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愛して欲しいとは思いません
私、恐縮しました
しおりを挟む「おーくーさーまぁぁぁぁ!!」
私に取り縋り号泣しているマイヤ達三人娘……。
あぁ、死んでませんよ。私は生きています。でも崖っぷちをウロウロし今夜が峠って言われたこともあったりで、皆をハラハラさせたとか。どんなに心配したことかとマイヤが口にしたのが引き金になり感極まったメアリとリジーもつられて泣き出した、という結果がこれだ。
久し振りの湯浴みが気持ちよくてついポロッと言っちゃったのだ。『あぁ、生き返ったわ!』って。ホントに死にかけた私が言うと意味が違っちゃうらしい。
「わたくし共がどれほど心配したか……何を食べても砂を噛んでいるようで、三人揃ってすっかり痩せてしまいましたのよ」
「うん、ごめんね、心配掛けて」
「仔猫達も寂しがって……代わりに撫でてやろうとしたら『お前じゃない!』って噛みつかれましたわ」
「うん、ごめんね、迷惑掛けて」
「それに旦那様です。奥様がしばらくお会いしたくないと仰っているとお伝えしましたらがっくり肩を落とされて。それ以来何を言っても上の空でお茶をお淹れしてもすっかり冷めてからやっと気が付くような有り様ですわ」
「うん、ごめんね、面倒掛けて」
三人娘に代わる代わる言われ私は恐縮した。
マックスに会いたくないと言ったのは顔も見たくないという意味じゃ無かったのだ。高熱で混濁していた意識しっかりして何気なく今日は何日かとマイヤに聞いた私は驚愕した。あれから一週間も過ぎていただなんて。途端に身体の不潔さが気になって……マイヤは毎日タオルで拭いてくれていたし髪もミントやライムの香油を使って整えてはくれた。でもやっぱり気持ち悪い。そしてこの気持ち悪い状態をマックスに見られるのはどうしても厭だった。
『ですが旦那様は今までずうっと奥様に付きっきりでしたのよ。奥様が魘されたりうわ言を仰る度に抱き抱えていらして……今更じゃございません?』
マイヤにそう言われ私は思わず白目を剥いた。
ーーこの状態で抱き抱えられたとか……恥ずかし過ぎて二度と会いたくないんだけど!
とにかくちゃんと湯浴みをするまでマックスには会いたくないと言ったせいで三人に色々面倒を掛けたらしい。
「奥様、何があったかなんて伺いませんけれど……これからは旦那様とケンカをなさったらわたくし共に仰って下さいませ」
「そうですわ。わたくし達は奥様の味方です。この屋敷の者は誰もがみーんな」
「奥様を悲しませる旦那様などパンの耳でもかじっておいでになればよろしいのですわ」
『ですから奥様……』まで言ったマイヤの目が涙でぶわっと盛り上がっりあっという間にバタバタと溢れ落ち……マイヤだけではなくメアリとリジーにもおいおい泣きながら『もう心配させないで下さいませっ!』と口々に叱られてしまった。
プディングなら食べられるだろうと作ってくれたアーサーも、枕元に飾って欲しいと秋薔薇を持ってきた庭師も、様子を見に来たメイド長もどれ程心配したかと文句を言い、それから私の回復を心からよろこんでくれた。そして何をやったか知らないが確実になにかやらかしたマックスに腹を立てていて、それは窓際で外を見ていた私を庭園から見上げ嬉しそうに笑い掛けたバートン爺やエスタークは勿論この屋敷の使用人全員が同じなんだとマイヤから聞いた。
「こんなにお綺麗で優秀でお優しくてわたくし達を尊重して下さる奥様は、そしてこんなにお茶目で面白い奥様はわたくし達の奥様ただお一人なんです。わたくし達は皆奥様をお慕いし誇りに思っております。どうかもう二度と無茶はなさらないで下さいましね」
三人娘に詰め寄られ私はこくこくと首を振った。話の内容に対して確約を取ろうという圧がやたらと強いんだもの。
三人は少し眠った方が良いと言って下がって行った。『旦那様がお戻りになったら会いたがっているとお伝えして』と言った私ににんまりと頷きながら。
∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗
ふと目を開けるともう部屋は暗くサイドテーブルに置かれたランプが暖かい光を灯していた。
「久し振りね」
私がベッドの縁に腰かけてじっと見下ろしているマックスに声を掛けると右手が額に下りてきて、それから深いため息が聞こえた。
「良かった、熱はないね」
マックスは立ち上がり側にあった椅子を引寄せて座った。
まるで敢えて距離を取ろうとするように。
「貴方、随分窶れたんじゃない?大丈夫?」
マックスはかなり疲れているように見えた。それでもこの旦那様は憎らしいほど美形で、それに比べて今の私ときたら肌も髪もボロボロだ。自分のみっともなさが情けなくて慌てて鼻の上まで毛布を引き上げて顔を隠した。
「フローラ、顔を見せてくれないか?」
切なげな声でそう言われた私は頭のてっぺんまで毛布を被った。
「ごめん、怒っているよね?」
「そうね、怒ったから出て行ったわ。でも何日も前の話だもの、もう良いわ」
私はマックスに背中を向けて毛布から顔を出した。
「私も極端なことを言い過ぎたのよね。ごめんなさい」
「…………」
マックスは何も言わなかった。そして私達の間にはぎこちない沈黙と静寂が漂っていた。
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