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高橋松園

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満州事変と機織

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ピーピーピピピーピーピーピピピー ピーピーピピピーピーピーピピピー

 モールス信号のような、ジャーナルが巻き上がるような音がゴーゴーと音をたてている強風と共に鳴り響いている。

突然、外から強風と共に空襲警報が聞こえだした。

当りを見渡すと、サーチライトの赤い点滅と逃げ惑う人々が見える。

鼻の下にヒゲをたくわえた軍服姿の一人の男が目の前に立っている・・・どこかで見たことがあるような顔だ・・・。

軍服姿の男は愛おしそうに僕を見つめている。

しばらく、僕を見つめると、素早く敬礼し、「行って来る」と一言いい、後ろに向きを変え、その場を後にした。

あぁ なんだろう、この、突き上げるように、こみ上げてくる感情は、とてつもなく哀しく、そして切ない。僕の胸は締め付けられ、悲しみと共に涙があふれ出す。

ああ、何とも哀しい懇情の別れ・・・それを見送る、着物姿の女が居る。

その女は軍服姿の男の後姿を見つめている。感情は僕だが、その女の姿は、若かりし頃の母方の祖母のように思える。

「満州事変だぁ」という叫び声がどこからともなく聞こえてくる。

冷たい風が頬をかすめて通り過ぎていく。どこからか、ロシアに拉致され、未だに行方不明の女が居ると聞こえる。強風の音とサイレンが鳴り響く・・・・。

ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・
ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・

機械の音がする。音に合わせるように、左から右に向けて、目の前を何かが猛スピードで通り抜ける。

その直後、上から何かが勢い良く落ちて来て、目の前を通り過ぎた。
僕は、上を見上げる。

あたりは明るく眩しい。上からは沢山の糸が下に向かってピンと張られている。糸は白く光っている。

僕は下を見る。下には何処までも続く白い布が垂れ下がっている。

また、僕の目の前を、左から右へ何かが勢い良く通り過ぎて行く。

そして、ピンと糸が横に張られ、その直後に、何かが勢い良く落ちては、ガチャンと音をたてる。

左右を見る。

何処までも、左から右へ、右から左へと糸が続いている。

僕はスケールの分からない巨大な機織機の中に居ることに気がつく。

ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・
ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・

機織は休むことなく糸を織り続けている。

ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・
ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン・・・

