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ホワイトデー if Coffee Candy
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「バレンタイン? ホワイトデー? くだらない。全ては製菓業界の陰謀だろ。はっ、この時期どれだけ菓子が売れるのか統計を取るのも悪くは無いな。どれだけ国民が企業に掌の上でコロコロと踊らされてるのか分かる事だろう」
そんな風に嘲笑混じりにひねくれた台詞を吐き捨てる。
これが毎年の冬真の姿だった。
そして、それは今年も変わらない、筈だった。
「これは・・・・・・何だ?」
綺麗にラッピングされた包、黒いシックな包装紙とお揃いの柄の手提げ袋、明らかにプレゼントだと分かるそれを前に冬真は信じられないという顔で見詰めていた。
「俺は・・・・・・何故こんな物を買ってしまったんだ?」
それは間違いなく冬真自身が買った物だった。
だが、いつもの冬真ならそれは有り得ない事項だった。
何となく、立ち寄った雑貨店、その一角にこれみよがしに置かれたホワイトデーの菓子や雑貨、そこに立ち止まってしまったのがいけなかった。
「ホワイトデーか」
そこにはクッキーやキャンディ、マシュマロやマフィン等、色とりどりの包装紙に包まれたお菓子が並んでいた。
「ふん、くだらないな。バレンタインにホワイトデー、俺はそんなものに振り回されなどしない」
そう呟いてその場を去ろうとした。
だが、そこでバレンタインの日の事をぼんやりと思い出した。
毎回ホワイトデーのお返しを面倒に思い、回避するべくバレンタインデーでは甘い物が苦手という理由を武器にチョコレートを受け取る事を拒否してきた。
しかし、冬真はほのかからのチョコレートを食べていた。
正確に言うとほんの一欠片に過ぎなかった。
「あれは貰った事になるのか? バカな、ほんの少し齧った位じゃないか」
冬真は今度こそ立ち去ろうとした。
「ねー、うちの彼氏バレンタインのお返し毎年くれないんだけど~、マジありえなくなーい?」
「はあー? 超サイテー」
通りがかりの女子高生達がそんな会話をしていて冬真はまたも足を止めた。
「くっ・・・・・・」
もしも・・・・・・、何もお返しをしなかったらあんな風に軽蔑されるのだろうか? もしもホワイトデーに何かをあげたら、喜んでくれるだろうか?
そんな風に冬真はらしくもなく思いを巡らせ、気が付くと菓子を一つ手に取りレジに向かっていた。
冬真は教室の席に着き、カバンの中の手提げ袋を見た。
つい買ってしまったが、渡すのが一番の問題だった。
今まで陽太には散々企業の策略だとバカにしてきた手前、絶対に知られたくなかった。
しかも、周りの女子にバレれば面倒な事になるのは分かりきっていた。
「よう、冬真!」
何とかしてほのかにこっそりと渡す必要があると考えていた矢先の事だった。
陽太が冬真の肩を叩き、その拍子に驚いた冬真は鞄を床に落としてしまった。
散らばるノートや教科書と共に手提げ袋が転がった。
しまったと思った時にはもう遅かった。
「ん、冬真それ、まさかホワイトデーの?」
冬真は素早く床に散乱した物を拾い、真っ先に手提げ袋を鞄にしまい込んだ。
「そんな訳ないだろ」
「え? だってそれ」
まだ執拗に聞いてくる陽太に対して冬真はギロリと睨みつけた。
「そんな訳、ないだろ? お前は何も見なかった。きっと幻でも見たんだろう。ああ、いい眼科なら紹介しよう。それとも精神科がいいか?」
「わ、悪かったって、もう何も言わないから!」
やっと大人しくなった陽太に冬真はほっと息をついたが、クラスに居た女子は一連のやり取りを見逃さなかった。
「ねえ、見た今の! 氷室君がホワイトデーのお返し用意してた」
「誰にあげるんだろう?」
「嘘でしょ? 中学の頃からチョコ受け取らないから誰にもお返しした事ないって有名なのに」
