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どうも、四天王です

どうも、四天王です

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 と見せかけて、俺は魔界に来ている。

 ベッドで眠っているのは俺の分身、とも呼べない、魔力を流しただけの布団の塊だ。
 魔力感知できるような強者は俺が部屋で眠っていると疑わないだろうし、万が一誰かが様子見に部屋を訪ねてきても、幻影魔法で俺に見えるようにしてある。

 闇魔法でも上級にあたる幻影魔法を使ってやるとは、我ながら人間風情への対策としては十分すぎる…とは思うものの、ほとんどの人間が外見で個体を見分ける中で、一部の優れた人間は魔力で個体を識別するからな。その対策としては致し方ない。

 今の俺はあくまで勇者に巻き込まれた異世界人という、か弱く王国の庇護を要する立場。俺が消えれば不審に思われる。
 俺は目立たずにいたいのだ、奴の最期の瞬間までは。

 さて。

 魔王城に転移し、空席になっている玉座の肘掛けをなぞる。
 赤と金の配色はやはり、暗い魔界では目立つな。満足して座る。人間としての在華覇は目立ってはいけないが、魔王たる俺が隠れる必要は塵ほども有りはしない。

「戻ったぞ」

 呟けば、一斉に眼下へ転移してきた者たちから様々な属性の魔法が放たれる。その数は数百を超える。

「随分とご挨拶だな」

 威力を倍にして、黒魔法を混ぜて返してやる。魔法の指揮権は俺が乗っ取ったので解除できない。炎を吐いたやつは真っ黒な業火に焼かれ、電撃を飛ばしてきたやつは同じく真っ黒な雷撃に打ちのめされている。
 ぼろぼろに衣と身を焦がしながらも立ち上がったやつらは、我が愛すべき同胞、俺の旧友たちだ。

「久しいな我が友よ」

「お久しゅうございます我が君」
「案じておりました、我らが王よ」

 数段高い玉座の下に集うは、懐かしき魔族たちだ。その先頭、玉座の一段下には、人間どもから「魔界四天王」と呼ばれ怖れられている、魔界でも飛び抜けた実力者たちがいる。

 実質俺に話しかけられるのは四天王くらいだな。他は畏れ多いとあまり近寄って来ない。
 先程の攻撃は全員から飛来したがな。

「僭越ながら、ご不在の間にお力が弱っていないかと」

 2本の太い角を生やした人間型の、しかし両肩からそれぞれ蛙と猫の首が生えているバアルは、嗄れた声に似合う心配性ぶりを見せる。

「しかしどうやら…極悪さが増したようで」

 鷲の脚、兎の尾、獅子の頭を持つ魔界の天使、イポスは歯に衣着せぬ物言いで俺を困らせた。

「極悪? 優しいの間違いであろうに。これでも我は丸くなったぞ」

 そういえば下僕にも似たようなことを言われたな。不本意なので訂正しておこう。

 大勢の前だと無意識に威圧モードになってしまうのは癖だな。

「丸く⁉ いや失敬、ノワール様はいつもお優しゅうございます」

 少し殺気を飛ばせば大人しくなったのは、人間であれば幼馴染とも呼ぶだろう間柄のザガン。

「実力も落ちていない、どころか、かなり向上しておられるようで、安心いたしました」

 この場で唯一とも呼ぶべき諫め役のバルバトスは、構えていた弓をゆっくりと下ろした。

 バルバトスは強制転生前に行った俺の人間界進撃をやめさせた者だ。
 あの頃は若気の至りというか、子供の体に魔力が入り切らずに暴走して、その発散先が欲しかっただけなんだよな。実際人間界なんて手に入れてもつまらんし、8割壊滅程度で十分だ。
 前世で一度世界を魔界に落としたことがあったが、仕事が増えて面倒だしつまらんしで、そのときも人間界は解放してやった。

 そう、俺には前世の記憶がある。さらに歴代魔王よりも強力な魔力がある。
 だからこそ神は魔力が増幅する成長期に俺を魔法のない世界に転生させたのだろう。

 ただ、向こうでは魔法が使えないだけで成長期は通常通り訪れ、蓄積された分だけ魔力は増幅した。恐らくこちらにいる以上に俺の魔力は増えることとなっただろう。神の誤算だな。

