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最終章 汚くも真っ当な異世界人ども
第117話 “決戦の地へ”…偽りのダークヒーロー編
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※115話の続きになります。
*****
「聞こえるか、ブラン。ミトラがやっぱり生きていた。山の中の例の目的地で鉢合わせたよ」
それは山中で、兄がミトラに崖下に突き落とされた時に時間が戻る話。
崖の途中に生えている木にロープを絡ませたおかげで、辛うじて大きな怪我も無く下に落ちれた。
木の影に入って僅かにでも雨を遮り、スマホを取り出す。
画面にクモの巣状のヒビが数個入っていたが、何とか使用は出来るようだ。
それでブランに電話をかけての、今のセリフだった。
『マロニー!?』
悲痛なブランの叫びが、スマホの向こうから聞こえた。
兄は、マロニーは構わず続ける。
「これから何とか例の場所へ引っ張っていく。幸か不幸か、ケイジ・バイパスを通ればなんとか辿り着けない事もない」
その顔は苦痛に歪んでいる。肋骨に亀裂が入ったのかもしれない。
だが、話す声には一切そんな苦痛の様子は見せない。
兄はスマホ越しにブランに託けた。
「これからビッグママに頼んで、急いで例の場所へ応援を寄越してくれ。ブラン、お前が頼りだ。俺が生き残れるかどうかのな」
スマホの向こうのブランは『分かった』と短く答える。
しかし、すぐに続けた。
『マロニー。いま話してるんが本物なんか偽物なんかわからんけど、絶対死んだらアカンで!』
「ああ、勿論だ。だから応援を忘れずに頼むぞ、ブラン」
『分かった。この後すぐにやるから!』
しかしそのブランの声は、すぐに涙が混じる。
ブランは必死な調子で兄に訴えた。
『なあ、マロニーが死んだら、ウチ……ウチ……! ウチがこの世界で頼れる人はマロニーだけやねん! だから絶対に帰ってきてなマロニー!! お願いやから!!』
「必ず帰るよ、約束だ。ああそれと、このスマホ壊れかけてるんだ。多分これが最後の連絡になると思う。だから頼むぞブラン」
ブランが最後に、兄に語り掛ける。
涙声なのに必死で笑い声にしようとしているのが感じられる。
『“必ず帰る”は死亡フラグやけどな。でもそんなんブチ破ってくれると信じてんで』
兄は「ああ!」と答えて通話を切ると、スマホをしまって雨の中を歩きだした。
“ブランの言った通りだぜ。フラグとか関係ねえ。ミトラをぶち殺して絶対に生きて帰ろう、相棒”
「当たり前だ」
*****
豪雨の中、兄が左腕のロープを高速道路のフェンスに引っ掛けて垂れ下がっている。
そのすぐ下には、倉庫らしき建物の屋根がある。
そこはどこかの物流会社の倉庫だったものの跡地。
その会社は廃業したのか別の地に移ったのか、その場所には使われなくなった建物だけが残っていた。
屋根にはまだ、太陽光発電施設が一部残っている。
兄は左腕のロープをフェンスから外して、その屋根の上に降り立つ。
雨に打たれながら足を踏みしめ、紅乙女を右手に呼び出し上を見た。
すぐに高速道路のフェンスを乗り越えて飛び降りてくる黒い影。
ミトラが後を追ってやって来たのだ。
兄はその着地点に目掛けて刺突を仕掛けた。
屋根にはリベットが打たれているので、さっきのバスの上よりかは幾分踏ん張りが効く。
もちろんその移動は、垂木の役割を果たしている鉄骨の上で。
ミトラは空中で身体を捩ったが間に合わず、モロに体幹にその刺突を喰らう。
オーラの防御で突き刺さりこそしなかったが、そのまま弾き飛ばされ、屋根の上でもんどり打って倒れて転がった。
すぐさま起き上がると兄へ顔を向ける。
また目の前に兄の刺突が迫っていた。
咄嗟に庇った手甲に刺突が当たって弾かれた。
だがそれは連続で来る攻撃。
片手で繰り出されたとは思えぬ威力の突きがそのまま三連続。
その攻撃はミトラのガードの速度を上回り、オーラが減少したミトラの左右上腕・左の脇腹が切り裂かれた。
そして兄は突きをもう一撃。
ミトラはそれにカウンターを合わせるべく、右の拳で殴り掛かる。
しかし兄の手からは刀が消えていた。最後のだけはフェイントだったのだ。
ミトラのパンチに合わせて懐に潜る。
ミトラの腕を掴んで、勢いを利用して投げ落とす。
今までもミトラに何度か食らわせた、例の一本背負いで。
ボゴッ!!
