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§ そにょ5 ☆日本ではイブのが本番という謎☆

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 ぐつぐつ。コトコト。
 そろそろいけるかな?

「よーしフェット、そっちに持っていくで」

「オーケー。あ、エエ匂いするわ~」

 そう言うフェットの前に、鍋つかみミトンにはめて煮立った鍋を手に持つ俺は、IHヒーターの上に鍋を置いた。
 俺が蓋を開けると、フェットは顔を鍋に寄せて鼻をひくつかせる。

「鶏肉の香りがエエ感じやね。この世界に来てもショウの料理の腕は衰えず、ますます盛ん、と。むしろ向こうの世界の時より上達が凄いんちゃう?」

「良い食材と調味料のおかげで、ソレっぽく見えてるだけさ。そこらへん日本は豊富で恵まれた良い国だよなぁ」

「クスッ、相変わらず謙虚やねぇショウは」

「ケンキョ……物腰が柔らかい事を言う日本の言葉やったっけ?」

「そそ。もっと他の意味も混ざってるみたいやけどね。まだ私もよく分からへんわ」

「まぁそれはそれとして、そろそろ食べよっか。本当は七面鳥ターキー使った料理したかったけど」

「良い鶏肉のダシが出てそうで美味しそうよ?」

「フェットとブランはで食べたい派やったな、豆腐は?」

「そうであります将軍! そうね、ブランちゃんももう呼んでもいい頃ね」

 そう言ってフェットは、二階にいるブランに声をかける。

「ブランちゃ~ん。そろそろ食べましょ~!?」

「オッケーちょい待ってなフェットチーネさん」

 トントンという足音と共に、そう答えながらブランが降りてくる。
 すぐに鍋を置いたコタツに入って座り込むと、フェットと同じように匂いを嗅いだ。

糸蒟蒻しらたきに揚げ豆腐にネギ白菜しめじエノキに鶏肉か。さすがマロニー、ええ腕しとるわ。出汁も麺つゆベースに、醤油に味醂に酒と……ちょっとショウガも入っとる?」

「お、なかなか良い鼻してるな、ブラン。だしの素もちょっと入れたかな」

「なかなかのチョイスやな、マロニー……おっとショウやったな、まだ慣れへんわ」

 そうブランは頬を軽く掻きながらこぼす。
 だが俺は、それに軽くため息をつきながら答えた。

「だから呼びやすい方でいいって言ってるやろ」

「いやなぁ。ウチも、“マロニー”呼びするのは裏仕事の時だけにしよと思ってるねん」

 なるほど、ブランはブランで彼女なりに色々と考えているって事か。
 俺は素直に、そんなブランに感謝した。

「そっか、サンキューな」

「へっへー、あんがと。んじゃそろそろ食べよっか? マロ……ショウ、音頭とってんか」

「あいよ」

 そうブランに答えて俺は鍋の蓋を一旦閉めた。
 その俺の行為に、フェットとブランも何も言わない。二人とも『分かって』いるからだ。
 咳払いをひとつして、俺は宣言。

「えー、おかげさんで何とか年の瀬まで漕ぎ着けられました。お二方には大変お世話になり感謝しております。少し早いですが来年も宜しくお願いします。んじゃ二人とも和風料理で恐縮だが……メリークリスマス!!」

「ちょっと待ったああああああぁぁぁぁ!!」

 その叫びと共に天井をぶち抜いて、クラムチャウダーが乱入してきた。
 予想通りだ。鍋の蓋を閉めて正解だ。
 ホコリがおさまると、クラムは俺を指差して叫ぶ。

「華のクリスマスに、何をやってるんですかショウさん! クリスマスですよ? 聖なる夜ですよ!? 即席濫造されたカップルが大量に溢れて、ホテルで性なる夜をキャッキャウフフと男と女でベッドでプロレスする日ですよ!?」

「USAじゃ、みんな家族と一緒に過ごしてクリスマスを祝ってたけどな」

「ぐっ! そ、そんな事を言ったってココは日本ですよ! それに何ですか昨日のイブの過ごし方は!? フェットチーネさんと二人で業務スーパーなんて、何て色気のない! とーちゃん情け無くって涙が出てくらあ!!」

「なんか去年も同じやり取りをした気がするな。そしてこちらも返答は同じだ。フェットが行きたがったからだよ」

 俺の隣で、フェットがクラムにドヤ顔でピースサイン。やめなさい、可愛いから。
 クラムは地団駄を踏んで叫び続ける。

「ああもう! ショウさんとフェットチーネさんは、向こうの世界で結婚してたとは言っても、ほぼ普通のカップルじゃないですか! もっと恋人同士の甘い雰囲気を、こう……」

