49 / 101
どうも、ワルプルギスです
どうも、注射です
しおりを挟む
イポスお手製のチェック柄アイシングクッキーをザクザクパリポリしていた冥王が、やはり仮面の上からズズーッとすすったイポス特製ブレンドティーをごくんと飲み下す。
一生懸命に作ったイポスとしては、美味しがられていると喜べばいいのか雑に扱われていると嘆けばいいのか、複雑だ。
「謝罪でノワールくんのブラックバンドを解くんだー? ねーねー、この人間面白いねー。ノワールくんが飽きたらぼくにくれないー?」
「構わぬぞ」
つまり、もう飽きている。
「いっそのこと冥界所属にでもしておけばどうだ?」
「あーそっか! じゃあそうするー!」
本人の意思そっちのけのフリーレント。
「待て待てぃ! 冥界所属ってことは死んで…うおっ!」
ミコトはなんやかんやと喚いたが、もう遅い。
喚いている間に、ノワールはミコトを床へ大の字に再拘束し、冥王は瞬間移動でミコトに歩み寄る。たったの一歩で数段を降り、座席から窪地の中心へと移動していた。
「え!? ちょっと、いや、離せって!」
冥王は爪の尖った黒い篭手越しに、ミコトの手首を掴んだ。
ミコトが暴れるが、今度のブラックバンドはノワールの本気であり絶対に解けない。そして冥王は何気に怪力である。こちらも絶対にほどけない。
冥王はどこからともなく取り出した注射器をプスッとミコトの前腕に刺す。簡素な浴衣では冥王の注射を防御できない。
血ではない何かを、あっさりと吸い取られた。冥王が席を立ってから、わずか3秒での出来事だった。
「あっ…」
快感に呻くような声を最後に、ミコトはあっけなく絶命した。魂を抜かれたのだ。
「冥王様!?」
これに驚いたのは魔族側である。
ミコトは先ほど、人間界にて魔王が直々に手を下すと決めたところなのだ。それを、冥王といえどこうもあっさり覆して良いものか。所属どうのこうのとは話していたが、屠る許可まではしていないはずだ――
「服はヨレヨレなのに、魂はきれいだねー」
ぐるぐると考えては焦る四天王たちの前で、冥王は手元を見下ろしながらのほほんと言った。
手には透明なシリンジ。筒の中では白く光り輝く小さな球体がふよふよと漂っている。ミコトの魂だ。
「これにぼくの魔力を込めてー」
冥王が唱えた瞬間、白かった球体は紫へと変わる。
「もう一回、プスッとなー」
真紫に変わった光を、冥王は注射器で押し戻す。
すると、なんとミコトに生気が戻った。
「オレ復活ぅ! ……ハッ!」
鬱陶しい言葉とともに、ミコトは目を開けた。
「もう一度眠りについても構わぬが?」
脅……促すノワールはとても良い笑顔だ。
ルイスに似てきた気がする…と、のちにザガンは語る。
「すみませんでしたぁー! って、あれ? オレ生きてんの? 一瞬走馬灯が…」
ミコトはキョロキョロと首を振り、最も近くにいた冥王を見上げて答えを求めた。
「一応、生きてると言えば生きてるかなー? 魂は冥界の所属になったけどねー。まあ、人間でいう、不老不死ってやつー?」
「え? オレすげぇー!」
「ただ代償として、紫になるけどねー」
「え……?」
紫になるとは? 意味を聞き返さずとも、すぐに理解できた。
ノワールが拘束を解いたため、ミコトは体を起こす。まず目に入るのは、浴衣からはみ出た手足。
もともと色白ではなく、むしろ浅黒いほうではあったが、それでも人間らしい肌色の範疇だった肌が……すっかり紫色になっていた。
「ぼくの魔力が混じるとー、なんでも紫になっちゃうんだよねー」
「以前よりも男前になっておるぞ」
「待ってこれ、顔は!? 顔も紫とか言わねぇよな!?」
「強いて言うなら……あ、人間界でいうブルーベリーの色かなー」
「ブルーベリーって、思っきし紫じゃねぇか!」
某チョコレート工場で某ガムを噛んで膨らんだ娘のような全身ヴァイオレット。浴衣も紺色なせいで、より一層全身の紫味を増している。
「死ななくて良かったんじゃね?」
「命あっての物種じゃからの」
基本的には命を奪う側のザガンとデカラビアが隅で密かに話していた。
「戻してくれよぉー! 戻りてぇよぉー!」
「裸を見せる相手もおるまい。不老不死を喜べ」
「そうだよー? 死神くん以外でぼくの配下になるなんてほとんどないんだからー。能力も死神くんレベルに底上げされるんだよー?」
「ほう。それは戦うのが楽しみだな」
「そうじゃんオレ公開処刑されるんじゃん! 絶対休む! その日は絶対風邪ひくからっ!」
「風邪なんかひくわけないでしょー。不老不死なんだよー? 病気も逃げてくんだよー」
「うわーん! 人間に戻りてぇよぉー…」
しくしく泣き始めたミコトを笑う冥王と魔王の態度に、さすがの魔族でもミコトを不憫に思ったが、もちろん何もしなかった。不憫なのと助けるのとは違うのだ。
そしてもちろん、冥王に抗う術などない。
その後も泣き言を言っては魔王と冥王に笑われるミコトをダシにした夜は更け、久しぶりのワルプルギスはお開きとなった。
「また呼んでねー」
「うむ。そなたも息災でな」
「肌色に戻りてぇよぉー…」
冥王は和国に帰りたいとは一切言わないミコトの片足をつかんで引きずりながら冥界へと帰り、ノワールは寮へと転移した。
残された四天王とデカラビアは、今回も無事乗り切れたとほっと息をつく。
イポスはノワールが割った菓子を見て肩を落とし、全員で割れた茶器を確認してから、溜息混じりに掃除を始めた。
一生懸命に作ったイポスとしては、美味しがられていると喜べばいいのか雑に扱われていると嘆けばいいのか、複雑だ。
「謝罪でノワールくんのブラックバンドを解くんだー? ねーねー、この人間面白いねー。ノワールくんが飽きたらぼくにくれないー?」
