20 / 128
第二章 異世界編
第19話 ─ 貴方が思うほど貴方は悪くない ─…ある男の独白
しおりを挟む
「王からの勅命だ。例の牛頭の魔物が見つかったらしい。“ドラゴンスレイヤー”達と協力してこれを討伐せよ、という事だ。
半月前に討伐に向かった軍の十人隊は、全滅したと国は見ている。何一つ連絡が無いらしい」
リッシュさんが渋い顔で言ってきた。他の上位パーティーは出払っているらしい。
知恵袋のラディッシュさんがリーダーであるリッシュさんに尋ねた。
「念の為、確認のために質問だ。派遣する軍の人数を増やして討伐する訳にはいかないのか?」
「ドラゴンスレイヤーの話では、マトモな道のない、あっても獣道程度しかないぐらいの奥地だそうだ。
むしろ五~六人から十人前後ぐらいが一番効率的に動けるようだな。整備された道の有る、森の浅層ならともかくとして」
「……ならば、軍よりも柔軟に対応出来る冒険者……という事か。……討伐というが、その実、威力偵察……という事は?」
「無い。ドラゴンスレイヤーが、魔物のそういった情報を把握しているらしい」
俺はその言葉に不安になって、リッシュさんに尋ねた。
「ミトラが本当に敵の魔物の事を知っていると思ってる?」
「王はそう判断された。“邪竜退治の英雄”の言葉だからな」
つまりリッシュさんは、そうは思っていないという事だ。
俺は、ほんの少しだけ安堵する。
「向こうの情報を共有する機会は。
あの“英雄”の性格を考慮するならば、そういう場が無いと、情報の出し渋りがかなりの確率で行われると思われます。
おそらく我々を何らかの踏み台にする事を考えてくるかと」
俺以外に弟の人となりを知るフェットも、忠告が混じった意見をリッシュさんに述べる。
「情報共有の場は、無い。すぐに準備を整えて、明日出立してもらいたい、とも賜っている。道中で何とか情報を引き出すしかないな」
「もし情報の対価に嫁を要求されたら?」
とベッコフさん。
それだ、俺の懸念の一つは。フェットもそれは同じなのか、表情が固い。
だがリッシュさんはきっぱりと言い切った。
「嫁を……仲間を売って得られる情報なんぞに価値はあるか?」
俺とフェットは思わずお互いに抱きしめあった。
「まあこれはドラゴンスレイヤー相手に限った話じゃない。
仲間を売るような連中は、どんな冒険者にだって見下されて、マトモな扱いをされなくなるだけさ。それこそ情報だってまともに貰えなくなる。
そもそも、普通はそんな要求をする時点でおかしいんだから」
「でも、“英雄”が来てから、こんなにも色々とすぐ……話が彼等にとってうますぎるわね」
「ああ。お前たち二人が、何故あんなにも警戒しているのかが、ようやく実感として分かってきたよ」
弟が王都に来てから、まだ三ヶ月も経っていないはず。なのに全ての状況が、アイツの名声を高めるような段取りにあっという間に組み上がっていく。
何故か下がっているウチのパーティーの評判の件も、内心みんな少々堪えているようだ。
この前の武闘会の件が響いているのだろうが、相変わらず理不尽な展開だ。
一ヶ月程前に国の武闘会があったのだが、リッシュさん達を含めた上位の冒険者達が不参加だった事もあって、俺が優勝できたのだ。
隠れた新人発掘の意味合いが強い大会だから、別にそれは良かった。
魔法は一切使用禁止なのも、俺には有り難い条件だったしな。
だが、優勝が決まったその場にミトラが不意打ちで乱入してきたのだ。
『戦場では魔法も飛び交うのに、こんな大会温過ぎる』って、火球を会場に撃って滅茶苦茶にしやがった後で、そう言って。
で、リッシュさん達が俺を守りに飛び出して来てくれたのだが……。
『こちらは一人なのに多数で取り囲むのがリッシュ・クライヌ率いる一党のやり方か!』と弟が叫ぶと、王や主催の偉いさん果ては観客まで『その通りだ、褒められた事ではない』と言い始めた。
こちらが、『不意打ちで魔法攻撃をして大会を無茶苦茶にした方が悪いだろう』と言ったのは、完全に聞く耳を持たれなかった。
ミトラは、さすがは“竜殺し”だともてはやされ、こちらは一対一の大会の主旨を破ったとされて、罰金を払う事になった。
俺の優勝など、有耶無耶になって当然のように何処かへ消えた。
俺自身の剣の実力が判ったから、俺は優勝など、もうどうでも良かったけどな。
俺が今まで何度も味わった理不尽だが、これほど公の場では初めてだった。
それに加えてリッシュさん達はこの理不尽展開が生まれて初めてだったろうからな。
俺は、フェットを含め、あれほど不機嫌な表情の彼等を初めて見た。
「まあとりあえず嫁は、その煽情的な服の上からマントをしっかり羽織ること。向こうに余計な劣情は与えないのが、転ばぬ先の何とやらよ。だいたい、劣情与える相手は隣に居る旦那でしょ?」
「了解です、キャンティの姉御」
おっと、君たちいつからそんな間柄になったの!?
