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君の背中に恋してる SPINOFF 後編
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文化祭まであと数日。
いくつか用意した衣装の中から誰がどの衣装を着るか決める日がやってきた。
「いくつか衣装を合わせてみたいから背中貸してもらえる?」
私はここぞとばかりに彼に話しかけた。
「おう、作業してるから適当にやっといてくれ」
彼はあぐらをかきながら床に広げられた装飾を針と糸で繋ぎ合わせる作業をしていた。
私はその背にオレンジ色の着物をあてがった。
その間、私はいつもの衝動に駆られた。
だが、私はそれをぐっと堪え、必死に背中に触れないように気を付けながら震える手を両端の肩に置いた。
その緊張が伝わったのか、彼はこんな事を言い出した。
「背中、触らなくていいのか?」
「え!?」
その声と共に、私は口から心臓が飛び出るんじゃないかと思った。
「ほらお前、人の背中触るの好きじゃなかった? 今なら触りたい放題だぞ?」
「う、うるさいな、その事はもう忘れてよ」
正直に言えば、その背に触れたかった。
その背に後ろから思い切り抱きつく事が出来たならどれだけ良いだろうかと妄想さえした。
「否定しないって事はやっぱりそうなんだ?」
「あれはっ! 漫画のモデルに良さそうだと思っただけで・・・・・・」
苦しい。
我ながら非常に苦しい言い訳だった。
そもそも、絵を描くだけなら触る必要などないのだ。
「ふーん・・・・・・」
彼も疑うような声を漏らしている。
「あーー、そう言えばさー、文化祭はどうするの? 誰かと回ったりするの?」
そう聞いてしまってから私は後悔した。
もしも、他の女の子と約束をしていようものなら、きっとショックで立ち直れそうにない。
「んーー、俺達は実行委員の仕事もあるしな。でも時間があるなら気になる子と文化祭回りたいよなー」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
気になる子、居るんだ・・・・・・。
私は激しく動揺した。
それが誰だかは分からなかったが、やはり聞かなければ良かったと思った。
「じゃあ私他の人のサイズ測ってくるから」
「おー」
これ以上作業に集中出来そうになかった私はそそくさと彼のもとを去った。
彼の気になる子が誰なのか気になったが、それを聞く勇気はなかった。
昼休み、食堂からの帰り道、いつもの様に廊下を歩いているとよく見知った背中が見えた。
彼だ。
「あっ・・・・・・」
普通に声を掛けようとしてやめた。
その隣に女の子が居たからだ。
彼女は文化祭実行委員の先輩だった。
彼とは楽しそうに談笑していて、会話が気になった私はこっそり二人の話を盗み聞きした。
「あ、じゃあ文化祭当日一緒に行きましょう」
「本当に? ありがとう! 凄く嬉しい!」
彼女は弾む様な笑顔で彼の背中に抱き付き、彼も頬を染めて満更でもない顔をしていた。
聞かなければ良かった。
見なければ良かった。
彼の気になる人は先輩の事だったんだ。
私は唇を噛み、必死に涙を堪えながらその場をあとにした。
その後、私はなんとなく彼を避けるようになってしまった。
彼を見る度に、彼の背に抱き付く先輩の姿を思い出した。
ああ、なぜそれが自分ではないのだろう・・・・・・。
その光景を掻き消す様に私は頭を振り、そして彼を視界に入れないようにする事にした。
それから、ついに文化祭の前日になった。
「なあ」
「・・・・・・」
人の居なくなった教室で彼が私に声を掛けた。
だが、私はそれに答えることなく沈黙した。
「おい、何で無視するんだよ。急に避けてるみたいだし、俺何かしたか?」
「別に・・・・・・」
私はつい素っ気ない返事をした。
お願いだから、もう話し掛けないで欲しい。
この思いが静かに風化するまでそっとして欲しい。
でないと、彼を諦めることが出来ないからだ。
「あっそ・・・・・・、でさ、文化祭暇?」
「えっ?」
彼の口から出たのは思いもしなかった言葉だった。
「お互い実行委員の仕事で忙しいのは知ってるけどさ、ちょっとでいいからさ・・・・・・一緒に遊ばないか?」
言っている意味が直ぐには理解出来なかった。
彼の顔が赤くなっているのは教室に差し込む夕日のせいなのではと思うほどだった。