クラスのざわめき、獲物を狙う様な女子の鋭い視線、冬真が誰にそれをあげるのかと皆が注目した。
冬真は嫌な予感が的中してしまった事に対して溜め息しか出てこなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・勘違いするなよな! 第一にこれは自分用に買った物だ。第二にこれは菓子じゃない! 俺は甘い物は好きじゃないからな」
冬真は無理矢理嘘を述べてみたが、周りの疑いの目は変わらなかった。
その日冬真は一日中女子からの好奇の視線に晒されていた。
好奇心、期待、羨望、その一つ一つが針の様に突き刺さり、冬真にとっては不快で仕方がなかった。
さっさと渡してしまいたかったが、それを誰かに見られるのも気が引けて、結局はそのまま放課後になってしまった。
そして、気が付くと冬真は帰宅するほのかの後を追っていた。
「俺は何をやっているんだ?」
これではバレンタインの時と逆の立場だった。
だが、このまま本当に家までついて行ったならストーカーと同じだ。
そう思った冬真はほのかの元へと走ると後ろから腕を掴んだ。
いきなりの事に驚いたほのかは真ん丸な瞳で振り返った。
「月島さん、ちょっといいか」
冬真はほのかの手を取り人気のない公園へと連れて行った。
そこは遊具がなく、桜の木に囲まれた場所に東屋があった。
冬真がそこのベンチに腰掛けるとほのかもその隣に腰掛けた。
どう切り出していいか分からない冬真は視線を彷徨わせた。
辺りの木は枝に蕾を付けていたが、綺麗に咲き誇るにはもう少しといったところだった。
【いいお天気】
ほのかはニコリと笑って世間話の常套句みたいな台詞をスケッチブックに書いた。
だが、回りくどい事をしても仕方がないと思った冬真はほのかの前に一日中隠してきたそれを差し出した。
だが、ほのかはそれが何か分からないとでも言いたげな顔でただただ目の前の紙袋を見詰めていた。
「ちょっと、俺の腕が痙攣するのを待つつもり? さっさと受け取ってくれ」
【ありがとう】
「・・・・・・勘違いするな。別にそれはバレンタインのお返しなんかじゃないからな。そもそも、俺は一欠片しか食べてはいない」
冬真は頬をほんの少し赤らめながら言い訳を述べたが、ほのかは全く気にもせず、クスリと笑って紙袋を受け取った。
ほのかは黒いストライプの手提げ袋から中身を取り出してみると袋と同じ柄の包装紙に包まれた円柱形の筒が出てきた。
更に包装紙を取ると茶色や黒い色をした飴玉が入った瓶が出てきた。
【なんかオシャレ】
「そうだな」
冬真は中身を良く見ず買ったので、瓶に飴玉が入っている事も知らなかった。
キラキラと目を輝かせながら瓶を見詰めるほのかを見て、冬真は柔らかく微笑んだ。
「見てばっかじゃなくて食べてみれば?」
【そうする!】
ほのかは瓶の蓋を開け、瓶を傾けると掌にコロリと黒い飴玉が転がった。
それを口の中へと放り込むと苦味が口に広がった。
深くて、香り高くて、コクがあり、目の覚めるような苦味、ほのかはその味に覚えがあった。
【コーヒーの味がする】
「そうか」
冬真はほのかの言葉で自分が買った物がコーヒー味の飴である事を初めて知った。
ほのかは口の中で飴を転がし続けてると苦い飴の中からとても甘いクリームが出て来た事に驚いた。
【最初は苦かったけど、後からクリームの層が出てきて甘くなった! 何だか氷室君みたい】
「そうなのか? 俺がその飴と似てるというのは良く分からないが」
コーヒーみたいに苦くて、クールでツンツンしているように見えるが、本当は深く付き合っていくと砂糖の入ったクリームみたいに甘い所もある。
ほのかはどうしたらそれが伝わるだろうかと考え、そして閃いた。
【良かったら一つ食べてみて。あんまり甘くないから氷室君でも食べられる気がする】
「いや、俺は別に要らない・・・・・・」
