15 / 23
ほんの小さな覚悟
無様な一層攻略
しおりを挟む
―――――――――――――――
名前 【なし】
クラス【なし】
LEVEL【56】
HP【362/362】
MP【3/3】
攻【156/328】
防【132/294】
速【259/482】
賢【100/204】
魔力攻撃【2/2】
魔力防御【40/43】
ユニークスキル【なし】
スキル【近接戦闘:B】
称号
【レベル上限突破者】【チェイサー】【虚ろなる者】【ステータス上昇値補正】
―――――――――――――――――
「あの、その。······これ、現在値は低いですけど、潜在値だけを見れば、Bランク冒険者相当の実力なんですが。それに、何ですか【ステータス上昇値補正】って称号。私、こんなの見たことないんですけど」
ホムンクルスのステータスを見て、マリエラさんは当然の疑問を口にする。
最も、俺だってこんなの信じられない。てか、お前こんなに強かったのかよ。もう最悪ステータスの値には目をつぶるとしても、称号が頭可笑しすぎて笑えてくるレベルだ。
人間は特殊なスキルを得ない限り、レベルが50に到達すると上がらなくなる。だがその後もたくさんの魔物を殺し続けると、レベル上限が開放されるらしい。
【レベル上限突破者】は、それを成し遂げた者に与えられる称号らしい。
だが、【ステータス上昇値補正】って何だ。まじでこれは見たことがない。文面から効果の予想は立てられるが、何だよこれ?
「お前、結構武闘派?」
「違う。必要に迫られて殺してきただけ」
必要に迫られてって······あれか?こいつを造ったどこぞの研究所から逃げてくるとき、魔物の群れにでも遭遇したのか?
「はぁ、まあいいでしょう。人にはそれぞれ事情があるものでしょうし。それで、ステータスの記録も終わりましたし、どの階層に行きたいのかを教えてください」
ホムンクルスのことについてはスルーしてくれるらしい。良かった。
それにしても、何層に行けばいいんだ?
冒険者は、一度行ったことがある階層には、ダンジョンの入り口から転移することが出来る。
俺は以前セリアとパーティーを組んでいた時に、3層まで攻略していた。だから1層~3層までは自由に行ける。
解呪するための何かが何層で出現するかが分からないなら、最初から行くべきだろう。
「1層で」
「それなら問題はありません。こちらが1層の地図になります。攻略を始める前に目を通しておいて下さい」
マリエラさんが差し出してきた地図を受け取り、取り敢えずホムンクルスに渡す。
「それでは、気をつけて行ってらっしゃいませ」
お辞儀をしたマリエラさんに軽く会釈を返して、外に向かう。ギルドを出るときに、ちょうど入ってきたギルドマスターとすれ違った。
ギルドマスターはホムンクルスが1層の地図を持っているのを確認すると、微かに笑った。そして俺の肩に手を置いて、
「まあ、頑張れ」
と短く言葉をくれた。
慌てて振り返るが、ギルドマスターは俺の方に振り返らず、そのまま職員室へと入っていった。
「おい、ちゃんと地図は見たか?」
「まだ見ていない。だけど、一度目を通せばインプットできる」
「うん。お前のその言葉は信じてない」
何故か頷いているホムンクルスから地図をぶんどり、最後の確認をする。今から1層攻略を始めるのだから、何度見ても悪いということはないだろう。
「じゃあ行くぞ」
ホムンクルスの腕を引っ張り、ダンジョンへと足を踏み入れる。
一歩中に入るだけで、俺たちの周囲の環境が大きく変化した。後ろを振り返れば外がすぐそこにあるのに、外部の音が遮断されたように聞こえてこない。
