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第一部
第24話 ゴールデンウィーク ~不運な部屋割り~ 2
しおりを挟む朝食も済み、食堂から戻ったコテージで、丞と龍利は部屋を移る準備をしていた。が、どちらもその動きが鈍い。それは部屋割りが不本意な結果に終わったことを在り在りと物語っていた。――ただし、それぞれ思惑は全く異なっていたが。
「恵、ホントに大丈夫か?」
心配そうな弟の言葉に、ベッドに座っていた兄は優しく微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。大丈夫。僕も気を付けるし、覓もそこまで行き過ぎたことはしないと思う。それに永もいるしね」
――どうやって部屋割りをするか議論した末、グーとパーで3:2のグループ分けをすることになった。恨みっこ無しで一斉に手を出した結果、丞と龍利がパー、残りの三人がグーで、なんと一発で決まってしまったのだ。選りにも選って恵と覓が同じ部屋になるという事態に慌てた丞だったが、二日目は変えると約束していたようなものだし、何より公正な方法で決めた部屋割りに文句を言うわけにもいかない。渋々承知して、朝食へと向かったのだった。
「そうだ! さっき龍に聞いた話も覓にしておこう。きっとあいつ、意地でも寝ずに起きてるぜ」
コテージに戻ってきてから龍利がボソリと発した、「昨夜悠さんが来た」という呟き。今朝はまだ寝ていたのだろう、その姿を見ることは無かったが、龍利から得た情報を覓に聞かせれば、彼は恵に手を出すどころでは無く必死になって見張るだろう。
「なぁ、龍もそう思うだろ?」
勢い込んで呼び掛けたが、私物をスポーツバッグに仕舞っている龍利は曖昧に返事を返す。
「あー、うん。そうだな…」
ボーッとした声。心ここに在らずといった様相の親友を、丞は気遣った。
「――龍、やっぱ調子悪そうだな。部屋移ったら、暫く寝てろよ」
「…ああ、そうする……」
くれぐれも用心するよう兄に伝えて、龍利と二人コテージを出る。隣の棟に行くと、ちょうど覓と永が出てきたところだった。ウキウキと恵の元へ向かおうとする覓を丞が引き止める。
「話しときたいことがあるから、俺も一緒にそっちへ行く。荷物置いてくっからちょっと待ってろ」
そう言った丞の肩に下がるボストンバッグを、龍利がひょいと持ち上げた。
「荷物なら俺が部屋に入れとくよ」
「サンキュー。ベッドの上にほっぽってくれていいから、お前は早く寝ろよ?」
「ああ」
龍利の返事を確認して、丞は待たずに先に行ってしまった二人の後を追い掛けていった。
しんとした室内に入り、「ふぅ…」と息をつく。ベッドルームへ行って一方のベッドに丞のバッグを置くと、もう一方に自分の荷物ごと倒れ込んだ。目を閉じて、胸の中の空気を全て吐き出す。
「はぁ…。なんでこうなるかな……」
自分としては最も避けたかった組み合わせ。恵がいた昨夜ですらあんな状態だったのに、丞と二人きりの夜なんて、考えただけで眩暈がしてくる。今夜はひと晩中外で過ごすことになるかもと働かない頭で対応策を巡らせ掛けた時、一人になった安堵感から、ふわっとした眠気が舞い降りてきた。徐々に鈍っていく思考の片隅で、ふと思う。
(……動く時…って、ことか……?)
大事なことを考え掛けている意識を置いてきぼりにして、龍利の身体は深い眠りの中へと落ちていった。
そのまま昼まで寝ていた龍利は、昼食を食べようと起こしに戻ってきた丞の気配で目を覚ました。
「んー…」
「お、起きたか。昼飯までは寝かせとこうと思って、あっちでずっと駄弁ってたんだけど、ちょっとは眠れたのか?」
起き上がった龍利に、自分のベッドに座った丞が訊く。見ると、頷く龍利の目の下にあった隈はだいぶ薄くなっていた。少しは休息が取れた様子に安心して、口角を上げる丞。
「隈も朝よりマシになって良かった。朝飯ん時、伯父さんと伯母さん本気で心配してたからな。今の顔見れば二人も安心するだろ。――さて、じゃぁ俺達も食堂に行こうぜ。恵達はもう先に行ってるし」
洋介と律子に心配を掛けてしまったことを申し訳無く思いつつ、龍利は洗面台で顔を洗う。丞と二人だけの為幾分緊張はあるが、眠る前と比べるとかなり気持ちは落ち着いていた。衣服を整え、丞に「お待たせ」と声を掛ける。
「あ。覓の奴、やっぱ徹夜する気満々みたいだぜ。『恵には一歩も近寄らせねぇ』って息巻いてた」
狙い通りの展開に含み笑いを零す丞と肩を並べて、ゆっくりと玄関に向かう龍利だった。
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