「お前は何ができる。全部、差し出せ・・・全てを置いて行くのだ」と、どこからか、地割れが起きたかのような大音量で声が聞こえてくる。

強風の音がゴーゴーと鳴り響き、ウゥーと唸るような警報音と共に強風は、どんどんと強くなっていく・・・

僕はベッドから飛び起きる。

体は全身汗だくで、枕カバーは汗でびっしょりと濡れている。

夢か・・今の夢は一体・・・あの、軍服の男はどこかで見たことがある・・・どこだ、どこで会った・・

そうだ、祖父だ。

慰霊の写真でしか見たことは無いが、確かに、母方の祖母の家の仏壇に掲げられている軍服姿の祖父だと思った。

僕は母方の祖父が戦争に行く時の、祖母とのとても哀しい別れの場面を夢に見た。

それにしても、何故、機織機の中に居る夢も見たか。

確か、母方の祖母は、若い頃に紡績で働いていたと聞いたことがある。

でも、何故、こんな時に・・・ロシア・・・ロシアって何だろう・・・ロシア・・・。そう・・・そうだ。

父方の祖父の姉が結婚すると言い、ロシア人の男性についてロシアに渡った。

その後、軍がこの件を調べに来て、実は拉致されたのだと聞かされたと言っていた。

彼女は、未だに、行方不明という話は、遠い昔、父方の祖母から聞いたことがある。

父方と母方の祖父母の事が脳裏をよぎった。

この夢と何か関係があるのか・・・

僕は、額と首から垂れる汗を手でぬぐい取ると、ベッドから立ち上がる。

喉が乾いて仕方がない。

非常口の消灯の明かりだけがついている、薄暗い建物の片隅から、時おり寝息と、唸るようないびき声が聞こえてくる。

どこからともなく、強風が吹き荒れ、空き瓶と缶が転げまわる音が聞こえる。

空き缶らしきものが、どこかへ噴き飛ばされたのか、建物の軋む金属音と共に鳴り響き、不気味さと恐怖を煽る。

僕は鼻から深く息をして、大きく口から吐き出した。

喉が乾いた。何か飲みたい。

僕はベッドから出ると、薄明かりの中を、トイレと休憩室がある場所に、記憶をたどりながら向かった。

館内には寝息といびきが鳴り響く。時折、排気口を通じて、外で吹きすさぶ風の摩擦音が低く聞こえる。

薄明かりの中を、ただひたすら進むと、人口芝のあるコーナーの場所まで来た。

その場所から、ぼんやりと灯りを燈した看板が見えた。そこには、非常口を示す、緑色の非常灯が点き、その下に扉が見えた。

僕は、ここだ、と思い、その扉を押して開け入る。扉は観音開きで、軽く押すと向こう側の通路へ出た。

通路は館内より少し明るく、壁には非常灯と蛍光灯が点在して点いていた。

僕はトイレで用をたそうと思った。

トイレの中に入り、薄明かりを頼りに、入り口付近を手で探ると、電気のスイッチと思われる突起物が確認できた。

僕は、そのスイッチを入れた。

ブチブチっとショートしているような鈍い音の後に、青く、薄暗いLEDの蛍光灯が点滅し、明かりが点灯した。

足元に薄汚れた細かい目地のタイルが広がっている。

右手を見ると、ドアが開け放たれた個別のトイレあり、目の前には、白い洗面台があった。

僕は、ゆっくりと洗面台へ、そっと近づき、備え付けられた鏡の中を覗き込む。

そこには、暗闇に佇む、疲れきった顔の男が1人立っていた。

何という、やれた顔をしているのか・・・

その顔は風呂で見たときよりも、青ざめ、更に、老けているように見えた。

水道の蛇口をひねり、水を出す。唸るような低いモーターの音と、ひねった蛇口から流れ出る水の音が響き渡る。

トイレの天井付近に付けられた小窓が、風でガタガタと音をたてている。

僕は、水の中に手を突っ込み、冷たい水で顔を洗った。

頭は眠気で朦朧としていたが、冷たい水は、僕の頭を正気の世界へ引き戻し、僕は、冷静さを取り戻す。

静寂の中、水の流れる音を聞きながら、僕は一体、ここで何をしているのだ、とそう思った瞬間、今日、園芸館の外で見た、空の風景が脳裏に広がる。

空に雲で書かれていた、クロスの印し。

クロス・・・

クロス・・・あれは、

あれはバツ。

罰なのだ。

僕は、何か過ちを犯して、ここに連れてこられに違いない。

そうだ、じゃなきゃ、こんな変な場所に捕まるはずが無い。

一体、僕がどんな罪を犯したというのか・・・

でも、仮に、僕に何か非があったとしても、僕は、何時までもここに捕まっているわけには行かない。

朝になったら、何が、何でもここを出よう、と僕は頭を一振りし、冷たい水を手でくみ上げ一気に飲干す。

次に、蛇口を閉め、濡れた手で、顔で拭い、前髪を両手でかきあげる。

鏡に映る自分の顔に視線を戻す。

何て、酷い顔をしているのか、死に顔のように青白く、やつれて、こけた頬の老人が立っている。

僕は、トイレから出ようと視線を床に落すと、振り返りざまに、勢いよく背後にある出入り口の扉を開けた。

ドアを開けると、目線の先に人影が見える。薄暗い蛍光灯に照らされた人影は、斉藤さんだった。

斎藤さんは、「あら、安倍ちゃんじゃない。安倍ちゃんも、トイレなの? もーやん なっちゃう。最近、トイレが近いのよねー」と言い、僕の顔を覗き見た。

僕は真夜中に、トイレで再開した知人に、何かを言えるほど器用な人間ではなかった。

言葉につまり、返事に途惑っていると「すごい顔しているわね。どうしたの・・・貴方、大丈夫?」と斉藤さん。

僕は思わず「夢を見ました。多分、祖父の。そして巨大な機織機の夢も・・・」と、少し言葉を詰らせながら震える手を押えて答えた。

「機織・・・アーカシックレコードね・・・それは大変。話を聞くから、ちょっと、用をたすまで、待っていて。」と斉藤さんは言い、開け放たれているトイレのドアのことも気にせずに、奥にある個室のトイレに駆け込んだ。

尿を一気に放出する音があたりに響く。しばしの沈黙の後、ことが済んだのか、勢い良く流れる水の音が聞こえて来た。

僕は、個室に入った斎藤さんを、少し長く待つことになるのかな、と思ったが、斉藤さんは思いのほか早く出てきた。

斉藤さんは、出て来ると、洗面台に向かい、水道の蛇口をひねり、手を洗った。

その後、エアータオルに手をかざし、手を乾かしはじめた。

真夜中のトイレの室内にエアータオルのモーター音が、勢いよく噴出し、風の音と共に鳴り響く。

僕は、真夜中でも、きちんと手を洗う、斉藤さんの姿を見て、斉藤さんは見た目とは違い繊細で綺麗好きな人だな、と思った。

僕は、「待つ」と斉藤さんに返事をしたわけではなかったが、いつの間にか、エアータオルのモーター音を聞きながら、開いたドアの前で斉藤さんのことを待った。

斉藤さんは用をたす一連の動作が終わると、僕に「あぁー怖かった。暗い所って苦手なのよね。ここで安倍君に会えてよかったわ・・・ところで、眠れなくない?一杯、飲みましょうよ」と言った。

僕は、斉藤さんが暗闇を怖がるということを意外に思った。

それと同時に真夜中の突拍子もない申し出に戸惑った。

斉藤さんは返事に困っている僕の手を取ると、そのまま、館内に通じる観音開きのドアを開け、まるで、真夜中の道を何でもお見通しの猫のように店の中に入った。

僕の手を握りながら右へ左へと突き進み、その後、真っ直ぐ歩き始める。

目の前には、薄明かりに照らされた陳列棚が整然と並んでいる様子が、暗闇の中でも見える。

斉藤さんは薄暗い館内を、どこに行くのか迷いもせずに、一直線に、そして、とても早い足取りで、どこかへ向かって歩いて行く。

僕は彼の手に引かれ、後ろから付いて行く。

突如、目の前に薄明かりに照らされた白い扉が見えてくる。斉藤さんは白く浮き上がって見えるドアの前に一目散に駆け寄ると、ドアを開けた。そして、入り口の壁に付けられた電気のスイッチを押した。

電気は以外にも直ぐに点き、弱弱しいが安定した光で室内を照らした。

そこには、小さな倉庫があった。

ダンボールに入れられた梱包材や、箱につめられたお菓子、缶詰や飲み物なども見える。

斉藤さんはその倉庫に入って行くと、奥につまれているダンボールの中から、何かを取り出して僕に見せた。

「何がいい? ワインもあるし、日本酒もあるわよ。焼酎もウィスキーもある。氷とか無いからストレートで飲むことになるけど・・・どうする?」と訊く。

斎藤さんの手には、お酒の瓶が握られていた。

僕は、お酒を飲むのは、あまり得意ではなく知識も殆どない。

明日のことを考えると、深酒をするつもりもなく、正直、お酒はどうでも良かった。でも、きっと直ぐには眠れそうに無いなと思い、斉藤さんの誘いに乗ることにした。

そして「お任せします」と斉藤さんに言う。

斉藤さんは、すかさず「じゃあ 日本酒ね」と言い、「これ、八海山がいいわ。良いお酒が置いてあるわね。でも、お酒って賞味期限ってあったかしら、賞味期限が切れてないと、泥棒になっちゃうわ」と言い、酒瓶を手で持ち上げ、くるくると回し見た。

