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ずっと一緒
しおりを挟む「ねえ……そういえば、メディオラ様が私の魂を抜き取ろうとしたけど失敗したでしょう? それが私と皆の魂がつながっているからできないんだってピクシーが言っていたけど、あれってどういう意味? 使い魔の契約って、いわば雇用契約だから魂に干渉したりしないよね?」
ただ不思議に思ったから訊いてみたのだが、その質問をされた魔物たちは一斉に目線を逸らして、アメリアが重ねて訊ねてもなにやら誤魔化そうとしてはっきりしない。
「えっ? なんか変なこと訊いた? 説明できないことがあるの?」
「いや、別に変なことはしてないわよ。ただ、ちょーっと使い魔より繋がりが深い契約をしたっていうか~」
「アメリアと引き離されない強固なつながりを作っただけで、何も悪いことはしてないぞ」
「そうそう、ただの使い魔だとすぐ解除できちゃうからさ! 切れない縁を作ったんだよ!」
「魔物とヒトの婚姻契約ですよ! ヒトと魔物の命をつないで生涯を共に生きるっていう、魔物流の結婚です!」
「「「馬鹿! それはまだ内緒だって!」」」
空気を読まないヘルハウンドが本当の契約内容を暴露して、三匹から頭をぶん殴られる。
コンイン? って何? と言葉の意味をすぐには理解できすにいたアメリアだったが、婚姻=結婚だと理解したとたんに、頭が爆発しそうになった。
「待って待って結婚したなんて聞いてない! しかも全員としたってことだよね? 嘘でしょ? 私そんなの聞いてないんだけど!」
「でもずっと一緒にいたいってアメリアも言ってたじゃない。契約の名称なんてどうでもいいでしょ?」
「しょうがねーじゃん。アメリアを守るにはこっちのほうが都合よかったんだよ」
「結局この契約にしておいたから助かったんだし、むしろ褒めてほしいんだけど?」
「この契約は生涯あなたを愛しますっていう魔物なりの誠意なんですよ」
どっちかっていうと、寿命を削ることになる魔物が代償を払う契約なのだから、アメリアに損はないと言われ、そんなことを知ってしまったら反論のしようがない。
「うう……助かったのは事実だし有難いけど、そんな重要な契約にするなら先に相談してほしかったよ……」
がっくりと項垂れるアメリアを魔物たちが、そっかごねんねー、とあまり心のこもらない謝罪をする。
「それより、どの国へ行くか考えようよ。僕は海に面した国に住みたいなー」
「しばらく旅する感じでいんじゃね? アメリアも外国は初めてなんだしいろんなとこ行こうぜ」
「アタシは湖水地方がいいわあ。いろんなことがあってアメリアも疲れてるでしょ? 気候の良い土地でゆっくり過ごすほうがいいじゃない」
「食事が美味しいとこがいいと思います! 食が合わないとアメリアさんがまたガリガリになっちゃいますから!」
皆がワイワイと楽しそうに、これからの話をしている。
彼らの言う「これから」には、当たり前のようにアメリアが含まれていて、その会話を聞いていると温かくなる。未来の話を彼らとできることを嬉しく思う。
「ずっと、一緒……」
ポツリとこぼれた呟きに自分で驚く。
「アメリア、何か言った?」
「うん、みんなのこと、大好きだなあって思って」
ひとりになりたいと思っていたあの頃の自分はもういない。
遠ざけようとしていた頃が嘘のように、今はただ、純粋に彼らが愛おしい。
お互いが望むなら、使い魔契約でも婚姻でも、関係性の名前なんてどうでもいいのかもしれない。
その気持ちを素直に言葉にしたら、魔物たちが慌てだした。
「アメリアどうしたの? 何か辛いこと思い出しちゃった?」
「大丈夫か? やっぱり母親のことがショックだったんだ」
「家族がアレだったもんね。辛すぎてどうかしちゃったんだ」
「アメリアさん! もう大丈夫ですよ! もうあの母親は黄泉から二度と帰ってこないですから!」
わっと皆が集まってアメリアの心配をし始める。どうやらアメリアがショックのあまりおかしくなってしまったのだと思われているらしい。
正直、いやなんでそうなる!? と突っ込みたくなる。
「とりあえず、国を抜けたらどこかで休みましょう。早く疲れを癒しましょうね」
よしよし、と労わるようにピクシーが頭を撫でてくれる。
大きな手のひらを頭に感じながら見上げると、優しく微笑むピクシーと目が合う。
このこみ上げる愛しさを、いつかちゃんと伝えられるといいな、とアメリアは心の中だけで呟いた。
終わり
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これにて完結です!
最後まで読んでくださってありがとうございました!
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