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どうも、謁見です

どうも、収拾です

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 時は遡り、アゲハたちが王城へ向かっている頃。
 学園内では、生徒会が奔走していた。

「ルイス! なんか昨日の生徒の親から、治療費足りひんゆうて連絡きとるで」

 届きたての速達を開封しながら生徒会室に入ってきたのはミケルだ。
 ルイスは備品の発注書に個数を記入していた手を止める。

「昨日の? 確認を頼んで手渡ししてもらった分か。まさかミック、数まで数えられなくなったわけじゃないよね?」

「オレは暗算が苦手なだけで、数は数えれるわ! んでもって金額は合っとったっちゅうねん」

 馬鹿にするなと言いたげだが、王国随一の学園の最高学年で生徒会役員なのに暗算が苦手なのは、決して胸を張れることではない。

「その件、昨日の夜に治療費が足りないって言ってきた分じゃない? あと慰謝料を要求するとか」

 新品を買うか修繕するか、価格比較をしていたティティスも手を止める。

「お、確かに、昨日連絡したって書いとるわ」

 ミケルは手紙を再度よく読み、該当する文言を見つけた。

「ティティー、悪いけど対応できるかな?」

「…勇者の後見人って全帝様なのよね? 今日は城に召集されているんじゃないかしら。炎帝様と連絡が取れないもの」

「オレも風帝様と連絡がつかんのやわ。ルイスが直接連絡するほうが早いんちゃう?」

 ティティスとミケルはそれぞれ、炎帝補佐と風帝補佐という役割でもある。だからルイスが元光帝だということを知っていたのだ。

 ルイスは爽やかながら困った顔という難しい芸当を簡単にこなす。

「俺も全帝はわからないんだよ。理事長に連絡しようにも……全員召集だから、全員繋がらないね」

 正体のわからない相手への念話は高度なうえ、距離など様々な条件がつく。
 さらに、城には何重にも結界が張られている。その中には念話を遮断するものもある。内通者を送り込まれても、外部と通信させないためだ。

 ルイスは全帝以外の帝全員に呼びかけてみたが、全員繋がらなかった。もう皆城の中にいるのだろう。

「っていうか、ルイスも呼ばれてるんやろ? こんなとこおってええんか?」

「良くないだろうけど、どうしようもないよね」

 ルイスも召集されているが、どうにも間に合いそうにない。

 アゲハが代わりに話してくれていればいいのだが……気に食わない相手に正直に話す性格ではないため、望み薄だろう。ルイスはかなり正確にアゲハの性格を掴んでいた。

「ルイス様、今学園の前に親御さんが来ていてよ。随分とご立腹なさっていたわ。責任者を出せとおっしゃっていてよ」

 金髪の縦巻きロールツインテールが入ってきた。
 2年で生徒会会計を務めるツヴァイゲルト・ホワイトだ。一応王族で、ビッチ王女の従姉妹にあたる。そして……ルイスの許嫁でもある。

「あー、ありがとう、ヴィー」

「どういたしましてよ」

 ルイスはわざわざ押しかけてきて生徒会にまで入り込んできたこの高飛車な口調の許嫁が苦手だったりする。
 彼女に非はなく、容姿は愛らしいのだが……金髪というだけで傲慢チキな姉を思い出してしまうのだ。

「責任者…。全帝や学園長とは連絡が取れず、担任のシラ先生も不在となると、最高責任者は俺になるけど……俺で納得してもらえるかな?」

「まず無理ね」
「無理やろな」
「無理でしてよ」

「だよね」

 3人に即答されて、ルイスはがっくりと肩を落とす。それでも行かねばなるまい。
 正直言って、帝としてどんな戦場へ赴いたときよりも気と足が重い。

「会長いる? 3階の廊下で男子生徒が乱闘を始めたって連絡。なんでも勇者の真似をすればモテるとか――」

「はあ…」

 飛び込んできた長身で透き通る紫の長髪の女子生徒は、書記のニコライ・ダークネスだ。
 闇の属性貴族で、実はギルド受付のイナイの妹でもある。イナイの代わりに家督を継ぐことが決まっている、ルイスと似た境遇の人物だ。

 そんな人物との会話は普段なら楽しいのに、今日は楽しくない報告ばかりが続いている。ルイスはニコライの言葉が終わる前に大きな溜息をついた。

「会長っ!」
「助けてください!」

 そこへさらに追い打ちをかける、生徒会室の扉を叩く音と女子生徒の悲鳴。

 最も近くにいたニコライが扉を開けると、一般生徒が目に涙を溜めていた。

「すみません会長、でも会長しか…」
「寮でクラスの子が騒いでいて」
「勇者様の取り合いを…」

 生徒会室は一般生徒立入禁止だ。そのため2人の女子生徒は謝りながら交互に言った。

「1Sクラスの子たちだね。でも今日は、勇者はいないはずだけど」

 ルイスは会長席から立って入口近くへと歩みながら、優しく語りかける。先ほどまで溜息をついていた人物とは思えないやわらかな表情だ。

「何回見ても凄いわね」
「さすがうちの会長やわ」
「そんなルイス様が好き」
「あんまり攻めると引かれるよ」

 ルイスの顔の変化を見ていた生徒会メンバーの反応はまちまちだが、とりあえず誰も驚いていない。彼らにとってはルイスの爽やか仮面の付け外しなど日常茶飯事なのである。

「勇者様と王女様が出かけたから」
「その隙に、勇者様は私の、って皆が言い出して」
「取っ組み合いの喧嘩に…」
「勇者様がいれば皆大人しいのに…」

 つまり勇者がいれば猫かぶりで淑女を振る舞っているレディたちが、本人不在を良いことに好き勝手やり出したということらしい。

「女子寮だと俺は入れないね。ティティー、ニコラ、お願いしていいかな」

「断れないでしょ」
「いいよ、もちろん」

 ルイスの指示に応えて、武力制圧の得意なティティスとニコライが女子生徒について出ていく。

「ミックは3階廊下の男子の制圧を頼むよ」

「はいよ」

 ミケルも出ていく。

 ルイスは目を輝かせている許嫁と2人きりで残された。本当はミケルを残したかったが、彼女が会計なのだから仕方ない。

「ヴィー。俺が一旦不足分を立て替えて、あとで後見人に請求する。書類の作成を頼むよ。俺は対応に出るから」

「もちろんでしてよ。いってらっしゃいな」

 2人きりでいられないのは残念だ、という顔をされるが、ルイスとしては助かった。

 しかしこれから行くのは息子に怪我をさせられて怒っている親を待たせている部屋だ。たかが生徒会長が出ていったところでさらに怒ることは想像に難くない。

 早く終わってくれよ謁見なんて、と思いながら廊下を進む。

 アゲハとシラに「逃げた」と思われていたルイスだったが、実際には忙しくただ不憫な1日を送っていた。
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