「うーん、わかんない。もし、賞味期限が切れていなかったら、明日、お金を払えば良いかしら、うーんっと、まぁ、いいわ、これに決めた」と更に言い、八海山のラベルが貼られた一升瓶を右手に持ち小部屋から出て来た。

「じゃ、休憩室に戻るわよ。」と言うと僕の左手を握り締め、手を引っ張った。

そして、もと来た道を一気に駆け戻った。

観音開きの扉を開けて、右へ進み、直ぐにドアをひとつ開けると、暗闇に一直線の通路が見えた。

その通路を真っ直ぐに突き進み、左手側にあるドアを開ける。

部屋に入ると、非常口用の緑色の看板のライトが、空中に浮んでいるように見えた。

部屋の中は暗かったが、夕飯を食べた時に通った事務所だと思う。

ドアを開けると、また、右側にあるドアを開け、斉藤さんは僕の手を再度、強く握り締め、部屋の中に流れ込むように入って行った。

部屋に入ると、ドアの内側の壁に付いている電気のスイッチを入れた。

天井に付いた薄暗いLEDライトが点滅し、ジーッという音と共に青白い光が徐々に強さを増した。

暗闇の世界から開放された瞬間だった。

目の前には、誰一人座っていない椅子と、いくつものテーブルが並んだ光景が広がっている。

斉藤さんは、夕方、座った席と同じ、神棚の下にある、テーブルの席に酒を置くと、部屋の奥に置かれている小さな食器棚の前に行く。

食器棚の中からグラスを二つ手に持ち、テーブルまで戻ると、椅子に腰を下ろした。

「あなたも、座りなさいよ」と僕を見つめて優しく言う。


僕は斉藤さんに言われるまま従い、自分に一番近い席の椅子を手前に引いた。

僕が席に着くと斉藤さんは一升瓶の蓋を開け、二つのグラスに並々とお酒を注ぐ。

そして「どうぞ。手にとって・・・乾杯しましょう」と言いい、お酒がたっぷり入ったグラスを僕の手前に差し出し、乾杯と言わんばかりのポーズで自分のグラスを持ち上げた。

僕は、「勝手に、お酒を飲んで大丈夫なのですか」と、念の為、聞いた。後から厄介なことに巻き込まれたくない、と思ったからだ。

斉藤さんは「大丈夫よ、もぉー時間外だし、支払いが必要なら、明日、払うから。私、ここに居るネズミちゃんじゃないのよ、だから、泥棒なんてしないわ。安心して」と言った。

ネズミ・・・資材館の倉庫下に沢山のネズミ取りが仕掛けられていた。

ここには、そんなにネズミが沢山居るのか・・・でも、ネズミってお酒を飲むのかな・・・と、不思議に思いながら、僕は「ここには、ネズミが沢山いるのですか。」と訊いた。

「やぁーねぇー そのネズミじゃないわよ。もぉー。私が言うネズミは人間のことよ。彼らは試されているのだけど、まんまと罠に嵌って、しちゃいけないことに手を出してしまっているの。」

「そういえば、先ほど、ネズミ捕りシートに捕まった人間が居る、と話しているのを訊きました。その人は、何かよくない事をして捕まったのですか」と僕。

「もー、何、トンチンカンなこと言っているの。それは、本物のネズミ捕りシートに、間違って、捕まってしまった人間の話でしょ。私が話しているのは、盗み人ネズミのことよ。」と斉藤さん。

「盗み人ネズミ・・・そんな人がいるのですか。」と僕。

「そうよ。でも、仮に私がネズミを知っていたとしても、その現場を見ていたとしても、私は刑事じゃないし、報告する義務は無いから、そんなことを通報しないわ。これは、聖書にも書かれているのよ。

だから、報告しないことは罪じゃない。

それに、報告したとなれば、会社も動かざる得なくなるでしょ。だって、統制が取れなくなるし、盗みを許可するということが、公のことになってしまったら、ネズミがいつでも好きなものを好きな値段で持ち帰るようになるじゃない。だから、誰かが報告すれば、それは公になってネズミは処罰されることになる。

でもね、良く考えて。そんなことになったら、彼らだけの問題じゃなくなるの。ネズミにも家族って者が居るのよ。そこにもトバッチリが行くじゃない。そうしたら、一家の生計が立てられなくなって、家が潰れるわ。子供が居る家では、子供を路頭に迷わせることになるじゃない。当人達は自業自得だけど、子供がかわいそうじゃない。それに、私が逆恨みされないとも限らないしね。だから、私は、ほっておくのよ。

もちろん、会社はそのことを薄々は知っているのよ。だけど、特別捕まえたりはしないの。泳がせているのね。

ネズミを泳がせているのは、豊穣の神の使いだからしょうがないって言う人もいるけど、ここの会社もエゲツナイの。人手不足だから切ることも出来ないし、ここに居る間は、重労働をさせて、安い賃金で奴隷のように、こき使うつもりでいるのよ。猫を泳がせているのと一緒。猫にネズミをいたぶらせるネタにも使っているの。

盗みなんて事をしたら、本当に損なのは自分自身なのよ。

盗みを働く人は、ますます、人生で酷い扱いを受けることになる。

盗み人ネズミは、自分達が盗みや、人に言えないことをしていることで、ますます、社会的に満たされない扱いしかされなくなる、ということに気がつかないの。

私は、そんな端金で人生を損するような、お馬鹿で、まぬけなことはしないのよ。だから、安心して飲んで」と言い、お酒が注がれたグラスを目の前に再度、突き出した。

僕は差し出されたグラスを持ち上げると、斉藤さんのグラスにそっと重ねた。

斉藤さんは、グラスが重なった音を聞いて嬉しそうに、微笑を浮かべグラスにそっと口を付けて、お酒を一気に飲干した。

「ふぅー 美味しい。喉が乾いていたのよ。普段は、こんな乱暴な飲み方はしないわ。でも、今夜は特別ね。だって、時間が無いじゃない・・・お互いに」と言うと、再度、一升瓶を傾けて、自分の開いたグラスにお酒を注いだ。

