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Girls Talk
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「ええっ!? 仕入先のお店もう決まっちゃったの?」
翌日、冬真が里穂に仕入先が決まった事と食材リストを渡すと里穂はえらく驚いた様子でそう言った。
「すごーーい! 流石は氷室君! リストも完璧だし! これなら作業の遅れも取り戻せそう!」
「ああ、これも先輩の紹介と月島さんのお陰だな」
「じゃあ今日は春野君と氷室君は他の班の手伝いをお願い。看板用とか装飾用のダンボール集めがあるんだけど、人手が必要なの」
「おう、任せとけ! 行こうぜ、冬真」
「ああ」
二人が看板作成班に混ざり教室を出て行くと、里穂は席に戻り、広告の文字を書いているほのかに声を掛けた。
「月島さん、昨日はお疲れ様! お手柄だったみたいね!」
ほのかはそう言われて昨日の事を思い出した。
自分のした事と言えば食べたい物をリクエストし、それを試食しただけであり、特に何もしていないつもりだった。
そして、あの天にも昇る幸せな気持ちになれるお菓子をまた食べたいと思った。
【お菓子美味しかったからまた行きたいくらい】
「そんなに美味しいの?」
【昇天するレベル】
「あはは、昇天? いいなー、私も行きたかったなー」
そこでほのかは思いついた。
里穂を誘い、仲良くなれたら友達になれるかもしれないと。
【今度一緒に行こう】
「今度連れてって?」
ほのかがスケッチブックを見せるのと里穂が口を開いたのは同時だった。
「ふふ、ありがとう! 楽しみにしてるね! 月島さんってあの二人とよく話してるから男の子の友達の方が好きなのかと思ってたけど、普通に話せるし面白いよね。ねえ、良かったら私とも友達になってほしいな」
【!!!】
里穂の思いもよらない言葉に、ほのかは喜びに打ち震えた。
あれだけ自分ではなかなか言い出せなかった言葉を里穂はあっさりと言ってしまった。
それがほのかにはとても羨ましかった。
「あ、あれ? もしかして嫌だった?」
喜びで暫し放心していたほのかは我に返ると勢い良く頭を横に振った。
【ぜひ友達になって下さい!】
「良かったー、ね、下の名前で呼んでもいい? 私も下の名前でいいから!」
友達に昇格からのいきなり下の名前呼びだなんて、怒涛の展開に頭がついていかなかったが、ほのかはとにかく激しく頭を上下に振った。
「ほのかちゃん」
【里穂ちゃん】
ほのかはどうにか下の名前の漢字を思い出しそう書いた。
名前で呼び合うのがなんとも気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「えへへ、なんか照れるね」
恥ずかしく思っていたのは自分だけではないと分かり、里穂とは気が合いそうで、これからもっと仲良くなれそうだなとほのかは感じた。
里穂が広告の絵を描き、ほのかが文字を入れる下書き作業をしていると、ほのかは里穂の視線とぶつかった。
「ねえ、前からずっと気になってたんだけど、ほのかちゃんはあの二人、どっちが好きなの?」
そう問われてほのかは【どっちも好き】と即答した。
「ええ? うーん、それは友達としてでしょ? 付き合うならどっちが好きかって事!」
『つきあう』というワードにほのかは念の為【突き合う?】と書いて見せた。
ほのかは脳内で、三人でトライアングルの形に立ち、槍を持ち、互いに突き合う光景を想像した。
負ける。
確実に穴だらけになって負けるという妙な自信がほのかにはあった。
「普通はこっちでしょ。どこから来るんだろその発想」
里穂はほのかのスケッチブックの『突』の字を上から二重線を引き、『付』の字を書いた。
改めて『付き合う』という言葉を見てほのかは顔を赤くさせた。
その色はほのかが使う朱墨よりも、里穂が使う赤のペンよりも赤かった。
時が止まったかの様な長い沈黙の中で、ほのかは悩みに悩んだ末に出した答えは【分からない】という一言だった。