「構わぬぞ」
つまり、もう飽きている。
「いっそのこと冥界所属にでもしておけばどうだ?」
「あーそっか! じゃあそうするー!」
本人の意思そっちのけのフリーレント。
「待て待てぃ! 冥界所属ってことは死んで…うおっ!」
ミコトはなんやかんやと喚いたが、もう遅い。
喚いている間に、ノワールはミコトを床へ大の字に再拘束し、冥王は瞬間移動でミコトに歩み寄る。たったの一歩で数段を降り、座席から窪地の中心へと移動していた。
「え!? ちょっと、いや、離せって!」
冥王は爪の尖った黒い篭手越しに、ミコトの手首を掴んだ。
ミコトが暴れるが、今度のブラックバンドはノワールの本気であり絶対に解けない。そして冥王は何気に怪力である。こちらも絶対にほどけない。
冥王はどこからともなく取り出した注射器をプスッとミコトの前腕に刺す。簡素な浴衣では冥王の注射を防御できない。
血ではない何かを、あっさりと吸い取られた。冥王が席を立ってから、わずか3秒での出来事だった。
「あっ…」
快感に呻くような声を最後に、ミコトはあっけなく絶命した。魂を抜かれたのだ。
「冥王様!?」
これに驚いたのは魔族側である。
ミコトは先ほど、人間界にて魔王が直々に手を下すと決めたところなのだ。それを、冥王といえどこうもあっさり覆して良いものか。所属どうのこうのとは話していたが、屠る許可まではしていないはずだ――
「服はヨレヨレなのに、魂はきれいだねー」
ぐるぐると考えては焦る四天王たちの前で、冥王は手元を見下ろしながらのほほんと言った。
手には透明なシリンジ。筒の中では白く光り輝く小さな球体がふよふよと漂っている。ミコトの魂だ。
「これにぼくの魔力を込めてー」
冥王が唱えた瞬間、白かった球体は紫へと変わる。
「もう一回、プスッとなー」
真紫に変わった光を、冥王は注射器で押し戻す。
すると、なんとミコトに生気が戻った。
「オレ復活ぅ! ……ハッ!」
鬱陶しい言葉とともに、ミコトは目を開けた。
「もう一度眠りについても構わぬが?」
脅……促すノワールはとても良い笑顔だ。
ルイスに似てきた気がする…と、のちにザガンは語る。
「すみませんでしたぁー! って、あれ? オレ生きてんの? 一瞬走馬灯が…」
ミコトはキョロキョロと首を振り、最も近くにいた冥王を見上げて答えを求めた。
「一応、生きてると言えば生きてるかなー? 魂は冥界の所属になったけどねー。まあ、人間でいう、不老不死ってやつー?」
「え? オレすげぇー!」
「ただ代償として、紫になるけどねー」
「え……?」
紫になるとは? 意味を聞き返さずとも、すぐに理解できた。
ノワールが拘束を解いたため、ミコトは体を起こす。まず目に入るのは、浴衣からはみ出た手足。
もともと色白ではなく、むしろ浅黒いほうではあったが、それでも人間らしい肌色の範疇だった肌が……すっかり紫色になっていた。
「ぼくの魔力が混じるとー、なんでも紫になっちゃうんだよねー」
「以前よりも男前になっておるぞ」
「待ってこれ、顔は!? 顔も紫とか言わねぇよな!?」
「強いて言うなら……あ、人間界でいうブルーベリーの色かなー」
「ブルーベリーって、思っきし紫じゃねぇか!」
某チョコレート工場で某ガムを噛んで膨らんだ娘のような全身ヴァイオレット。浴衣も紺色なせいで、より一層全身の紫味を増している。
「死ななくて良かったんじゃね?」
「命あっての物種じゃからの」
基本的には命を奪う側のザガンとデカラビアが隅で密かに話していた。
「戻してくれよぉー! 戻りてぇよぉー!」
「裸を見せる相手もおるまい。不老不死を喜べ」
「そうだよー? 死神くん以外でぼくの配下になるなんてほとんどないんだからー。能力も死神くんレベルに底上げされるんだよー?」
「ほう。それは戦うのが楽しみだな」
「そうじゃんオレ公開処刑されるんじゃん! 絶対休む! その日は絶対風邪ひくからっ!」
「風邪なんかひくわけないでしょー。不老不死なんだよー? 病気も逃げてくんだよー」
「うわーん! 人間に戻りてぇよぉー…」
しくしく泣き始めたミコトを笑う冥王と魔王の態度に、さすがの魔族でもミコトを不憫に思ったが、もちろん何もしなかった。不憫なのと助けるのとは違うのだ。
そしてもちろん、冥王に抗う術などない。
その後も泣き言を言っては魔王と冥王に笑われるミコトをダシにした夜は更け、久しぶりのワルプルギスはお開きとなった。
「また呼んでねー」
「うむ。そなたも息災でな」
「肌色に戻りてぇよぉー…」
冥王は和国に帰りたいとは一切言わないミコトの片足をつかんで引きずりながら冥界へと帰り、ノワールは寮へと転移した。
残された四天王とデカラビアは、今回も無事乗り切れたとほっと息をつく。
イポスはノワールが割った菓子を見て肩を落とし、全員で割れた茶器を確認してから、溜息混じりに掃除を始めた。
22
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた
みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。
争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。
イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。
そしてそれと、もう一つ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる