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第26話 神官バルドゥル1(※微)
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離宮の中は静かだった。何て言うか、人がいない。建物自体、綺麗に改修してあるが古く、まるで外国映画で見たミッション系スクールの建物が廃校舎になって、リノベした感じだ。夜になったらオバケが出るかも知れん。
こっちの世界、結構ファンタジーっていうか、アールトみたいにエルフもいれば、ディルクだって銀髪紫眼だ。だけどバルドゥル、紫の髪に紅眼は無いだろう。さっきの片眼鏡のバルナバスは、緑色のおかっぱだ。そして目の前を先導する侍女さんは、ピンク頭である。帝国の人ってこんなカラフルなの?
俺の違和感はもう一つ。この人たち、ニコリともしないし、喋りもしないし、また音も立てないのだ。もちろんイングルビーの王宮の侍女たちも、音を立てることなくしずしずと職務を全うしていたが、それでも何かしら喧騒とか人の気配はあったものだ。助けてもらった手前、文句はないんだけど、失礼を承知で一言で言えば、全てが不気味っていうか。
やがて俺は、控えの間に通され、小一時間ほど待たされた。出されたお茶を啜りつつ、そわそわと調度品などを眺めていると。
「陛下がお呼びでございます」
連れて行かれた先は、落ち着いた雰囲気の応接室だった。
「やあ、待たせたかな」
シンプルなドレスシャツと黒のパンツに着替えたバルドゥルは、いつもの穏やかな調子で切り出した。
「こ、この度は、助けに来て下さったみたいで…」
「はは、いいよ。アールトからの頼みだしね」
このバルドゥルという人物、いつも穏やかに飄々としていて、愛想は良いんだけど、どこか掴み所のない人だった。その態度は、アイヴァン王子を前にしても変わらなかった。工房で吠えるディルクを外につまみ出す時に、ちょっと眉尻を下げたくらいか。いつも笑顔で出来た人だな、なんて思ってたけど、ここまで来ると不気味を通り越して怖い。てか、皇帝陛下ってどゆこと?
「えと、バルトロメウス陛下におかれましては…」
「バルドゥルでいいよ、コンラート。ざっくばらんに行こう」
皇帝相手にざっくばらんって何?!
「まあいいよ。じゃあ、単刀直入に言わせてもらうね。君からは、対価を頂くよ」
は?
「…対価、と申しますと?」
「嫌だなぁ。僕はアールトの要望を受け、君を助けた。これは、皇帝位に着いた僕くらいにしか出来ない芸当だ。それこそ、それに見合った対価が必要だと思わない?」
何それ。それって、俺が支払えるようなもん?!
「はは。僕だって、君から対価が得られる見込みがなければ、君を助けたりしないよ。———君、アールトと面白そうなこと、話してたでしょ」
「!」
「ん”お”ォオおお!!ん”ん”ォ”オオオ!!!」
そして俺はなぜか、地下室にいる。
「もう、強情だなぁ。君はただ頷くだけでいいのに」
彼は、アールトが工房に持ち込んだ根付けについて、俺に口を割るように言って来た。そしてその複製品を作るようにと。しかし、根付けのことは、俺とアールトだけの秘密だ。漏らすわけには行かない。ドワーフは義理堅い。これは俺たちの誇りでもある。
いや、フロルにもちょっとバレちゃったけど。あと、アイヴァンにもちょっと。あれは不可抗力だ、仕方ない。
しかし、俺を拘束して秘密を聞き出そうとするバルドゥルの言い分を、聞けば聞くほど頷くことが出来ない。
「アールトが足繁く通うほどの秘密でしょ?わざわざディルクを嗾けて、僕にも口を割らない程のさ。それって絶対面白いじゃん」
だから、俺に口を割らせる機会を、ずっと伺ってたのだそうだ。そしてそのために、帝位を
「簒奪しちゃった♪」
と。まるで遠距離の彼女が予告もなくアパートを訪れたかのように、彼はいかにも楽しそうに口走った。そして今の俺は。
「魔王様、これでは此奴も答えようがありませんが」
そうなのだ。俺、天井から吊るされて、しかもリング状の口枷を噛まされている。そういえばこれ、花街で「こんなのもあるよ」ってアイデア提供しといた奴だ。商品化されたんだな。良かった良かった。ではない。
てか待って。横に控えてるバルナバスさん。今この人、魔王って言った?皇帝じゃなくって?
「ああ、驚いた顔をしているね。僕は前皇帝の庶子で、魔族の血が入っててね。で、魔族って、その時一番強い者を魔王って呼ぶんだ。だから今は、僕が魔王だね」
ちょっと何言ってっか分かりません。
「さあ、細かいことはもう良いじゃないか。君が僕に秘密を打ち明けたくなるように、もっと可愛がってあげるね」
そう言って、彼はパチンと指を鳴らした。すると、さっきから俺をうぞうぞと嬲っていた巨大なイソギンチャクが、俺の胎内を激しく蹂躙し始めた。ヤバい。触手一本一本は柔らかいのだが、太いのが中でぬろぬろと蠢き回ると、背筋を凍らせるような気持ち悪さと気持ち良さが一気に押し寄せる。
「ん”お”!!!ん”ォ”オオオ”ーーー!!!」
てかさ。これって、俺がもし降参しても、口枷があるから何も話せない訳で。あ、バルドゥルさん、楽しそうにニヤニヤしてる。そっか。俺が口を割るとか割らないとかじゃなくて、単にこうして触手で拷問したかったとか、割とそういう感じ?