しかし、ほのかは期待の眼差しで冬真を見詰めた。
「要らない・・・・・・」
それでもほのかは更に熱い眼差しで見詰めた。
「ぐっ・・・・・・分かったよ。食べればいいんだろう」
冬真は根負けして瓶から一つ飴を取り出した。
その飴を口にすると冬真はコーヒーよりも苦そうな顔をした。
「月島さんに騙された。これ、結構甘い」
【え!!】
全く騙す意図がなかったほのかは驚いた。
「これ、月島さんが食べたのとは違う種類の飴みたいだ。多分カフェオレ味」
ほのかは改めて瓶に付いているタグを見た。
そこにはカフェオレ味やエスプレッソコーヒー味、カフェモカ味やキャラメルマキアート味等、色んな種類の飴が書かれていた。
【いいなぁ、そっちの味も気になる】
「ふうん・・・・・・」
冬真は何か思いついたと言わんばかりの含みのある顔をした。
「じゃあ、食べる?」
気が付くと、ほのかの目の前には冬真の顔が至近距離にあった。
ほのかがその事に気が付いた時には既に遅かった。
ふわりと冬真の口から甘い香りが漂い、ほのかは体をギクリと強ばらせ、その場から動けなくなった。
まさか、口移しでもされるのだろうかとほのかは緊張からギュッと目を閉じた。
鼓動が早くなる。
少しずつ近づいてくる冬真の気配、より濃くなるコーヒーの香り、唇に何かが触れたと思った時、ほのかは目を開いた。
「なんてな、冗談だ」
唇に押し込まれた硬い触感、それは唇ではなく冬真が新しく開けたカフェオレ味の飴玉だった。
本当にキスされてしまうのではないか思っていたほのかは、未だに心臓がバクバクし、顔を真っ赤にさせた。
【甘い】
ほのかはスケッチブックにそう書き、真っ赤な顔をそれで隠した。
「全く、少しは抵抗しろよ。・・・・・・本当にしそうになるだろ」
冬真はほんの少し顔を赤らめ、口元を隠してそう言った。
【今なんて?】
「・・・・・・・・・・・・何でもない」
ほのかは冬真が何と言ったか気になったが、今は赤い頬と煩い心臓を鎮めるので頭の中はいっぱいいっぱいになっていた。
そんな風に嘲笑混じりにひねくれた台詞を吐き捨てる。
これが毎年の冬真の姿だった。
そして、それは今年も変わらない、筈だった。
「これは・・・・・・何だ?」
綺麗にラッピングされた包、黒いシックな包装紙とお揃いの柄の手提げ袋、明らかにプレゼントだと分かるそれを前に冬真は信じられないという顔で見詰めていた。
「俺は・・・・・・何故こんな物を買ってしまったんだ?」
それは間違いなく冬真自身が買った物だった。
だが、いつもの冬真ならそれは有り得ない事項だった。
何となく、立ち寄った雑貨店、その一角にこれみよがしに置かれたホワイトデーの菓子や雑貨、そこに立ち止まってしまったのがいけなかった。
「ホワイトデーか」
そこにはクッキーやキャンディ、マシュマロやマフィン等、色とりどりの包装紙に包まれたお菓子が並んでいた。
「ふん、くだらないな。バレンタインにホワイトデー、俺はそんなものに振り回されなどしない」
そう呟いてその場を去ろうとした。
だが、そこでバレンタインの日の事をぼんやりと思い出した。
毎回ホワイトデーのお返しを面倒に思い、回避するべくバレンタインデーでは甘い物が苦手という理由を武器にチョコレートを受け取る事を拒否してきた。
しかし、冬真はほのかからのチョコレートを食べていた。
正確に言うとほんの一欠片に過ぎなかった。
「あれは貰った事になるのか? バカな、ほんの少し齧った位じゃないか」
冬真は今度こそ立ち去ろうとした。
「ねー、うちの彼氏バレンタインのお返し毎年くれないんだけど~、マジありえなくなーい?」
「はあー? 超サイテー」
通りがかりの女子高生達がそんな会話をしていて冬真はまたも足を止めた。
「くっ・・・・・・」
もしも・・・・・・、何もお返しをしなかったらあんな風に軽蔑されるのだろうか? もしもホワイトデーに何かをあげたら、喜んでくれるだろうか?
