上 下
8 / 100
どうも、戦闘訓練です

どうも、魔武器生成です

しおりを挟む
「よし、じゃあ説明ついでにファイア、魔武器生成について説明任せたぞ」

「えー」

 嫌そうにするフレイだが、シラのこういう人任せ行為には慣れているようで口答えせず説明を始めた。

「魔武器生成とは、魔石に魔力を流して自分の最も使いやすい武器をつくることです。魔武器と一般の武器との違いは、魔武器は喚び出せば出てくるので常に携帯する必要がない点と、一度生成すると壊れず、壊れても喚び直せば修復されている点です。魔武器生成に用いる魔石は自然界の魔力が石に蓄積したもので、純度によって魔武器の性質も異なります……くらいですか?」

「おし、というわけだからこの魔石に各自魔力を流せ~」

 説明をすべてフレイに押し付けたシラが手のひらに収まるサイズの黒っぽい石ころを掲げて見せる。

「フレイってバカじゃないんだな」

 強化生成の説明は抜けているが、もしかすると人間界では知られていないことかもしれない。
 アゲハは、他の説明は概ねできていたしな…と黙っておくことにした。

「フレイはテンションがバカなだけだから、頭はバカじゃないんだ」

 アゲハに答えるクレアは真面目そのものだ。

「そうそう…って、テンションがバカってなんだよ⁉」

「ほら」

「そういうとこ…」

「バカっぽいのよ」

 クレア、ペタ、リズのナイスコンビネーション。
 フレイは崩れ落ちた。

「さ、魔石取りに行こうぜ」

 クレアは何事もなかったかのように続ける。
 これがこの4人のデフォルトなのだろう。

「あ…ボク、あの中行きたくないかも…」

 ペタが指差す先には、シラが――厳密には魔石に群がるクラスメイトがいた。

 そこへ勇者と取り巻きも混ざって、どさくさに紛れてボディタッチをしたりさせたり…と、カオスなことになっている。

「あれは…嬉しくないな」

「痴女ね、痴女」

 何人もの女子が群がって、勇に自分の体の凹凸を押しつけ触らせ…という光景に、クレアは目を細め、リズは貴族の恥だと吐き捨てた。

「あー、シラ先生! 5つ投げてください!」

 見かねたアゲハは少し大きめの声でシラに頼んだ。

 石を自力で転移させる手もあった。しかしアゲハたちは、まだ魔力コントロールができないからと年下のクラスへ編入させられた身だ。ならばこういうときはやってもらうに限るだろう、と、設定を思い出したのであって…。

 …面倒だからやってもらおう、と思ったわけではない。そう、そんなわけではない。

 アゲハにも怠惰が感染し始めたところで、手元に寸分の狂いなく魔石が飛んできた。それも、きちんと5人それぞれの手元に投げられている。

「あの人ごみの中から…」

「すごいわね…」

 ペタとリズに、アゲハは心の中で同意する。
 シラはやはり、なかなかの実力者のようだ。

「じゃあやろうぜ」

 何事もなかったかのようにクレアが言う。

 クレアの順応性は高すぎるな。俺が魔王だと明かしても驚かないかもしれない…。なかなかに面白い。

 暇つぶしが残念勇者しかなかったアゲハは、面白いことに飢えていた。

「力を込めるというより、魔力を馴染ませるんだよな…」

 フレイが呟いて、集中し始めた。それを皮切りに、それぞれが慎重に魔力を込め始める。アゲハも手の中の石に目線を落とした。

 さて、どうしたものか…。一応属性は闇と自然系、時として様々と設定しようかと思うから、ここはやはり闇で行くべきだろうか。光や自然系だと、奴と被りそうで嫌だしな…。

 などと考えているうちに魔力を込めすぎ、魔石は砕けた。
 魔王の魔力なのだ、魔石とはいえただの石ころが耐えられなくて当然である。

「アゲハ! 俺、新しいのもらってくる!」

 アゲハの白い手のひらの上で粉々になっている魔石だったものを見て、フレイが慌てる。

 お前のようなお人好しは、嫌いではないぞ。

 アゲハの気持ちが傾いた。

 それなりに気に入った人間は、それなりの扱いをしてやろう。

 決めたアゲハは爽やかな笑顔を浮かべ、今にも走り出しそうなフレイを引き止めた。

「大丈夫、まだ使える」

 大量の魔力を流し破壊した魔石にさらに魔力を流すと、砕けた魔石が溶けて液状になり、それが集まって再び固体として定着することで純度のより高い魔石となる。
 その魔石で魔武器生成を行うのが、先程のフレイの説明からは抜けていた魔武器の強化生成だ。

 強化生成をやはり知らなかったようで、フレイは動揺している。

 良かろう。ではその目の前で、わざわざ強化生成を見せてやる。
 久しぶりにアゲハの胸が高鳴った。

 とはいえ、剣や魔剣は気分で使い分けられるくらい持っている。何を作るか…異世界ファンタジー…現実…歴史…。

 強力な紫の光が辺りを包んだあと、連想ゲームをしていたアゲハの手にあったのは白と黒2本の刀だった。
 鞘から抜くと、刀身が黒紫に妖しく輝く。闇の属性魔力が込められている証拠だ。