「何で・・・・・・? 何で私なの? 先輩は?」
「は? 先輩って?」
分からないという風に、彼は怪訝な顔をした。
「だって、文化祭で先輩と一緒に行くって・・・・・・」
「先輩と・・・・・・もしかしてあれか? 軽音部の演奏時間、照明係で人手が欲しいって言われたやつか?」
「一緒に行くって手伝い!?」
私はあの光景が文化祭の誘いではなく、手伝いの依頼だった事に気が付き自分が恥ずかしくなった。
「っていうかなんで知ってるんだ?」
「そ、それは・・・・・・たまたま聞いて」
「ふーん? 盗み聞きしたのか」
「うっ」
「それで勘違いしたと」
「ううっ」
「あの先輩、男女問わずスキンシップ過多なの知ってるだろー?」
「うううっ」
彼の言葉はいちいち痛いところを突いてきた。
しかし、事実である以上言い訳も出来なかった。
「で? それって嫉妬?」
「えっ!」
私は顔に熱を帯びていくのを感じた。
今その事を彼に指摘されたなら、夕日のせいだと誤魔化せるかどうか怪しいくらいに赤くなっている気がした。
「だからずっと俺の事避けてたんだろ?」
「だって・・・・・・」
「それ、困るんだけど」
急に彼の顔は真面目な顔つきになった。
「ごめん、実行委員の仕事やりにくかったよね」
私は今までの行動を思い返し深く反省した。
きっと彼には迷惑をかけたに違いない。
「はあ・・・・・・そーじゃなくてさ、言っただろー、文化祭は気になる子と回りたいって」
「えっ! はっ! わっ、私!?」
混乱した。
いよいよ私の顔は噴火寸前、心臓は爆発寸前だ。
彼は照れた顔を隠す様にふいっと顔そらし、背中を向けた。
「そーだよ、あれだけ毎日背中触られて、気にならない訳がないだろー、お前のせいだかんな。だがら、責任取って文化祭は俺と・・・・・・」
彼の言葉が止まった。
その理由に私は心当たりがあった。
私が後ろから彼の背に抱き付いたからだ。
「うん、責任取る!」
ずっとずっと触れたかった背がそこにあった。
手にしっくりときて、気持ち良くて、温かかった。
「ねえ、これからも背中触っていい?」
「お前本当に背中好きだよなー」
「だって・・・・・・好きなんだもん」
私が上目遣いでねだる様に彼を見ると、彼はまた顔を赤くさせながら「これからもずっと責任取るならいーよ」とそう答えた。
いくつか用意した衣装の中から誰がどの衣装を着るか決める日がやってきた。
「いくつか衣装を合わせてみたいから背中貸してもらえる?」
私はここぞとばかりに彼に話しかけた。
「おう、作業してるから適当にやっといてくれ」
彼はあぐらをかきながら床に広げられた装飾を針と糸で繋ぎ合わせる作業をしていた。
私はその背にオレンジ色の着物をあてがった。
その間、私はいつもの衝動に駆られた。
だが、私はそれをぐっと堪え、必死に背中に触れないように気を付けながら震える手を両端の肩に置いた。
その緊張が伝わったのか、彼はこんな事を言い出した。
「背中、触らなくていいのか?」
「え!?」
その声と共に、私は口から心臓が飛び出るんじゃないかと思った。
「ほらお前、人の背中触るの好きじゃなかった? 今なら触りたい放題だぞ?」
「う、うるさいな、その事はもう忘れてよ」
正直に言えば、その背に触れたかった。
その背に後ろから思い切り抱きつく事が出来たならどれだけ良いだろうかと妄想さえした。
「否定しないって事はやっぱりそうなんだ?」
「あれはっ! 漫画のモデルに良さそうだと思っただけで・・・・・・」
苦しい。
我ながら非常に苦しい言い訳だった。
そもそも、絵を描くだけなら触る必要などないのだ。
「ふーん・・・・・・」
彼も疑うような声を漏らしている。
「あーー、そう言えばさー、文化祭はどうするの? 誰かと回ったりするの?」
そう聞いてしまってから私は後悔した。
もしも、他の女の子と約束をしていようものなら、きっとショックで立ち直れそうにない。
「んーー、俺達は実行委員の仕事もあるしな。でも時間があるなら気になる子と文化祭回りたいよなー」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
気になる子、居るんだ・・・・・・。
私は激しく動揺した。
それが誰だかは分からなかったが、やはり聞かなければ良かったと思った。
「じゃあ私他の人のサイズ測ってくるから」
「おー」
これ以上作業に集中出来そうになかった私はそそくさと彼のもとを去った。
