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ネズミを待つ猫
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園芸館を抜けて二つの建物の間にある道路を横切ると、園芸館の外壁に貼られたトイレの看板が目に入った。
僕は時計を取りに行く前に、トイレによって用を足してから行こうと思った。そして、トイレに足を向けた。トイレに着くと、入り口に、あのエキゾチックショートヘアー似の猫顔の女店員、小瀬山月子さんが立っていた。
彼女はうっとりしたような、何か恍惚とした表情で僕を見る。彼女の様子はどことなく、先ほどとは違って見える。唇は、何か獲物を食べた後のようにだらしない。トマトケチャップたっぷりのパスタでも食べた後のような口をしている。彼女はギトギトに光った唇を突き出し、作り笑いをしてこちらを見ている。軽く開けられた口は、淫らな感じさえする。すれ違い様に見た小瀬山月子さんの目の奥からは、獲物を狙うような怪しい光が放たれていた。
僕は彼女の目の奥に、人間の中に眠る狂気を見たような気がした。この瞬間、少なくとも僕の目には、彼女は狂っているように映った。
僕は、さっき鈴木氏から、散々、彼女について説明を受け彼女が危害を加えるような人では無いことは、分かっていたが、彼女の待ち構えているような怪しい眼差しに、危険を感じた。そして、彼女の側を横切りトイレへ入ることを躊躇した。トイレの表の入り口は男女一緒になっている。中に入ると、男女別にトイレへ続く入り口があるようだ。しかし、僕は、その場へ近づいてはいけないというような気持ちになる。
僕は、トイレに行くのはあきらめ、本館に戻ることにする。そして、向かう方向を変えると、急ぎ足で、会計所の小屋の前を通り、倉庫の中に一歩、足を踏み入れた。
目の前には、山積みにされた肥料が置かれていた。その積まれた肥料と肥料の間に、誰かが屈み込み手を突っ込み何かをしている。屈み込み肥料の間に手を入れている誰かの隣に、あの体に張り付くようなブルーのシャツを着て髪と靴を光らせた北野次長が立っていた。
しばらくすると、肥料の間に屈み込み何かしていた人が立ち上がった。それは、艶やかな黒髪の蝶のような八田氏だった。
手には厚紙が張り付いた靴を握っている。
八田氏は北野次長に向かい「いやー 困りましたね。粘着液で靴がベタベタです。お客様に何と言ってお詫びしたら良いでしょうか・・・」と言う。
北野次長は「そぉね。うーん。どうしよう。まぁ、とにかく、お詫びをしましょう」と言い、続けて「しかし、ネズミじゃなくて人が捕まるとわねぇ」と笑った。
そういうと、二人は園芸館に向けて歩き出した。途中、僕とすれ違いざまに、二人は「いらしゃいませ」と言い、一礼した。その後は急ぎ足で、園芸館へ歩いて行ってしまった。仕掛けられていたネズミ捕り用の粘着材シートに捕まったのは人間だった。
僕は、その話を聞いて、トイレの前に居た猫顔の小瀬山月子さんのことが頭をよぎった。捕まるわけにはいかない・・・僕の足は、本館に向けて速まった。
僕は時計を取りに行く前に、トイレによって用を足してから行こうと思った。そして、トイレに足を向けた。トイレに着くと、入り口に、あのエキゾチックショートヘアー似の猫顔の女店員、小瀬山月子さんが立っていた。
彼女はうっとりしたような、何か恍惚とした表情で僕を見る。彼女の様子はどことなく、先ほどとは違って見える。唇は、何か獲物を食べた後のようにだらしない。トマトケチャップたっぷりのパスタでも食べた後のような口をしている。彼女はギトギトに光った唇を突き出し、作り笑いをしてこちらを見ている。軽く開けられた口は、淫らな感じさえする。すれ違い様に見た小瀬山月子さんの目の奥からは、獲物を狙うような怪しい光が放たれていた。
僕は彼女の目の奥に、人間の中に眠る狂気を見たような気がした。この瞬間、少なくとも僕の目には、彼女は狂っているように映った。
僕は、さっき鈴木氏から、散々、彼女について説明を受け彼女が危害を加えるような人では無いことは、分かっていたが、彼女の待ち構えているような怪しい眼差しに、危険を感じた。そして、彼女の側を横切りトイレへ入ることを躊躇した。トイレの表の入り口は男女一緒になっている。中に入ると、男女別にトイレへ続く入り口があるようだ。しかし、僕は、その場へ近づいてはいけないというような気持ちになる。
僕は、トイレに行くのはあきらめ、本館に戻ることにする。そして、向かう方向を変えると、急ぎ足で、会計所の小屋の前を通り、倉庫の中に一歩、足を踏み入れた。
目の前には、山積みにされた肥料が置かれていた。その積まれた肥料と肥料の間に、誰かが屈み込み手を突っ込み何かをしている。屈み込み肥料の間に手を入れている誰かの隣に、あの体に張り付くようなブルーのシャツを着て髪と靴を光らせた北野次長が立っていた。
しばらくすると、肥料の間に屈み込み何かしていた人が立ち上がった。それは、艶やかな黒髪の蝶のような八田氏だった。
手には厚紙が張り付いた靴を握っている。
八田氏は北野次長に向かい「いやー 困りましたね。粘着液で靴がベタベタです。お客様に何と言ってお詫びしたら良いでしょうか・・・」と言う。
北野次長は「そぉね。うーん。どうしよう。まぁ、とにかく、お詫びをしましょう」と言い、続けて「しかし、ネズミじゃなくて人が捕まるとわねぇ」と笑った。
そういうと、二人は園芸館に向けて歩き出した。途中、僕とすれ違いざまに、二人は「いらしゃいませ」と言い、一礼した。その後は急ぎ足で、園芸館へ歩いて行ってしまった。仕掛けられていたネズミ捕り用の粘着材シートに捕まったのは人間だった。
僕は、その話を聞いて、トイレの前に居た猫顔の小瀬山月子さんのことが頭をよぎった。捕まるわけにはいかない・・・僕の足は、本館に向けて速まった。
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