そして、外界から閉ざされたかのように、薄暗く、肌寒さを感じる。
「これが······ダンジョン」
しばらく来ないうちに忘れていた不気味な感覚に、思わず足がすくんだ。1層は洞窟のような様相であるが、明らかにそれ以上の何かがある。
「行くぞ」
自身を鼓舞するために先頭に立つ。そのすぐうしろをホムンクルスがついてきていた。ホムンクルスには精神的な余裕があるようで、その足取りは軽い。
「一応確認な?ここからボス部屋までは、徒歩で30分くらいだ。で、ボスはゴブリンが2体」
「それらは私の脅威になり得ない。それより、トラップの位置を教えてほしい」
「トラップは······そうだな。ここをすぐ左に曲がった所にある宝箱と、あとはボス部屋前の警報が鳴る床だ」
「警報?なぜそんなものが私の脅威になる?」
ホムンクルスが疑問を口にした。
おいおい、あのステータスは確かに強いけど、流石に油断しすぎてねーか?それとも、恐怖を感じることができないのか······。
「警報が鳴り響けば、そこいらの魔物が寄ってくるだろ?」
「他の魔物は、ボス部屋に入ることが出来ない。なら、さっさとボス部屋に逃げてしまえばいい。そうすれば、ゴブリン2体を殺すだけで済む」
「ボス部屋だぞ?ボスだぞ?新人とか、俺みたいな弱者は、攻略すんのにもそれなりの準備がいるの。警報が鳴ったら、装備の点検をする暇もないだろ?」
俺の回答を静かに聞いていたホムンクルスは、しばらくしてから口を開いた。
「確かに。それは一理ある」
そうやってホムンクルスと情報確認をしながら数分間歩いていると、不意にホムンクルスが止歩みを止めた。
「止まって。この角の先に、魔物がいる」
「嘘だろ?」
抜き足差し足で角まで移動して顔だけを覗かせると、確かに1体のゴブリンがいた。
「お前、凄いな。俺なんかより全然役に立つじゃん」
やべぇ。俺、ホムンクルスにも負けてるよ。こんなんじゃダンジョンの深層に行けない。
「あれはどうする?」
「倒すしかないんだが······お前の力を見てみたい。あれ、倒してみてくんね?」
「分かった」
短く答えたホムンクルスは、剣も構えずに角を曲がってしまった。慌ててその後を追いかけると、既にホムンクルスはゴブリンに見つかってしまったようで、睨みつけられていた。
「ギャァァア!!」
ゴブリンが牙をむき出しにして、ホムンクルスを威嚇する。だが、その様子はどうも虚勢に見えた。現に、今も一歩下がっている。
対してホムンクルスは、一歩もその場を動かない。無表情で突っ立っているだけだ。
数秒間の睨み合い(一方的)の末、最初に動いたのはゴブリンだった。
「ギャァァア!!」
恐怖を振り切るように、ゴブリンは勢い良くホムンクルスに躍りかかった。地を駆ける速度を乗せたパンチを繰り出したのだ。ゴブリンにしては上等な威力、速度。だがホムンクルスはそれを手の甲で弾くと、何でもないとばかりにカウンターの右ストレトートを放った。
それだけ。たったそれだけでゴブリンは物言わぬ死骸になり、地面を血で汚しながら吹き飛んで行った。
「終わった」
その声には、戦闘直後の高揚感も、命を奪った罪悪感もない。どこまでも平坦だった。
「お前、まじでメチャクチャ強いじゃねーかよ」
だから俺も、努めて平静を装う。
「でも、お前強すぎるから後衛な」
「何で?それは効率が悪い」
「俺のステータスが低いままじゃ、ダンジョン攻略が出来ないだろうが」
「薬草採集はもうしない?」
こいつ、薬草採集好きだったのか?だったら悪いことしたな。
「これからは基本的にダンジョン攻略しかしねーよ」
「そう。分かった」
あれ?そうでもなかったの?
