異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、実技演習です

どうも、再会です

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 転移した先は和国の代表的な観光地である、伝統感漂う文化通りでもなく、ティティスの言ったスイーツ店の前でもなく、池からにょろっと長い首を出し赤い目を光らせた竜の真ん前だった。

「へえー、これが竜かあ」

 ミケルが見上げて感嘆の声を上げる。確かにこれはドラゴンとは別種野生物だ。

 麒麟のような顔は多少ドラゴンと似ているが、長い髭と長い首……いや、これは首なのだろうか。見える範囲はすべてにょろっと長く、胴体らしきものは見えない。この長い首が胴体なのかもしれない。
 凶悪な竜の顔まで、ゆうに5メートルは超えている。見上げるこちらの首が既に痛い。

「いきなり目の前!?」

「なんかもっと、準備とか…」

「敵は待ってくれないからね」

 慌てふためくフレイとクレアを諭すルイスはとてもいい笑顔である。わざと驚かせて間抜けな顔を見たかったに違いない。ペタとリズは圧倒されて、声も出せないほど硬直している。

 …ルイスのほうが魔王らしいかもしれない。

「ほら、来るよ」

 ルイスが言った瞬間、青白く輝くブレスが一直線に飛んできた。
 慌てず騒がず、ルイスが結界を張る。

 咄嗟に頭を庇って目を瞑ったフレイたちは、いつまで経っても衝撃が来ないのを不思議に思い、恐る恐る目を開けた。

「【フレアボム】【ダークランス】」

「【アースニードル】【ウインドカッター】」

 薄黄に輝く結界の向こうには、初級中級魔法だけで竜を圧しているティティスとミケルの姿があった。

「す、すごい…」

 ペタが素直に褒めた。

「俺たちがいる限りよっぽどなことにはならないから、安心してやってみて。鱗を10枚剥げばいいからね」

 ルイスの嘘くさい笑みに、フレイたちは勇気づけられた。

「よ、よし。行くぞ! フレア――」

「おら退けーっ!」

 気を取り直して魔法を放とうとしたフレイの射線上に、突如として長い黒髪を後ろで束ねた人影が侵入してきた。腰に差した刀を抜き、竜へ向かって宙を駆けてゆく。

 フレイは咄嗟に魔法の発動を止めた……というよりも、驚いて止めてしまっていた。

 最後列から眺めていたアゲハは、既視感に目を細める。あれは――

「……ミコトか?」

「タケルだ!」

 懸命に思い出したはずだが、地球で聞いた神話やらがごっちゃになったせいで間違えてしまったようだ。

 突如現れた不審な男は、竜に一太刀浴びせようとして、ずっこけた。

「【アクアキューブ】」

 何事もなかったかのように、ペタが竜の顔を水の立方体に閉じ込めた。ゴボゴボと泡が立ち、竜が暴れている。息ができないようだ。

「竜が肺呼吸している新事実…」

 クレアが茫然としながらも真面目そうなことを呟く。

 そのまま竜はうねうねと首を振って暴れたが、窒息して息絶えた。厳つい顔をしておいて、あっけない最期である。

「会ちょ…でき、ました…!」

「え、あ…ああ。すごいね。よくやったよ」

 あまりにもあっけなかったためルイスまで放心状態だったが、ペタの期待の眼差しに応えてしっかりと褒めた。

「……で、アゲハは…その人と知り合いなのか?」

 皆の行動が止まった原因。それはアゲハと男の間抜けなかけ合いにある。
 猛攻をかけていたティティスたちの動きまで、男の乱入で止まってしまっていた。

「知り合い? オレの知り合いにアゲハなんて……あーっ!」

 刀を担いで振り返った男はズカズカと歩み寄ると、アゲハの顔を凝視したところで突然叫び出した。

「な、なんで、こんなとこに、ま……」

「昔の知り合いだ。なあ?」