叩きつけた部分の屋根が抜け落ち、ミトラは建物の中へ落ちていく。
投げ落としてすぐさま紅乙女で叩き斬るつもりだった兄は、愛刀の呼び出しを取り止める。
そしてミトラが落ちていった穴へ自らも入り、後を追い掛けた。
*****
倉庫の屋根を支える垂木に当たる鉄骨にロープを絡めて、兄は中へ入る。
ぶら下がった兄は、振り子の要領でそのまま梁の鉄骨に飛び移る。
着地した兄が顔を向けた先には、同じ梁の上に引っかかったらしいミトラの姿。
ミトラは起き上がると、梁の上に立ち上がる。
兄の手にも紅乙女が握られミトラを睨む。
ミトラは獰猛な笑みを浮かべ、対する兄は無表情。
兄は紅乙女をミトラに向けると切っ先をチョイチョイと揺らす。
ミトラはその挑発に簡単に乗った。乗らない理由は無かった。
さっきのバスの上での戦いで、この男が、兄が決定打となる攻撃法を持ち合わせていないのは明白だ。
ならばこの男が何の小細工を弄しようと、その小細工ごと噛み切れば済むこと。
ミトラは兄へ向かって鋭く突進。
足元になにかを一瞬感じたような気がしたが、それ以上考える余裕は作らなかった。
しかし、そのミトラの突進に合わせて兄は腰を落とすと紅乙女を再び消した。
──さっきみたいに投げ飛ばす気か! 同じ手を何度も食らうかよ!!
咄嗟に急停止するミトラ。だが兄の表情は変わらない。
その兄の様子に、何かおかしなものを感じた瞬間。
ドゴッ!
ミトラの横から突然H字形鋼の鉄骨が飛んできて、ミトラの脇腹にぶち当たった。
何が起こったのか分からず、梁の上から弾き飛ばされるミトラ。
飛ばされた先には、少し低い位置に横たわる別の梁。
辛うじてその梁に着地する。
だがその上から大量の鉄の棒が降ってくる。数はおそらく十本ほどだろうか?
ご丁寧に先端部分を尖らせたものだ。
さすがにこれ以上受けるのは、オーラの残量が保たないと判断するミトラ。
頭に当たらない事を最優先にしながら必死に鉄棒を手甲で弾く。
それを凌ぎ切ったと思われた矢先、また目の前にH字形鋼の鉄骨が水平に飛んできた。
さっきのもそうだったが、天井からワイヤーで吊り下げられたモノが飛んできている。
一瞬だけ目を見開くが、足の鉤爪を梁に反射的に食い込ませ、両手をクロスさせる。
その両手がクロスした手甲の部分に、鉄骨が激しくぶつかる。
鈍く激しい衝突音。今度はミトラが弾き飛ばされることは無かった。
だがこの鉄骨の上には、兄が乗っていた。
兄は鉄骨がぶつかる寸前にジャンプして、紅乙女を振りかぶり両手が塞がったミトラの頭を狙う。
左腕を刀の峰にあてがい少しでも威力を増そうとしている。
── ヤ・バ・イ !!
今オーラの総量がかなり減っている状況で頭部に攻撃を受けたら。
いやそもそもオーラを全てを使い切っても防げるのか!?