その後もダンジョン攻略を続け、歩くこと実に50分。ようやくボス部屋にたどり着いた俺たちは、装備の点検を終えて立ち上がった。
「ゴブリンは2体いるから、片方は任せたぞ?」
「大丈夫。むしろ、あなたが怪我をしないかが不安」
「多少外のゴブリンよりも強いらしいけど、まあ何とかなるだろ」
前に1層攻略をした時は、セリアが2体とも瞬殺してしまったから、ボス個体がどれくらい強いのかを知らない。でも、ゴブリン1体に引けを取るほど弱くはないつもりだ。
でも、正直に言えば不安だ。それでも行くしかない。
「よし、行くぞ」
扉を押し開くと、2体のゴブリンが同時にこちらに振り返った。
ボスが部屋への侵入者を察知できるというのは、あながち嘘ではないのか······。
俺たちが中に入って戦いやすい場所に移動している間、ゴブリンたちは俺とホムンクルスを交互に観察していた。そして、2体ともが俺に向かって走ってくる。
「え?!は、何で!!」
「それはあなたが弱いから。敵が複数いる時、まず弱い方を叩くとあの本に書いてあった」
初めて本の知識が役に立ったな?!
慌てて剣をゴブリン達に向けるが、少々遅かったようだ。先に俺の元に走ってきたゴブリンが、素早く懐まで潜ってきた。そして近距離から拳を振りかぶる。
その速度は、確かに一般的なゴブリンよりも速い。だが、まだ目で追える範囲内だ。
「おら!」
最大限踏み込んで、迫るゴブリンの拳目掛けて剣を振りかぶった。
これで右手を失ったゴブリンは、気後れするだろう。その隙に連撃を叩き込めば、1体は殺せ······え?
当たると確信していた剣閃は、ゴブリンに軽々と避けられた。何とゴブリンは、手を引っ込めたのだ。
そしてゴブリンは、再び拳を後ろまで引き絞った。剣を振り切った体勢では、それを避ける手段はない。
「がはっ?!」
腹に鈍痛が響く。思わずその場に膝をつくと、もう1体のゴブリンがやれ好機とばかりに飛び掛かってきた。
「やべえっ!」
慌てて飛び起き、ゴブリンの攻撃を横っ飛びに回避する。直後俺がいた場所をゴブリンの鉤爪が切り裂き、そしてホムンクルスに蹴り飛ばされて吹き飛んで行った。
「1体は任された」
いや、よく見ようよ。今お前が蹴り飛ばしたゴブリン、もう首が折れてるよ。死んでるよ。
「悪い、まじで助かった」
「気にしないでいい。契約者が死ねば、私もすぐに死ぬ。それを防いだだけ」
そんな風に言われると少しだけがっかりするが、それでも助けてもらったのは事実だ。あとでしっかり礼を言おう。
「ふぅ~~」
大きく息を吐いて、残ったゴブリンと対峙する。さっきは一発貰ったが、もう負けはしない。
剣先をちらつかせると、ゴブリンは雄叫びを上げて飛び掛かってきた。
『一歩下がって攻撃を回避する』
あれ?!何でここでスキルが?鉤爪が目に入ったりするのか?
取り敢えずその場から5歩ほど下がり、ゴブリンの攻撃を余裕を持って回避する。攻撃が不発に終わったゴブリンが、一瞬隙だらけになった。
「届けっ!!」
その瞬間を狙って上段から剣を振り下ろすが、流石に下がりすぎていたようだ。ゴブリンに難なく躱され、間合いを詰められた。
「あだっ?!」
そして、一瞬後に側頭部に激痛が走る。殴られたと気づいた時にはもう遅い。押し倒された俺はゴブリンに馬乗りにされて、上からボコボコと殴られ続けた。
「もういいでしょ?」
一対一を所望したわけだが、死ぬわけにはいかない。俺はホムンクルスの問に、半泣きになりながら頷いた。
「っ!!」
それを見たホムンクルスが、ゴブリンの首めがけて剣を一閃させる。少し遅れてゴブリンの頭が吹き飛び、胴体部分は俺の体の上からずり落ちていった。
なんとも情けない結果だ。こうしてホムンクルスに助けられて、俺の1層攻略は終わった。
名前 【なし】
クラス【なし】
LEVEL【56】
HP【362/362】
MP【3/3】
攻【156/328】
防【132/294】
速【259/482】
賢【100/204】
魔力攻撃【2/2】
魔力防御【40/43】
ユニークスキル【なし】
スキル【近接戦闘:B】
称号
【レベル上限突破者】【チェイサー】【虚ろなる者】【ステータス上昇値補正】
―――――――――――――――――
「あの、その。······これ、現在値は低いですけど、潜在値だけを見れば、Bランク冒険者相当の実力なんですが。それに、何ですか【ステータス上昇値補正】って称号。私、こんなの見たことないんですけど」
ホムンクルスのステータスを見て、マリエラさんは当然の疑問を口にする。
最も、俺だってこんなの信じられない。てか、お前こんなに強かったのかよ。もう最悪ステータスの値には目をつぶるとしても、称号が頭可笑しすぎて笑えてくるレベルだ。
人間は特殊なスキルを得ない限り、レベルが50に到達すると上がらなくなる。だがその後もたくさんの魔物を殺し続けると、レベル上限が開放されるらしい。
【レベル上限突破者】は、それを成し遂げた者に与えられる称号らしい。
だが、【ステータス上昇値補正】って何だ。まじでこれは見たことがない。文面から効果の予想は立てられるが、何だよこれ?