今まで二人を異性としてドキドキした事は何度もあったが、付き合うとか、どっちが好きかだとかをほのかは考えた事がなかった。
そもそも二人は住む世界が違うくらいモテる。
そんな二人と友達でいるのさえおこがましいと思えるほどだった。
「そっかー、どっちもカッコイイもんね。迷うのも無理ないかなぁ」
迷う以前の話で、ほのかは自分に自信が無く、こんな自分を好きになってくれる人がいるのだろうかとか、ちゃんと恋をする事が出来るのだろうかと頭を悩ませた。
そして、頭の片隅に重く蓋をしたはずの昔の記憶が這い出ようとしていたが、ほのかはそれを必死に上から押しとどめ、また記憶の奥底にしまい込んだ。
「もし好きな人が出来たら教えてね! 相談とか乗るから!」
里穂はガッツポーズを作り、意気込んだ様子で言った。
心強い言葉にほのかはとても嬉しくなり、笑って頷いた。
もしもそんな日が来たならば、一番に相談に乗ってもらおうと思った。
【ありがとう、里穂ちゃんは好きな人いるの?】
ほのかはふと里穂はどうなのだろうと気になって質問をしてみた。
性格も明るく、見た目も可愛いので彼氏がいてもおかしくなかった。
「えっ、私!?」
ほのかからブーメランが返って来るとは思っていなかった里穂は周りをキョロキョロと見回すと顔をほんのりとピンクに染めて「い、いるよ」と小さく答えた。
「準備とかで色々と近づく口実もあるし、この文化祭がチャンスかなって思ってるんだ」
そう言って更に頬を赤くさせる里穂をほのかは可愛らしいと思った。
これが『恋する乙女』というもので、女の子は恋をするとこんなにも可愛くて輝いて見えるのだと感心し、ほのかはそんな彼女を羨ましくも思った。
【私にできることなら力になりたい】
「ありがとう。でもやっぱり恥ずかしいからこの話はおしまいにしよ!」
話を打ち切られてしまい、結局里穂の好きな人が誰なのかを聞きそびれてしまい、ほのかは少し残念に思った。
クラスの人なのか、それとも他のクラスの人なのか、はたまた上の学年の人や先生かもしれない。
想像すればするほど分からなくなり、もしも自分の良く知る人が想い人だったらと考えると、心に形容し難い感情が住み着いたように感じた。
「あ、じゃあさ、相談なんだけど、私文化祭で部活の出し物で薄ーい本を出す予定で、あ、勿論過激な内容は没収対象だからソフトな感じにするつもりでね、それで・・・・・・春野君と氷室君、受けと攻めどっちがいいと思う?」
ほのかは里穂の言う『薄い本』や『受けと攻め』等の意味が分からず、頭の中では疑問符をひたすらに大量生産していた。
だが、何か答えなくてはと思ったほのかは【どちらもウケの良い二人だと思うけど、春野君の方が面白い人かも】
「そうよね! 春野君はやっぱり受けよね! じゃあ氷室君は攻めにして・・・・・・」
そんな話をしていると、二人を覆う様にゆらりと影が差した。
「ふーん? 受けって何かな?」
「誰が攻めだって?」
その影の主は陽太と冬真だった。
里穂ギクリとしておそるおそる二人を見た。
「あ、あははは、おかえり、早かったね」
里穂は笑って誤魔化そうとしたが、陽太は笑顔を貼り付けたみたいな顔でいつもより低いトーンの声で言った。
「まさか俺達をネタにBL本とか書いたりしないよね?」
「まったく、高校でもこれか。文化祭の度に俺達に似た野郎同士が絡み合う本が出回り、廊下を歩くだけで女子達から好奇の目にさらされる身にもなってみろ」
冬真は女子だろうと容赦なく、いつもの様に冷ややかな表情と氷柱の様に鋭い視線でそう言った。
女子達から注目されるのはいつもの事ではあったが、変な噂までされる事に陽太と冬真は辟易していた。
「アハハー、ワタシソンナノカケナイワヨ、イヤダナー」
「・・・・・・棒読みだし、声上ずってるけど?」
「陽太、これ多分何言っても無駄だぞ」
冬真の言う通り、里穂は何を言われようと二人を描くのをやめるつもりはなかった。
ペンネームで出してしまえばこっちのものだったからだ。
【よく分からないけど、本が完成したらぜひ読ませて】
ほのかは三人がそんな話をしている中、空気を読まずにそう書いた。