そんな風に冬真はらしくもなく思いを巡らせ、気が付くと菓子を一つ手に取りレジに向かっていた。
冬真は教室の席に着き、カバンの中の手提げ袋を見た。
つい買ってしまったが、渡すのが一番の問題だった。
今まで陽太には散々企業の策略だとバカにしてきた手前、絶対に知られたくなかった。
しかも、周りの女子にバレれば面倒な事になるのは分かりきっていた。
「よう、冬真!」
何とかしてほのかにこっそりと渡す必要があると考えていた矢先の事だった。
陽太が冬真の肩を叩き、その拍子に驚いた冬真は鞄を床に落としてしまった。
散らばるノートや教科書と共に手提げ袋が転がった。
しまったと思った時にはもう遅かった。
「ん、冬真それ、まさかホワイトデーの?」
冬真は素早く床に散乱した物を拾い、真っ先に手提げ袋を鞄にしまい込んだ。
「そんな訳ないだろ」
「え? だってそれ」
まだ執拗に聞いてくる陽太に対して冬真はギロリと睨みつけた。
「そんな訳、ないだろ? お前は何も見なかった。きっと幻でも見たんだろう。ああ、いい眼科なら紹介しよう。それとも精神科がいいか?」
「わ、悪かったって、もう何も言わないから!」
やっと大人しくなった陽太に冬真はほっと息をついたが、クラスに居た女子は一連のやり取りを見逃さなかった。
「ねえ、見た今の! 氷室君がホワイトデーのお返し用意してた」
「誰にあげるんだろう?」
「嘘でしょ? 中学の頃からチョコ受け取らないから誰にもお返しした事ないって有名なのに」
クラスのざわめき、獲物を狙う様な女子の鋭い視線、冬真が誰にそれをあげるのかと皆が注目した。
冬真は嫌な予感が的中してしまった事に対して溜め息しか出てこなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・勘違いするなよな! 第一にこれは自分用に買った物だ。第二にこれは菓子じゃない! 俺は甘い物は好きじゃないからな」
冬真は無理矢理嘘を述べてみたが、周りの疑いの目は変わらなかった。
その日冬真は一日中女子からの好奇の視線に晒されていた。
好奇心、期待、羨望、その一つ一つが針の様に突き刺さり、冬真にとっては不快で仕方がなかった。
さっさと渡してしまいたかったが、それを誰かに見られるのも気が引けて、結局はそのまま放課後になってしまった。
そして、気が付くと冬真は帰宅するほのかの後を追っていた。
「俺は何をやっているんだ?」
これではバレンタインの時と逆の立場だった。
だが、このまま本当に家までついて行ったならストーカーと同じだ。
そう思った冬真はほのかの元へと走ると後ろから腕を掴んだ。
いきなりの事に驚いたほのかは真ん丸な瞳で振り返った。
「月島さん、ちょっといいか」
冬真はほのかの手を取り人気のない公園へと連れて行った。
そこは遊具がなく、桜の木に囲まれた場所に東屋があった。
冬真がそこのベンチに腰掛けるとほのかもその隣に腰掛けた。
どう切り出していいか分からない冬真は視線を彷徨わせた。
辺りの木は枝に蕾を付けていたが、綺麗に咲き誇るにはもう少しといったところだった。
【いいお天気】
ほのかはニコリと笑って世間話の常套句みたいな台詞をスケッチブックに書いた。
だが、回りくどい事をしても仕方がないと思った冬真はほのかの前に一日中隠してきたそれを差し出した。
だが、ほのかはそれが何か分からないとでも言いたげな顔でただただ目の前の紙袋を見詰めていた。
「ちょっと、俺の腕が痙攣するのを待つつもり? さっさと受け取ってくれ」
【ありがとう】
「・・・・・・勘違いするな。別にそれはバレンタインのお返しなんかじゃないからな。そもそも、俺は一欠片しか食べてはいない」
冬真は頬をほんの少し赤らめながら言い訳を述べたが、ほのかは全く気にもせず、クスリと笑って紙袋を受け取った。