あ、これ、一番駄目なパターンかも知んない。あはっ。
こっちの世界、結構ファンタジーっていうか、アールトみたいにエルフもいれば、ディルクだって銀髪紫眼だ。だけどバルドゥル、紫の髪に紅眼は無いだろう。さっきの片眼鏡のバルナバスは、緑色のおかっぱだ。そして目の前を先導する侍女さんは、ピンク頭である。帝国の人ってこんなカラフルなの?
俺の違和感はもう一つ。この人たち、ニコリともしないし、喋りもしないし、また音も立てないのだ。もちろんイングルビーの王宮の侍女たちも、音を立てることなくしずしずと職務を全うしていたが、それでも何かしら喧騒とか人の気配はあったものだ。助けてもらった手前、文句はないんだけど、失礼を承知で一言で言えば、全てが不気味っていうか。
やがて俺は、控えの間に通され、小一時間ほど待たされた。出されたお茶を啜りつつ、そわそわと調度品などを眺めていると。
「陛下がお呼びでございます」
連れて行かれた先は、落ち着いた雰囲気の応接室だった。
「やあ、待たせたかな」
シンプルなドレスシャツと黒のパンツに着替えたバルドゥルは、いつもの穏やかな調子で切り出した。
「こ、この度は、助けに来て下さったみたいで…」
「はは、いいよ。アールトからの頼みだしね」
このバルドゥルという人物、いつも穏やかに飄々としていて、愛想は良いんだけど、どこか掴み所のない人だった。その態度は、アイヴァン王子を前にしても変わらなかった。工房で吠えるディルクを外につまみ出す時に、ちょっと眉尻を下げたくらいか。いつも笑顔で出来た人だな、なんて思ってたけど、ここまで来ると不気味を通り越して怖い。てか、皇帝陛下ってどゆこと?
「えと、バルトロメウス陛下におかれましては…」
「バルドゥルでいいよ、コンラート。ざっくばらんに行こう」
皇帝相手にざっくばらんって何?!
「まあいいよ。じゃあ、単刀直入に言わせてもらうね。君からは、対価を頂くよ」
は?
「…対価、と申しますと?」
「嫌だなぁ。僕はアールトの要望を受け、君を助けた。これは、皇帝位に着いた僕くらいにしか出来ない芸当だ。それこそ、それに見合った対価が必要だと思わない?」
何それ。それって、俺が支払えるようなもん?!
「はは。僕だって、君から対価が得られる見込みがなければ、君を助けたりしないよ。———君、アールトと面白そうなこと、話してたでしょ」
「!」
「ん”お”ォオおお!!ん”ん”ォ”オオオ!!!」
そして俺はなぜか、地下室にいる。
「もう、強情だなぁ。君はただ頷くだけでいいのに」
彼は、アールトが工房に持ち込んだ根付けについて、俺に口を割るように言って来た。そしてその複製品を作るようにと。しかし、根付けのことは、俺とアールトだけの秘密だ。漏らすわけには行かない。ドワーフは義理堅い。これは俺たちの誇りでもある。
いや、フロルにもちょっとバレちゃったけど。あと、アイヴァンにもちょっと。あれは不可抗力だ、仕方ない。
しかし、俺を拘束して秘密を聞き出そうとするバルドゥルの言い分を、聞けば聞くほど頷くことが出来ない。
「アールトが足繁く通うほどの秘密でしょ?わざわざディルクを嗾けて、僕にも口を割らない程のさ。それって絶対面白いじゃん」
だから、俺に口を割らせる機会を、ずっと伺ってたのだそうだ。そしてそのために、帝位を
「簒奪しちゃった♪」
と。まるで遠距離の彼女が予告もなくアパートを訪れたかのように、彼はいかにも楽しそうに口走った。そして今の俺は。
「魔王様、これでは此奴も答えようがありませんが」
そうなのだ。俺、天井から吊るされて、しかもリング状の口枷を噛まされている。そういえばこれ、花街で「こんなのもあるよ」ってアイデア提供しといた奴だ。商品化されたんだな。良かった良かった。ではない。
てか待って。横に控えてるバルナバスさん。今この人、魔王って言った?皇帝じゃなくって?
「ああ、驚いた顔をしているね。僕は前皇帝の庶子で、魔族の血が入っててね。で、魔族って、その時一番強い者を魔王って呼ぶんだ。だから今は、僕が魔王だね」
ちょっと何言ってっか分かりません。
「さあ、細かいことはもう良いじゃないか。君が僕に秘密を打ち明けたくなるように、もっと可愛がってあげるね」
そう言って、彼はパチンと指を鳴らした。すると、さっきから俺をうぞうぞと嬲っていた巨大なイソギンチャクが、俺の胎内を激しく蹂躙し始めた。ヤバい。触手一本一本は柔らかいのだが、太いのが中でぬろぬろと蠢き回ると、背筋を凍らせるような気持ち悪さと気持ち良さが一気に押し寄せる。
「ん”お”!!!ん”ォ”オオオ”ーーー!!!」
てかさ。これって、俺がもし降参しても、口枷があるから何も話せない訳で。あ、バルドゥルさん、楽しそうにニヤニヤしてる。そっか。俺が口を割るとか割らないとかじゃなくて、単にこうして触手で拷問したかったとか、割とそういう感じ?
あ、これ、一番駄目なパターンかも知んない。あはっ。
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