恩返し勢が帰ってくれない

エイ

文字の大きさ
上 下
48 / 64

大魔女の正体

しおりを挟む

 過去、メディオラになにがあったのか分からないが、本人には自分に呪術が施されていることを知らなかったようだから、周囲の者が命をつなぎとめるために秘密裏に行ったことなのだろうかと新たな問題が浮上し、皆に再び緊張が走る。

「その呪術を使ったのは誰なのです? ……一族の誰か、ですか?」

 恐る恐るヘレックがメディオラに訊ねた。
 魔女が死霊使いの呪術を使ったら、処罰されるだけでは済まない。良くて一族追放、内容によっては処刑されるほどの大罪である。
 メディオラを救うためとは言え、禁じられた呪術を使った者がチューベローズ家の身内か身近にいるのであれば、一族全体が処罰の対象になるかもしれない。

 自分たちの立場が危うくなる可能性を感じて、兄姉たちは顔を青くしている。だがメディオラはゆったりと首を振ってそれを否定した。

「少し違うわ。命をつなぎとめたのではなく、死者の魂を蘇らせたのよ。呪術を使ったのは、あなたたちのおじいちゃま、おばあちゃまに当たる私の両親よ」
「!!!」
 
 反魂術、とアメリアは口の中でつぶやく。
 死者の魂を蘇らせる呪術は、魔女の歴史書で反魂を試みた大罪人がいたという伝説が残っているだけで、実在するものだとは思っていなかった。

 現在の魔女規約では、反魂術について検証することすら禁止している。魔女にとって死霊は祓うべき存在であり、死者の魂に触れることは魔女を穢れさせると言われている。

 メディオラの告白が事実ならば、ここにいる母は黄泉から戻った死者ということになる。

「ま、待ってください。祖父母が亡くなられたのは、我々がほんの子供の頃だったはず……では、母上はいつ、呪術によって蘇ったのですか? それを知る者は、他に誰が……」

 皆、てっきり後継者指名か遺産についての話だと思っていたのに、一族の根幹を揺るがすような事実を暴露され愕然として口がきけずにいるなか、モノリスが唯一立ち上がり母に疑問をぶつける。
 血縁が過去に禁術を使ったという事実を、秘匿するか公開するか決めなくてはならない。もちろん兄姉たちは隠し通す方向で話をまとめたい。

「両親が亡くなる時に、託された魔法書があったのよ。誰にも見せるなと言われていたそれは、隠し文字が仕込まれていてね。そこに全てが書かれていたの」

 メディオラの両親は、没落の一途を辿るチューベローズ家の再興を夢見ていた。

 一族はあまり恩寵に恵まれず、特に祖父母の世代では恩寵を持って生まれたのは一人だけだった。そのため、あの家の魔女は只人と変わらぬなどという誹りを受けるような有様だったので、祖父である当時のチューベローズ当主は、大金を支払って優れた恩寵を持つ者を輩出する家から嫁を娶った。
 生まれてくる子に家名の存続の期待を込めて、祖父母は新たな魔女の誕生を待ちわびていた。

 ところが、メディオラの母は酷い難産で、結果生まれてきた赤子は息をしていなかった。
 追い打ちをかけるように、難産のせいで祖母は出産後に生死の境をさまよい、なんとか回復した時にはもう、新たに子を孕むのは難しい体になってしまっていた。
 嫁を娶るために家の財産をほとんど失ってしまったため、もう子が望めないとなればチューベローズ家の断絶は決まったも同然である。

 家の断絶の危機に陥った両親が、禁忌に手を染めた。

「チューベローズ家には、過去に封印された禁術が保管されていたの。まだ魔女協会が設立される遥か昔、呪術師と魔女の境界が曖昧だった時代に、反魂術をおこなっていた家系だったのよ。生贄を必要とする非人道的な術であるから、表沙汰になれば一族全て討伐さてしまう。だからずっと秘密裏に依頼を受けていたそうよ」

 それも、魔女協会の設立とともに完全に封印され、その存在は完全に闇に葬られたはずだった。だが秘術は本家の長子に、隠し文字で書き記された魔法書が引き継がれ続けてきた。
 メディオラの父はその隠し文字を読み解き、封印されていた反魂術を試みたのであった。

 ――――そうして生きかえった子が、大魔女メディオラである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...