「「それだけはやめてくれ!!」」
真っ青な顔で陽太と冬真は同時にそう叫んだ。
翌日、冬真が里穂に仕入先が決まった事と食材リストを渡すと里穂はえらく驚いた様子でそう言った。
「すごーーい! 流石は氷室君! リストも完璧だし! これなら作業の遅れも取り戻せそう!」
「ああ、これも先輩の紹介と月島さんのお陰だな」
「じゃあ今日は春野君と氷室君は他の班の手伝いをお願い。看板用とか装飾用のダンボール集めがあるんだけど、人手が必要なの」
「おう、任せとけ! 行こうぜ、冬真」
「ああ」
二人が看板作成班に混ざり教室を出て行くと、里穂は席に戻り、広告の文字を書いているほのかに声を掛けた。
「月島さん、昨日はお疲れ様! お手柄だったみたいね!」
ほのかはそう言われて昨日の事を思い出した。
自分のした事と言えば食べたい物をリクエストし、それを試食しただけであり、特に何もしていないつもりだった。
そして、あの天にも昇る幸せな気持ちになれるお菓子をまた食べたいと思った。
【お菓子美味しかったからまた行きたいくらい】
「そんなに美味しいの?」
【昇天するレベル】
「あはは、昇天? いいなー、私も行きたかったなー」
そこでほのかは思いついた。
里穂を誘い、仲良くなれたら友達になれるかもしれないと。
【今度一緒に行こう】
「今度連れてって?」
ほのかがスケッチブックを見せるのと里穂が口を開いたのは同時だった。
「ふふ、ありがとう! 楽しみにしてるね! 月島さんってあの二人とよく話してるから男の子の友達の方が好きなのかと思ってたけど、普通に話せるし面白いよね。ねえ、良かったら私とも友達になってほしいな」
【!!!】
里穂の思いもよらない言葉に、ほのかは喜びに打ち震えた。
あれだけ自分ではなかなか言い出せなかった言葉を里穂はあっさりと言ってしまった。
それがほのかにはとても羨ましかった。
「あ、あれ? もしかして嫌だった?」
喜びで暫し放心していたほのかは我に返ると勢い良く頭を横に振った。
【ぜひ友達になって下さい!】
「良かったー、ね、下の名前で呼んでもいい? 私も下の名前でいいから!」
友達に昇格からのいきなり下の名前呼びだなんて、怒涛の展開に頭がついていかなかったが、ほのかはとにかく激しく頭を上下に振った。
「ほのかちゃん」
【里穂ちゃん】
ほのかはどうにか下の名前の漢字を思い出しそう書いた。
名前で呼び合うのがなんとも気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「えへへ、なんか照れるね」
恥ずかしく思っていたのは自分だけではないと分かり、里穂とは気が合いそうで、これからもっと仲良くなれそうだなとほのかは感じた。
里穂が広告の絵を描き、ほのかが文字を入れる下書き作業をしていると、ほのかは里穂の視線とぶつかった。
「ねえ、前からずっと気になってたんだけど、ほのかちゃんはあの二人、どっちが好きなの?」
そう問われてほのかは【どっちも好き】と即答した。
「ええ? うーん、それは友達としてでしょ? 付き合うならどっちが好きかって事!」
『つきあう』というワードにほのかは念の為【突き合う?】と書いて見せた。
ほのかは脳内で、三人でトライアングルの形に立ち、槍を持ち、互いに突き合う光景を想像した。
負ける。
確実に穴だらけになって負けるという妙な自信がほのかにはあった。
「普通はこっちでしょ。どこから来るんだろその発想」
里穂はほのかのスケッチブックの『突』の字を上から二重線を引き、『付』の字を書いた。
改めて『付き合う』という言葉を見てほのかは顔を赤くさせた。
その色はほのかが使う朱墨よりも、里穂が使う赤のペンよりも赤かった。
時が止まったかの様な長い沈黙の中で、ほのかは悩みに悩んだ末に出した答えは【分からない】という一言だった。
今まで二人を異性としてドキドキした事は何度もあったが、付き合うとか、どっちが好きかだとかをほのかは考えた事がなかった。
そもそも二人は住む世界が違うくらいモテる。