半月前に討伐に向かった軍の十人隊は、全滅したと国は見ている。何一つ連絡が無いらしい」
リッシュさんが渋い顔で言ってきた。他の上位パーティーは出払っているらしい。
知恵袋のラディッシュさんがリーダーであるリッシュさんに尋ねた。
「念の為、確認のために質問だ。派遣する軍の人数を増やして討伐する訳にはいかないのか?」
「ドラゴンスレイヤーの話では、マトモな道のない、あっても獣道程度しかないぐらいの奥地だそうだ。
むしろ五~六人から十人前後ぐらいが一番効率的に動けるようだな。整備された道の有る、森の浅層ならともかくとして」
「……ならば、軍よりも柔軟に対応出来る冒険者……という事か。……討伐というが、その実、威力偵察……という事は?」
「無い。ドラゴンスレイヤーが、魔物のそういった情報を把握しているらしい」
俺はその言葉に不安になって、リッシュさんに尋ねた。
「ミトラが本当に敵の魔物の事を知っていると思ってる?」
「王はそう判断された。“邪竜退治の英雄”の言葉だからな」
つまりリッシュさんは、そうは思っていないという事だ。
俺は、ほんの少しだけ安堵する。
「向こうの情報を共有する機会は。
あの“英雄”の性格を考慮するならば、そういう場が無いと、情報の出し渋りがかなりの確率で行われると思われます。
おそらく我々を何らかの踏み台にする事を考えてくるかと」
俺以外に弟の人となりを知るフェットも、忠告が混じった意見をリッシュさんに述べる。
「情報共有の場は、無い。すぐに準備を整えて、明日出立してもらいたい、とも賜っている。道中で何とか情報を引き出すしかないな」
「もし情報の対価に嫁を要求されたら?」
とベッコフさん。
それだ、俺の懸念の一つは。フェットもそれは同じなのか、表情が固い。
だがリッシュさんはきっぱりと言い切った。
「嫁を……仲間を売って得られる情報なんぞに価値はあるか?」
俺とフェットは思わずお互いに抱きしめあった。
「まあこれはドラゴンスレイヤー相手に限った話じゃない。
仲間を売るような連中は、どんな冒険者にだって見下されて、マトモな扱いをされなくなるだけさ。それこそ情報だってまともに貰えなくなる。
そもそも、普通はそんな要求をする時点でおかしいんだから」
「でも、“英雄”が来てから、こんなにも色々とすぐ……話が彼等にとってうますぎるわね」
「ああ。お前たち二人が、何故あんなにも警戒しているのかが、ようやく実感として分かってきたよ」
弟が王都に来てから、まだ三ヶ月も経っていないはず。なのに全ての状況が、アイツの名声を高めるような段取りにあっという間に組み上がっていく。
何故か下がっているウチのパーティーの評判の件も、内心みんな少々堪えているようだ。
この前の武闘会の件が響いているのだろうが、相変わらず理不尽な展開だ。
一ヶ月程前に国の武闘会があったのだが、リッシュさん達を含めた上位の冒険者達が不参加だった事もあって、俺が優勝できたのだ。
隠れた新人発掘の意味合いが強い大会だから、別にそれは良かった。
魔法は一切使用禁止なのも、俺には有り難い条件だったしな。
だが、優勝が決まったその場にミトラが不意打ちで乱入してきたのだ。
『戦場では魔法も飛び交うのに、こんな大会温過ぎる』って、火球を会場に撃って滅茶苦茶にしやがった後で、そう言って。
で、リッシュさん達が俺を守りに飛び出して来てくれたのだが……。
『こちらは一人なのに多数で取り囲むのがリッシュ・クライヌ率いる一党のやり方か!』と弟が叫ぶと、王や主催の偉いさん果ては観客まで『その通りだ、褒められた事ではない』と言い始めた。
こちらが、『不意打ちで魔法攻撃をして大会を無茶苦茶にした方が悪いだろう』と言ったのは、完全に聞く耳を持たれなかった。
ミトラは、さすがは“竜殺し”だともてはやされ、こちらは一対一の大会の主旨を破ったとされて、罰金を払う事になった。
俺の優勝など、有耶無耶になって当然のように何処かへ消えた。
俺自身の剣の実力が判ったから、俺は優勝など、もうどうでも良かったけどな。
俺が今まで何度も味わった理不尽だが、これほど公の場では初めてだった。
それに加えてリッシュさん達はこの理不尽展開が生まれて初めてだったろうからな。
俺は、フェットを含め、あれほど不機嫌な表情の彼等を初めて見た。
「まあとりあえず嫁は、その煽情的な服の上からマントをしっかり羽織ること。向こうに余計な劣情は与えないのが、転ばぬ先の何とやらよ。だいたい、劣情与える相手は隣に居る旦那でしょ?」
「了解です、キャンティの姉御」
おっと、君たちいつからそんな間柄になったの!?
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。
薄 氷渡
ファンタジー
異世界に転生したら牛人だった。外見は大部分が人間と大差なく、牛耳と尻尾がついている。
のどかなバスチャー村で、巨乳美少女達から搾ったミルクを行商人に売って生計を立てている。
9人家族の長男として生まれた少年カイホは、まったりとした日々を過ごしていたが1つの問題があった。ホル族の成人女性は、毎日搾乳しないと胸が張って重苦しくなってしまうのである。
女の乳房を揉むとLVが上がるニューメイジとしての才能を開花させ、乳魔術を駆使してモンスターとのバトルに挑む。愛するオッパイを守るため、カイホの冒険は続いていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。
そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。
冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。
・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。
・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる