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死を予知する
しおりを挟む「あの家全体がもう死臭に塗れているんです。あんな家に住んだらアメリアさんの寿命が削られてしまいます。何が起きているのか分かりませんが、悪い予感しかしません。全力で逃げるべきです」
「…………」
さきほど言葉を交わした相手が、死者だと言われ理解が追い付かないアメリアだったが、ヘルハウンドが警告するとおり、このままのこのこと戻ってきたら確実に悪いことに巻き込まれる気がする。
「逃げるなら、魔女が後を追えないくらい遠くに行かないとダメだよね。国を出るしかないんじゃない?」
ケット・シーは昔から人間に紛れて世界のあちこちを渡り歩いていたから、こういう時はさっさと違う国に行ってしまうのが一番いいと気軽に提案してくる。
「でも……それじゃ、家を捨てることになっちゃう」
せっかく手に入れた、自分だけの家。いちから生活の基盤を整えて、自分なりに工夫して築き上げてきた。それをまるっと放棄する気にはなれなれず、逃げる意見に否定的になるが、そんなアメリアに対し、ケット・シーが予知を授けてきた。
「この家に戻れば、そう遠くない未来でアメリアは死ぬよ。あと、兄姉たちもアメリアと時を同じくして死ぬ」
「……!!!」
衝撃的な予知に魔物たちも一瞬声を失う。
ケット・シーの予知は、今アメリアが選ぼうとしている道へ進めば、その未来が待っている。変えられる未来ではあるけれど、積極的に変えようと動かなければ予知が確定してしまう。
「アメリア、迷っている暇はないわ。今すぐ逃げましょう」
切羽詰まった表情のピクシーがアメリアの腕を引く。死ぬ予知をされてはもう迷っている暇はない。ピクシーの言葉に頷くと、さっと持ち上げられヘルハウンドの背に乗せられ、来た時とは比べ物にならないほどのスピードで走り始めた。
アメリアとしては、一旦家に帰って荷物をまとめてから出発するつもりでいたのだが、ヘルハウンドが走っていく方向は家から遠ざかっている。
まさかこのまま国を出るのかと心配になり、背中から必死に呼びかける。
「待って! 一度家に戻ってほしい! あの、荷物もあるし、お店に納品予定のものも残っているの! それにお金持ってこないと、生活できないよ!」
「ダメよ、そんな暇はないわ。家に見張りがつけられているかもしれない。お金のことは心配しなくていいわよ。アタシたちに任せて!」
「えっ、任せてって……」
並走するピクシーに質問をしようとしたが、ヘルハウンドが更にスピードを上げたのでもう喋るどころではない。突然家を捨てて国を出なければいけなくなってしまい、アメリアは不安しかなかったが、魔物たちの必死な様子を見て、もう黙るしかなかった。
森を抜け、日が落ちてもまだ魔物たちは走り続ける。
スピードは落ちないが、ヘルハウンドからも並走する皆からもゼイゼイと辛そうな息遣いが聞こえてきて、ただ背に乗っているだけのアメリアは申し訳ない気持ちになる。
(どうして彼らはこんなに私のために頑張ってくれるんだろう……。恩返しだと言うけれどここまでしてもらえるほどのことをしていない……。それに最初私は彼らを迷惑がって、邪険にしていたのに……)
己のこれまでの振る舞いが恥ずかしくなって、俯いて顔があげられない。
(もし、どこかの国へ行って落ち着いたら、彼らに謝ろう。そしてちゃんとお礼を言って、彼らに恩返ししよう)
ヘルハウンドの背中を見つめながら、心の中で決意を固める。
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