そんな二人と友達でいるのさえおこがましいと思えるほどだった。
「そっかー、どっちもカッコイイもんね。迷うのも無理ないかなぁ」
迷う以前の話で、ほのかは自分に自信が無く、こんな自分を好きになってくれる人がいるのだろうかとか、ちゃんと恋をする事が出来るのだろうかと頭を悩ませた。
そして、頭の片隅に重く蓋をしたはずの昔の記憶が這い出ようとしていたが、ほのかはそれを必死に上から押しとどめ、また記憶の奥底にしまい込んだ。
「もし好きな人が出来たら教えてね! 相談とか乗るから!」
里穂はガッツポーズを作り、意気込んだ様子で言った。
心強い言葉にほのかはとても嬉しくなり、笑って頷いた。
もしもそんな日が来たならば、一番に相談に乗ってもらおうと思った。
【ありがとう、里穂ちゃんは好きな人いるの?】
ほのかはふと里穂はどうなのだろうと気になって質問をしてみた。
性格も明るく、見た目も可愛いので彼氏がいてもおかしくなかった。
「えっ、私!?」
ほのかからブーメランが返って来るとは思っていなかった里穂は周りをキョロキョロと見回すと顔をほんのりとピンクに染めて「い、いるよ」と小さく答えた。
「準備とかで色々と近づく口実もあるし、この文化祭がチャンスかなって思ってるんだ」
そう言って更に頬を赤くさせる里穂をほのかは可愛らしいと思った。
これが『恋する乙女』というもので、女の子は恋をするとこんなにも可愛くて輝いて見えるのだと感心し、ほのかはそんな彼女を羨ましくも思った。
【私にできることなら力になりたい】
「ありがとう。でもやっぱり恥ずかしいからこの話はおしまいにしよ!」
話を打ち切られてしまい、結局里穂の好きな人が誰なのかを聞きそびれてしまい、ほのかは少し残念に思った。
クラスの人なのか、それとも他のクラスの人なのか、はたまた上の学年の人や先生かもしれない。
想像すればするほど分からなくなり、もしも自分の良く知る人が想い人だったらと考えると、心に形容し難い感情が住み着いたように感じた。
「あ、じゃあさ、相談なんだけど、私文化祭で部活の出し物で薄ーい本を出す予定で、あ、勿論過激な内容は没収対象だからソフトな感じにするつもりでね、それで・・・・・・春野君と氷室君、受けと攻めどっちがいいと思う?」
ほのかは里穂の言う『薄い本』や『受けと攻め』等の意味が分からず、頭の中では疑問符をひたすらに大量生産していた。
だが、何か答えなくてはと思ったほのかは【どちらもウケの良い二人だと思うけど、春野君の方が面白い人かも】
「そうよね! 春野君はやっぱり受けよね! じゃあ氷室君は攻めにして・・・・・・」
そんな話をしていると、二人を覆う様にゆらりと影が差した。
「ふーん? 受けって何かな?」
「誰が攻めだって?」
その影の主は陽太と冬真だった。
里穂ギクリとしておそるおそる二人を見た。
「あ、あははは、おかえり、早かったね」
里穂は笑って誤魔化そうとしたが、陽太は笑顔を貼り付けたみたいな顔でいつもより低いトーンの声で言った。
「まさか俺達をネタにBL本とか書いたりしないよね?」
「まったく、高校でもこれか。文化祭の度に俺達に似た野郎同士が絡み合う本が出回り、廊下を歩くだけで女子達から好奇の目にさらされる身にもなってみろ」
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女子達から注目されるのはいつもの事ではあったが、変な噂までされる事に陽太と冬真は辟易していた。
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「・・・・・・棒読みだし、声上ずってるけど?」
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ペンネームで出してしまえばこっちのものだったからだ。
【よく分からないけど、本が完成したらぜひ読ませて】
ほのかは三人がそんな話をしている中、空気を読まずにそう書いた。
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