彼の気になる子が誰なのか気になったが、それを聞く勇気はなかった。
昼休み、食堂からの帰り道、いつもの様に廊下を歩いているとよく見知った背中が見えた。
彼だ。
「あっ・・・・・・」
普通に声を掛けようとしてやめた。
その隣に女の子が居たからだ。
彼女は文化祭実行委員の先輩だった。
彼とは楽しそうに談笑していて、会話が気になった私はこっそり二人の話を盗み聞きした。
「あ、じゃあ文化祭当日一緒に行きましょう」
「本当に? ありがとう! 凄く嬉しい!」
彼女は弾む様な笑顔で彼の背中に抱き付き、彼も頬を染めて満更でもない顔をしていた。
聞かなければ良かった。
見なければ良かった。
彼の気になる人は先輩の事だったんだ。
私は唇を噛み、必死に涙を堪えながらその場をあとにした。
その後、私はなんとなく彼を避けるようになってしまった。
彼を見る度に、彼の背に抱き付く先輩の姿を思い出した。
ああ、なぜそれが自分ではないのだろう・・・・・・。
その光景を掻き消す様に私は頭を振り、そして彼を視界に入れないようにする事にした。
それから、ついに文化祭の前日になった。
「なあ」
「・・・・・・」
人の居なくなった教室で彼が私に声を掛けた。
だが、私はそれに答えることなく沈黙した。
「おい、何で無視するんだよ。急に避けてるみたいだし、俺何かしたか?」
「別に・・・・・・」
私はつい素っ気ない返事をした。
お願いだから、もう話し掛けないで欲しい。
この思いが静かに風化するまでそっとして欲しい。
でないと、彼を諦めることが出来ないからだ。
「あっそ・・・・・・、でさ、文化祭暇?」
「えっ?」
彼の口から出たのは思いもしなかった言葉だった。
「お互い実行委員の仕事で忙しいのは知ってるけどさ、ちょっとでいいからさ・・・・・・一緒に遊ばないか?」
言っている意味が直ぐには理解出来なかった。
彼の顔が赤くなっているのは教室に差し込む夕日のせいなのではと思うほどだった。
「何で・・・・・・? 何で私なの? 先輩は?」
「は? 先輩って?」
分からないという風に、彼は怪訝な顔をした。
「だって、文化祭で先輩と一緒に行くって・・・・・・」
「先輩と・・・・・・もしかしてあれか? 軽音部の演奏時間、照明係で人手が欲しいって言われたやつか?」
「一緒に行くって手伝い!?」
私はあの光景が文化祭の誘いではなく、手伝いの依頼だった事に気が付き自分が恥ずかしくなった。
「っていうかなんで知ってるんだ?」
「そ、それは・・・・・・たまたま聞いて」
「ふーん? 盗み聞きしたのか」
「うっ」
「それで勘違いしたと」
「ううっ」
「あの先輩、男女問わずスキンシップ過多なの知ってるだろー?」
「うううっ」
彼の言葉はいちいち痛いところを突いてきた。
しかし、事実である以上言い訳も出来なかった。
「で? それって嫉妬?」
「えっ!」
私は顔に熱を帯びていくのを感じた。
今その事を彼に指摘されたなら、夕日のせいだと誤魔化せるかどうか怪しいくらいに赤くなっている気がした。
「だからずっと俺の事避けてたんだろ?」
「だって・・・・・・」
「それ、困るんだけど」
急に彼の顔は真面目な顔つきになった。
「ごめん、実行委員の仕事やりにくかったよね」
私は今までの行動を思い返し深く反省した。
きっと彼には迷惑をかけたに違いない。
「はあ・・・・・・そーじゃなくてさ、言っただろー、文化祭は気になる子と回りたいって」
「えっ! はっ! わっ、私!?」
混乱した。
いよいよ私の顔は噴火寸前、心臓は爆発寸前だ。
彼は照れた顔を隠す様にふいっと顔そらし、背中を向けた。
「そーだよ、あれだけ毎日背中触られて、気にならない訳がないだろー、お前のせいだかんな。だがら、責任取って文化祭は俺と・・・・・・」
彼の言葉が止まった。
その理由に私は心当たりがあった。
私が後ろから彼の背に抱き付いたからだ。
「うん、責任取る!」
ずっとずっと触れたかった背がそこにあった。
手にしっくりときて、気持ち良くて、温かかった。
「ねえ、これからも背中触っていい?」
「お前本当に背中好きだよなー」
「だって・・・・・・好きなんだもん」
私が上目遣いでねだる様に彼を見ると、彼はまた顔を赤くさせながら「これからもずっと責任取るならいーよ」とそう答えた。
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