身動きが出来ないこの状況でどうしたら。
そもそもこの倉庫は、この雑魚が仕掛けた罠の塊だったのか!
コイツは逃げたのではなく、俺をここへ誘いこんだという事なのか!?
稲妻のように、脳裏に次々と閃く思考。
だがどれも糞の役にも立たない。
ミトラは無意識に首を横に傾けて、頭部への攻撃を逸らすしか出来なかった。
そして最後にミトラの脳裏に閃く“主人公属性”。
その時──。
上から降ってきた鉄棒は、二本がミトラの身体に突き刺さっていた。
具体的には左上腕と右大腿に。
特に足に刺さった鉄棒の上部には、ミトラが手甲で弾き損ねた際に鉤爪で亀裂が入っていた。
まさにその亀裂部分に吸い寄せられるように、H字形鋼がぶつかる。
突き刺さっていた鉄棒の上部に入っていた切断寸前の亀裂は、激突の衝撃でついにちぎれ飛んだ。
そのちぎれ飛んだ鉄棒の破片。それは兄に向かって鋭く飛んでいく。
破片は、まるで狙ったかのように兄の腕の隙間を潜り抜け、顔面にぶち当たる。
その衝撃で兄の切っ先がズレた。
ズレた斬撃は、ミトラの左上腕に刺さった鉄棒に当たる。
火花を散らしながら刀の斬撃は鉄棒を滑る。
結果的に兄の攻撃はミトラの身体に掠ることさえなかった。
梁の上に着地した兄は、素早くミトラから距離を取る。
右目がおかしかった。
さっきの破片で、切れた顔面からの血が目に流れ込んでいるのか。
そう思い、紅乙女を握ったままの右の手首で目を拭う。
右目の辺りに妙な硬いものが引っ掛かる。
その際に右目がズキリと痛む。
慌てて右の手の平で触りなおす。
そこには、飛んできた鉄棒の破片が右目に突き刺さっていた。
兄は、己が片目を永遠に失ってしまった事を知った。
*****
「聞こえるか、ブラン。ミトラがやっぱり生きていた。山の中の例の目的地で鉢合わせたよ」
それは山中で、兄がミトラに崖下に突き落とされた時に時間が戻る話。
崖の途中に生えている木にロープを絡ませたおかげで、辛うじて大きな怪我も無く下に落ちれた。
木の影に入って僅かにでも雨を遮り、スマホを取り出す。
画面にクモの巣状のヒビが数個入っていたが、何とか使用は出来るようだ。
それでブランに電話をかけての、今のセリフだった。
『マロニー!?』
悲痛なブランの叫びが、スマホの向こうから聞こえた。
兄は、マロニーは構わず続ける。
「これから何とか例の場所へ引っ張っていく。幸か不幸か、ケイジ・バイパスを通ればなんとか辿り着けない事もない」
その顔は苦痛に歪んでいる。肋骨に亀裂が入ったのかもしれない。
だが、話す声には一切そんな苦痛の様子は見せない。
兄はスマホ越しにブランに託けた。
「これからビッグママに頼んで、急いで例の場所へ応援を寄越してくれ。ブラン、お前が頼りだ。俺が生き残れるかどうかのな」
スマホの向こうのブランは『分かった』と短く答える。
しかし、すぐに続けた。
『マロニー。いま話してるんが本物なんか偽物なんかわからんけど、絶対死んだらアカンで!』
「ああ、勿論だ。だから応援を忘れずに頼むぞ、ブラン」
『分かった。この後すぐにやるから!』
しかしそのブランの声は、すぐに涙が混じる。
ブランは必死な調子で兄に訴えた。
『なあ、マロニーが死んだら、ウチ……ウチ……! ウチがこの世界で頼れる人はマロニーだけやねん! だから絶対に帰ってきてなマロニー!! お願いやから!!』
「必ず帰るよ、約束だ。ああそれと、このスマホ壊れかけてるんだ。多分これが最後の連絡になると思う。だから頼むぞブラン」
ブランが最後に、兄に語り掛ける。
涙声なのに必死で笑い声にしようとしているのが感じられる。