ほのかは黒いストライプの手提げ袋から中身を取り出してみると袋と同じ柄の包装紙に包まれた円柱形の筒が出てきた。
更に包装紙を取ると茶色や黒い色をした飴玉が入った瓶が出てきた。
【なんかオシャレ】
「そうだな」
冬真は中身を良く見ず買ったので、瓶に飴玉が入っている事も知らなかった。
キラキラと目を輝かせながら瓶を見詰めるほのかを見て、冬真は柔らかく微笑んだ。
「見てばっかじゃなくて食べてみれば?」
【そうする!】
ほのかは瓶の蓋を開け、瓶を傾けると掌にコロリと黒い飴玉が転がった。
それを口の中へと放り込むと苦味が口に広がった。
深くて、香り高くて、コクがあり、目の覚めるような苦味、ほのかはその味に覚えがあった。
【コーヒーの味がする】
「そうか」
冬真はほのかの言葉で自分が買った物がコーヒー味の飴である事を初めて知った。
ほのかは口の中で飴を転がし続けてると苦い飴の中からとても甘いクリームが出て来た事に驚いた。
【最初は苦かったけど、後からクリームの層が出てきて甘くなった! 何だか氷室君みたい】
「そうなのか? 俺がその飴と似てるというのは良く分からないが」
コーヒーみたいに苦くて、クールでツンツンしているように見えるが、本当は深く付き合っていくと砂糖の入ったクリームみたいに甘い所もある。
ほのかはどうしたらそれが伝わるだろうかと考え、そして閃いた。
【良かったら一つ食べてみて。あんまり甘くないから氷室君でも食べられる気がする】
「いや、俺は別に要らない・・・・・・」
しかし、ほのかは期待の眼差しで冬真を見詰めた。
「要らない・・・・・・」
それでもほのかは更に熱い眼差しで見詰めた。
「ぐっ・・・・・・分かったよ。食べればいいんだろう」
冬真は根負けして瓶から一つ飴を取り出した。
その飴を口にすると冬真はコーヒーよりも苦そうな顔をした。
「月島さんに騙された。これ、結構甘い」
【え!!】
全く騙す意図がなかったほのかは驚いた。
「これ、月島さんが食べたのとは違う種類の飴みたいだ。多分カフェオレ味」
ほのかは改めて瓶に付いているタグを見た。
そこにはカフェオレ味やエスプレッソコーヒー味、カフェモカ味やキャラメルマキアート味等、色んな種類の飴が書かれていた。
【いいなぁ、そっちの味も気になる】
「ふうん・・・・・・」
冬真は何か思いついたと言わんばかりの含みのある顔をした。
「じゃあ、食べる?」
気が付くと、ほのかの目の前には冬真の顔が至近距離にあった。
ほのかがその事に気が付いた時には既に遅かった。
ふわりと冬真の口から甘い香りが漂い、ほのかは体をギクリと強ばらせ、その場から動けなくなった。
まさか、口移しでもされるのだろうかとほのかは緊張からギュッと目を閉じた。
鼓動が早くなる。
少しずつ近づいてくる冬真の気配、より濃くなるコーヒーの香り、唇に何かが触れたと思った時、ほのかは目を開いた。
「なんてな、冗談だ」
唇に押し込まれた硬い触感、それは唇ではなく冬真が新しく開けたカフェオレ味の飴玉だった。
本当にキスされてしまうのではないか思っていたほのかは、未だに心臓がバクバクし、顔を真っ赤にさせた。
【甘い】
ほのかはスケッチブックにそう書き、真っ赤な顔をそれで隠した。
「全く、少しは抵抗しろよ。・・・・・・本当にしそうになるだろ」
冬真はほんの少し顔を赤らめ、口元を隠してそう言った。
【今なんて?】
「・・・・・・・・・・・・何でもない」
ほのかは冬真が何と言ったか気になったが、今は赤い頬と煩い心臓を鎮めるので頭の中はいっぱいいっぱいになっていた。
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