斉藤さんは決して、僕にお酒を強要したわけではないが、僕は斉藤さんの飲む姿を見て、自分も同じように飲まないといけないような気持ちになった。

そして、僕も、斉藤さんのように自分のグラスに注がれたお酒を一気に飲干した。

「八海山」、以前、飲んだことがある。ふと、何となく懐かしい感じがした。

父方の祖母の事を思い出した。

祖母は生前、八海山の寺に良く通っていたと母から聞いたことがある。祖母はそんなに信仰心がある人ではなかったように思うし、僕が知る祖母は、熱心な信者という感じではなかったが、何かしらの神託を聞くために、祖母は八海山に通っていたようだ。

祖母は、占いが好きだっただけじゃないかと僕は思っている。それでも、十月二十日に行なわれる火渡り祭にも毎年行っていた。

父方の祖父が、ケアーセンターに入所しないといけなくなった時に、本来なら、空き状況を待つのに何年もかかるところ、すぐに見つけることが出来た、と祖母が言っていた。

そして、その部屋を見に行ったら、部屋の入り口や所々に八海山のお札が張ってあったそうだ。きっと、祖母が毎年寄付をしていたから、スムーズに入所出来たのだと母は言っていた。

そんなことが脳裏をよぎる。

「あら、やるじゃない。いける口なのね」と斉藤さんは嬉しそうにはしゃいで見せた。

そして、空いたグラスにお酒を注ぎ直すと、「何か、話したいことある?」と続けざまに訊いた。

僕は夕方に話した話しの中で気になっていることが、いくつかあった。聞いても何も意味が無いようにも思えたが、酒の力も合って、いつもなら口にも出さない、ばかげたことを聞く勇気のようなものが湧いて出た。

「先ほど、夕飯の後に聞いたことで、気になることがあります。」と僕は口を開いた。

「どうぞ、なんでも聞いて」と斉藤さん。

「変なことを聞きます。数字の件ですが、数字には意味があるって言っていましたよね。僕のプロジェクト番号の69番と言う、この数字の意味が知りたいのです。」と僕は、思い切って聞いた。

すると、斉藤さんはニッコリと笑って「もちろん、数字一つ一つに意味があるわ。貴方が知りたい、『6』と『9』は、よく数学者や物理学者の間で話題になる数字の1つでもある。ニコラ・テスラって知っているかな」と訊く。

「ニコラ・テスラですか。うんっと、確か、電気技師で、発明家でエジソンのライバルだった人ですよね。違ったかな。」と僕は言う。

「そうよ。彼はイケメンの天才くん。晩年はオカルト研究者として名を馳せたけどね。そのニコラが『3、6、9という数字の素晴らしさを知れば、宇宙への鍵を握るだろう』って言っているの。どう、素晴らしいのかっていうのは、多分、体感した人にしか本当のことは分からないと思うわ。でも、この3、6、9の法則の話で言うと、宇宙は物質世界と精神世界で成り立っていて、物質世界を現している数字は、1、2、4、5、7、8で二元性を表す数字で、精神世界を現す数字が3、6、9なの。

どうしてそうなるのかについては、ここで話すと、長くなるから省略ね。だいたい、真夜中に話す話しじゃないわ。だから、後で、自分で調べてみてちょうだい。それで、この3、6、9は宇宙の仕組みその物を意味する数字で、その中でも『9』は全宇宙をつかさどる絶対的な存在なの。

『9』は全てを統合した世界なのよ。だから、『9』つまり、宇宙には二元性は存在しない。つまり、陰陽も無ければ、善悪も無いの。あら、話しが脱線しそうだから、元に戻すわね。 

それで、宗教学者のエリザベス・A・ゴードンって人が、『インドのマイトレイヤは、中国でミレフと言い、日本では弥勒(ミロク)と言います。これはヘブライ語のメシアで、ギリシャ語のキリストの事です。』って言ったの。つまり、この『3、6、9』という数字はメシアを意味する数字と思われているの。

偶然にも、『3、6、9』って『ミロク』って読めるじゃない。ただし、ここに矛盾が生じるの。

神と悪魔というのは陰陽の存在じゃない?だから、ミロク(3、6、9)が神ということは二元性が存在しないという世界(3、6、9)が『神』そのものになる。

そして、聖書では悪魔の象徴は『6、6、6』で『6』が3つだから、悪魔をミロク(弥勒)ということもでき、ここからわかることは、宇宙は二元性では無いから、『神』と『悪魔』は同一で宇宙であるということなの。

『悪魔』の存在を否定している宗教団体からすれば、『神』が『悪魔』だなんて、大変なことになるのよ・・・。

あら、やだ、こんなこと、公に言っちゃうと、私、狙われちゃうわ。えっと、それで・・・またしても話が脱線しそうね・・・。

そう、そう、でも、これだけは話しておかないといけないわ。

他にも、植物の成長や生物学的な事や、自然界で使われる数字も、ほとんどの場合、『3、6、9』に関連している数字なの。

例えば、日本で使用されている土地の割り振りの数字。一坪は3.3ヘクタールとかもね。測量や計量で使用されている数字も、多分、ここから来ているのよ・・・。

えっと、また、脱線しすぎちゃいそうだから、話をミロクに戻すと、

日月神示に『世の本の仕組みは3、4、5の仕組から5、6、7の仕組みとなるのぞ、5、6、7の仕組みとは弥勒(ミロク)の仕組みのことぞ』と書かれていて、この5、6、7というのは、5+6+7=18=1+8=9でミロク(弥勒)になるというの。

