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第10話 襲来

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「メイナード・マガリッジ」

 目を合わせないようにこっそり部屋に戻ろうとするが、案の定呼び止められる。今日のナイジェルは私服だ。

「閣下、ご機嫌麗しゅう。本日は平日ですが、お仕事は?」

「休んだ」

 そうでしょうね。

「えっとその、御用向きは…」

「お前、王都を発つと言ったな」

「ええ、まあ」

 そういえば昨日、酒場でそう言ったな。迂闊だった。しかしナイジェルは、そこで沈黙してしまった。ここはフロント、俺は大荷物。非常に迷惑だ。

「御用向き無きようでしたら、御前失礼いたします」

 俺はそう言うと、そそくさと部屋に向かう。何故かついて来る。急いで部屋に入り、扉を閉めて鍵を掛けようとしたところ、彼の靴が扉に挟まっている。そうか、彼は騎士だった。こういうガサ入れとか、得意だよな…。

 てか、何のガサ入れだよ。昨晩は、Hentai紳士に恐れをなして逃げ帰ったんじゃなかったのか。俺はこっそりため息をつき、とりあえず両手の荷物を置こうとした。

 が、手が塞がった俺を壁に押し付け、ナイジェルはいきなり唇を押し当ててきた。

「?!」

 壁ドンだ。壁ドンである。しかも、見つめるとか口説くとかすっ飛ばして、いきなりチューだ。何故。どうして。Why?

「俺の情けが欲しいんだろう」

 はっ?!

 いやいや待て待て。一体何のスイッチが入った。俺は慌てて荷物を手放し、角度を変えて更に唇を塞ぐナイジェルに抵抗を試みた。しかし。

「ふ…んっ…」

 ———キス、美味い。クッソ美味い。重なった粘膜からダイレクトに伝わる、ナイジェルの魔力と生命力。白ストペロリの比じゃない。何これうんまああ!!

 思わず抵抗をやめた俺に気を良くしたのか、ナイジェルはぺろりと舌を伸ばしてきた。それがまたたまらなく美味で、俺は奴の舌を従順に受け入れる。送り込まれる唾液が、俺のなけなしの理性を溶かす。もっとだ。もっと寄越せ。舌を絡め、吸い上げ、改めて俺のほうから深く口付ける。

「んぁっ…」

 小さく喘いだのは、ナイジェルの方だった。自分から壁ドンして来たくせに、昨日と同じく真っ赤になって震えている。男の娘ムーブがあざとい。

 どうやら主導権は俺に移ったようだ。気を良くした俺は、左腕で腰を抱き寄せ、右手で後頭部を支えて攻めてみる。奴は一瞬もぞりと身じろぎをするが、改めて背中に腕を回してくる。やればできるじゃないか。よし、唾液を啜って啜って啜りまくろう。



 どのくらいそうしていただろうか。不意にナイジェルの体から力が抜け、かくりと倒れそうになる。俺は慌てて体を抱え、ベッドに横たえた。狭い部屋で良かった。彼は茹で蛸のように真っ赤になり、白目を剥いて気を失っている。



名前 ナイジェル
種族 ハーフサイレン
称号 ノースロップ侯爵家長子
レベル 92

HP 1,840
MP 3,680
POW 184
INT 368
AGI 184
DEX 184

属性 闇・水

スキル 
呪歌じゅか Lv6
剣術 Lv6
ヒール Lv5
キュアー Lv5
ウォーターボール Lv5

E 普段着
聖銀ミスリルのバングル

スキルポイント 残り 50

状態 魅了・極



「はっ?!」

 俺は今度こそ言葉に出した。何それ、「魅了・極」って。

 あれか。昨日も白ストペロリだけで魅了が入った。ということは、エッチまでしなくても、唾液だけで魅了効果があるってことか。そして一方、俺のほうもレベルが上がってる。



名前 メイナード
種族 淫魔インキュバス
称号 マガリッジ伯爵家長子
レベル 302

HP 3,020
MP 15,100
POW 302
INT 1,510
AGI 302
DEX 906

属性 闇・水

スキル 
魔眼 LvMax
ヒール LvMax
キュアー Lv8
ウォーターボール Lv8
転移 LvMax
偽装 Lv—
薬学

E 魔力糸のシャツ
E 魔力糸のパンツ

スキルポイント 残り 0



 やべぇ。ベロチューだけで25上がった。淫魔って、エロいことして相手の精気を吸い取るのを生業なりわいとするもんだけど、チューで行けるなら唾液交換でOKってこと。つまり、唾液にも精気が含まれてるってことだ。

 あれ?もしかして淫魔が生き延びるって、思ったより楽じゃね?

 治癒師を装い、人間界に潜り込み、精を奪って生き延びる。そうは言っても、淫夢で精気を吸い取るとか、周りに淫魔がいないので、どうやればいいのか分からない。メスの淫魔サキュバスなら、エロい夢を見せている間に男に馬乗りになって襲えばいいんだろうけど、オスの淫魔インキュバスはうっかり女を孕ませちゃうから、サキュバスよりも嫌われる。しかも、肉体の構造上、インキュバスは「出す」方だ。男娼というルートもあるけど、インキュバスの吸精サバイバルは厳しい。

 しかし、ベロチューで精が得られるなら話は変わってくる。何なら白ストペロリもだ。いや、逆にエッチよりもベロチューや白ストの方がハードルが高いのか?よく分からん。

 ともかく、本番をしなくても精気を集める手立てがあるのは、いいことだ。ナイジェルに目をつけられ、壁ドンされた時にはどうしようかと思ったが、たまにはコイツも役に立つ。よく考えたらこれがファーストキスだったと思い当たり、癪に障らないこともないが、必要経費だったと思って忘れよう。

 さて、こうしてはいられない。さっさと旅支度を済ませないと。一つ誤算だったのは、ここが俺の借りた部屋だということだ。彼がベッドを占領したままでは、引き払えない。ナイジェルが取った部屋でもなし、流石に勘定を押し付けて立ち去るのは気が咎める。思わぬ足止めを喰らったが、ナイジェルが目を覚まし次第放流し、明日の朝の乗合馬車にでも乗ろう。

 俺の旅は、これからだ!
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