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どうも、ワルプルギスです

どうも、招集です

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「ひっ! って、なんだ、あんたかよ…」

「不敬だぞ人間。わざわざ我が迎えに来てやったというに」

「だからそれがいらないって言ってんだよ…」

「何か言ったか人間」

「いえ何も言ってません! わあ、魔王様が直々に迎えに来てくれるなんて光栄ダナー」

 突如として寝所に現れたアゲハに、気配で飛び起きたタケルは眠い目をこすりながらもベッドの横に直立して敬礼した。

 そしてすぐさま身なりを整える……暇をアゲハが与えるはずもない。冷や汗がダラダラ染み込んだ簡易な浴衣のまま強制転移を食らった。

「ったく、久しぶりだねぇ…」

 到着したのは最果ての山と呼ばれる、和国の中でも極東に位置する山の頂上だ。もちろん立ち入り禁止区域。

 山の頂上には、葉の一切生えていない真っ黒な木がぽつんと取り残されている。かなりの大樹で、幹の太さは人間5人が手をつないでも回りを囲みきれないほどだ。実も葉すらもならないため枯れていると勘違いされているが、実はそうではない。

「開け」

「ゴマ!」

 アゲハが木の幹に手をかざして命じたところで、調子に乗ったタケルが割り込んでくる。
 その嬉々とした顔が癪で、アゲハはタケルを顔面から地面にめり込ませた。

 アゲハは和国での演習に勇者捜索に封印解放にと盛りだくさんな1日を過ごしたうえに、和国まで転移でタケルを迎えに来て疲れているのだ。精神的に。これ以上無駄に精神力を削られたくないのである。

 タケルの無様な姿とは関係なしに、幹は黄色く発光し、奥の空間を覗かせた。

 アゲハはタケルの襟首を左手に引きずって木を通過する。この大木こそ、和国にある魔界との連絡橋だ。

「待て待て! 歩くから! 自分で歩くから首がっ!」

 首がもげる! ともがいているタケルを放り投げる。
 タケルは円形の空間のど真ん中に放り出された。完全に見世物である。

「お待ちしておりました、我らが王よ」

 四天王たちの唱和。

「ノワールくん! 帰ってきてくれたんだねー!」

 涙ぐんだ声の冥王は正面のひとつ隣の席からこちらを見下ろしていた。

 冥王は語調こそゆるいが、背中に3対の黒い羽、左右2つの赤い角、黒い鎧のような仮面と、見た目だけならどうにも話しかけにくいオーラを放っている。

「ああ、待たせたな。暇はしなかったか?」

「うん! 君のところの四天王くんが勇者の話をしてくれてたからねー」

「そうか。それなら良かった」

 アゲハ……ノワールがめずらしく気を遣っている。同胞の魂を預けている相手だ。それなりに大切にしたい。

 ノワールは椅子から降りて頭を垂れる四天王の間をすり抜け、階段を上り、冥王の隣に腰かけた。
 これによりノワール、冥王、四天王がタケルを見下ろすように席に着く。席順は扉から時計回りに、イポス、ザガン、ノワール、冥王、バアル、バルバトスだ。

「ではワルプルギスを始めよう。ゲストはそこの人間…ミコトだったか?」

「タケルだ!」

「そうだった。そこの自殺志願の人間だ」

「名前関係ねぇ!」

「我が主、この寝間着の人間は黙らせましょうか?」

 人間界ではボケとツッコミ、魔界ではただの不敬にあたる発言に怒ったバルバトスが、タケルに向かって既に弓を構えていた。

「いや、まだいい」

「ひえっ! だから怖ぇんだって…」

「バアル、この者が魔界にやって来た日を覚えているか?」

 タケルの怯えようをつまみにお茶を飲む宴会が始まった。

「はっ! 勇者として、我々を除く城内の魔族を殲滅させたのち、魔王陛下の御前で『殺してくれ』と叫んでいたと記憶しております」

 バアルはとても優秀だ。8年以上前のことを即答してみせた。

「違っ! あれは地球に戻れるからでっ!」

 焦って否定するタケルは、9年か10年ほど前に召喚された元勇者だ。
 地球に戻りたいがためにノワールに殺されることを望み、ひねくれ者のノワールに見逃された人間でもある。

 それでも数年後、ノワールの気が向いた時に殺される予定だったが……意図しないノワールの転生により生き永らえていた。

「我が君、発言してもよろしいでしょうか?」

 バアルが礼儀正しく挙手する。

「許可しよう」

 ノワールはふんぞり返って腕を組みながらバアルの報告を待つ。

「そのタケルという人間は、我が君の恩情を賜り魔王城から人間界へ帰還したのち、『最後の英雄』と呼ばれるようになっております。我が君が転生させられたことにより、こちらの世界で我が君の魔力反応が途絶えたため、人間どもはそこの人間・タケルが魔王の輪廻を討ち破ったのだと考えた模様です」

「なるほど。我を屠った……魔王の継承を食い止めた英雄で、以降は勇者を召喚せずとも済むゆえ、最後の英雄か」

 魔王は次世代の魔族のうち実力の最も高い者へ継承されるもので、封印はできても絶えることはない。ゆえに魔王の魔力反応は、薄れることはあっても消えることはない。それが世界の常識だ。

 しかし強制転生により、完全にノワールの魔力反応が消失した。そして奇しくも、タケルの生還がタイミング的に合致してしまった。
 それゆえ、タケルはノワールと互角にすら戦えていないにも関わらず、魔王の継承を止めた英雄として、身に余る栄誉を受けていた。

 これでダサいあだ名の由来がわかった。

「勝手に祀り上げられただけで、オレは何もしてねぇ! だから頼む今は殺さないでくれ!」

 我らが王を勝手に死んだことにしておいて、と四天王の視線は冷ややかだ。冥王の視線は仮面で見えないが、黙っているのが怖い。いやそもそも居るだけで怖い。トゲトゲした黒い鎧なのだ。魔王以外は絶対に仲良くできない。

「ほう…。こちらに未練ができたのか」

 合掌しながら土下座する斬新なスタイルで懇願するタケルに、ノワールは紅茶カップをソーサーに置きながら言う。
 これは「その未練とはなんなのか言え」と同義である。

 ちなみに酒ではなくお茶が提供されているのは、ノワールが魔族でいう成人の25歳に達していないからである。魔族だって未成年飲酒はしないのだ。

 さらにちなみに、タケルに茶は供されていない。ゲストといえど所詮はつまみ。つまみの飲む茶はないのである。

 ノワールが気まぐれで探すよりも早く、自ら会いに来てしまったのが運の尽きということだろう。
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