも目の前の魔物との戦いであって、魔力探知は次の攻撃が来る方角を察知するためにしか使わないのだ。

 見えない敵を探す唯一の機会はサバイバルだったが、あのときは序盤だからとティティスやミケルが索敵していたし、いざ戦闘本番となるとドラゴンの乱入によりサバイバルが中止され、結局フレイたちはバーベキューを楽しんだだけで終わってしまった。

 そんなこんなで勇者の実力不足を憂いた国王がカリキュラムにいろいろと口出ししてきたのは、また別の話。

 とにかくフレイには、魔力探知による索敵には方角と距離の2つが重要という認識がなかったのである。

「もう1回やってみて。周りの気配にも気をつけながらね」

「はい!」

 特訓はあとで、などと言いつつ、ちゃっかり特訓は始めていたティティス。この辺りは炎帝にしっかり影響されている。何事にも手を抜けないのだ。実は生徒会随一の熱血キャラであった。
 属性もしかり、フレイと相性もいいだろう。ルイスの采配は正しい。

「…南西、1キロ先です」

 索敵できたからといっていちいち騒がず、今度は冷静にフレイが告げた。

「惜しいわね。そっちにもいるけど、東南350m先のほうが近いわ。少し小さいから見落としたのね。南西のは大型だから、あとで行きましょ」

「くー…! わかりました!」

 近くの魔物を見落としたとあってフレイは悔しそうだ。

 悔しがりながらティティスのあとに続くと、突然ティティスが横へ跳ねた。

「痛っ!」

 次の瞬間、何かに腕を噛まれる。
 よく見ると、ウサギ型の魔物がフレイの前腕に噛みついてぶらさがっていた。

「フレアボムだけで倒してね」

「え? はい! 【フレアボム】!」

 木陰からのティティスの指示に従い、フレイは腕にぶらさがったまま全然離れないウサギへフレアボムを放つ。
 大きなボールほどの火の球が放たれてすぐに爆発し、フレイの前腕もろともウサギを焼き尽くす。

「痛…」

 煤だらけになった腕を見ながらフレイは放心してしまう。痛すぎて言葉が出てこない。自分で自分の腕を焼く日が来ようとは。

 ティティスは木陰から出てきて分析を始める。

「魔力を込めすぎたのね。あの大きさの魔物なら威力はもっと低くていいし、自分と近いならなおさら、込める魔力は少なくしないと。もしくは結界を張りながら攻撃だけど…そんな器用なことはなかなか難しいし、魔力調整の訓練をしたほうが……これ、ルイスも言ってたわね」

「はい…」

 とりあえず実戦だと、自分は退いてあえてフレイに戦わせたティティスはサバイバルのときのルイスと同じ結論に至った。

 一撃でフレイの改善点を見抜いたルイスは余程の実力の持ち主…などということをフレイが考えることはなく、先輩2人に同じことを指摘され恥じていた。

「対抗戦までに克服するわよ。【ヒール】」

 ティティスはフレイの腕を取り、叱咤激励を飛ばしながら回復魔法を使った。
 火属性の回復魔法は、ぬるめの風呂のような温度で傷口を燃やすように修復する。火属性の回復魔法は一見攻撃魔法のようで、フレイはあまり好まれない理由がわかった。

「即死以外は治せるし、即死しても3秒までならルイスを呼んで治せるわ。3秒ルールね」

「………」

「あら、笑うところよ?」

 ティティスは微笑んでいるが、即死も含めた怪我を事前通告されたも同然なフレイは笑えなかった。

「はい、治った。じゃあ今日はフレアボムで全部敵を倒してもらうわよ」

「はい! ありがとうございます!」

 煤まで取れて綺麗になった前腕を眺めてからフレイは頭を下げた。
 その瞬間、足下に大きな影ができる。

「さすがに今度は! 【フレアボム】!」

 飛び退って最大出力の炎を放つフレイ。
 倒れる毛むくじゃらの巨体。

「やるじゃない」

 いつの間に逃げたのか、木陰で拍手するティティス。

「縄張りを荒らされたら怒るワイルドベアね。それも結構な大きさ。一撃で仕留めるなんてすごいわ」

「…! ありがとうございます!」

 美人に褒められたフレイは少し照れた。

「もしかして弱く加減するのが苦手なのかしら。ギルドランクも確かAよね?」

「え…? はい、そうですけど…」

 そんな話をしたことがあっただろうか、と首を傾げるフレイと、炎帝から聞かされていたため当然知っていたティティス。

「…じゃあ夕飯はこの子にして、次行くわよ。小さな魔物を狙って行きましょ」

 自分が炎帝補佐なのは当然ながら、炎帝だって正体は家族にも明かせないはずだ。バレてしまうのはさておき、自ら口外することは禁じられている。だからどこまで秘密でどこまで知られているのか……と、迷ったティティスは、戦闘で会話を押し流すことにした。

 べ、別にごまかしが苦手だとか嘘が下手だとか、そんな理由ではないのである。ただフレイの特訓のため! そう、フレイの訓練のためなのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 モンスター使役学を100年単位で進めたとされる偉大な怪物学者の孫アルバート・アダンは″天才″と呼ばれていた。将来を有望な魔術師として見込まれ、大貴族で幼馴染の可憐なる令嬢を許嫁としていた。  しかし、おおくの魔術師に期待されていたアルバートは【観察記録】という、「動物の生態を詳しく観察する」だけの極めて用途の少ない″外れスキル″を先代から受け継いでしまう。それにより周囲の評価は一変した。 「もうアダン家から実績は見込めない」 「二代続いて無能が生まれた」 「劣等な血に価値はない」  アルバートは幼馴染との婚約も無かったことにされ、さらに神秘研究における最高権威:魔術協会からも追放されてしまう。こうして魔術家アダンは、力をうしない没落と破滅の運命をたどることになった。  ──だがこの時、誰も気がついていなかった。アルバートの【観察記録】は故人の残した最強スキルだということを。【観察記録】の秘められた可能性に気がついたアルバートは、最強の怪物学者としてすさまじい早さで魔術世界を成り上がっていくことになる。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...