この計算式はカバラ神秘数の計算方法が使われていて、日本のミロクとヘブライのメシアとの繋がりをうかがえる数字でもあるのよ。

つまり、言いたいことはね『3、6、9』という数字の世界観を、闇の組織が利用しているのだと思うわ。

彼ら、闇の組織が使っている数字は厳密には組織によって意味合いが少しずつ違うの。

国家や宗教的なものの思想の違いもあるから、貴方がどこの組織に狙われて付けられた数字なのかが、はっきりしないと違っている場合もあるけれど、日本人に付けられている数字は、大抵はひとつのルートで繋がっているから、多分、そこから始まっている数字だと思う・・・

私はこの筋の専門科じゃないから、正しいことは分からないわ・・・

でも、色々な人から聞いた話を私なりに纏めると、数字の元の意味、それは宇宙から来た電波の周波数を解読したときに生まれた暗号で、その暗号は、どこから来たかというと竜蛇族という種族の宇宙人が住んでいる星から来たって説が良く聞く話ね。

龍蛇族については、諸説あるから私が詳しく話すことは出来ないわね。うーんと・・・気になったら調べてみて。

とにかく、この数字が使用される目的は、この龍蛇族の魂を持った人間達へのメッセージであり、救済であり、試練である、と言うべきかしら・・・

試練っていう観点からすれば『3、6、9』の数字に関わっている人が酷い目に合うのは、きっと、その為ね。酷い目にも合うけど、それがきっかけで素晴らしい功績を残す人も居る。

この『3、6、9』という数字は精神世界を開く鍵でもあるの。

だから、この数字を頻繁に目にする時は、何かしら変化が起こると言われていて、気をつけた方が良いって言う人もいるわね。

それを長い歴史の中で人間が都合よく解釈したものが民間に広まったりしているみたい。

西洋占星術やカバラやエンジェルナンバーとして世の中に流通している。

他にも日本に流通している二元性の世界を現した陰陽道でも、大抵、同じような意味合いになっているのよ。

古代オリエント文明を調べている専門家は色々なことを知っているみたいだけど、ほとんど公には公表されないの。

あまりにも不可思議で謎だらけのことなので、公に出来ないのだと思う・・・まぁ、国家秘密みたいなものよね。うふ、ふ、ふ・・・。

あら。ごめんなさい。数字の意味から、また、話しがずれてきちゃったわね。

とにかく、数字にはちゃんと意味があって、まず、『1』は個性で自立や新しい始まり、色彩は白。

『2』は協調と感受性で色彩は黄色。

『3』は喜びと想像とコミュニケーション。色彩は青。

『4』は秩序と奉仕で色彩は緑。

『5』は自由と変化と活発さ。色彩は黄土色。

『6』は欲望と愛情で色彩はゴールド。

『7』は独自性と瞑想で色彩は赤。

『8』は組織力と物質で色彩はオレンジ。

『9』は芸術と科学。色彩は紫。って、こんな感じかしら。

詳しく説明すればもっと細かくなるけどね・・・。とにかく、私が思うに、貴方は、今、69プロジェクトの渦中にあり、貴方の人生は試されているのだと思う。

つまり、『6』が意味する欲望や愛情を『9』の科学や芸術に転換できるのかどうか、という実験の追跡調査をされているのだと思うわ。

夕食の時に話した、脳の中に埋め込まれたナノサイズのカプセルや頭そのものがバーコードとなって、売り買いの対象になっていることで、日常的にあらゆることを試されることになるのよ。

それから、バーコードと言えば、バーコードの両端の細い二重線と、真ん中の細い二重線は『6』を表しているの。

二重線の間に挟まれている数字は6桁で区切られているのだけれど、バーコードはヨハネの黙示録に書かれている『666の刻印の無いものは皆、物を買うことも売ることも出来ないようにした』という言葉を生かすために、このような仕組みになっていると、噂されているわ。

『6』というのは精神世界の数字なのに、物欲の象徴の数字でもある。そして『6、6、6』は悪魔の数字。ここから言えることは『物欲』というのは魔物であるということでもあり、実は『精神欲』でもあるということなのよね。

精神的な欲求が満たされていれば、物欲はなくなるのかも知れないわね・・・悪魔に取り付かれているとき、人は物欲に走る、ということでもあると思う・・・。

ふぅー、たくさん、話したわね。

でも、まだ続きがあるの。他にも『6』と『9』には別の意味があるのよ。

貴方のご先祖様のお墓はどこの宗教かしら。もしも、仏教徒の密教だとしたら、『6』は『六道輪廻』の事を指していて、迷いの再生、つまり、貴方が過去にしてきたことで迷ったことのやり直しをさせられるという意味がある。

そして『9』は『九会』の意味で『九会曼荼羅』つまり『金剛界曼荼羅』の世界を貴方の人生において体感、つまり旅をさせられ、学ばされているということなのよ。

本来の意味は、現世において、前世でのやり残しや迷った事を再度、経験することなの。

でも、闇のプロジェクトは、それにならって、現世で、ターゲットの貴方が、やり残したであろうと、彼らの調査により想定できることに、似たやり残しを現実の世界に再現して事を起こし、貴方は、その再現に踊らされている、とでもいうのかしら。

そして、その出来事に対する貴方の行動から貴方の資質が見極められ、行き先が決まるのよ。

この再現に振り回されるのはとても大変なことなのよ。だから、ある宗教団体では過去から引きずっている問題の再現に踊らされないように『縛り』という儀式で、自分をマインドコントロールして、この世を生き易くさせることを教義にしている団体もあるの」と答えた。

僕は斉藤さんが、何の話しをしているのか、正直、わからなかった。

でも、話しの中に出てきた、色彩と数字の関係については妙に気になった。

それは、僕は、ここ最近、数字と色が気になってしかたがなかったからだ。

毎日の通勤時に路上で見かける車の色とナンバーの並びが偶然にしては不可思議すぎることへの違和感だった。

不可思議な数字の並びとの出会いは、統計的に考えても確率的に考えてもありえないことのように思える。

ある時、僕がT字路に停車し前を通過する車を見送っていたら、右から左へと続けざまにペパーミント色の車が三台通過していった。

その後に、同じようなペパーミント色の傘を差した人が目の前を通り過ぎて行った。

また、ある時は、白と黒の車が交互に10台くらい連なっている脇を白と黒のボーダー柄のシャツを着た人が通り過ぎて行ったり、変わった薄い色のピンクの車が続けざまに何台も通った後に、同じようなピンクの色をした自転車が通って行ったりすることだった。

