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どうも、戦闘訓練です

どうも、邂逅です

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 ペタとリズは一歩引いた。
 ほぼシースルー服下着姿の使い魔はもちろん、女型使い魔2体にチュッチュされながらも平然としている勇を変態認定したらしかった。

「………あ、アゲハが引っ越すまで近くに住んでて! アゲハってば小さいうちに引っ越したから!」

 もう答えるのが面倒だと無言を貫くアゲハの代わりに、ザガンが頭をひねった。

 ザガンの慌てふためきようを見ながらも、アゲハは「言い訳を考えなくていいなら楽になるな」などと考えていた。押しつける気満々である。

 アゲハの考えが読めたわけではないが、今後の苦労を察知したザガンの背中に冷や汗が伝った。

「へえ、そうなんだ! アゲハの友達は僕の友達だからね! これからよろしく。えっと…」

「……ザクだ」

 名乗ってもいいものか…と思案するザガンに見かねたアゲハが助け舟を出した。

 残虐の黒蜥蜴ザガンの名前は魔王の右腕として広く知れ渡っている。昨日召喚されたばかりの勇者は当然知らないだろうが、他の面々はよく知っているはずだ。

「そうそうザク! よろしくな勇者!」

 あまりにもザガンのテンションがアホなため、本名でも気づかれなかったかもしれないな、とアゲハは密かに思った。このお調子者がザガンと名乗ったところで、誰も魔界四天王だとは思わないだろう。

「あー、魔法陣から異世界人がってのは、聞いたことねえんだけどな…。まいっか」

 シラだけはどう見てもモブの村人Dなザガン相手に警戒を強めていた…が、警戒するのも面倒臭くなってやめた。さすが、怠惰を極めているだけある。

「ザク? 変わった名前だね。名字は?」

 おちゃらけて手を振るザガンへ歩み寄る勇。友達の友達は友達理論で既に仲良しな気らしい。魔族としては、勇者と友達などまったくもって傍迷惑な話である。

「あー、えーっと、捨てたんだ!」

 名字などという地球の人間の風習をザガンが理解し順応するには、無理がありすぎた。

「捨てた? …そっか、いろいろあったんだね。大丈夫! これからは僕が君を守るよ! よろしく!」

 勝手に憐れみ、同情し、知らないとはいえ敵を守ると宣言する勇。さすがは勇者な光のスピードで無理やり握手しようと手を伸ばし、ザガンの手に触れる――

 寸前。

 かすかに赤い火花が散るのと、アゲハのいる場所から突風が吹くのは同時だった。

 突風が直撃し吹き飛ばされたザガンは、床を何度か転がって、壁際でようやく止まった。巨大な訓練場を端まで飛ばされたため、麻の服が埃まみれになっている。

「……えっ?」

 室内では不自然な風で飛ばされたザガン。方角からして、アゲハが風魔法で飛ばしたとも考えられるが――

「アゲハ…。ザクさんを…?」

「ちょっと! 大丈夫ですか?」

 フレイは風上にいたアゲハに「今のはアゲハが飛ばしたのか?」と聞きたげに首を傾げた。中心部で召喚していた勇者たちから距離を取っていたため、風上にはアゲハ以外に人がいない。
 勘の鋭くないリズはザガンへと駆け寄る。

 ザガンへの心配とアゲハへの疑念が同時に飛び交う中、ド派手に地面を転がった当のザガンは胸を撫で下ろしていた。

 危なかった…。今の勇者に触られたら焦げそうだし。安堵しながら、床にへばりついた無様な体勢で、ダサい格好の勇者を見上げる。

 勇者が崇められるのは、白魔法を使えること以外にもうひとつ理由がある。

 魔界の生物は、魔王を倒すための勇者と決定的に相性が悪いのだ。勇者は魔法ではなく、その体に備わった神聖力で魔物を燃やせる。魔力を使わずして魔物を退けられるのだ。

 さすがに四天王ともあれば燃やされることはないが、自身の魔力すら満足に制御できていない今の勇者に触れられれば、せっかくの人化が解けて大火傷を負う可能性も十分にあり得る。

(ありがとうございます、魔王様)

 ザガンはアゲハへ念話で伝える。

 上級の威力で飛ばされたのは当然痛い。腕にはすり傷切り傷もできた。しかし、ここはアゲハに感謝だろう。
 二度も人化の術を使った直後の疲弊しており、加えて人並みに魔力を抑えた今のザガンでは、仮にも勇者の速度に反応できなかった。

「大丈夫か? 急に飛んでいってびっくりしたぞ」

(油断するな。これでも勇者だ)

 アゲハも駆け寄り、先にリズからハンカチを渡されていたザガンへと手を差し伸べて引き起こす。
 念話では心配の台詞と対照的な叱咤を送った。

 その姿を見てフレイは、あの突風はアゲハとは無関係の偶然だと思い直す。
 だって久しぶりに会えた同郷の人を、いきなり魔法で吹き飛ばす理由がない。

 今…火花が散ったのは見間違いか…? と、やはりシラだけが、無言でアゲハとザガンへの警戒を強めていた………が、やはり面倒臭くなって、警戒を解いた。救いようのない怠惰だった。
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