『“必ず帰る”は死亡フラグやけどな。でもそんなんブチ破ってくれると信じてんで』
兄は「ああ!」と答えて通話を切ると、スマホをしまって雨の中を歩きだした。
“ブランの言った通りだぜ。フラグとか関係ねえ。ミトラをぶち殺して絶対に生きて帰ろう、相棒”
「当たり前だ」
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豪雨の中、兄が左腕のロープを高速道路のフェンスに引っ掛けて垂れ下がっている。
そのすぐ下には、倉庫らしき建物の屋根がある。
そこはどこかの物流会社の倉庫だったものの跡地。
その会社は廃業したのか別の地に移ったのか、その場所には使われなくなった建物だけが残っていた。
屋根にはまだ、太陽光発電施設が一部残っている。
兄は左腕のロープをフェンスから外して、その屋根の上に降り立つ。
雨に打たれながら足を踏みしめ、紅乙女を右手に呼び出し上を見た。
すぐに高速道路のフェンスを乗り越えて飛び降りてくる黒い影。
ミトラが後を追ってやって来たのだ。
兄はその着地点に目掛けて刺突を仕掛けた。
屋根にはリベットが打たれているので、さっきのバスの上よりかは幾分踏ん張りが効く。
もちろんその移動は、垂木の役割を果たしている鉄骨の上で。
ミトラは空中で身体を捩ったが間に合わず、モロに体幹にその刺突を喰らう。
オーラの防御で突き刺さりこそしなかったが、そのまま弾き飛ばされ、屋根の上でもんどり打って倒れて転がった。
すぐさま起き上がると兄へ顔を向ける。
また目の前に兄の刺突が迫っていた。
咄嗟に庇った手甲に刺突が当たって弾かれた。
だがそれは連続で来る攻撃。
片手で繰り出されたとは思えぬ威力の突きがそのまま三連続。
その攻撃はミトラのガードの速度を上回り、オーラが減少したミトラの左右上腕・左の脇腹が切り裂かれた。
そして兄は突きをもう一撃。
ミトラはそれにカウンターを合わせるべく、右の拳で殴り掛かる。
しかし兄の手からは刀が消えていた。最後のだけはフェイントだったのだ。
ミトラのパンチに合わせて懐に潜る。
ミトラの腕を掴んで、勢いを利用して投げ落とす。
今までもミトラに何度か食らわせた、例の一本背負いで。
ボゴッ!!
叩きつけた部分の屋根が抜け落ち、ミトラは建物の中へ落ちていく。
投げ落としてすぐさま紅乙女で叩き斬るつもりだった兄は、愛刀の呼び出しを取り止める。
そしてミトラが落ちていった穴へ自らも入り、後を追い掛けた。
*****
倉庫の屋根を支える垂木に当たる鉄骨にロープを絡めて、兄は中へ入る。
ぶら下がった兄は、振り子の要領でそのまま梁の鉄骨に飛び移る。
着地した兄が顔を向けた先には、同じ梁の上に引っかかったらしいミトラの姿。
ミトラは起き上がると、梁の上に立ち上がる。
兄の手にも紅乙女が握られミトラを睨む。
ミトラは獰猛な笑みを浮かべ、対する兄は無表情。
兄は紅乙女をミトラに向けると切っ先をチョイチョイと揺らす。
ミトラはその挑発に簡単に乗った。乗らない理由は無かった。
さっきのバスの上での戦いで、この男が、兄が決定打となる攻撃法を持ち合わせていないのは明白だ。
ならばこの男が何の小細工を弄しようと、その小細工ごと噛み切れば済むこと。
ミトラは兄へ向かって鋭く突進。
足元になにかを一瞬感じたような気がしたが、それ以上考える余裕は作らなかった。
しかし、そのミトラの突進に合わせて兄は腰を落とすと紅乙女を再び消した。
──さっきみたいに投げ飛ばす気か! 同じ手を何度も食らうかよ!!