「お前、結構武闘派?」
「違う。必要に迫られて殺してきただけ」
必要に迫られてって······あれか?こいつを造ったどこぞの研究所から逃げてくるとき、魔物の群れにでも遭遇したのか?
「はぁ、まあいいでしょう。人にはそれぞれ事情があるものでしょうし。それで、ステータスの記録も終わりましたし、どの階層に行きたいのかを教えてください」
ホムンクルスのことについてはスルーしてくれるらしい。良かった。
それにしても、何層に行けばいいんだ?
冒険者は、一度行ったことがある階層には、ダンジョンの入り口から転移することが出来る。
俺は以前セリアとパーティーを組んでいた時に、3層まで攻略していた。だから1層~3層までは自由に行ける。
解呪するための何かが何層で出現するかが分からないなら、最初から行くべきだろう。
「1層で」
「それなら問題はありません。こちらが1層の地図になります。攻略を始める前に目を通しておいて下さい」
マリエラさんが差し出してきた地図を受け取り、取り敢えずホムンクルスに渡す。
「それでは、気をつけて行ってらっしゃいませ」
お辞儀をしたマリエラさんに軽く会釈を返して、外に向かう。ギルドを出るときに、ちょうど入ってきたギルドマスターとすれ違った。
ギルドマスターはホムンクルスが1層の地図を持っているのを確認すると、微かに笑った。そして俺の肩に手を置いて、
「まあ、頑張れ」
と短く言葉をくれた。
慌てて振り返るが、ギルドマスターは俺の方に振り返らず、そのまま職員室へと入っていった。
「おい、ちゃんと地図は見たか?」
「まだ見ていない。だけど、一度目を通せばインプットできる」
「うん。お前のその言葉は信じてない」
何故か頷いているホムンクルスから地図をぶんどり、最後の確認をする。今から1層攻略を始めるのだから、何度見ても悪いということはないだろう。
「じゃあ行くぞ」
ホムンクルスの腕を引っ張り、ダンジョンへと足を踏み入れる。
一歩中に入るだけで、俺たちの周囲の環境が大きく変化した。後ろを振り返れば外がすぐそこにあるのに、外部の音が遮断されたように聞こえてこない。
そして、外界から閉ざされたかのように、薄暗く、肌寒さを感じる。
「これが······ダンジョン」
しばらく来ないうちに忘れていた不気味な感覚に、思わず足がすくんだ。1層は洞窟のような様相であるが、明らかにそれ以上の何かがある。
「行くぞ」
自身を鼓舞するために先頭に立つ。そのすぐうしろをホムンクルスがついてきていた。ホムンクルスには精神的な余裕があるようで、その足取りは軽い。
「一応確認な?ここからボス部屋までは、徒歩で30分くらいだ。で、ボスはゴブリンが2体」
「それらは私の脅威になり得ない。それより、トラップの位置を教えてほしい」
「トラップは······そうだな。ここをすぐ左に曲がった所にある宝箱と、あとはボス部屋前の警報が鳴る床だ」
「警報?なぜそんなものが私の脅威になる?」
ホムンクルスが疑問を口にした。
おいおい、あのステータスは確かに強いけど、流石に油断しすぎてねーか?それとも、恐怖を感じることができないのか······。
「警報が鳴り響けば、そこいらの魔物が寄ってくるだろ?」
「他の魔物は、ボス部屋に入ることが出来ない。なら、さっさとボス部屋に逃げてしまえばいい。そうすれば、ゴブリン2体を殺すだけで済む」