「すべてさておき…」
「おかえりなさいませ、我が王よ」

 全員が唱和する。轟音に城が揺れているようだ。もちろんそれほど軟弱な造りにはなっていないが、だからこそ強く反響している。魔界全土へ響き渡りそうだ。

「ああ、今日再びこの座に舞い戻ったぞ…」

 ん? 見ない間に見ない顔がいるではないか。
 だが今は関係ない。

「して、誰の魔力が魔王復活と認識されたのだ?」

 そう死刑宣告でもされたかのような顔にならんでもよい。可愛い我が同胞を、たかが人間に勘違いされたくらいで処罰などせん。

「実は…」

「ケルベロスと下僕様が、魔界樹の実を取り合いまして…。城の一部を破壊してしまったのです」

「それを修復した私の魔力に反応されてしまったのかと…。何分、大規模でしたので」

 バアルとザガンが、互いをちらちらと見遣りながら交互に奏上した。

 なるほど。バアルの魔力であれば魔王と思われるのも無理はないか。魔界では俺に次ぐ膨大な魔力の持ち主だからな。

 ちなみに「下僕様」とは、俺の使い魔であるブラックドラゴンの長の名前だ。正しくは「下僕」。同胞たちは俺のペットだからとわざわざ「様」を付けて呼んでいる。ケルベロスは魔王のペットだが、魔王城の番犬でもあるので「様」は付かない。

 それにしても、バアルが改修しなければならぬほど俺の城を壊したとは…ペット1号2号には仕置が必要だな。

 俺は溜息をつく。それだけで四天王らの後ろに控える同胞たちが震え上がった。だからそこまで怖がらなくとも良いと言っておるに。

「ならば良い。ケルベロスと下僕は3日間おやつ抜きにでもしておけ」

「ははあ」

 バアルらは首の皮一枚つながったとでも言いたげに、無駄に恭しく跪いた。
 俺は組んでいた脚を下ろし、ゆったりと立ち上がる。

「見ての通り、我は帰還した。だがまた暫し出かけてくる。何かあれば知らせるが良い。とはいえ我は魔界の状態を常に把握している。ゆえに緊急時のみ連絡せよ。遊びにくるのは良いがな…」

「魔王様、何処へ…?」

 我が同胞たちが口々に俺を求めるのは愛らしいな。その姿がたとえ異形だとしても。

「勿論、勇者で遊んでくるのだ…。ただ迎えるだけではつまらぬであろう?」

 すると四天王まで口々に自分も行きたいと言い出した。やはり我が同胞は人間なんぞより余程素直で愛らしい。

「駄目だ、そなたらの外見で人間を驚かせてしまっては面白くない。人間は外見でものを判断するからな…」

 告げると、見るからにしょんぼりしている。骸骨まで項垂れているのは、不気味を通り越して可愛いな。

「そなたらは此方にて、遠くない未来に来る襲撃に備えよ。良いな?」

「ははあ」
「我らが王の、仰せのままに…」

 謁見の間がびっしりと埋まるほどの魔族が頭を垂れる光景は圧巻だ。

 今は魔界中の魔族が城に集っているようだから、部屋に入り切らなかった者は城の外まで列を成している。
 拡声魔法で響かせたから問題はないだろうが、本来暴れたがりなのが魔族だからな。この牽制はいつまでも保つまい。人間界に攻め入る一派も出てくるだろう。

 そんなときにあの馬鹿勇者はどう対応するかな?

 対応次第では、……………

「フハハハハハハハッ!」

 俺の笑い声に呼応して、雷鳴が轟き、地が割れる。津波が起こり、森を薙ぐ。

 俺は一頻り笑ってから、俺が寝ているはずの寝室へ転移した。

「やっぱ魔王様、性格歪んだよな…」

 幼い頃を思い出して遠い目をするザガン。

「それでこそ我が君だろう」

 魔界の主の帰還に安堵するバアル。

「ま、これで当分魔王の座争いはしなくていいな。ノワール様に比べたら我らなど等しく塵だからな」

 頭の後ろで腕を組んだイポス。

 それに同意したバアルに、

「比較することすら不敬だぞ」

 諌めるバルバトス。

「いや、すまない」

 バアルは軽く謝罪し、王の出かけた地上へと思いを馳せる。

 そんな会話が為されていたことは知らず、俺は今度こそ眠りについていた。
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