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お友達認定されました

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 王妃様は想いを馳せるかのように遠い目をしていた。

 「もう十数年前になるわね、わたくしは一人の侯爵令嬢と知り合ったの。あの頃はまだオフィーリアは居なかったし、王弟妃達や側室達は信用ならない女達でね。わたくしは今よりもっと淋しい思いをしていたの。でもね、彼女は……彼女だけは何の見返りも求めずにわたくしと向き合ってくれたわ。わたくしは彼女が本当の妹のように可愛いくて……ドレッセンから嫁いできたオフィーリアもすっかり彼女が気に入ってしまったのよ」
 「わたくしにも可愛い妹ができたようで嬉しくてなりませんでしたわ」

 二人は私越しに顔を見合せうんうんと頷きあった。

 「けれども北方の辺境を治める伯爵に嫁いだ彼女はそれ以来領地に籠りきりでほとんど王都に戻って来ないの」
 「独占欲の塊みたいなあの伯爵が妻を外に出したがらないせいですわ。あの男、他所の男に見られたら妻が減ると思っているんですもの」
 「ようやく信頼できるお友達ができたというのに……。わたくし達がどんな喪失感を味わっているか、お分かりになるでしょう?」

 私はおずおずと頷いた。取り敢えず想像はできるので。そんな私をチラリと見た後、二人は今度は私越しに主観のすり合わせを始めた。
 
 「なんだか思い出すわね、オフィーリア?」
 「はい、思い出しますわ、お義姉様!」
 「どうしてかしら?容姿は全然似ていないのにフローレンスを見ていると無性に彼女を思い出すのよ」
 「まぁお義姉様、わたくしもそう思っておりましたのよ!」
 「オフィーリア、貴女もなの!」
 
 二人は私越しにガチッと手を握ったかと思うと同時にまた視線を私に向け固定した。どうしてかしら?声は出していないのに『逃がしはしないわよ!』という言葉が耳に響いてくるのは何なのかしら?

 「あの頃の彼女は丁度貴女と同じ年だったわぁ。それにね、彼女を初めて見たのはデビュタントの謁見だった……って!!まぁまぁまぁまぁ、偶然ね、フローレンスと一緒よ!」

 許されるならば突っ込みたい。大抵の貴族ならばそういうものです。許されないので黙っているが突っ込みたい。

 「ねぇえフローレンス?わたくしを王妃様なんて呼ばないでね。エルーシアと呼んでくれなきゃ御返事しなくてよ」
 「……は?」

 目を見開いて固まった私に王妃様はにっこりと笑い掛けてきた。優雅で美しく尚且つ腹に抱える一物を匂わせるどこかほの暗い淑女の微笑みで。

 「貴女はもうお友達ですもの、特別に三択を差し上げるわ。エルーシア様、エルーシアお姉様、お姉様、さあどれ?」

 ごくりと私の喉が鳴る。これは三択と言えるのだろうか?

 ほえー、助けてマックス!

 「残念ながらわたくしは王妃様の考えていらっしゃるような者ではございません」
 「あらどうして?」
 
 目を丸くして口元に手を当てた王妃様が首をころんと傾げている。私よりも歳上の王女様がいらっしゃるのにこの可愛らしさはどういうことかしら?……いやいや、それは置いておいてだ。

 「お恥ずかしいことですが、わたくしの両親こそ利益や見返りを期待し損得で人の価値を決める、そのような考え方の持ち主でございます」
 「でもフローレンスはフローレンスよ。確かにねぇ……ホルトン侯爵について否定はしないけれど……」

 オフィーリア様の困惑した顔から察するに、つまりもう既に両親はそれなりに何かを期待して動いていると思われる。

 「貴女はもうフローレンス・ブレンドナーなんだからホルトン侯爵家とは関係ないわ」

 私ってもう侯爵家とは関係ないのかな?まだまだ関係なくはないと思うが……。

 「という訳で選びなさい。お姉様お姉様お姉様エルーシアお姉様エルーシアお姉様、さあどれにするの?」
 「…………恐れながらエルーシア様と呼ばせて頂きます」

 チッと舌打ちが聞こえた。間違いなく、絶対に間違いなくエルーシア様方面から。

 その時だ。

 「王妃様、用意が整いました」

 サロンに入ってきた侍女がエルーシア様に耳打ちした。良かった、エルーシア様は何かご用事がおありなのだ。ということは私はこれにて解放されるってことではないか!

 「フローレンス……」

 『残念だけれどこれで失礼するわ』的なことを言われるとしか思っていない私は微笑みを浮かべながらエルーシア様に顔を向け、しかし結果的にそのまま表情を凍りつかせた。

 エルーシア様は微笑まれていた。それにいつの間にそちらに回り込んだのかエルーシア様の後ろからひょっこりと顔を出したオフィーリア様も微笑まれていた。

 そして王女として生を受けたお二人の非の打ち所のない優雅な微笑みには、完璧ながらもお約束とばかりに腹に抱えた一物を匂わせるほの暗さを漂わされていた。

 

 
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