もちろん、他の色の日もある。赤い車ばかり、次から次へと遭遇することもある。

駐車場でも車の色が偏って同じ色ばかりが停車していたりするのを見かけるのである。それも、良くありがちなグレーや黒や白というカラーではなく、オレンジや黄色やピンクや薄いブルーなど珍しい色だったりする。

遭遇の仕方も僕には不思議、としか思えない時もある。

例えば、同色の車やバイクや自転車、同じ色の服を着た人が同時刻にすれ違ったりして集まるのである。まるで、同じカラーが引き合っているかのように思える。

始めのうちは、たまたま、偶然だと思っていたが、あまりにも続くと、一体、どういうことか、と疑問に変わった。それに、非常に珍しいカラーの車が同一時刻に同じ場所を横切る確立はどのくらい高いと言えるだろうか。

それから、数字についても、何かの法則に則った秩序のようなものを感じる。車のナンバープレートに付けられた不可思議な数字。

最近の車は自分の車に付けるナンバープレートは好きな番号を選べるということもあり、人気のある数字が偏っているというのは理解できるが、その偏った人気の数字でも一日に、それも、ほぼ、同時刻に見かける確率はどのくらいなのだろうか。

僕は決まって、8888と8並びの数字や7777と7並びの数字のナンバープレートを付けた車を何台も同時刻に見かける。

見ない日は全く見ることが無いのに、見る日は、たて続けに見る。何故、そんなことがあるのか、その事も気になっていた。

何だか気にしすぎて病的だと、僕自身思うので言葉にすることは控えてきた。でも、毎日、繰り返されるその光景はやはり気にせずには居られないものだった。

僕は斉藤さんの話で更に色と数字に対する疑問が増した。それから、龍蛇族の魂についても何だろうと思った。

「僕の実家は仏教徒です。僕は信心深くもないし、信仰心とか並程度だと思います。曼荼羅については聞いたことありますけど、絵ですよね。違いましたっけ。詳しくは分からないです。龍蛇族は初めて聞きました。一体、どんな生物なのですか。それから、あの。数字と色の関係について気になるのですが、それは、どんな意味があるのですか。」と僕は訊いた。

「曼荼羅は仏教徒がめざす、理想の悟りの心境世界を色と具象的な形で表現したものよ。描かれた一つ一つの図絵には重要な意味が込められているの。その意味を、曼荼羅を通じて教え、導いているのよ。

闇の世界はこの曼荼羅を利用して筋書きを書き、ことを再現したりもしているの。もちろん、問題が起こったら、精神疾患で片付けられるように、神経症や精神疾患の妄想の特徴に沿ってことを起こしたりもしているわ。

龍蛇族のことだけど、龍蛇族の魂には元々の色があるのよ。エネルギーが放つ色のことで、一般的にはオーラとも呼ばれているの。

特別な使命がある人は、その後に、使命となる特別な色の玉を受け取ることになる。

そして、特別である証しとして、手に手相として文字が刻まれる。クロスやエムとして手相に現れるのよ。

あなたはどこかで玉を受け取らなかった?玉を受け取る時に波長と一緒に音とイメージも受け取るのよ。

その音が言葉の発音の始まりでイメージは梵字ではないかとも言われている。

それから、受け取った玉の色の意味があなたの人生の使命に結びつく意味になる。その玉の色の意味は、龍蛇族が住む宇宙からのあなたへの使命であり生きるための贈り物なのよ。

夕食後に話した世の中の中心になっている十三人の人物の元は、この龍蛇族から来ているのよ。

龍蛇族は十二の氏族から成り立っている。この十二の氏族を束ねているのが、十三番目の存在で、この十三人が世の中を動かす出来事を荷っているの。

でも、十三だけは特別で、そして、最近、千三百年ぶりに新しく十三番目の存在が誕生して入れ替わりがあったらしいわ。

エネルギー体の魂は人間の体に宿るから、数十年単位で肉体から肉体へと入れ替わるのだけど、魂自体が新たに誕生したのが千三百年ぶりなのよ。

誕生と言っても、新たに生まれたわけではなく、宇宙から舞い降りたって言ったほうが、多分、正しいと思うの。

これは、私の想像だけどね。
歴史の中で、世の中にそれらしい存在として初めて現れたのは、アダムの前の妻のリリスと言われていて、正確に言うと、リリスに繋がる別の存在の名前もあるから、リリスより前に第一号がいるのかもしれない。

その存在は昔から龍や蛇、つまりは爬虫類を扱うことが象徴で聖女マルガリタだったり、蛇のナーガ神を納めた釈迦だったりするようなの。

他にも、龍蛇族のDNAを受け継いでいる人の特徴は龍や蛇を好んだり、名前にそれが使われていたりもして、やはり、少し変わった使命を持って世の中に貢献することになるらしいわ。

ほら。坂本龍馬とかね。話しは戻るけど、この十三番目の存在の誕生には人間の体とそこに宿る二つの玉が必要なの。

玉の数と色と受け取る場所については、受け取る時代や人によって違っているみたいね。

噂によると、今回の誕生で宿った二つの玉の一つは青い玉。これはとてつもない孤独と哀しみの感情、そして絶望を伴う玉で、もう一つはピンク色でオレンジに輝く玉。究極の慈愛の感情を伴う玉らしいわ。