「ほら」

 砕けた魔石でもできただろう、とアゲハは首を傾げてみせる。

 一瞬の沈黙。

 そして。

「すげえー!!」

「これは…強化生成か? 初めて見た…」

「ボクもやりたい…」

「なんて魔力なの…」

 フレイ、クレア、ペタ、リズまで、全員が自分の生成を中断して見ていた。

 それぞれバラバラな反応をしているが、唯一クレアだけは強化生成の知識があったようだ。人間界ではまったく知られていない、というわけではなかったらしい。

「おい誰だ~強化生成したやつ~」

 シラの問いかけ。
 しかしその瞬間に、まばゆい光が辺り一帯を包んだ。

 ………………言わずもがな、残念勇者だ。

 魔力の制御ができず、結果的に強化生成となっていた。

「フハハハハッ! さすが」

 勇者なだけあって世界の勇者補正は凄まじいようだ。あんな奴でも強くしたいらしい。

 まあいいさ。少しくらい強くないと、張り合い甲斐がない。
 アゲハは腹を抱えて笑いながら、一応横目で状況を確認した。

 横でフレイたちが目を丸くしていた。
 アゲハのフハハ笑いを初めて見るからだろう。

 人間どもの感想などどうでも良い、と気にせずもう一度笑って、腹がよじれそうになってから、アゲハはようやく笑いを収めた。

 勇者の取り巻きたちが口々に囃し立てて騒いでいるため、アゲハが派手に笑ったところで近くの者にしか聞こえない。
 それに、そもそも結界がある。クラスメイトの大半はアゲハが笑ったことすら知らないだろう。

「…アゲハ…そっちが本性?」

 笑いが治まった頃に、ペタが青い髪を揺らして問いかけた。引き気味だ。リズも困惑顔をしている。

「ん? ああ、そうそう」

 アゲハはテキトーに答える。

 やはり繊細で爽やかな好青年というキャラには無理があった。地球ではまだ頑張れたが、自分の世界に帰ってくると、どうしても元の性格が出てしまう。

「なんだ、普通で良かったのに! 遠慮するなよ!」

 フレイがアゲハの肩を抱く。
 友達だろ? という意味らしい。端的にいえば、暑苦しい。アゲハは回ってきた腕をさりげなく落とした。

「じゃあそうさせてもらおうか。よく偉そうって言われるからさ」

 言い訳を並べる。
 結界を破った相手には弁舌で勝負するしか…ないわけではないが、今はそうしている。

「別に良いわよ、それくらい…。よし、わたしも強化生成できたわ」

 俺よりも魔武器に興味津々とは変な女だ、とアゲハは興味深く思った。

 もちろん恋愛感情などというものではない。
 この4人の中で、リズはわずかながら実力で劣る。それなのにクズ避けに引っかからなかったのはそういうわけか、と納得していたのだ。

 澄ました顔で生成を終えたリズだが、強化生成できたことは嬉しそうだ。

 フレイやクレアには及ばず、アゲハ基準では底辺だとしても、初めての強化生成を一度でできる者は少ない。人間としては、リズもそれなりの実力者だと言える。

 リズの両手には、鍔の部分に雪の結晶の彫刻が施された細剣があった。

「スピアーよ、よろしくね」

 名前を付けなければ能力がわからないんだった。

 武器に名を付け挨拶するという一見妙なリズに、アゲハは昔の記憶を掘り起こす。

「じゃあお前らは、白い方が沖田で黒い方が斎藤な」

 他意はない。

「和国の人名みたいだな」

 自らも強化生成を終えたクレアの冷静なツッコミ。

 クレアの手には身長を超える長さの杖があった。単なる木のようだが、先には術式が既に組まれている。高性能な後方支援型の魔武器だ。

 アゲハはまた昔の記憶を探る。和国…そういえばこっちにも地球の日本みたいな国があったな、と思い出す。東の果てにあり、魔界との交流もあったはずだ。

 ただ、今はそれよりも魔武器についてだ。

「クレアのは原田にでもするか?」

「…よくわからんがやめておく。アゲハに笑われそうだ」

「それは残念」

 少しも残念だと思っていない様子でアゲハは肩をすくめる。

「アゲハ…良い性格だな」

「だろ?」

 ひねくれている、と暗に言ったクレアだが、アゲハは「性格が良い」という意味だと解釈することにする。
 そのくらいの傲慢さがなければ魔王など務まらない。

 ――アゲハは神に逆らっただけだ。

 他の歴代魔王だって傲慢だったが、神には歯向かわなかった。
 それが歴代魔王とアゲハ、いやノワールとの違いだ。

「俺たちもできたぜ! フェニックスだ!」

「ボクも…ルナだよ!」

 刀身に焔をまとう大剣を見せるフレイと、アーチェリー競技用に近い形状の弓をもつペタ。

「へえ、すごいな」

「すごいな、全然すごそうに聞こえないぞ」

 感嘆の声を上げたアゲハに、またもクレアの冷静なツッコミ。

 魔王なのだからこの程度の武器で驚くはずはない。なんなら同じようなものはいくつも持っている。

 談笑していると、別の場所で「シャイニングサン!」と勇が叫んだのが聞こえた。

 直訳すると、太陽の光の太陽…。

 またしてもアゲハは笑いを堪えられなかった。

 あまりにも勇者の両手剣が光るので、勇は仕舞えとシラに怒られている。
 その光景に加速するアゲハの笑い声。

「アゲハ…こんなに笑うのね…」

「ボクちょっと怖いかも…」

「笑うと腹筋が鍛えられるよな!」

「アゲハの性格が掴めん…」

 引き気味なリズとペタに、快活だがどこかおかしいフレイ、顎に手を当てて悩むクレア。

 ペタの感想がある意味で1番正しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

処理中です...