 魔王が、と言いかけた口を塞ぎ、威圧する。男はコクコクと頷いた。

「昔のって、異世界の?」

「待て、この人、『最後の英雄』じゃないか?」

「英雄…シンボル…持ってる…」

「あ、ほんとね。わかりやすいわ」

 和国の伝統衣装である着物に身を包んだ男は、首に『封魔』『英雄』と書かれた金の紋章を下げていた。

「はあ…。義務じゃなきゃこんなダセェもん付けないんだけどよぉ。ま、バレちゃ仕方ねえ。オレは『最後の英雄』なんてクソダセェあだ名で呼ばれてる、本名ヤマトタケルだ。できればこの場限りでよろしく」

「よろしくする気がないなら名乗らなければいいのにな!」

「変な…人…」

「ぐはぁ!」

 邪気のないフレイとペタにより、見た目だけは侍のタケルはダメージを受け、大袈裟に胸を押さえて吐血した。

「なにか、の病気…?」

「変態よ、変態」

 ペタは引き、リズはタケルと勇者を重ね見て一括りにした。

「ま、まあいい。なんで……とか言ったらぶっ飛ばされそうだし」

 タケルはアゲハを見ながらぶつぶつと零した。

 どうせ「なんで魔王が」と言いたいのだろう。愚民の考えることは皆同じでつまらない。

 アゲハは冷たい目でタケルを見据えた。身長的には見上げられているのに、タケルはなぜか見下されている気分になった。

 寒気のしたタケルは、とりあえずアゲハには触れないことにする。

「あー、んで、オレの用件はそこの竜だ。嬢ちゃん? 坊ちゃん? そこの青いちびっ子が倒したみてえだが、オレが倒したことにしてくれねえか?」

「青い…ちびっ子…」

 性別不詳の子供扱いされたペタはわかりにくく落ち込んでいる。身長が低いのも気にしているというのに、タケルはデリカシーがない。

 しかしながら、危機察知能力だけはしっかりしている。
 さっきから魔力を高めているアゲハを視界から外しているのを見る限り、余計なことを言えば殺られるとわかっているようだ。

「この子はペタだ。最後の英雄といえども、頼み事をするからには態度を改めてもらおうかな。それに、こちらは依頼で来ているんだ。理由を説明してもらいたい」

 ルイスがペタを庇うように歩み出た。

「か、会長…」

 ペタは大きな目をさらに輝かせた。そういうところが「嬢ちゃん」と間違われる所以だろうに。

 サバイバル以降、ペタの中でルイスの株は天井知らずの右肩上がりのうなぎのぼりである。

 タケルはボリボリと粗野な動作で頭を掻いた。

「そちらさんの依頼って討伐?」

「いや、採取だよ」

「なら良かった。んじゃ言わせてもらうと、俺は国から頼まれて、渋々討伐依頼を受けて来たんだよな。だから、もう倒されてたってんじゃ締まらねえんだよ。で……ペタだっけか? あんたの手柄ってのは重々承知なんだが、今回だけ譲ってもらえないだろうか。この通りだ」

 爽やか笑顔なのにどこか笑っていないルイスと、その背後で黒い笑みを浮かべているアゲハの圧力に負け、普段の調子だったタケルは徐々に腰を低くして、最後は土下座した。

「…わかった。許す…。でも、ウロコ…もらう…」

「おう! なんなら全部剥いでってくれ! 倒せてさえいれば竜が禿げてようが関係ねぇからな!」

 ペタが言えば、タケルはケロッと立ち直った。

 フレイやペタが竜の鱗採取に向かうなか、アゲハはすれ違いざまにタケルへ呟く。

「今夜空けておけ。ワルプルギスへ招待してやろう」

「ひえっ! 嬉しくねぇ…いや、慎んで参加させていただきます!」

 アゲハの囁きで最後の英雄タケルは怯えに怯える。

 その様子を見ていたが1年生の採取を監督していたため言葉の聞こえなかったルイスは、親友に初めて彼女ができたかのような複雑な顔をしていた。
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