「甘い飴ちゃん私大好きですよ? 特にあずき味のヤツ」

「あ、俺もあれ好きやな」

「そっちの甘いじゃなああああぁぁぁぁい!!」

 その時、ようやくクラムチャウダーは俺の左手に目を止める。
 あ、鍋つかみミトンをまだ付けっぱなしだった。

「あれ、その左手……ショウさん何でそっちにもミトン付けてるのん?」

「ああ、クラムチャウダーにはまだお披露目してなかったか」

 そう言いながらミトンを両手から取る俺。
 取り去った後の左手首に残されたのは。

「何じゃこれええええぇぇぇぇ!?」

 それを見た瞬間にクラムは絶叫。
 まぁ契約したあの場所に居合わせなければ、こんな反応にもなるかな。

「この前、ブランとフェットを連れてUSAの“騎士団”に行った時にな、海の上で遭遇したコイツと契約したんだ」

 クラムチャウダーの視線の先にある、握りこぶし状に丸めたソレ。
 俺はそれを、ほどいて伸ばすとクラムチャウダーの頭をぺしぺしと叩いた。

「クラーケンのキリタンポちゃんだ。普段はキリーと呼んでる。ほらキリーちゃん、挨拶は?」

 俺の切断された左手の先に生えたタコの触手。
 それがお辞儀をするようにへにょりと垂れた。
 あの時、『後輩』ができたと紅乙女が喜んでいたっけ。
 だがクラムの反応は失礼極まりないもの。

「ショウさんが触手凌辱もののエロゲキャラになっちゃったー!!!?」

「失礼な。まだそんなに器用に動かせねーよ」

「いやショウさんのその反応もおかしい。動かせるようになったらエロい事するんですか!?」

「期待してるわ、ショウ」

「フェットチーネさんも反応おかしい。女性なんだから、もっと嫌悪感に顔を歪ませましょうよ」

「何で? 湯がいて食べたら美味しそうやんか」

 そのフェットの言葉に、キリーちゃんはビクリと触手を震わせて、クルクルと丸まって固まってしまった。
 クラムは毒気を抜かれたように呟く。

「エロ触手をビビらせるとは……。女傑フェットチーネ、やはり恐るべし」

 そこへブランがクラムを取りなす。

「まぁまぁ、クラムちゃんも一緒に食べよーや」

「……食べる」

「クラムちゃんは豆腐は熱め? ぬるめ?」

「……熱め」

「お、んじゃ俺と同じだな。ブランはぬるめ派だからフェットの隣に座ればいいな。クラムは俺の隣だ」

 クラムは黙ってコタツに入って座った。
 やれやれ。

「酒はどうする? 日本酒か焼酎か、それかせめてクリスマスっぽく白ワインでもいくか? シャブリとまではいかんが一応あるぞ」

「はーいはいはい! もうお酒だけでもオシャレ感を味あわないと!」

 とはクラムの反応。

「ウチもワイン行こうかな」

 これはブラン。

「俺は日本酒で、食い終わったらウイスキーをちょいと飲む」

 俺がそう言うと、フェットがすぐに続けて言い放つ。

「焼酎なんもなしでそのまんま!」

「「おおー! いけますねえフェットチーネさん!!」」

 ブランとクラムが声を揃えて反応。
 その二人に、台所を片付けてくれていた紅乙女が答える。

「奥方様は強いですよ! ご主人様が今まで何度も潰されてますから」

「紅乙女、俺が酒に弱すぎるんだよ」

 そう自嘲気味に、紅乙女に答える俺。
 クラムが俺の言葉にツッコむ。

「いや、ショウさん自分で言っちゃったらダメでしょ」

「何でだ? この世界じゃ……特に日本じゃ別に酒に強くても、そんなに自慢にゃならないんだろ?」

「いや、そうは言っても……」

「クラムチャウダーって、意外と男らしさとか女らしさにこだわるよな」

「……むぅ」

 ついに返答に困って、黙ってしまったクラムチャウダー。
 俺は肩をすくめると、そばに置いてある皿のラップを取り去り持ち上げた。

「やれやれ、そんじゃ豆腐そろそろ入れるぞ。熱め組はこっちでぬるめ組はここな」

「「「はーい」」」





「はー、食べた食べたー!」

「よし、んじゃ忘れないウチに、ささやかながらプレゼントを渡しとく。ブラン、とあるルートで手に入れた鬼滅おにめつかたなのクリアファイルだ」

 食後に俺は、紙袋に包んだそれをブランに渡した。

「おお、イノシシ乃助や。炎獄さんの次に好きやねんコイツ! ありがとうショウ!」

「……ブランちゃん、ブランちゃんまで流行りモンに流されるなんて」

 そう言って、ジト目でブランを見るクラム。
 だがブランはドヤ顔で返す。

「フッ、アンテナは常に貼っておかないと一流のオタクにはなれへんのやで」

「むぐう……」

 フェットがすかさず手を挙げる。

「あ、私はショウとの子供が……」

「子作りはいつもやってるでしょ。ほい、フェットには最近ハマっている隅っ子暮らしのクリアファイル」

「わーいありがとうショウ! お礼に私の身体をプレゼントしちゃう。後でベッドの中で召し上がれ♪」

「……その返しはちょっと想定外だったです」
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