上 下
11 / 40

彼女はできる女子でした 11話

しおりを挟む



 なんだか今日は調子がいい。
 朝食を久しぶりにちゃんと食べたからなのか。それとも天気がいいからなのか。
 どちらにしろ仕事は捗る一方でこんなに嬉しいことはない。

「どうした憲司。めっちゃ上機嫌じゃん」
「まぁな」
「じいちゃん死んだのに不謹慎だな」
「そう言うこと言うお前が不謹慎だろ」
「え、なになに?彼女でもできた?」
「できてねーよ」
「つまんねぇ」

 昼休み。大学からの友人であり同じ職場の同僚でもあるこの男、佐々木隆之介ささきりゅうのすけと昼飯を食べているとそんなことを言われた。

 ちなみに彼のあだ名はドラゴン。
 呼んだこっちもたまに恥ずかしくなるその名前は、大学時代につけられたあだ名であり由来は皆でボーリングに行った時に画面に出る名前を「隆之介」ではなく「龍之介」と俺が書き間違えたからというなんともクソエピソードな由来である。
 そしてもうひとつ、ドラゴンボールのTシャツをよくこいつが着ていたから。だからドラゴン。
 何の面白みもない由来である。

「憲司ってまじで彼女作らないな」
「だってめんどくせぇし」
「そこそこモテるくせに。むかつくな」
「お前モテないもんな」
「うわ、まじでむかつくわ」
「なんか今日いい日だな」
「どこがだよ!!」

 いつもの店で日替わり定食を食べなら、何百回もしているであろう会話を挨拶のように交わしていく俺たち。

 しかし今日の日替わりは俺の好きなトンカツ定食。
 そんないつもの適当の会話もなんだかそれだけで少し楽しく感じてしまう。

 あぁ、まじでいい日だわ。

 それから午後も絶好調で早く仕事を終わらせれば、残りの勤務時間はゆっくりと過ごした。
 明日やろうとしていた仕事もやり始めたりなんかして。
 途中でドラゴンに「怪しい、なんかあったな」なんてしつこく聞かれたりもしたが気分が良いので華麗にスルー。
 こうして時間は過ぎて行きいつの間にか帰宅時間になっていた。



「ただいまー」

 家に着きガチャリとドアを開ければ、そこからはいい匂いが漂ってきた。
 あ、カレーだ。そう言えば今日カレー食べたいって言ったんだっけ。
 靴を脱いで玄関に上がれば「お帰りなさい」とレイナの声がした。
 そんな聞き慣れない声になんだか驚いたが、それよりも自然と「ただいま」なんて言葉を発していた自分自身に一番驚くのだった。
 いやいや、俺もレイナも馴染むの早すぎだろ。

「うわ、帰ってきて夕飯あるとか最高かよ」
「お風呂入りますか?カレーはもうできてますけど」
「あーそこはやっぱアレ言ってほしかったなぁ」
「アレ?」
「お風呂にする?ご飯にする?…て、知らないかまぁいいや」
「あぁ、それ」
「知ってんのかよ」

 俺の言った言葉を理解したのか、なんだか面倒な表情をする彼女。
 ていうかお前なんでそんなセリフも知ってんだよ、なんて思いながらも「そんな顔すんなよ」と言って定位置ソファーへ腰を下ろせば呆れた表情のレイナがいた。
 確かにこういう感じ、年上っぽい反応だわ。

「ビール飲むんでしたっけ?とりあえず、お湯沸かしておきますね」
「お前本当出来る女だな」
「ありがとうございます」
「ビール頂戴。風呂は後で入る」
「はい」

 レイナの並外れた出来の良さに感動しながら、俺は渡されたビールをプシュッと開けた。

「……ん?」

 そして、それを一口飲み干せば今の一連の会話を思い返す。
 ……今の俺って、完全にただの亭主関白ジジイでは?
 いや違う、俺が亭主関白ジジイではなくレイナが俺を亭主関白ジジイにさせているのだ。きっとそうだ。

 そんなことを思いながらも「ビール取ってー」なんて言葉を自然と彼女に伝えるのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...