この二つの玉が一人の人間の中で融合して十三番目の存在が誕生する。

色彩からすれば、青は「3」で喜びと想像とコミュニケーションを意味している。

ピンクは「1」が混じった「7」で、「1」は「白」で個性、自立、新しい始まりを意味し、「7」は「赤」で独自性と瞑想。

オレンジは「8」で組織力と物質、厳密に言うと、「2」の黄色に「7」の赤が混じった色とも言えるから、「2」の要素の協調と感受性も入る。

つまり、喜びを手に入れるには、絶望と悲しみとコミュニケーションが必要で、究極の慈愛に至るには、個性と自立、独自性と瞑想を基盤にして組織力を協調と感受性で纏め上げ物質に落とし込んでいくことが必要ってことを言っているのだと思うわ。

今回の十三番目の存在が誕生する為に与えられた玉の色なのか、毎回、同じ色を与えられるのかは分からないけど。

多分、今回の誕生に与えられた色が「青」と「ピンク」で、共に引かれ合い、世の中の流れを作って行くのではないかと私は思うの。

つまり、これからの世の中は、喜びに繋がるコミュニケーションが主体の世界観になるのよ。

他にも、この玉と玉が人間の中で結合をするには、銀の鍵と金の鍵が必要だっていう人も居る。

一つの鍵は、銀の鍵で、銀色に輝くL字型をしているらしいの。

以前、太陽の周りに謎の物体が現れたと話題になったことがあるのだけど知っているかしら。

その話題になった物体の形もL字型で銀色の光を放っていた。

何か関係があるのではないかという人もいるわ。

もう一つの金の鍵はY型をしているらしいの。これは占星術では神の左手と言われているホロスコープでいうヨッドを差すという説もあって、誕生時にヨッドを背負わされて生まれた人物という意味らしい。

キリストとか釈迦とかが、鍵となっているとも言われているのよ。」と斉藤さんが言う。

僕は、斉藤さんの話を聞きながら、この話を聞く前に頭によぎった過去の記憶について思い出していた。

イスラエルの嘆きの壁で受け取った青い玉のことと、自宅に居るときに、突如、受け取ったピンク色の玉のことを・・・。

「えっと・・・少し、質問しても良いですか・・・」と僕は言う。

「ええ、どうぞ・・・」と斉藤さん。

「その、龍蛇族の魂を持った人間が、現在、世の中に居るということですよね。それで・・・十二の種族とそれを束ねる十三番目の存在というのは、この宇宙で何をしているのですか? 斉藤さんは、僕が、そんな種族に試されるようなプロジェクトに参加していると思うのですか。」と僕が訊く。

「そうね。まず、十二の種族の手がかりは古くはイラクにある古代シュメール人遺跡のテル・アスマルのアブ神殿のファウィッサで発見された十二体の群像にあるのかもしれないし、チチカカ文明や古代オリエント文明にも足がかりはあるのだと思うけれど、イスラエルにある話で失われた十二の種族というのがあって、その内の一つは日本人だと言う説が在るの。

ユダヤ教は一神教と言われているけれど、神の名前は「エロヒム」と言って、これは複数形の意味なのよ。

十二人とそれを束ねる十三人目を含むことではないかと思ったりもするわ。

そこから、つまり、脈々と繋がっているDNAのことを言っているのではないかしら。

この宇宙で彼らがしていることはシステムに乗っ取って、この宇宙の中にある、あらゆる生命活動を活性化させるために、様々なことを意図的に起こしている、ということね。

例えば、今回、誕生した十三番目の存在は、多分、破壊と再生をもたらす存在なのだと思う。

この存在が人間の体に宿り生まれるとき、地球には大変動が起きる。

ここ最近、日本や各地で大震災が起きて大勢が犠牲になっているでしょ。

これはこの存在の誕生を意味しているのよ。他にもこの存在が誕生し目覚めると急激にありとあらゆるものが変わり始める。

新しい時代の幕開けだからで、この存在の趣味趣向が反映されるようになるの。

十三番目の存在は本人の自覚症状は全く無いの。でも、例えば、この存在、仮に十三と呼ぶわね。

で、十三が子供好きだったとしたら、子供の教育問題や育児について、とにかく子供のことに関係する問題が急激に持ち上げられ話題になり変化していくことになるし、これは、毎回、変わらないみたいだけど、恐竜や竜のモチーフが逸ったり、爬虫類がペットとしてもてはやされたりするの。

十三が好きなものは何でも流行するから、大変なことにも繋がるの。

例えば、十三がイクラ好きだったとしたら、世の中でイクラの乱獲が始まり値段が急騰してイクラが手に入りづらくなったりするのね。

たった一人の人間が、本人は無意識で無自覚だけど、世の中を回し始める。これは、神がしている見業ではなく、神の存在を利用して闇の組織が仕組んでいることで、このことによって動かされた人間が仕掛けていることだけどね。

何処にも証拠はないし、出てこないように仕組まれている。

それから、十三のことではないけれど、プロジェクトの運営は数字ごとに決められた場所で行われているの。

確か、69番はイスラエルのガラリヤ湖の北に位置しているわ。北に向かう69番ストリート沿いのツファットと言う町で運営されているって聞いたことがある。

昔から悪霊が彷徨う、と言われている地域よ。この街には、魂の起源に到達する為の手引書と言われている・・・えっと、なんだったかしら・・・そう、そう、「光輝の書」・・・えっと・・・「ゾハール」とかいうユダヤ教の神秘思想のカバラの書物や天文学を研究している施設があるの。

その施設の地下にあると噂されているけど。施設の名前は・・・うーん・・何だったかしら。思い出せない・・・ まぁ、とにかく詳しいことは闇の中で分からないのよ。噂だけの話だから。」と斉藤さんは言う。

僕は、ツファトに行った事があった。イスラエルに行った時に、アダムに誘われてゴランハイツに向かいドライブをした時に尋ねた街だった。何か、斉藤さんが話していることと関係しているのだろうか。関係しているに違いないとしか思えないような繋がりに思える。僕は自分がツファトに行ったことがあることも、斉藤さんに黙っていた方が良いように思った。面倒なことに巻き込まれたくない。

他にも斉藤さんが話した内容で引っかかることがいくつかあった。僕は、イクラが好きでよく食べるのだが、最近、店頭でイクラを見かけなくなって来たことと、イクラの値段が高くなってきたとは思っていた。何か関係があるのだろうか。どうでもよいようなことが頭をよぎる。

