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どうも、ワルプルギスです

どうも、注射です

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 イポスお手製のチェック柄アイシングクッキーをザクザクパリポリしていた冥王が、やはり仮面の上からズズーッとすすったイポス特製ブレンドティーをごくんと飲み下す。
 一生懸命に作ったイポスとしては、美味しがられていると喜べばいいのか雑に扱われていると嘆けばいいのか、複雑だ。

「謝罪でノワールくんのブラックバンドを解くんだー? ねーねー、この人間面白いねー。ノワールくんが飽きたらぼくにくれないー?」

「構わぬぞ」

 つまり、もう飽きている。

「いっそのこと冥界所属にでもしておけばどうだ?」

「あーそっか! じゃあそうするー!」

 本人の意思そっちのけのフリーレント。

「待て待てぃ! 冥界所属ってことは死んで…うおっ!」

 ミコトはなんやかんやと喚いたが、もう遅い。

 喚いている間に、ノワールはミコトを床へ大の字に再拘束し、冥王は瞬間移動でミコトに歩み寄る。たったの一歩で数段を降り、座席から窪地の中心へと移動していた。

「え!? ちょっと、いや、離せって!」

 冥王は爪の尖った黒い篭手越しに、ミコトの手首を掴んだ。
 ミコトが暴れるが、今度のブラックバンドはノワールの本気であり絶対に解けない。そして冥王は何気に怪力である。こちらも絶対にほどけない。

 冥王はどこからともなく取り出した注射器をプスッとミコトの前腕に刺す。簡素な浴衣では冥王の注射を防御できない。
 血ではない何かを、あっさりと吸い取られた。冥王が席を立ってから、わずか3秒での出来事だった。

「あっ…」

 快感に呻くような声を最後に、ミコトはあっけなく絶命した。魂を抜かれたのだ。

「冥王様!?」

 これに驚いたのは魔族側である。

 ミコトは先ほど、人間界にて魔王が直々に手を下すと決めたところなのだ。それを、冥王といえどこうもあっさり覆して良いものか。所属どうのこうのとは話していたが、屠る許可まではしていないはずだ――

「服はヨレヨレなのに、魂はきれいだねー」

 ぐるぐると考えては焦る四天王たちの前で、冥王は手元を見下ろしながらのほほんと言った。
 手には透明なシリンジ。筒の中では白く光り輝く小さな球体がふよふよと漂っている。ミコトの魂だ。

「これにぼくの魔力を込めてー」

 冥王が唱えた瞬間、白かった球体は紫へと変わる。

「もう一回、プスッとなー」

 真紫に変わった光を、冥王は注射器で押し戻す。

 すると、なんとミコトに生気が戻った。

「オレ復活ぅ! ……ハッ!」

 鬱陶しい言葉とともに、ミコトは目を開けた。

「もう一度眠りについても構わぬが?」

 脅……促すノワールはとても良い笑顔だ。
 ルイスに似てきた気がする…と、のちにザガンは語る。

「すみませんでしたぁー! って、あれ? オレ生きてんの? 一瞬走馬灯が…」

 ミコトはキョロキョロと首を振り、最も近くにいた冥王を見上げて答えを求めた。

「一応、生きてると言えば生きてるかなー? 魂は冥界の所属になったけどねー。まあ、人間でいう、不老不死ってやつー?」

「え? オレすげぇー!」

「ただ代償として、紫になるけどねー」

「え……?」

 紫になるとは? 意味を聞き返さずとも、すぐに理解できた。

 ノワールが拘束を解いたため、ミコトは体を起こす。まず目に入るのは、浴衣からはみ出た手足。
 もともと色白ではなく、むしろ浅黒いほうではあったが、それでも人間らしい肌色の範疇だった肌が……すっかり紫色になっていた。

「ぼくの魔力が混じるとー、なんでも紫になっちゃうんだよねー」

「以前よりも男前になっておるぞ」

「待ってこれ、顔は!? 顔も紫とか言わねぇよな!?」

「強いて言うなら……あ、人間界でいうブルーベリーの色かなー」

「ブルーベリーって、思っきし紫じゃねぇか!」

 某チョコレート工場で某ガムを噛んで膨らんだ娘のような全身ヴァイオレット。浴衣も紺色なせいで、より一層全身の紫味を増している。

「死ななくて良かったんじゃね?」
「命あっての物種じゃからの」

 基本的には命を奪う側のザガンとデカラビアが隅で密かに話していた。

「戻してくれよぉー! 戻りてぇよぉー!」

「裸を見せる相手もおるまい。不老不死を喜べ」

「そうだよー? 死神くん以外でぼくの配下になるなんてほとんどないんだからー。能力も死神くんレベルに底上げされるんだよー?」

「ほう。それは戦うのが楽しみだな」

「そうじゃんオレ公開処刑されるんじゃん! 絶対休む! その日は絶対風邪ひくからっ!」

「風邪なんかひくわけないでしょー。不老不死なんだよー? 病気も逃げてくんだよー」

「うわーん! 人間に戻りてぇよぉー…」

 しくしく泣き始めたミコトを笑う冥王と魔王の態度に、さすがの魔族でもミコトを不憫に思ったが、もちろん何もしなかった。不憫なのと助けるのとは違うのだ。
 そしてもちろん、冥王に抗う術などない。

 その後も泣き言を言っては魔王と冥王に笑われるミコトをダシにした夜は更け、久しぶりのワルプルギスはお開きとなった。

「また呼んでねー」

「うむ。そなたも息災でな」

「肌色に戻りてぇよぉー…」

 冥王は和国に帰りたいとは一切言わないミコトの片足をつかんで引きずりながら冥界へと帰り、ノワールは寮へと転移した。

 残された四天王とデカラビアは、今回も無事乗り切れたとほっと息をつく。
 イポスはノワールが割った菓子を見て肩を落とし、全員で割れた茶器を確認してから、溜息混じりに掃除を始めた。
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