「ボス部屋だぞ?ボスだぞ?新人とか、俺みたいな弱者は、攻略すんのにもそれなりの準備がいるの。警報が鳴ったら、装備の点検をする暇もないだろ?」
俺の回答を静かに聞いていたホムンクルスは、しばらくしてから口を開いた。
「確かに。それは一理ある」
そうやってホムンクルスと情報確認をしながら数分間歩いていると、不意にホムンクルスが止歩みを止めた。
「止まって。この角の先に、魔物がいる」
「嘘だろ?」
抜き足差し足で角まで移動して顔だけを覗かせると、確かに1体のゴブリンがいた。
「お前、凄いな。俺なんかより全然役に立つじゃん」
やべぇ。俺、ホムンクルスにも負けてるよ。こんなんじゃダンジョンの深層に行けない。
「あれはどうする?」
「倒すしかないんだが······お前の力を見てみたい。あれ、倒してみてくんね?」
「分かった」
短く答えたホムンクルスは、剣も構えずに角を曲がってしまった。慌ててその後を追いかけると、既にホムンクルスはゴブリンに見つかってしまったようで、睨みつけられていた。
「ギャァァア!!」
ゴブリンが牙をむき出しにして、ホムンクルスを威嚇する。だが、その様子はどうも虚勢に見えた。現に、今も一歩下がっている。
対してホムンクルスは、一歩もその場を動かない。無表情で突っ立っているだけだ。
数秒間の睨み合い(一方的)の末、最初に動いたのはゴブリンだった。
「ギャァァア!!」
恐怖を振り切るように、ゴブリンは勢い良くホムンクルスに躍りかかった。地を駆ける速度を乗せたパンチを繰り出したのだ。ゴブリンにしては上等な威力、速度。だがホムンクルスはそれを手の甲で弾くと、何でもないとばかりにカウンターの右ストレトートを放った。
それだけ。たったそれだけでゴブリンは物言わぬ死骸になり、地面を血で汚しながら吹き飛んで行った。
「終わった」
その声には、戦闘直後の高揚感も、命を奪った罪悪感もない。どこまでも平坦だった。
「お前、まじでメチャクチャ強いじゃねーかよ」
だから俺も、努めて平静を装う。
「でも、お前強すぎるから後衛な」
「何で?それは効率が悪い」
「俺のステータスが低いままじゃ、ダンジョン攻略が出来ないだろうが」
「薬草採集はもうしない?」
こいつ、薬草採集好きだったのか?だったら悪いことしたな。
「これからは基本的にダンジョン攻略しかしねーよ」
「そう。分かった」
あれ?そうでもなかったの?
その後もダンジョン攻略を続け、歩くこと実に50分。ようやくボス部屋にたどり着いた俺たちは、装備の点検を終えて立ち上がった。
「ゴブリンは2体いるから、片方は任せたぞ?」
「大丈夫。むしろ、あなたが怪我をしないかが不安」
「多少外のゴブリンよりも強いらしいけど、まあ何とかなるだろ」
前に1層攻略をした時は、セリアが2体とも瞬殺してしまったから、ボス個体がどれくらい強いのかを知らない。でも、ゴブリン1体に引けを取るほど弱くはないつもりだ。
でも、正直に言えば不安だ。それでも行くしかない。
「よし、行くぞ」
扉を押し開くと、2体のゴブリンが同時にこちらに振り返った。
ボスが部屋への侵入者を察知できるというのは、あながち嘘ではないのか······。
俺たちが中に入って戦いやすい場所に移動している間、ゴブリンたちは俺とホムンクルスを交互に観察していた。そして、2体ともが俺に向かって走ってくる。
「え?!は、何で!!」
「それはあなたが弱いから。敵が複数いる時、まず弱い方を叩くとあの本に書いてあった」
初めて本の知識が役に立ったな?!