咄嗟に急停止するミトラ。だが兄の表情は変わらない。
その兄の様子に、何かおかしなものを感じた瞬間。
ドゴッ!
ミトラの横から突然H字形鋼の鉄骨が飛んできて、ミトラの脇腹にぶち当たった。
何が起こったのか分からず、梁の上から弾き飛ばされるミトラ。
飛ばされた先には、少し低い位置に横たわる別の梁。
辛うじてその梁に着地する。
だがその上から大量の鉄の棒が降ってくる。数はおそらく十本ほどだろうか?
ご丁寧に先端部分を尖らせたものだ。
さすがにこれ以上受けるのは、オーラの残量が保たないと判断するミトラ。
頭に当たらない事を最優先にしながら必死に鉄棒を手甲で弾く。
それを凌ぎ切ったと思われた矢先、また目の前にH字形鋼の鉄骨が水平に飛んできた。
さっきのもそうだったが、天井からワイヤーで吊り下げられたモノが飛んできている。
一瞬だけ目を見開くが、足の鉤爪を梁に反射的に食い込ませ、両手をクロスさせる。
その両手がクロスした手甲の部分に、鉄骨が激しくぶつかる。
鈍く激しい衝突音。今度はミトラが弾き飛ばされることは無かった。
だがこの鉄骨の上には、兄が乗っていた。
兄は鉄骨がぶつかる寸前にジャンプして、紅乙女を振りかぶり両手が塞がったミトラの頭を狙う。
左腕を刀の峰にあてがい少しでも威力を増そうとしている。
── ヤ・バ・イ !!
今オーラの総量がかなり減っている状況で頭部に攻撃を受けたら。
いやそもそもオーラを全てを使い切っても防げるのか!?
身動きが出来ないこの状況でどうしたら。
そもそもこの倉庫は、この雑魚が仕掛けた罠の塊だったのか!
コイツは逃げたのではなく、俺をここへ誘いこんだという事なのか!?
稲妻のように、脳裏に次々と閃く思考。
だがどれも糞の役にも立たない。
ミトラは無意識に首を横に傾けて、頭部への攻撃を逸らすしか出来なかった。
そして最後にミトラの脳裏に閃く“主人公属性”。
その時──。
上から降ってきた鉄棒は、二本がミトラの身体に突き刺さっていた。
具体的には左上腕と右大腿に。
特に足に刺さった鉄棒の上部には、ミトラが手甲で弾き損ねた際に鉤爪で亀裂が入っていた。
まさにその亀裂部分に吸い寄せられるように、H字形鋼がぶつかる。
突き刺さっていた鉄棒の上部に入っていた切断寸前の亀裂は、激突の衝撃でついにちぎれ飛んだ。
そのちぎれ飛んだ鉄棒の破片。それは兄に向かって鋭く飛んでいく。
破片は、まるで狙ったかのように兄の腕の隙間を潜り抜け、顔面にぶち当たる。
その衝撃で兄の切っ先がズレた。
ズレた斬撃は、ミトラの左上腕に刺さった鉄棒に当たる。
火花を散らしながら刀の斬撃は鉄棒を滑る。
結果的に兄の攻撃はミトラの身体に掠ることさえなかった。
梁の上に着地した兄は、素早くミトラから距離を取る。
右目がおかしかった。
さっきの破片で、切れた顔面からの血が目に流れ込んでいるのか。
そう思い、紅乙女を握ったままの右の手首で目を拭う。
右目の辺りに妙な硬いものが引っ掛かる。
その際に右目がズキリと痛む。
慌てて右の手の平で触りなおす。
そこには、飛んできた鉄棒の破片が右目に突き刺さっていた。
兄は、己が片目を永遠に失ってしまった事を知った。
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