恐竜は昔から好きな生物の1つなので、現在、流行しているとは、考えたこともないが、若い女性の間でも爬虫類や両生類が、最近、ブームになっているのは知っている。でも、だからといって、何でも鵜呑みにして関連付けるのは、僕は好きじゃない。だから、下手に関連付けされないように、僕が思ったことや知っていることを口に出すのは止めておこうと思う。

僕は十三になる人間はどうやって選ばれるのかが気になった。そして斉藤さんに十三という魂を宿す人間はどうやって選考されるのか訊いた。


斉藤さんは、「うーん。どういう基準で選ばれるのかしらね。魂を宿すには、それだけのエネルギーを宿せる精神性がその人に備わっているか試される必要があって、それを試す人間なのかについて決めるのも、巡礼地めぐりをしないといけないというのは聞いたことがあるわ。変な宗教団体も似たようなことしているじゃない。まぁ それは、そうと、その巡礼地を巡ることができる人間も実は選ばれた人でないと行けないらしいの・・・でも、どうやって、その人を選ぶかは分からない。

巡礼地を巡る行き方は、普通の行き方じゃないらしい。風水っていうのかな。凶の方角に、吉方位に全てなるように進まないと玉を受け取る扉の場所に行けないらしくて、行く本人はその事を知らないから、トランジェットの度に鞄が無くなったりして別の場所に荷物を取りに行かされたり、テロがあったりで一定時間空港で足止めに合ったりするらしいの。

足止めされるのも訳があって、一定時間、その場所で洗礼される必要があるかららしいわ。洗礼とか、お清めとか言われているけど、留まることで頭の中を作り変える操作をされるの。

一定のリズムを頭に入れられるというか。電磁波で情報を頭にインプットされる。そして、そこで起こる何かに全てクリアーすると、次へ進めるのかもしれない。

とにかく、後から進んだ経路と日付と時間を見ると、大凶の方角に全て吉になるように進んでいるの・・・

例えば、日本から西方位のイスラエルが大凶の年に、その年の、吉方位の北東に一端、飛んで、再度、吉方位の東南に進んで目的地に着くようにするとか。

でも、試しに、後から誰かが扉を開こうと同じことをしても、扉は開かない。安倍ちゃんは、なんで、そんなことに興味があるのかしら。」

僕は、今朝、駐車場で見かけたカップルのことを思い出した。

あの二人は、この建物に入る為に、風水を利用していたのかもしれないという想いが頭をよぎった。

「あっ・・いや・・ただ、何となく思ったので・・・巡礼地って、世界各地にある宗教的な場所のことですか。それは、一体、どこの宗教の巡礼地を言っているのですか」と僕は自分の気になることは言わずに、口を濁した。

僕は、斉藤さんが言った、真っ直ぐに進めないという言葉が引っかかった。

僕も、エジプトに行く時に、フライト後、乗った飛行機に爆弾が仕掛けられているという通報が入り、フィリピンで足止めされたことがある。

機内に仕掛けられているかもしれない爆弾を探す為に、飛行機から下ろされた。その後、飛行機を乗り換えないと行けなくなり、エアラインを変え、バングラディシュエアラインに乗ることになった。

そして、カラチで乗り換えてエジプトに向かった。しかし、カラチに着いたら荷物がドイツに行ってしまったということを聞かされて、自分でドイツまで荷物を取りに行かないと行けなくなり、ドイツ経由でエジプト入りをしたのだった。

カラチにも一日滞在をして、その後、ドイツでも一日滞在をした。

日本からエジプトまでエジプトエアラインで十四時間くらいのフライト予定だったが、結局、エジプトに着くまでに五日間近くかかったのだ。

考えてみれば、変なトラブルに巻き込まれたと思う。このことは、斉藤さんが話していることと、何か関係があるのだろうか。

ますます、僕はどういうことかわからなくなり混乱した。しかし、このことも斉藤さんに話さない方が良いように思えた。

「あら、嫌だ、もーこんな時間。そろそろ寝ないと、朝になっちゃうわ」と斉藤さんが言った。そして、続けざまに、「もうー 寝ましょう。 続きはまた今度ね。」と言い、瓶に残ったお酒を一気に飲んだ。

僕も斉藤さんの動きに合わせるかのように、自分のグラスに残っていたお酒を一気に飲み干した。

斉藤さんは、僕がグラスのお酒を飲み干すのを確認すると、僕から空いたグラスを取上げ、自分のグラスと合わせて、休憩室の脇に備え付けられている流し台に置いた。

そして、「明日、洗えばいいわ」と言い、僕の手を取った。斉藤さんは、僕を見つめてニコリと笑い、「行くわよ」と言うなり、僕の手を引いて急ぎ足で歩き出した。

斉藤さんは、僕の手をグローブのような大きな手でしっかりと握り締め、休憩室を出た。

休憩室を出ると、目の前には暗闇が広がっていた。暗闇に目がなれると、遠く、正面に緑色の非常口ライトが浮かび上がって来た。

斉藤さんはその光を頼りに、闇の中、道を滑るように前に進んだ。僕も斉藤さんに合わせて急ぎ足で付いていった。

気が付くと僕は、さっきまで寝ていたベッドの前にたどり着いていた。斉藤さんは、僕をベッドの前に連れてくると、「じゃ、また明日ね。明日って言っても今日だけど・・・まぁ、そんなこと、どっちらでも良いか・・・」と言い、僕の手を離し、「じゃ・・・ね」と言い、闇の中に消えて行った。

僕は、暗闇の中、ところどころ、点在している非常口用ライトの明かりを頼りに、斉藤さんを見送った。斉藤さんが寝ていたベッドに戻るのを見届けると、僕は、そのまま、目の前にある自分のベッドにもぐりこんだ。お酒の力もあってか、ベッドに入ると眠りに落ちるのには一分もかからなかった。





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