慌てて剣をゴブリン達に向けるが、少々遅かったようだ。先に俺の元に走ってきたゴブリンが、素早く懐まで潜ってきた。そして近距離から拳を振りかぶる。
その速度は、確かに一般的なゴブリンよりも速い。だが、まだ目で追える範囲内だ。
「おら!」
最大限踏み込んで、迫るゴブリンの拳目掛けて剣を振りかぶった。
これで右手を失ったゴブリンは、気後れするだろう。その隙に連撃を叩き込めば、1体は殺せ······え?
当たると確信していた剣閃は、ゴブリンに軽々と避けられた。何とゴブリンは、手を引っ込めたのだ。
そしてゴブリンは、再び拳を後ろまで引き絞った。剣を振り切った体勢では、それを避ける手段はない。
「がはっ?!」
腹に鈍痛が響く。思わずその場に膝をつくと、もう1体のゴブリンがやれ好機とばかりに飛び掛かってきた。
「やべえっ!」
慌てて飛び起き、ゴブリンの攻撃を横っ飛びに回避する。直後俺がいた場所をゴブリンの鉤爪が切り裂き、そしてホムンクルスに蹴り飛ばされて吹き飛んで行った。
「1体は任された」
いや、よく見ようよ。今お前が蹴り飛ばしたゴブリン、もう首が折れてるよ。死んでるよ。
「悪い、まじで助かった」
「気にしないでいい。契約者が死ねば、私もすぐに死ぬ。それを防いだだけ」
そんな風に言われると少しだけがっかりするが、それでも助けてもらったのは事実だ。あとでしっかり礼を言おう。
「ふぅ~~」
大きく息を吐いて、残ったゴブリンと対峙する。さっきは一発貰ったが、もう負けはしない。
剣先をちらつかせると、ゴブリンは雄叫びを上げて飛び掛かってきた。
『一歩下がって攻撃を回避する』
あれ?!何でここでスキルが?鉤爪が目に入ったりするのか?
取り敢えずその場から5歩ほど下がり、ゴブリンの攻撃を余裕を持って回避する。攻撃が不発に終わったゴブリンが、一瞬隙だらけになった。
「届けっ!!」
その瞬間を狙って上段から剣を振り下ろすが、流石に下がりすぎていたようだ。ゴブリンに難なく躱され、間合いを詰められた。
「あだっ?!」
そして、一瞬後に側頭部に激痛が走る。殴られたと気づいた時にはもう遅い。押し倒された俺はゴブリンに馬乗りにされて、上からボコボコと殴られ続けた。
「もういいでしょ?」
一対一を所望したわけだが、死ぬわけにはいかない。俺はホムンクルスの問に、半泣きになりながら頷いた。
「っ!!」
それを見たホムンクルスが、ゴブリンの首めがけて剣を一閃させる。少し遅れてゴブリンの頭が吹き飛び、胴体部分は俺の体の上からずり落ちていった。
なんとも情けない結果だ。こうしてホムンクルスに助けられて、俺の1層攻略は終わった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
欲しいのならば、全部あげましょう
杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」
今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。
「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」
それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど?
「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」
とお父様。
「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」
とお義母様。
「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」
と専属侍女。
この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。
挙げ句の果てに。
「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」
妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。
そうですか。
欲しいのならば、あげましょう。
ですがもう、こちらも遠慮しませんよ?
◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。
「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。
恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。
一発ネタですが後悔はありません。
テンプレ詰め合わせですがよろしければ。
◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。
カクヨムでも公開しました。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第8章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
異世界召喚されたのは、『元』勇者です
ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。
それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる